さよならだ、シャル
彼女たちと別れるまで、残り『2』
授業が終わり、彼女たちとの憩いの時間だ。
「マオ、もうすぐ誕生日ですね」
「そうだな」
そう。
もうすぐマオの誕生日だ。
王宮側でもパーティを行う予定だが、何か特別な思い出を残しておきたい。
「獣族のところってどうやって過ごすの?」
あ!
フィルのその発言にハッとする。
危うく見過ごすところだった。
マオは獣族の生まれで、こっちの文化と異なるところがある。
また求婚の時みたいに不興を買ってしまうところだった。
「食べ物を送り合うだけだな」
……あ、それだけ?
もっと獣族特有のものがあると思ったのだが…
「もっと求婚とかそういうのは無いんですか?」
少し期待していた自分がいるため、そんなことを聞いてしまう。
「………求婚したいのか?」
「もちろん」
「「「 ………… 」」」
エミリーとフィルのジト目が痛い。
だが、もちろん2人にも求婚したい。
というか何回もしているのだが、マオにはあまり出来ていない。
マーキングは直ぐに出来るようなものではないため、マオへの求婚が遅れてしまっているのだ。
「シャル…」
彼女たちと俺を交互に見ながらモジモジするマオ。
俺は珍しく狼狽えたようなマオに対し、両手を広げる。
そして、俺の好きな彼女の名前を呼ぶ。
「……ん」
マオが小股走りで俺の元までやってきて、俺の抱擁を受ける。
彼女の温かい体と、モフモフの髪が俺を癒していく。
「マオ、何か食べたいものはありますか?」
誕生日のプレゼントを決める。
マオが所望するものならば、たとえどんなものでもテーブルに運んでみせよう。
「…………シャルが食べたい」
そう思ったのだが、テーブルに運んじゃいけない物が望まれた。
全く、マオはえっちだな。
「じゃあ……当日はたくさん用意しときますね」
「……うん」
マオの交わらせた腕に力が入る。
当日は眠れそうにないな。
ー夜ー
明日の授業の用意をしていると、扉がノックされ、開かれた。
ノックの主はマオだった。
「ん、どうしました? マオ」
彼女は後ろ手に扉を閉め、じっと俺を見つめてくる。
「………撫でてほしくなった…」
…そっちだったか。
顔が少し赤いから、えっちなお願いかと思った。
「お、ちょうど撫でたいと思ってたんですよ。隣、来てください」
「ん…」
ポンポンとベッドの縁を促し、マオがそこに座る。
そして、彼女のフサフサな髪を撫でる。
相変わらずの撫で心地の良さだ。
こっちまで癒されるし、マオの目を細めてうっとりした姿もかなり良い。
何故、彼女はこんなにも愛おしいのだろう。
「そういえば、シャルの親とウォルが顔見知りらしいな」
「らしいですね」
「なにも聞いてないか?」
「そうですね」
「そうか」
どうやら、マオも聞いていないらしい。
俺はロウネとウォルテカは元恋人同士だと思っているが、どうなのだろう。
ロウネは魔術が強いから、ウォルテカがそこに惚れてもおかしくは無い。
マオだって、最初は俺の強さに惚れたらしいからな。
「マオのお父さんって、どんな人なんですか?」
「ふむ……私に甘いやつだな。剣術をする時は苦労したものだ」
甘くて苦労するってなんだ?
まあいいか。
「シャルの母はどんな感じなんだ?」
ううむ。
ロウネか。
「賑やかな人ですね。父と今でもイチャイチャしてますから」
「……そうか…私たちもずっとしてたいな」
「ずっとしますよ」
「うん…」
暫くマオを撫で続け、俺の肩には彼女の頭が乗せられている。
彼女に体を預けられるのは気分がいい。
俺を頼ってくれている感じがして好きだ。
「マオ、僕に不満とかってありますか?」
「不満?」
こういうのは早めに直しておきたい。
愛しの彼女たちに鬱憤を溜めさせてはいけないからな。
「そうだな…」
マオが俺の太ももを撫でながら考える。
「あれだな、えっちする時にシャルが使うやつあるだろ? あれをやめてほしい」
「コンドームですか?」
「ああ」
コンドーム?
