魔王城 ー生活ー
目が覚める。
体が重い。
とてもじゃないが、動かせる気がしない。
魔力切れの感覚だ。
俺は魔王、正確には魔王たちに全力で魔術を放ち、負けた。
そこまでは覚えている。
そこから長い時間が過ぎた気がするが、記憶が無い。
「おっ、起きたか」
隣から男の声がする。
顔だけを動かし、声のした方を見る。
そこには化け物がいた。
2、3メートル程の体躯を持った化け物。
人間ならば鼻にあたる部分を中心に渦巻いている顔は不気味で、その中心は終わりの見えない奈落のようだ。
異様に脚の発達した馬の下半身をもち、そこから異常に延びた肉と臓器の欠落した胴体。
肩口から伸びる長い腕にも肉は無く、とても動くようには思えない。
そんな化け物が俺の顔を覗き込むように身を乗り出していた。
普通なら尻もちをついたりするだろう光景だが、不思議と恐怖は感じない。
会ったことがあるからだろう。
玉座の間にこいつもいた気がする。
「帰らせてくれ…」
「んん……真魔さんに見張っとけって言われちまったからなぁ…」
そいつは上半身を持ち上げ、その弱々しい腕で顔をポリポリと掻く。
「どれくらいで帰れる?」
「んー、真魔さんえらく機嫌良かったからなぁ……帰れるとは思わない方がいいぜ?」
そうか…
なら、やっぱり殺すしかない。
だが、全力でやって勝てなかった。
やるなら慎重に、確実にだ。
「なぁ…俺はどのくらいここに居た?」
「居た…? 居たって言うよりも、ずっと魔術ぶっぱなしてたな。四日間ずぅっと」
通りで体がだるいわけだ。
だが、魔術を全力で使っていたという割に周りの建造物に全く損害が無い。
曖昧にだが、思い出してきた。
どんなに壊しても、再生するんだよな。
かなりの大穴を空けても、直ぐに塞がれてしまう。
『生物の城壁』のように。
あの時はただ魔術を撃っていただけだったから、また今度いろいろ試してみようと思う。
「それじゃあ俺はちょいと行ってくるからよ、ゆっくり休んどいてな」
化け物が馬の足音を残して去っていく。
見た目に反して話の分かりそうなやつだったが、俺を帰すつもりは無さそうだ。
重い体に焦燥感が溢れてくる。
もう、彼女たちに会えないかもしれない。




