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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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初めまして ー美少女を我がものにー


挿絵(By みてみん)

フィルティア・フォルテス




祓うことが延期になった翌日、俺はあの子のいる家へとやってきていた。


既にエミリーとマオを村の人達に探しに行ってもらっている。

理由は適当に忌み子を祓うにはその2人の力が必要だとかにしておいた。

もう心配はいらないだろう。


「こんにちは」

「こ…こんにち、は」


まだ怯えられている。

目も逸らされているし、話しかける度にびくつかれてしまう。

だが、俺はこんなことでは傷ついたりしない。

なにせ、前世では目が合っただけで女の子に泣かれたことがあるのだ。

40年間、そうやってメンタルを鍛え続けたのだ。

むしろそそられる程度だな。


「まだ名前を聞いてしませんでしたね。僕はシャル・テラムンドといいます。君は?」

「ふぃ……フィルティア・フォルテス…」

「フィルティア、いい名前ですね」

「…………みんな…この名前、嫌いって」

「そう? 自然っぽさがあって素敵だと思うけど」


正直、俺に美的感覚なんてものはない。

とりあえず褒めておくのだ。

後々、この子が俺を好きになる布石になってくれればと思う。


この子に惚れてもらう。

それが目的だ。


普通の人から見たら、この子が男の子か女の子か分からないだろう。

だが、俺は騙されない。

この子は女の子だ。


なぜ直接()()訳では無いのに分かるのか。

理由は俺の股間センサーが反応しているからだ。

それはもう元気に。


「君は忌み子らしいけど、なんでですか?」


だいたい予想はついているが、聞いておく。


「髪がこんな色だから……みんな私を忌み子って」

「そうですか」

「シャル……さんは、なんで…私を祓わないの?」

「シャルでいいよ。まあ、僕は君のことを忌まわしい存在なんて思えないからね。ただの可愛い女の子にしか見えない」


俺の口説き文句にフィルティアが頬を赤く染める。


やはり、この年齢だとちょろいと思ってしまう。

悪いおじさんがいたら、すぐにでも襲われてしまうだろう。

だが、俺は中身がおじさんなだけで、悪い奴ではない。

ただ将来的に俺とあんなことや、こんなことをしてもらいたいだけだ。


「でも…私のせいで最近嵐が…」

「そんなものは自然災害で………」


……ん?

待てよ…

嵐?

そういえば、嵐を意図的に起こしたやつに心当たりがあるな。

一体誰のことだろか。

白髪の10歳くらいの少年ではなかろうか。


「どうしたの?」


俺がそんなことを考えて言葉に詰まっていると、フィルティアが話しかけてきた。


「いえ……なんでもありません」

「…………」


フィルティアが心配の目で俺を見てくる。


……いや、この顔は違うな。

これは恐怖だ。

黙りこくってしまったのが悪かったのだろう。


「大丈夫です。嵐ってのは誰かが起こすものではありません」

「……ほんとに…?」


フィルティアが上目遣いで俺を見てくる。


ああ!

やばい!

可愛い!


