さよなら、シャル
彼女たちと別れるまで、残り『3』
今日はフィルとデートだ。
いつものように身だしなみを整え、不備がないかを確認し、王宮の門前へと向かう。
門前に着き、空いた時間は魔術の練習をする。
フィルが来た。
「おまたせ、シャル」
「僕も今来たところですよ。ところでその格好は?」
気になったことを問いかける。
彼女は何故か、エプロンを取り除いたメイド姿をしている。
いつもと毛色の違う格好に首を傾げる。
「これね…メイアさんにこっちの方が良いって言われて…」
「そうだったんですか。似合ってますよ」
「へへぇ……ありがと…」
長い裾をヒラヒラさせるフィル。
彼女を家で雇うのはどうだろうか。
癒し系としては満点だし、フィルに奉仕されるのもまた…
「じゃあシャル、行こっ」
「はい」
フィルのルンルンな笑顔につられて、俺も笑顔になる。
今日も楽しいデートになりそうだ。
ー
そう思ったのだが…
カンッ…………カンッ
釘が打ち付けられる音が規則的に響く。
カンッ…………カンッ
腕を下ろし、鉄音を鳴らす。
「フィル」
「……はい」
お互いに抑揚の無い声音で話す。
「僕たち、デートしてたんですよね?」
「……うん」
カンッ……カンッ
「デートってあれですよね。買い物行ったり、食事したりする、あれですよね?」
「……うん」
よかった。
俺の認識は間違っていなかった。
「なら…今やってるこれって何ですかね?」
「………こ……工事デート…」
そう。
俺たちは今、工事デートをしている。
理由はフィルが店をぶっ壊したから。
だが、仕方がない。
1匹のネズミが空から降ってきたのだから。
そのネズミが偶然フィルの頭にポトッ…となってしまったのだから。
フィルはネズミが嫌いだ。
食用として販売されているネズミだが、フィルは動いていようと、動いてなかろうと、視界に入れるのを嫌がる。
そんな奴がポトッと来たのだ。
上級魔法の1つや2つ撃たないとおかしい。
ネズミは俺が固定魔術で守ったが、それが余計にフィルの暴走を誘発していたのかもしれないしな。
フィルの魔術は優秀で、3人の中で唯一上級魔法を扱える。
上級魔法を使える人物なんて、国内でもそうそう居ない。
今回の件は俺の生徒を自慢できたと、ポジティブに捉えておこう。
「ごめんね…シャル…」
フィルが謝ってくるが、気にすることじゃない。
修行代は痛くないし、何より、フィルと2人きりだ。
何も悪いことなんてない。
「別に謝らなくていいですよ。たまにはフィルとこういうのも悪くありませんしね」
「でも……折角のデートが…」
謝罪としてフィルが『修理します!』と言ったのだが、彼女も色々な狭間で葛藤しているのだろう。
「いいんですよ。フィルと一緒は楽しいですし、デートはまたできます」
「……ありがと」
笑顔を向け、作業を続ける。
カンッ……カンッ
「二人ともー、もう上がっていいよ」
ふくよかな女性に話しかけられる。
ここの店長さんだ。
「もういいんですか?」
「いいも何も、その格好だと貴族様のお使いさんだろ? 手伝いされてるこっちが息苦しいってもんだよ」
店長は片手を腰に置き、冗談めかした口調で言ってのける。
「ほれ、疲れたろ? これ飲みな」
片手に持っていたお盆を差し出してくる。
その上には冷たそうな茶が2つ。
「ありがとうございます」
「ど、どうも…」
冷えた茶が喉を潤す。
労働のあとの飲み物はいいな。
「ところで、あんた達は恋人同士なのかい?」
「っ!」
「そうですよ、よく分かりましたね」
「そりゃあ見てればね。あんた、大事にしてやんなよ」
戻されたコップが置かれたお盆を持ち、ニカッと笑う店長。
「もちろんですよ。絶対に手放せませんからね」
「…………」
「あら、尖った耳の可愛い子じゃないかい」
フィルが尖った赤い耳を見られ、両手でそれを包んで隠す。
「では、ありがとうございました」
「ああ、また来なよ」
「今度は何か買いに来ますね」
「お、それは嬉しいね。安くしとくよ」
店を出て、フィルと食事を済ませてから王宮に帰った。
ー
王宮へと帰り、今はフィルの部屋でデートの続きだ。
座りながら彼女を抱いて、改めて体の細さを感じる。
ずっと抱きしめていたくなる心地良さだ。
いい匂いもする。
彼女たちの匂いがフワッと香るだけで、顔を押し付けてでも嗅ぎたくなる。
今もフィルの髪の短さを感じながら呼吸している。
とても落ち着く。
「フィルぅ」
「なにぃ?」
「今日も楽しかったです」
「うん、私も楽しかったよ」
嬉しいなぁ。
フィルの腹を擦り、その感触を楽しむ。
彼女の細い体は触っていて和む。
守ってあげたくなるというか、抱きしめていたくなるというか。
「……私の体って…触ってて楽しい…?」
フィルが俺の手を撫でながら言う。
「楽しいですよ。ずっとこうしていたいくらいです」
「そう……?」
「はい」
俺がそう言うと、フィルが俺の腕を解いてしまう。
何をするのかと思えば、フィルが向かい合わせになって俺に跨るように座ってきた。
抱きつかれてフィルの顔は見えないが、心臓の動きが彼女の感情を伝えてくれる。
「私も……シャルにずっとこうされてたい…」
フィルがゴソゴソと動き、尖った耳が頬に当たる。
彼女の息遣いが耳元で行われ、俺の心臓の鼓動を早くしている。
「シャル…」
「フィル…」
フィルの小ぶりな尻を掴み、そのままベッドへと運ぼうとする。
「シャルっ………まだ早いよ…」
だが、フィルに止められた。
「……駄目ですか?」
「まだ夜じゃないでしょ…?」
この状況でお預けは苦しい。
本当は時間帯を気にせずしたい。
だが、フィルがお望みじゃないのだ。
俺は我慢のできる男。
立つ準備をしていた脚を元に戻し、フィルとまた抱き合う。
お互いに呼吸も鼓動も落ち着き、今は互いの温かさを楽しんでいる。
「シャルぅ」
「んー?」
「シャルは私に不満とかないの?」
不満?
