魔王城 ーお前はそれで……ー
この国を滅ぼすことに決めた。
俺と彼女たちを引き離すなど、誰だろうと絶対に許さん。
だが、俺の頭には僅かに理性が残っていた。
魔王城の主、魔王と話をすることを承諾できたのだ。
正直、よく暴れなかったと思う。
「ユラーグ・エルロード陛下、シャル・テラムンド様、以上二名、お連れ致しました」
虎の獣族のお姉さんが扉に向かって高らかに声を上げる。
彼女に自己紹介をされた気がするが、名前は覚えていない。
殺すかもしれない相手だ。
覚える必要もないだろう。
扉がゆっくりと開かれ、中に待ち構えているやつらが目に入る。
今は過剰なストレスの所為か、デカいやつか小さいやつかくらいしか分からない。
ただ、部屋は霞んだ黒で、古城の玉座の間といった印象だ。
その玉座に座る小さいやつとある程度の距離で足を止め、跪く。
「久しぶりだな、ユラーグ」
低く、重い声だ。
如何にも強者に相応しいものだ。
「そうだな魔王よ。今回は連絡が遅かったようだが?」
「昔を懐かしんでいただけだ」
もどかしい会話だ。
「魔王様、失礼を承知でお聞きします」
跪きながら声を上げる。
今の俺に空気を読むなんて余裕は無い。
敬称を付けれただけでも合格点だ。
「なんだ? テラムンド」
「私を王都へお返しください」
「ならん」
「であれば、いつ頃私は帰国出来るのでしようか」
最短で1年だそうだから、最大でもその半分で帰れなければならない。
1年も待てない。
今すぐに帰りたい。
彼女たちの顔が見たい。
本来なら授業をしている時間帯だ。
彼女たちが穏やかに話し合うのを眺めたり、笑い合っている時間だ。
それをゴミムシは奪った。
絶対に…
「ふむ、お主は傑物の才を持つ。故に……」
頼む…
彼女たちは俺の……
「お前を帰すつもりは無い」
その瞬間、俺の視界が真っ黒になった。
いや、真っ白だったかもしれないが、とにかく何も見えなかった。
俺はほぼ無意識の内に床に両の手をつく。
そして、全身全霊の魔力を込める。
「待て! シャル・テラムンド┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈!」
同時魔術使用
瞬間召喚
複雑命令機構組込
『水の御業』
『焔の鉄槌』
『暴食の黒球』
俺の手の届く範囲に召喚された蒼級召喚獣。
それが2体ずつ。
見た目も能力もまるで違う魔術だが、込めた命令は全て同じ。
「『殺せ』」
魔王との戦闘が始まった。