俺はこんな年齢の子まで恋愛対象として見てしまうのか。

なんて野郎だ。

精神年齢が50歳でも、体が10歳というのが関係しているのだろう。

そうだ。

そう思おう。


「ええ、もしフィルティアのせいだと言い張るやつがいたら僕が懲らしめてやりますよ」

「うん……ありがとう」


フィルティアが笑顔を向けてくる。


どうやら、信用してくれたようだ。

と、話していたらすっかり日が暮れかけている。

この村は明かりが少ないので、夜になると道がよく見えないのだ。

踏み外して落っこちる人も少なくない。


「では、僕はお暇させてもらいます」

「……うん…じゃあね」


フィルティアは寂しそうな顔でそう言った。


今日で結構仲良くなれたのではないだろうか。

急に距離感が近くなるのはどうかと思っていたが、これからはフィルティアの家で寝泊まりでもしようか。


彼女の驚く顔を楽しみにしつつ俺は寝具を用意し、フィルティアの家へ向かう。



寝具を取ってフィルティアの家に向かうと、中から声が聞こえてくる。

それはなにか争っているような音と共に伝わってくる。


「やだ…! やめて!」

「うるせえ! お前がいると村が不幸になるんだよ!」


そんな怒号と悲鳴が混じった音。

俺は直ぐに音源へと向かう。


「シャル! 助けて!」


襲われている現場はこの場面だけを見せられれば、輪姦という単語が容易に連想されるだろう。

6人の成人男性が、か弱い女の子の腕を胴体ごと縛り、猿轡をつけようとしている最中だったのだから。


フィルティアの悲鳴で男たちも俺に気づいたようだ。


「何を……やってんだ」


自分でも驚くぐらいの低い声が出た。


弱者を多勢に無勢で襲っていることに怒っているのではない。

むしろ前世では合意を得ないものを中心に見てきた。


俺は前世での40年間、色恋の全くない人生を送ってきた。

そして、奇跡的に来世というものに恵まれて美少女に出会ったのだ。

俺にとってこれ以上ない青春だ。

それをこいつらは俺から奪おうとしているのだ。


許せるはずがない。


「「 精霊様! 」」


何人かが俺を呼ぶ。

そして、代表のような者が俺に歩み寄ってくる。


「精霊様、あんたが祓ってくれないなら俺たちが片ぁつけさせてもらうぞ」


誰かと思えば、初めてフィルティアに会った時に少し話した男だ。

その男の腕には、引っ掻かれたときにつけられただろう傷がたくさんある。

もっと深い傷を負わせてやりたい気持ちに駆られるが、今は我慢だ。


「祓うのはと延期言った筈だ」

「ふざけるな! こいつに一日でも永く生きられると災いが起きるんだよ!」


ふざけているのはどっちだ。

フィルティアは何もしていない。


「彼女が何かしたんですか?」

「忌み子のせいで数々の村が焼け野原にされた歴史がある! 忌み子がいなければ何も起きないんだ!」


フィルティアに指をさして言う。


何言ってんだこの野郎。

責任逃れとか現実逃避をして、それを人のせいにするだと?

前世の俺も同じようなことをしていた気がするが、こいつは実害を及ぼしている。


「フィルティアを離せ」

「……へっ」


男が鼻で笑って拒否を示す。


その時、何かが切れるような音がした。


俺は男たちに向かって魔術を放つ。

使うのは土魔法で作った岩。

岩撃(ストーンショット)だ。

6人分を同時に作り、魔力を感情に任せて多く注ぎ、それが勢いよく放たれる。


サッカーボール程度の岩が勢いをつけて頭に衝突する。


「「 がふあ! 」」


全員が呆気なく倒れる。


いや、1人だけまだ気絶してない奴がいる。

俺はそいつに跨って掌を向ける。

そして、岩撃(ストーンショット)をマシンガンのように撃ち込む。



気絶した。


なるべく殺さないようにしたが、運が悪かったら死んでいるかもしれない。

なるべく死んで欲しくないものだが。

後でもっと痛い目に合わせてやらなければならないからな。


「大丈夫か?!」


急いでフィルティアのそばに駆け寄る。

目立った外傷はないが、心の方が心配だ。


「う、うん……大丈夫」


見た感じは平気そうだ。

フィルティアの顔は、驚愕に染まっているが。


「凄いね……シャル」

「どうってことないですよ」


それにしても、フィルティアが強姦……じゃなくて、殺されないで済んでよかった。

もし、俺が一緒に寝ようとか思わなければ、今頃フィルティアはこの世に居ないだろう。


「それよりも、こんなところ早く出よう」

「え?」


そうだ。

こんな俺の青春を奪うような環境にこの子を置いてはいけない。


アイツらへの制裁は夜襲でもするとして、今はおさらばさせてもらおう。


フィルティアの手を引いて、家を出ようとする。



ゴツンッ



何かがぶつかる音がした。


振り返ると、家の玄関と外との境界でフィルティアが額を抑えてうずくまっていた。

俺が外にいて、彼女が中にいる。


「……どゆこと?」

「私…外に出られないの」


…………どゆこと?

外に出られないとは一体…


「なんでですか?」

「紋章が…あって」


紋章?

そのせいで家から出られないのか?