ううむ…
「んー……もっと自分に自信を持って欲しい…とかですね」
「自信…?」
「たまにそういった所が見られるので」
「うん、わかった」
「フィルは僕に不満はありますか?」
「……んー、とね…」
直ぐに出てこないことに安堵する。
これでポンポン出てきたら、俺が自信を無くすところだった。
「シャルはたまに…エミリーとマオをえっちな目で見るから……」
……俺ってそんな目線向けてたっけか。
俺の性欲は標準なはずだが、これから気をつけるか。
「それが嫌ですか?」
「ううん…二人にするなら……私にも…」
フィルはえっちだな。
そうかそうか。
フィルは俺にえっちな目で見て欲しいんだな。
「今僕がフィルのこと、どういう目で見てると思います?」
「…………まだ不満はあります…」
えっ。
思った通りにいかない。
今日のフィルはガードが固いな。
「二人とイチャつくのは程々にして…? 目の前でされると…寂しくなるから…」
「はい」
難しい提案だ。
2人とイチャついたらフィルにもしよう。
「あと、シャルが家に帰る時は、私も連れて行ってほしい…」
「はい」
「あとね……あと…」
フィルの腕に段々と力がこもっていく。
彼女の体が押し付けられ、俺からも彼女を寄せる。
フィルの口が俺の耳元に寄せられ、温かい吐息がかかる。
そして、彼女が口を開いた。
「もっと……キスしてほしい…」
フィルはそう言いつつも、腕の力を緩めない。
だが、俺が両手を肩に置くと、自然と緩まっていく。
フィルの顔を俺の前にもっていく。
彼女の目は俺の唇と目を交互に見ていて、忙しなく動いている。
そんな彼女の頬筋に手を添え、目を閉じるのを確認する。
そして、キスをした。
「「 ………… 」」
柔らかで、優しいキス。
フィルはどうやら、えっちは夜にしたいらしい。
先程の顔はどう見てもその気にしか見えなかったが、今回は俺も我慢する。
俺の手には無意識に柔らかな感触がしっかりと握られているが、それは仕方がないだろう。
モミモミ
小ぶりな尻が手に収まり、揉みしだきたくなる衝動が俺を襲う。
ぺしっ
俺の手が叩かれた。
「……シャル…」
「……駄目ですか…?」
「うん…」
「触るだけです」
「……我慢できる?」
「できません」
「…………」
そりゃあ、できるわけがない。
フィルの体を揉んでるんだ。
獣にならない筈もないし、俺の息子が黙っているわけもない。
というわけで、モミモミ失礼します。
ぺしっ
「「 ………… 」」
ぺしっ
「……シャルは性欲もどうにかした方がいいと思うよ」
「フィルだからこんな風になるんですよ」
「んもう…」
フィルだって頬を赤くしているし、満更でもないのは分かっている。
だけど、えっちは夜にしたいらしい。
ガードが固いのは安心できるが、俺に対してもそうのはなぁ…
まあ、俺は我慢のできる男。
この程度は乗り越えてみせよう。
と、扉の脇に置いてあるバスケットが目に入る。
それには布が被せられており、そこには盛り上がりがある。
「あれって何か入ってるんですか?」
「んー?」
フィルが俺の目線の先に顔を向ける。
そして、何故か体をビクッとさせた。
「まあ……ちょっとね」
ちょっと?
「ひょっとして、龍王国で買ったやつですか?」
「うん…」
やっぱりか。
あれを買った時のフィルは様子が少しおかしかった。
だから、あれは恐らくえっちなやつだ。
1人で使うものなのか、2人で一緒に使うやつなのか。
そこが気になる。
「何を買ったんですか?」
前回も同じことを聞いたが、もしかしたら教えてくれるかもしれない。
「……教えない」
教えてくれないらしい。
俺はたとえフィルがハードなものを持っていたとしても、全然平気なのだが。
「そういえばフィル、今はどんな下着着けてますか?」
「え?」
かなり唐突な質問にフィルが驚いた顔をする。
俺だって、こんな風な聞き方はしたくない。
だが、今の俺は我慢をしている状態だし、フィルが使っているであろうえっちな道具だってそこにある。
目の前の彼女の下着を知りたくなっても仕方がない。
「もう……教えるわけないでしょ?」
「それは残念です」
今夜、教えてもらおー。
「でも……シャルはどんなのが好きなの…?」
「んー……」
どんなのか…
俺は彼女が着たものなら何でも好きだ。
彼女たちは意識して可愛いのを着けてくれているし、その姿がとても愛らしい。
「僕はフィルがいいと思ったのが好きですよ」
「そう?」
「はい」
微笑んで答える。
また抱き合う。
「フィル」
「なに?」
フィルが俺と目を交わらせてくれる。
その可愛い瞳に見つめられだけで、俺はどんな苦労も癒されるだろう。
「フィルと一緒にいれて、僕は幸せです」
「………私もだよ…シャル…」
もう一度キスをする。
ああ…
幸せだなぁ。
彼女と笑い合う。
そんな穏やかな日々。
こんな生活がずっと続けばいいな。
フィルティアのパンツ
白。
小さな蝶々が編まれた清潔感のあるもの。