どうしてだろう。
かなりの完成度だと自負しているが、どこか痛かったりしただろうか…
「何か不具合がありましたか?」
もし、知らず知らずの内に我慢させていたのだとしたら、かなり落ち込んでしまう。
お互いに気持ちよくなっていると思っていたのは俺だけだったのかもしれない。
「そうではない」
「…?」
どうやら、違ったらしい。
安堵すると同時に、別の疑問が上がる。
何故、使って欲しくないのだろう。
「シャルの子が産めんだろう?」
「………」
はぁっ!
やだ!
今すごい幸福感がドキッてした!
……いや待てよ?
冷静になれば、マオの体はまだ子供の範囲にある。
つまり、出産は通常よりも危険を伴ってしまう。
彼女たちに万が一の事があってはいけない。
だから、この感情はしまっておこう。
「まだ早いですよ。4年くらい待っていてください」
マオの腹を撫でながら言う。
「……それもそうだな」
マオも自分の腹を見て、納得してくれたようだ。
もし、これで無理やりされたら、どうなっていた事か。
きっと、抵抗虚しく剥かれていただろう。
「シャル」
「んー?」
「このくらいの球を作ってくれるか?」
マオが手でサイズを表し、目的の分からない要求をする。
「はい、どうぞ」
「ん」
固定魔術でサッカーボール程度の大きさの球を作り、渡した。
それをマオは何を思ったのか、服をめくり、自分の腹にそれを入れた。
マオの腹が大きく膨れ、できた服の皺を撫でることで直している。
「見てくれ」
「…?」
「シャルの子供できた」
「っ……!」
ああもうっ!
嬉しいっ!
マオめ、いつの間にそんなことを言えるようになったんだ。
そんなことを言われたら、俺だって子作りしたくなる。
俺はマオの膨れた腹を撫で、微笑む。
「マオは男の子と女の子、どっちがいいですか?」
まだ気が早い質問をする。
親の気持ちは分からないが、いつかはできる時が来るかもそれない。
その時に備えておくのもいいな。
「どっちでもいいな。シャルの子なら強くなりそうだ」
「マオの子なら、とても可愛く育ちそうです」
どちらでも可愛く育つだろうな。
どうしよう…
今から楽しみでしょうがない。
かなり気が早いが、マオとの子供か…
いいな。
「シャル…」
「なんですか?」
「…子供ができても……私に構ってくれるか…?」
「…?」
何を今更。
俺がマオを放っておく理由なんて無い。
そうなる条件も無い。
つまり、俺がマオを愛さないという選択肢は無い。
「当たり前ですよ。というか、何でそんなことを?」
「昔、ウォルが私ばかりに構っていてな。親がそれで喧嘩したんだ」
そうだったのか。
マオは母親似なのかもな。
「そうだったんですか……僕はマオをずっと愛し続けますからね、安心してください」
「……ん…分かった…」
マオの優しく、ほっとした笑みだ。
彼女の笑顔はやはり好きだ。
この笑顔を見るためなら、俺は何だってできる。
「シャル…」
彼女と目を合わせる。
その瞳にはしっかりと俺が写り、彼女の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
「好きだ…」
「僕もですよ…マオ…」
キスをする。
「………そろそろ寝ましょうか…」
「ん…」
マオと横になり、目を閉じる。
マオが俺の体にくっついて、非常に眠りにくい。
彼女の鼓動が腕に伝わってくる。
だが、明日は授業だ。
えっちをするつもりはない。
「シャル…」
マオが柔らかい声を出しているが、我慢だ。
「明日は授業がありますよ」
「んん…」
不満のようだ。
俺だって、本当はしたい。
俺の息子はマオの中に帰還したいと懇願してくるし、柔らかい胸が押し付けられている。