「……では、ひとまず家に入りましょう」


とは言っても、既に彼女は家に入っているのだが。


俺は家に入ることにした。

失神した男たちがいる家へと。


「…どうするの? この人たち…」


フィルティアがオドオドしながら聞いてくる。


「起きたら懲らしめてやろうかと思いましたが、フィルティアの前でそんなことは出来ないので、ひとまず話をしましょう」


話が出来ないからここに来たのだろうが、痛い目に遭ったんだ。

多少は聞いてくれるだろう。


俺たちは男たちが起きるのを待った





「っ……ぅう」


あの男が呻き声を上げながら起き上がる。


「おはよう。クソムシ」

「うわっ?!」


男が情けなく尻もちをつく。


「っ……申し訳ございません! 精霊様!」


おっと、意外と早く謝ってきた。

本当は男としての尊厳を奪ってから謝らせるつもりだったが。


そして、その謝り方は土下座だった。

DOGEZAだ。


「謝るなら僕にじゃなく、フィルティアにですよ」


男がフィルティアに向けてもう一度謝罪をした。


「え? わ、私には……いい、です……よ」


あたふたしながら答える。


「いいんですか?」

「だめって言ったらシャルは酷いことするでしょ?」

「よく分かってるじゃないですか」


まあ、フィルティアがいいと言うならいいだろう。


「さて」


俺は男に振り向く。


「1つ聞きたいことがあります」

「は、はい…な、なんでしょう」


随分と情けないな。

村がどうだとかほざいていたが、この男も忌み子とか信じていなかったのか、それとも人として駄目なのか。


「この子の紋章について聞きたいのですが、何か知っていますか?」

「紋章? ああ、家から出られないやつですね」

「その解除の方法を知りたいのですが」


俺がそう聞くと、男があからさまに顔を顰めた。


「……祓うのは()()では?」

「ええ、延期です。ただその前に少しは楽しい思いをさせないと災いが呪いとなって拡散しますよ?」


もちろん、そんなことは知らない。

呪いとか適当に言ってみたが、行き当たりばったりの嘘だ。


だが、この男には効いたようだ。


「…それなら……まあ」


こいつ反省していやがらねえな。

未だフィルティアに敵意のある目を向けている。

フィルティアは俺の後ろに隠れているため気づいているかは分からないが。


「で、解除の方法とかは知りませんか?」

「俺は存じませんが、村長なら、あるいは」

「そうですか」


村長か。

俺はここを離れる訳にはいかないからな。


「明日でいいので、呼んできてもらっていいですか?」

「はい、分かりました」


明日は村長と話すこととなった。




―就寝―


今夜は本当に危なかった。

万が一フィルティアが殺されるようなこととなれば、この村を焼け野原に変えてしまうところだった。

こいつらの肥料で焼畑が出来そうだな。


今はフィルティアの横で布団を敷いて寝ている。

同衾したい気持ちでいっぱいだが、ここは我慢だ。


「あの……シャル?」

「ん? なんですか?」

「あのね…えっと………………あ、ありがとう」

「いえ、フィルティアが困っていたらいつでも助けに行きますよ」

「う、うん…ありがとう」


そう言って、フィルティアはニコッと小さく笑った。


男女が一緒の空間で寝ているという状況は手を出しても大丈夫なサインなんだろうが…

この年齢でそれはまだ早いか。

もう少し美味しく実ってから頂こう。

デザートは後に取っておくものだ。


「それではおやすみ。フィルティア」

「うん、おやすみ。シャル」


俺も案外紳士なんだなと荒ぶる息子を押さえつけながら、今日は寝た。




―翌日―


村長に事情を説明して、紋章について聞いた。


村の男連中が勝手な真似をしたことを聞いた村長は驚愕の面持ちで謝罪をしてきた。


実は村長もフィルティアをどうこうするのに賛成だと思ったが、どうもそんな感じではない。


紋章の解き方について聞いたら村長は付けることはできるが、解くことは出来ないらしい。

なんと使い勝手の悪い……


村長がそんなことをペラペラと喋ってくれたのにも理由がある。

この村、というより、この森は精霊様の言葉は法であり、従順厳守らしい。

改めて、俺はとんでもない人と間違われてしまったと思う。

早いところ退散しないと、モノホンが出てきた時に忌み子より先に祓われそうだ。


そんなこんなで、今日もフィルティアの家にいる。


「シャル?」

「なんですか?」

「あの大きな石を飛ばすやつってどうやってやるの?」

「魔術は使わないんですか?」

「私、魔術使えない」

「んー、なら僕が教えましょう!」

「いいの?」


どうせエミリーとマオが見つかるまで暇なんだし、俺もちょっとした復習になるから一石二鳥だ。

いや、フィルティアと一緒にいる口実ができたんだ、ここは三鳥だろう。


こうして、俺とフィルティアの魔術勉強が始まった。





俺は村から適当に持ってきた杖をあげて授業をしていた。


「まずは初級魔法の水弾(ウォーターボール)を撃ってみましょう」

「う、うん。水弾(ウォーターボール)!」


ポタッ


『水弾』ではなく『水滴』が放たれた。


「…………」

「シャル……これってどうすればいいの?」


どうすればいいのだろうか。

エミリーとマオは杖を持って詠唱させたら初級まではいくつか出来た。

だが、フィルティアは初級すら出来ていない。

杖の問題だろうか。

俺の授業で使ったやつと大して変わらなさそうだが……


「……僕がお手本を見せるので、真似してみてください」

「うん…」


俺の『水弾』が放たれる。


バァン!


