自己紹介 ー最強ー
魔力も十分戻り、壁に体を向けて思案する。
この城はどんなに壊しても直ぐに再生する。
そんな代物に対し、俺は手を向ける。
そして、巨大な岩柱を生成した。
中を空洞にすれば、再生など出来ないのではないか。
そう考えたが、駄目だったようだ。
本当に絶対の檻だな。
一体、誰がこんなものを作ったんだ。
「なんじゃ、まだやっておるのか?」
と、後ろから女の声がした。
そこに振り向くと、やはり人外が居た。
彼女は黒曜石のような両腕をもつところを除けば人間と遜色はないが、その腕から感じられるのは暴力。
人間のものとは大きく懸け離れたそれは前腕が太く、5本の鉤爪のついた手がある。
それは触れるものを潰滅させることを容易に想像させる。
腕と同じような色をもつ長い髪はひとつに纏められ、そこから3つに分かれている。
艶めかしい身体をもつ彼女は大きな胸を薄い布で申し訳程度に覆い、挑発的な服装をしている。
かなり整った顔立ちをしているが、今は彼女たちが思い出される要因でしかない。
早く会いたい。
「誰だ? あんた」
「一回会ったじゃろ?」
覚えてない。
会ったことがあるとしても、自己紹介なんてしていない気がする。
「やはり聞いていたのと随分違うようじゃな。まあええかの」
何で前々から俺のこと知ってたんだ?
気持ちの悪い連中だ。
「妾はルーシャ・ケイルスじゃ。よろしくな」
「………」
その悍ましい手を向けてくる。
正直、その腕を動かさないで欲しい。
一瞬でも触れたら潰されてしまいそうだ。
「………やはり…お主も怖いか…?」
いつまでも握手をしない俺に問いかけてくる。
身長は子供の俺よりも少し高いが、その顔は小動物のように悲しげであった。
「当たり前だ。俺に触るな」
「…………すまん」
差し出していた手を下ろす。
良心は痛むが、こいつも俺の敵だ。
彼女たち以外のやつなど、どうでもいい。
弱っていようが、泣いていようが関係ない。
「では、ちょいと付いてきてくれぬか?」
親指で廊下を指しながら誘導してくる。
「何をしに行く?」
「妾たちの自己紹介じゃ」
「お前たちに興味なんて無い」
「まあそう言うな。敵を知るのも策の内じゃぞ?」
ニヤッと笑う彼女。
俺の心を見透かしているように笑う彼女は楽しげだ。
「分かった。行くか」
「うむ、ゆこう」
ー
連れてこられたのは玉座の間。
俺の記憶では昨日来たばかりの場所。
霞んだ黒の造りで、古城を思わせる空間だ。
以前は視界が狭まってよく見えていなかったが、立ち並ぶ化け物たちがいる。
右にルーシャを含む2人、左にも2人。
真ん中に魔王。
ルーシャの隣に立つのは4本腕の男。
上半身裸で、深海のような肌と黒い髪。
髪はかなり長く、その髪を巻くことで両の目を隠している。
その隣が玉座に座る魔王。
そいつは小さかった。
小人のような大きさに、ただの真っ黒なだけの人型生物。
俺の身長の半分も無さそうだ。
こいつが魔王だと言うのだから、信じられない。
その隣がさっき会った馬の下半身を持つデカい化け物。
その隣は俺の妹たちと同い年くらいの女の子だった。
見た目の年齢とは裏腹に黒のレオタードのようなものを着て、ニーソックスを履いている。
1人で出歩かせたら真っ先に襲われそうな格好だ。
その子の髪は暗い茶色で、ショート。
可愛らしい見た目だが、この子も周りのやつらと変わらない実力の持ち主なのだろう。
「よく来た、テラムンド。先ずは我が幹部たちを紹介しよう」
声と見た目が合っていない魔王が声を上げ、ルーシャが前に出る。
「妾は『其を劃かつ腕』、ルーシャ・ケイルス。お主とは仲良くしたいと思っておる。よろしく頼む」
誰が仲良くするか。
隣の男が前に出る。
「『其を支える躯幹』、アストラス。よろしく頼む」
無骨で、戦士のような佇まいのやつだ。
デカい化け物が前に出る。
「オレは『其を求める脚』、アレスだ。よろしくな」
片手を上げて、気さくに挨拶してくる。
こいつが最も親しみやすい気がする。
最も人から離れているやつが最も好印象だ。
続いて女の子がほんの少しだけ前に出る。
「ぇ……えと…………」
その子は手をモジモジさせ、顔を俯かせている。
声は小さいが、透き通っているため意外に聞き取りやすい。
見覚えのある姿に悲しくなってくる。
「すまんな、こいつコミュ障なんだ」
「ちょっ……! コミュ障じゃないですぅ」
アレスが女の子をフォローする。
だが、女の子は不服そうな態度だ。
「まあ無理すんなって。ごめんな、こいつは『其を守りし頸』、カフってんだ。めんどくさいやつだが仲良くしてやってくれ」
「めっ…めんどくさくありませんん」
気の抜けるやり取りだ。
いつかは殺す相手だから、そういうのは避けていきたい。
「コホン、では」
ルーシャが咳払いをして、2人を静かにさせる。
「此処に御座す方こそ我らが主、魔王様じゃ」
静かに座る黒小人に視線が集まる。
特徴的な面々を見た後だと、やはり矮小な存在に映る。
だが、そんな面々の主だ。
油断は禁物だろう。
「以上が、我ら魔大陸の┈┈┈┈」
「┈┈┈┈ケイルス、一人忘れているぞ」
「………失礼したのう」
……?
もう1人なんて見当たらないのだが。
「ここにはおらんが、同じ幹部の『代行の死刑囚』がいるからの。よろしくしてやってくれ」
気になることは多々あるが、これで全員の自己紹介が終わった。
俺は改めて覚悟を決める。
こいつら全員、俺が殺さなくてはならない。