我慢している今も辛いのだ。
と、マオが俺から離れ……
俺に被さった。
「……マオ?」
「……したい…」
そう言われてもなぁ…
だが、そう言ってくれるのは素直に嬉しい。
俺だってマオの腰に手を回しているし、いい匂いだし、柔らかいし、温かい。
「マオ…誘惑されると我慢できなくなります…」
彼女の誘惑は強烈だ。
視界に入れるだけでも想像してしまうのに、こんなことをされたら不味い。
それなのに、マオはより一層腕に力を込め始める。
「…我慢しなくていいんだぞ?」
……どうしよう。
俺も限界だ。
マオの服に手を入れ、健康的な肌をスリスリしてしまっている。
早くマオの体を見たい。
こうなったら…
「マオ…」
「どうした?」
「外に…行ってもいいですか?」
1人で処理するしかない。
「……なぜだ?」
「少し…処理してきます…」
心苦しいが、こっちの方がいいだろう。
こんな状況を体験したあとだ。
1回だけなら、そんなに時間はかからない。
直ぐにマオと一緒に寝れる。
だが、マオは俺を離さず、外へは行かせてくれない様子だ。
「…………私でしてくれるのか…?」
「そりゃあ…マオはとても魅力的なので…」
「……私も………シャルでしてるぞ…?」
………これ駄目だ。
マオの両肩を掴み、少し起き上がらせ、目を合わせる。
既に目はとろんとしており、火照った顔をしている。
そんな彼女の頬に手を当てると、顔の熱が伝わってくる。
「マオ…」
「シャル…」
マオの服のボタンをひとつずつ外す。
段々と焼けた健康的な肌が顕になり、期待で鼓動が早くなる。
上下着が見え始めたところで、マオにキスをされる。
その間もボタンを外す。
ボタンを外し終わり、マオの肩だけを露出させる。
えっちだ。
とてもいい。
1回では済まないかもしれない。
ー
いつもより短めに行為が終わった。
マオもそれ以上おねだりする事もなく、今夜はよく眠れそうだ。
「そうだマオ、マッサージでもやりましょうか?」
「ん?」
今日は少し体勢的にマオの負担が大きかった気がする。
純粋な気持ちで言ったつもりだが、改めて考えると、誘っている気もする。
……まあいいか。
「そうだな……頼めるか?」
「任せてください」
甘かった。
下半身を重点的にやっていたら、俺の下半身も熱くなってきてしまった。
マオの肌はもちもちで、弾力があって、えちえちだ。
「うまいな、シャル」
「どうも…」
今の俺の頭の中は煩悩でいっぱいだ。
かなりしたい。
早くしたい。
たくさんしたい。
だが、明日の授業で眠くなってしまうし、彼女たちはそういうのに敏感だ。
直ぐに気づかれる。
とりあえず、今はマッサージに集中しなくては…
「はい…終わりましたよ」
ふぅ…
終わった。
途中、マオの尻をモミっとしなかったら危なかった。
本番までは何とか耐えた。
俺が鉄の男であることが証明されたのだ。
そろそろ寝よう。
「シャル…」
と、マオが半身だけを起き上がらせ、肩越しに俺を見てくる。
その姿は妖艶さを持ち、恥ずかしそうな、それでいて期待しているような表情をしている。
何か、予感がする。
「なんでしょう…」
「その……」
目線を下にして、俺から目を逸らす。
片手で自分の肩を撫で、俺の目線がその柔らかそうな腕に向かう。
そして…
「もっと……触ってくれないか…?」
…………。
これ駄目だな。
マオに誘惑されると、どうしてもしたくなってしまう。
俺の性欲は標準なのに、マオにつられて高くなってしまう。
俺はマオを仰向けにして寝かせる。
「マオ……2人にバレてしまいます…」
そう言いつつも、俺はやる気満々だ。
ここでお預けなんてされたら、悶々とした夜を過ごすことになるだろう。
