帰郷 ー帰ったら……さー
ーマオセロット視点ー
シャルが連れ去られた。
私の男が知らぬ間にいなくなった。
魔王だけは絶対に許さん。
エミリーとフィルに『シャルが帰ってきたら伝えてくれ』と頼み、その日の内に王宮を出る。
シャルは直ぐに帰ってくるかもしれんが、あいつがいない間に何をして過ごせばいいか分からない。
だから、故郷で鍛える。
エミリーとフィルと別れるのは寂しいが、仕方ない。
シャルのくれた上着とシャルが買ってくれた武器を持つ。
シャルの匂いのする物があれば何とか我慢できそうだ。
一年……
長い。
シャルはその間、何をするのだろう。
私を想ってしてくれるだろうか。
だが、男は女の体を抱かないと色々溜まると聞く。
私よりも性欲の高いシャルが一年も我慢できるとは思えない。
だから、他の女を作ってくれても構わない。
そっちの方がシャルも楽だろう。
私はシャル以外の男など作る気は無いが。
ー二週間後ー
懐かしい景色だ。
そろそろ降りよう。
「止めてくれ」
「ん? 降りるのかい?」
「そうだ」
「やめときなよ、ここの森は魔獣がうじゃうじゃしてるぞ?」
「構わん」
食料を持ってくるのを忘れた。
金も尽きた。
だから、ここで狩りをしないと腹がもたない。
「冒険者に憧れるのも分かるけどねぇ……まあ、気をつけなよ」
馬車が止まり、降りる。
森に向かって歩く。
懐かしい匂いだ。
胸の苛立ちも少し軽くなった。
森を歩く。
「ヴヴゥゥゥアァァァヴ」
唸り声がする。
そっちを見ると、懐かしい魔獣がいた。
デカい体に、デカい頭。
剥き出しの牙に、ヨダレを垂らす姿。
採れる肉も多く、よく狩っていたやつだ。
今日はこいつにしよう。
ー
うまかった。
シャルに魔術を習ってよかった。
火を起こすのが楽だった。
…………シャルに会いたい。
今頃、シャルは何をしてるだろう。
どこに行ってもモテそうなシャルだ。
既に女は作ったのかもしれない。
…………シャルとしたい。
シャルに撫でられたい。
シャル…
早く帰ってきてほしい…
ー
着いた。
懐かしい景色だ。
木に沿った長い家たち。
魔術を運ぶ狩人。
なぜだか、いつもより騒がしい気がする。
「マオー!」
聞き覚えのある声だ。
「ん、ウォル」
「久しぶりだな」
「そうだな」
お互いに腕を組んで話す。
こいつには色々と聞きたいことがある。
「なぜ何も言わず出ていった?」
ウォルは私がフィルの村に行ってる時、黙ってここに帰っていってしまった。
あの時は驚いた。
「感動の再開よりもそっちが先か……サラに似たなぁ…」
その名前も久しぶりに聞く。
「思ったよりも帰りが早かったな」
「シャルが魔王に連れ去られた」
「あー、ジェフとロウネの子だしな」
ウォルもその事を知っていたようだ。
「だからまた鍛えにきた」
「お、久しぶりやるか」
「ん」
私はシャルと同じくらいに強くならなければいけない。
誰よりも早く、シャルを迎えに行くために。
サラフェノ・ザニャール
通称 サラ
マオセロットの母親。
ウォルテカの配偶者。