すると、家の壁にサッカーボール程度の凹みができる。


「手のひらに自分の魔力が集まっていく感覚って分かりますか?」

「うん」

「そこから唱えた魔術をイメージすればできます」

「うん…やってみる…」


言ってみたはいいが、俺の感覚を教えただけで出来るとは思えない。


フィルティアが先程よりも長い時間意識を集中させる。


ぴしゃあん!


すると、全身に水がぶっかけられた。

俺はこの感覚を懐かしく思う。

エミリーだ。

一瞬帰ってきたのかと思ったが、いつもの高笑いが聞こえない。

では誰がやったのか…


フィルティアを見る。


「やった! シャル! できたよ!」


フィルティアは実に嬉しそうにぴょんぴょんと擬音がつきそうな動きで跳ねていた。

魔術が出来ないんじゃないかと心配したが、杞憂に終わってよかった。



家の中がビショビショだったので、乾かしたあと、フィルティアに初級魔法を全て教えた。


フィルティアと授業をしてわかったのだが、魔術というのはイメージが重要らしい。

俺がお手本を見せたらすぐにできたが、見せない場合はできなかった。


エミリーとマオには無意識に見せていたから気づかなかった。

固定魔術を覚えた時は何となくでやっていたからな…

時間でも止められたらいいなと思って始めただけだからな。

時間を止めてナニをしようという気は全くない。

全くない。


続いては魔力。

フィルティアはエミリーとマオよりも魔力量が多かった。

使えば使うほど多くなるが、それも個人差があるらしい。

フィルティアは既に上級魔術ぐらいなら気軽に撃てるぐらいの魔力総量をお持ちだ。

とは言っても、この家の中ではせいぜい中級までしか使えないな。

紋章を何とかしなくては。


そう思い、今日は紋章の解除の研究に明け暮れることにした。

フィルティアを俺の前に座らせ、紋章について聞いた。

紋章は体のどこかに付けられるものらしい。


フィルティアの場合は右肩甲上部にあった。

肩もみとかで、揉んだら気持ちいいところだ。

そして、紋章を見せてもらったときに襟からフィルティアの肩と首が露出して、とんでもなくエッチだった。

吸血鬼がなぜ首筋から血を啜りたがるのかが分かった気がする。


紋章は和錠が丸で囲まれた感じのやつだった。

やはり、俺がどうにかできるとは思えない。

だが、魔術とはイメーシが重要であると分かっている。

40歳でも厨二病が続いていた俺の想像力は計り知れないだろう。


とりあえず試してみる。


紋章に手を置いて、魔力を集中させる。


そして、紋章を無くすことをイメージする。


5秒ほどそれを維持したところ、バチバチという、静電気のような音がした。

そして、一際大きいバチッという音で手が弾かれる。


紋章はまだ残っている。

やはり、イメージが重要らしい。


「フィルティア、大丈夫ですか?」

「う、うん…なんともないよ」


紋章に影響しても本人には外傷などもない。


ひとまず解除の糸口が見えた気がするな。




そんなこんなで1週間が経過した。

初級から中級までしか教えられないと言っても混合魔術を教えられる。

教えることは案外多い。


夕方くらいまで魔術の授業をしたら、紋章の解除へと取り掛かる。

これがルーティンだ。

紋章の方もだいぶ薄れてきている。

もうじき外に出られるだろう。




―翌日―


バチンッ


紋章が取れた。


「取れましたよ。フィルティア」

「ほんと?」


彼女はそう言って紋章のあったところを確かめようとする。

見えているかは分からないが、その顔は驚いている。


「じゃあ、出ましょうか」

「………う…うん」

「……やっぱり怖いですか?」

「…うん」


まあ、そりゃそうか。

村の連中はこの子に死んで欲しいって思ってるやつがほとんどだしな。

今までずっと閉じ込められてたんだ。

コミュニケーションの仕方だって曖昧だろう。


「まあ、10年もここに閉じ込められてたんです。無理はしなくていいんですよ」

「…? 私、ここにいたの半年くらいだよ?」


おっと、意外と短いな。


「あれ? そうなんですか?」

「うん。お父さんとお母さんが私のこと隠してくれたから」

「そうなんですか」


いい親じゃないか。

何年も自分の子を守る親の愛情。

泣いてしまいそうだな。


「では外に行くのは明日とかにしましょう」

「うん」


明日でなくとも、別にいいんだけどな。

俺としてはこの子のそばに居れればいいのだから。



―翌日―


1歩外に出ることが出来た。



―翌日―


「フィルティア…大丈夫ですか?」


フィルティアはうずくまって泣きべそをかいている。


「ぐすっ…」

「別に無理に出なくていいんですよ?」

「ぐすっ……ううん…出れるもん」


今はこういっているが、外に出て人を見かけるとすぐに家に戻ってしまう。

本人が出たがっているのなら、何とかしてあげたいが…


「村の人達は怖いですか?」

「……うん」

「僕がついています。もしフィルティアを馬鹿にする奴がいたら、魔術でボコボコにしてやりますよ」

「…………」


そういうことじゃないらしい。

集団で忌避の目を向けられるんだ。

力がどうとかではないんだろう。



―1週間後―


エミリーとマオが見つかったようだ。


村長が報告してきてくれて、その後ろに2人がいた。


2人とも案外綺麗な状態だった。

もっと土とか草がついていると思ったが。

だが、その服は若干もつれているように感じる。


村長は報告が終わると直ぐに帰っていった。


「お久しぶりですね、2人とも」

「ああ」

「久しぶりね!」


2人はいつもと変わらないな。


「今までどうしてたんですか?」

「魔物を狩っていた」

「おお、凄いですね」

「当然よ!」


エミリーが胸を張って言ってくる。


「だがこいつは足でまといだった」

「!?」

「へー、そうなんですか」

「違うわよ! マオ、いてこますわよ!」


エミリーは言葉遣いが荒くなってないか?

