鍛錬の場 ー敗北ー
ーエミリー視点ー
今から龍王国に行く。
マオは既に故郷に戻ったし、私たちもゆっくりしてられない。
「メイア、用意できた?」
「はい」
頼んでいたものを用意させ、準備は整った。
「エミリー、なに用意したの?」
「転移の巻物よ」
龍国に行くのに馬車で三週間もかかる。
何度も王都を往復するのだから、そんなに時間はかけられない。
「そんなのあったの?」
「王族はみんな持ってるわ」
「あれ……でもこの前は使って…」
シャルたちと一緒に行った時は使わなかった。
あの時は楽しかった。
「早く行くわよ」
「うん…」
ー
龍国の入口前に転移し、身軽な人数で動く。
侍女や騎士を用意する時間も惜しい。
ー
「王女様、お待ちしておりました」
龍王の臣下の一人が城前で待っていた。
「久しぶりね、テトメロ」
「はい、お元気そうでなによりです」
「要件は分かっているわね?」
「はい、龍王様のところへご案内いたします」
話が早いのはいい。
ー
「ほう、シャルが連れ去られたとな?」
「ええ」
「ならば、其方はどうする?」
龍王はいつもの笑った表情はしていない。
私を試すように見下し、その返答を待っている。
「鍛えにきたのよ」
「ほう」
両腕を膝に置いて、前屈みになる。
その目は鋭く、隣にシャルがいないことを心細く思ってしまう。
「次世代の王たるお主が、自国の力を信じず他国の王に媚びると?」
「私は私の国よりも、私の男を信じてるだけよ」
「それでは聞こう。その最も信ずるに価する男を守れなかった貴様に、奪回の任が務まると思うか?」
「そうするために来たのよ」
「誰のために来た」
「私のためよ」
「何故だ」
「シャルのいない世界なんてつまらないわ。私は私のやりたい事をするだけ」
「ほう」
「あんたのお眼鏡にかなったかしら?」
「うむ。だが国交というものは上下があり、左右があるものだ。其方は何を以て余の欲を満たす?」
「……あなた、最強なんだってね」
「そうだ」
「なら、負けたことはないんじゃないの?」
「ほう、ならばどうする?」
「シャルは帰ってくる。私たちが何もしなくても自力で。その時彼は、以前よりも強くなってるでしょうね」
「…………」
「その時になったら龍王、あなたに『敗北』を用意してあげるわ」
「…………はっ」
龍王の顔が暗くなり、さっきの私の返答を振り返る。
私は間違ったことを言っていない。
「ガハハハハハハハハハハ!!!!!!」
「良い! 良いぞエミリー・エルロード! 腹の底から笑ったのは何時ぶりだったか! まっこと愉快である!」
「よかろう! お主ら両名を高みへと連れていこうではないか! 落っこちてしまわぬよう励むがよい!」
ようやく、ここで鍛えることが決まった。
早くシャルに会いたい。




