普段の生活 ー3人を誘拐したー
目が覚める。
いつものようにスッキリとした目覚めだ。
今日もシャルたちと過ごそう。
準備を整え、鏡で不備がないか確かめる。
よし。
「本日もお美しゅうございます、お嬢様」
「ええ、ありがとう」
教室に着いた。
この扉を開ける前にもう一度服を整える。
よし。
扉を開ける。
「…?」
誰もいない。
いつもはシャルが机で何かしているのはずなのに、珍しいこともあるものだ。
「ん、エミリー」
フィルも来た。
「おはよう」
「ええ、おはよう」
「…? シャルはいないの?」
フィルも中を覗き込み、同じことを思ったみたいだ。
「そうみたいね」
「初めてだね」
「ええ…」
来ない。
シャルもマオも来ない。
マオはたまにするけど、シャルが寝坊なんて初めてのことだ。
フィルと一緒に起こしに行こう。
「シャル、もう朝よ」
……いない。
部屋は嫌に静かで、カーテンも閉めたまま。
もしかしたら、マオと二人で変なことをしているのかもしれない。
…………嫌な予感がする。
「マオー?」
フィルが扉を開ける。
マオは起きていた。
ベッドの縁に座り、なぜか俯いている。
何か悲しいことがあったかのように。
「マオ…大丈夫…?」
「…………」
フィルも心配して語りかける。
だが、返事はない。
「どうしたのよ、マオ」
教室にも来ないし、勝手に落ち込んでるし、そんなマオは見たくない。
あまりにもマオらしくない。
と、彼女がようやく私たちを視界に入れた。
「………シャルがいなくなった」
「……マオ、冗談はやめて?」
違う。
この顔は冗談じゃない。
「冗談ではない」
「急な出張じゃ…ないの?」
教室を見た時から感じていた。
この焦りを。
「わざわざ連れ去ってまでか?」
「誰が…連れ去ったの…?」
私には既に見当がついている。
「ここの王だ」
私のお父様。
なぜかそんな気はしていた。
「なら……迎えに行かなくちゃ」
「どこにだ?」
「それは…」
「魔王城よ」
二人の目線が私に向く。
『なぜそんなことを知っているんだ』と。
「あそこは優秀な人材を集めてるのよ。シャルが選ばれるのは当然よ」
「…………知っていたのか?」
マオの目つきが鋭いものになる。
普段は表情を変えない彼女のそんな顔は初めて見た。
だが、怖気付いたりはしない。
「ええ、知っていたわ」
「っ……!」
マオが立ち上がり、私の前に立つ。
威圧をするように姿勢を傾ける。
「なぜそんなに冷静でいられる」
はっきりとしたマオの敵意。
初めて向けられる感情だが、腕を組んだ姿勢を崩さない。
「行く方法はあるわ」
「……なんだ?」
「優秀な人材になればいいのよ」
「………シャルと同じになれるわけがない」
マオらしくない。
いつもなら今すぐにでも魔王城に乗り込むかと思った。
弱気だ。
………………私らしくもない。
「龍国の臣下が言っていたわ。『強くなるには強い人と戦うのがいい』って」
「……龍王国に行く気か?」
「そうよ」
協定を結んでもいない国に借りを作ることになるが、シャルを取り戻すためだ。
多少の損害は覚悟しなければいけない。
マオの頭が引かれ、威圧感も収まった。
「……そもそも、シャルはいつか戻ってくるんじゃないのか?」
「最短で一年よ、待てるわけがないわ。それに本来は連れ去ってまでやることではないし、時期が早すぎる。数年は戻ってこないかもしれないわ」
「「 …………… 」」
自分で言ってて泣きたくなる。
シャルにしばらく会えない。
シャルに愛してもらえない。
シャルに好きと言えなくて、シャルに好きと言われない。
最悪の状況だ…
「そうか……なら私は一度故郷に帰る」
「え……龍王国じゃなくていいの…?」
「私には既に師匠がいるからな」
「…わかった」
私もマオと一緒に鍛えれないのは残念だが、彼女が決めたことならそれでいい。
それより、何としてもシャルを取り戻さなければいけない。
強くなって、魔王城に行く。
…………シャルが死んでいないことを祈ろう。




