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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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脱出経路 ー逃がさないー

目が覚める。


霞んだ黒の天井に、普通のベッド。

吐き捨てたくなる思いに今日も現実に戻る。


朝から嫌な思いはしたくないが、こればっかりはしょうがない。

彼女たちに会えないんだ。

授業もなければ、2人きりでイチャイチャもできない。

リオンとフォウとも話せない。


俺の人生に必要不可欠の存在が奪われたのだ。

絶対に許さん。


いつもの格好に、ベストの代わりにハーネスベルトを着け、黒のハーフグローブも着ける。

そして、今日も魔王城脱出の糸口を探す。



俺専属メイドの虎ベースのメイド、メトライアに予定していた場所に案内してもらう。


「あんた、ここの抜け道とか知ってるか?」

「申し訳ありません、(わたくし)も存じ上げません…」


拷問でもかけた方が確実だろうが、そんなので分かったら絶対の檻なんて呼ばれてない。

それより、目の前で尻尾をピンとさせるのはやめて欲しい。

マオが思い出されて、切り落としたくなる。


「到着致しました」


着いたのはちょっとした広間になっている殺風景の場所。

そこにデカい化け物がいた。


「よおシャル、疲れは取れたか?」

「ぼちぼちだよアレス。それと…カフさん」


俺から身を隠すようにしているカフ。


そんなに話すのが苦手なら部屋に居ればいいと思うのだが。


「あ……お…おはよう……シャル…」

「おはよう、カフさん」

「あの……かふ…カフで…いい…」


一応、仲良くなろうとはしている様子だ。

でも、この子も幹部なんだよな。


「分かった。カフ」


こんな子供に対して敵意は湧かないが、攻撃できない訳でも無い。

彼女たちに会うためだ。

そんなものを気にしている余裕は無い。


「じゃあ、歩きながら話そうぜ」

「ああ」




道を案内されて驚いた。

ここは城だと思っていたが、違った。

ここは街だ。


食堂のように大きな溜まり場は無く、ひとつひとつ雰囲気の違う飲食店がある。

そして娯楽もあれば、訓練場もある。

ここの下層部に魔王軍全員も住んでいるらしい。


「随分広いんだな」

「まあなぁ」

「……へへ……えへ…」


カフが何故か笑うが、気にしない。


「それよりシャル、魔術っていつから鍛えたんだ?」


歩きながら話しかけてくる。


「生まれた時から」

「どひゃー! 通りであんなに強いわけだ」


嬉しいことを言ってくれる。

自慢できることを聞かれるのはいいな。


「アレスは子供のとき何やってたんだ?」

「オレ? オレは不老(アンデッド)だからなぁ、ずっと誰かに追いかけられてたなぁ」


不老(アンデッド)は勝手にポンッと生まれて、忌み嫌われる存在になっているらしい。

俺が不老(アンデッド)に生まれていたら、どうなってたんだろうな。


「それは大変だな」

「いや? 必死に追いかけてるやつを煽るのはマジで楽しい」


性格悪いな。


「ん、着いたぞ。出口」


出口に着いたらしい。


目の前にはそれぞれ毛色の違う5つの大扉。

周りの色と同化して少し分かりにくいが、一度認識してしまえばその存在感に目を奪われる。


わざわざ同じ場所に5つの扉という奇怪な作りだ。

だが、そのひとつだけが埋め固められ、古びているように見える。

一体、これはどういう用途で使われるのだろう。


……………………ん?


「はっ?! おまっ、出口って言った?!」

「おん、これ出口」


こいつ……!


俺は目の前の扉全てに両手を向ける。

そこに大量の魔力を溜め、一気に放出した。


圧倒的火力が扉を襲う。

真っ赤な火柱が真っ直ぐに放たれ、壁に弾かれてこちらに飛んでくる文火が俺の帰国を祝福しているように見える。


やっと帰れる。

やっとあの3人と会える。


「ちょっ、おま待てって!」


アレスが俺の手を『あちっ』と言いながら掴もうとしてくる。


意識が逸れ、火力が少し落ちてしまう。


「邪魔だアレス! 引っ込んでろ!」

「違ぁうの! 出口って言ったけど違ぁうの!」


本気で腹立たしく、煩わしい。


「何が違う!」

「魔術止めて! 止めれば分かるからぁ!」


仕方ない。

扉の前に()ずはお前を壊してやる。


そう思い、魔術を止めた。


明るかった視界が一気に暗くなる。

一瞬、真っ暗に思えたのは明るさの差異のためだ。

故に、黒に同化したアレスへの攻撃が遅れた。


炎による視界も開け、大扉が目に入る。

一切の損傷も受けていない扉が。


「…………どういうことだ?」

「これも周りの壁と一緒なんだよ。無理やり開けることも出来ないし、壊すのも出来ない」

「……ならなんでこんなの教えた」


そこが疑問だ。

もし開けれない扉を教えて俺の反応を楽しんでいたのだとしたら、今度はお前の断末魔を聞くのを俺が楽しんでやる。


「これな、それぞれ見た目違うだろ?」

「そうだな」

「これな、オレたち幹部を倒せば開くってやつなんだ」


じゃあ、倒す幹部はひとりだけでいいって事か。

手間が省けた。

弱いやつをひとりでも見つければいい。


弱いのは居ないだろうか。


「カフでも開くのか?」

「えっ」


狙われた少女が調子の外れた声を出す。


見た目的に最も弱そうなのがこの子だ。


「いいや、こいつを倒しても開かないな」

「この子も幹部だろ?」

「んー、そうなんだけどぉ…違うって言うか……というかこいつ、マジで弱いぞ?」

「えっ?!」


今度は驚いた声を出す。


「弱くないですぅ、ほら見てこれ? 見て?」


シャドーボクシングをして、自らの強さをアピールする。


その拳は殴っていると言うよりは腕を伸ばしているだけのような速さで、つい微笑ましく思ってしまう。


「まあ、弱いが故に倒すのが一番苦労するのがこいつだ。やるならオレたちにしときな」

「本当か?」

「ほんと。魔王軍は勇者に嘘はつかねえよ、それに今のこいつ見てみ?」


アレスが目線を俺から逸らし、俺もそちらに目線を向ける。


そこには短時間のシャドーボクシングで膝に手をつき、肩で呼吸をしている女の子がいた。


「……ほんとだな」

「引きこもりはこれだから困る」

「引きこもりじゃっ……はぁ………はぁ…」


喋るのも辛いほどに息切れしている。


これが幹部か。

これでも幹部なのか。




案外、簡単に出られるかもしれない。



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