いや、元々か。


そんなやり取りをフィルティアは俺の後ろでぼーっとして見ていた。


「その子は?」


フィルティアに気がついたエミリーが聞いてくる。


「この子はフィルティア。この村についたときに知り合いました」


フィルティアを紹介するも、彼女は俺の背中にピトッとくっついて隠れてしまった。


その仕草が実にかわいらしい。


だが、それを見たエミリーが眉をひそめた。


「ちょっと! 何してんのよ!」


俺の背に隠れたフィルティアに向かって言い放つ。


フィルティアはビクッとして、さらに俺の背中に隠れた。


「エミリー、この子は繊細なんです。優しく接してあげてください」

「ふんっ」


そっぽを向いた。

その仕草も懐かしく感じられる。


「じゃあ、帰るわよ!」

「……?」


エミリーが手を差し伸べてくる。


ああ、そうか。

俺は帰るのか。


「ああ……そうですね」


俺は歩みを進めようとする。

が、動かない。

何かにがっしりと掴まれているのだ。


後ろを振り向くと、フィルティアが震える手で俺の服を掴んでいた。


「…フィルティア?」

「…やだ」

「……ですが┈┈┈┈┈┈」

「┈┈┈┈┈┈やだ!」


今まで聞いた事のないフィルティアの大声。

男たちに襲われてる時だってこんな声は出ていなかった。


ポタポタと涙が零れる。

彼女は俺にどうしても行ってほしくないらしい。


「「 …………… 」」


2人も察してくれたようだ。

なんだか申し訳なさそうにしている。


「2人とも、帰るのを延期にしてもらってもいいですか?」

「ああ、構わん」

「……ええ、わかったわ」

「ありがとうございます」


2人に礼を言う。


「ところで、シャルの家ってどこよ」

「ここです」


俺は後ろの家を指さす。


「………」


何かを察したのか、エミリーが疑いの目で見てくる。


「………そのフィルティアって子の家はどこなのよ」

「ここです」


全く同じ動作で示す。


「 っ!? 私もここで泊まるわ!」




そんなこんなで、俺は帰るのを延期にした。




―翌日―


エミリー、マオ、フィルティアと一緒に授業をすることにした。


今はみんなで、水と火の混合魔術をやらせている。

要するに、お湯を作り出させているわけだ。


「……難しいわね」

「シャル、できん」


2人は混合魔術に四苦八苦しているようだ。

だが…


「できた!」


フィルティアは出来たようだ。


「「 !? 」」

「さすがフィルティアですね」

「「 ………… 」」


2人はなんだか悔しそうだな。

授業回数でいうなら2人の方が多いのに、すぐい抜かされたのだ。

当然だろう。


「フィルティア、2人にコツを教えてあげてください」

「えっ…」


フィルティアが驚いた顔をする。


なんだか、フィルティアは2人と気まずそうにしている節がある。

話しかける時はいつも俺にだし、エミリーとマオもそんなにフィルティアに声を掛けない。

先生として生徒たちのコミュニケーションは重要だ。

それに、教えるのも勉強になるしな。


「えっと……その…」


フィルティアがモジモジする。


「……教えなさいよ」

「うむ、頼む」


エミリーはツンデレみたいな頼み方をしている。

マオはいつも通りだ。




1週間が経過した。


フィルティアはまだ外に出れないが、別にいいだろう。

コミュニケーションを取りたくないとは思っていないのだから、それでいい。

俺たちとは出来ているのだから、問題はないだろう。

実際、俺たち4人で外に出た時は橋だって渡れたのだ。