「一回だけなら……ばれんだろう…?」
確かに、今はそんなに遅い時間でもない。
1回だけなら、バレずに済むかもしれない。
だが、俺は1回だけで満足できるだろうか。
できない。
絶対にできない。
「マオ、1回だけで満足できますか?」
「……できる」
「……僕はできません…」
「……私も…できない…」
「じゃあ…朝までしましょうか」
「うん…」
ー
した。
外が少し明るくなってきてから寝た。
マオは既に眠りについているが、俺は少し催していた。
彼女を起こさないようにそっと毛布を退け、移動する。
「…んん……?」
どうやら、彼女を起こしてしまったみたいだ。
「……どこにいく…?」
「トイレです」
「ん……いってらっしゃい…」
「はい、いってきます」
眠たそうな彼女も可愛い。
改めて幸せを感じながら、そこを後にした。
ー教室ー
マオの誕生日。
そのお昼。
「マオ、誕生日おめでとうございます」
「おめでとう」
「おめでとう」
「ん、ありがとう」
それぞれ祝辞を述べ、いつもの穏やかな時間が流れる。
さて、今日は特別な日だ。
俺も気合いを入れてプレゼントを用意した。
「マオ、僕からの誕生日プレゼントです」
「お」
机に乗せておいた箱をマオの前に持っていき、開ける。
すると、箱の中から冷気が流れでて、机に白い空気が伝うように動く。
中のものを慎重に両手で持ち、ゆっくりとマオの机に置いた。
「これは…」
「はい、プリンです」
そう。
俺が用意したのはプリン。
箱を開けた時からマオは気づいていただろうが、目を見開いて驚いている。
理由はその大きさ。
顔よりも大きな黄色と茶色の物体がそこにあった。
「これ…いいのか?」
「今日は特別な日ですからね」
そう。
今日は特別な日。
つまり、貴重な砂糖を大量に使っても許される日。
後でメイアさんに叱られるかもしれないが、そんなものは俺の眼中に無い。
マオが喜べば、俺はなんでもいいのだ。
「さ、エミリーとフィルの分もありますよ」
中から更に2つのプリンを取り出す。
いつもより大きめに作ったが、マオの後に見ると小ぶりに見える。
そこから3人分のスプーンも取り出し、それぞれのテーブルに置いた。
「ん、うまいな」
「おいしいわね」
「ね」
「それはよかった」
マオのは何故か、既に3分の1が消滅していた。
いつの間にそんな食べたのか分からない。
「シャル、食うか?」
と、食い意地の張ったマオが俺にプリンを乗せたスプーンを差し出してきてくれる。
あの、食べ物のためなら何でもやりそうなマオが。
ちょっと嬉しい。
だが、アーンなのが少し恥ずかしくはある。
「では」
マオのスプーンに口を近づける。
彼女との間接キスを少し意識しながら。
そして…
ヒョイッ
俺の口には甘味は無く、あるのは空気のみ。
マオを見る。
「へへへ」
こいつ!
あーもう怒った!
はいもう怒った!
プッチーンいったわ。
「すまんなシャル、ん」
「……ん」
うむ。
美味。
「うまいか?」
「はい…」
「それはよかった」
……ま、いっか。
ー
パーティが終わり、マオの部屋で彼女を撫でさせてもらっている。
「シャル」
「はい」
「プリン食べたい」
また?
今日あれだけ食べたのに、何という…
だが、作り置きはしてないんだよな。
なら、作ってくるか。
「そうだ、一緒に作りに行きますか?」
マオと共に料理をする。
いいな。
「んん……私にも作れるか?」
だが、彼女は自信がなさそうだ。
マオは自分が器用じゃないのを自覚しているらしい。
だが、心配はいらない。
「大丈夫ですよ。作れるようになるまで、僕が一緒に手伝いますから」
「……ん」
こうして、幸せな日々を過ごした。