「シャル」

「なんですか? エミリー」


エミリーがなんだかバツの悪そうな顔で話しかけてくる。


「えっと…そろそろ……帰らないかしら?」


バシッ


それを聞いたフィルティアが俺に抱きついてくる。

座っている状態から抱きついてきたため、腰の辺りに抱きついている。


そんなに心配しなくてもどこにも行かないよ、マイハニー。

全く、モテる男は辛いぜ。


「……フィルティア?」

「やだ」


エミリーが呼びかけるが、フィルティアが即座に拒否する。


エミリー相手にこんな受け答えができるのだ。

フィルティアもだんだん馴染んできたように思える。


そんなやり取りを見ていると、身長差のほとんどない2人だが、姉妹のように見えてくる。

わがままを言う妹と、それに頭を悩ませる姉。


すると、エミリーが静かに近づいてきた。

耳まで赤くして、俯いている。


顔を見られないようにしているようだ。

そして、ゆっくりと俺の背中に手を回して…


ぽふっ


抱きついてきた。


なんと、両方とも妹ちゃんでしたか!

全く、モテる男はほんとに辛いですな!

ハッハッハっ!


「あの……エミリーさん?」

「……フィルティアばっかりずるいわよ」


これは完全に『ほの字』ってやつですね。

押したら倒れそうです。

これはもう念願の童貞卒業も叶ったようなものではなかろうか。




1週間が経った。


村長たちが『祓うのはまだか』と急かしてくるが、全部追い払っている。

何せ俺は40年間、家から金を巻き上げてくる会社員から家を守っていたのだ。

ちょっとやそっとじゃ、俺を説得できると思わんで欲しい。


そんな我が家では相変わらず声が響いていた。


「帰るわよ!」

「やだ!」


エミリーが俺を引っ張って、フィルティアがそうはさせないと俺に抱きついている。


「マオ! あんたからも言ってやって!」

「私はどっちでもいい」


マオはずっと魔術の練習をしている。


うんうん。

熱心で何よりだ。

俺は俺で、このハーレム状態を満喫している。


「シャル! あんたもいい加減帰るわよ!」

「……やだ」


エミリーがキッと睨んでくる。


やべ。

これ結構ガチなやつだ。


「別にいいじゃないですか、いっその事ここで暮らしましょう」

「なにバカ言ってんのよ!」


結構真面目に答えたのだが、拒否されてしまった。

一体何が不満なんだか…


「……では、もう少ししたら帰りましょう」

「本当でしょうね?」

「ええ」


俺たちのそんなやり取りを見て、フィルティアが抱きつきながら潤んだ上目遣いで俺を見てくる。


「……帰っちゃうの?」

「帰らないよ、ずっと一緒さ。フィルティア」


びちゃあん!


思いっきり水をぶっかけられた。




―翌日―


俺は画期的なアイデアを思いついた。

フィルティアも王城で一緒に住めばよいのではなかろうか。


早速、その事を3人に話す。


「フィルティアも一緒に王宮に来ればいいと思うんですが、どうでしょうか」

「構わん」

「なんであんたが返事してんのよ。まあ……………私はいいわよ」

「フィルティアは?」


彼女は先程からモジモジしている。

口を開いて何かを言うと思ったら、諦めるようにすぐに閉じてしまう。


「…どうしました?」

「………えっと…私なんかが王宮なんて…」

「別にいいわよ」

「じゃ……じゃあ、お願い……します…」




こうして、生徒がまた1人増えたのであった。



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