可愛い子たちとお出かけ ー訣別の儀ー
彼女たち(エミリー、マオセロット、フィルティア)と別れるまで、残り『4』
今日はフォウとリオンとの3人でお出かけだ。
弟と妹。
俺の求めた理想郷がここにある。
俺の準備は整い、今はリオンを起こしに行っている。
コンコン
念の為ノックをし、扉を開ける。
部屋に入り、ベッドの上を見ると、予想通りの状態だ。
おねんね中だ。
「リオーン、朝だぞー」
肩を揺らしながら、喋りかける。
「んん…」
瞼を閉じながら返事をし、寝返りを打つ妹。
まだお眠のようだ。
「だめだよお兄ちゃん……私たち…兄妹なんだから…」
そう言いながら、寝巻きをはだけさせるリオン。
全く、イタズラ好きな妹だ。
「じゃ、俺だけフォウと仲良くしてくるから」
「ちょっ! 待ってよ!」
「おはようリオン。さ、出かけるぞ」
「ひどいよお兄ちゃんっ!」
今日もリオンは元気だ。
一緒に住めれたら、どんなに楽しいだろう。
「フォウ君はもう起きてる?」
半身だけ起き上がり、胸元の開いた格好で問いかけてくる。
「まだ寝てるんじゃないかな、一緒に起こしいくか?」
「うんっ」
ということで、フォウの部屋に着いた。
コンコン
念の為ノックをし、扉を開ける。
リオンの部屋と変わらない家具の配置に、ベッドの上で寝ている弟。
ベッドの脇に移動し、立ち止まる。
「さて、どうやって起こそうか」
「どうしようね」
何か面白い起こし方はないだろうか。
リオンと頭を悩ませ、寝顔を観察する。
「綺麗だな…」
「そうだね…」
この整った顔をもつ弟に『お兄ちゃん』なんて呼ばれたらどうしよう。
悶絶は必至だろう。
失神せずにいられるだろうか?
多分、無理だろうな。
失禁しないように心の準備をする他ないか。
「マッサージはどう?」
リオンが提案をしてくれる。
マッサージか。
いまいち、フォウが良い反応を見せてくれるとは思えないが。
「ふむ」
顎に手を当て、考える。
マッサージとはこれ即ち、体に触れる行為である。
適度なスキンシップを可能とし、心と体の距離を縮めるものなり。
「リオン、天才だな」
「お兄ちゃんもよくやるでしょ」
「まあな」
リオンにマッサージをした覚えは無いが、お出かけから帰ったらしてやろう。
「よし、やるか」
「うんっ」
リオンと俺は2人でベッドに上がり込み、フォウの右手と左手を塞ぐ。
そして、マッサージをする。
モミモミ
モミモミ
「んん…」
やがて、フォウの意識が戻り始める。
ゆっくりと瞼が開かれ、違和感のする方に目を向ける。
そして、俺たちと目が合った。
「……なに…してるんですか…?」
「「 マッサージ 」」
「なんで…?」
まだ寝ぼけた様子で問いかけられる。
そういえば、理由は何だっけか?
起こしたい?
触りたい?
リオンと目を合わせ、お互いに首を傾げる。
「「 さあ? 」」
「…………」
未だ眠そうに瞬きをしながら、俺たちの奉仕を受け入れるフォウ。
「フォウ、準備しなきゃだぞ」
そのまま眠りに落ちてしまいそうだったので、声をかける。
「んん…? このまま出かけますよ」
まっ!
この子ったら寝起きの顔で外に出るつもり?
そんなのお兄ちゃんが許しません。
「駄目だぞ、そんなんじゃ彼女できた時どうするんだ?」
もちろん、彼女なんて作らせる気は無い。
うちの弟に手を出そうものなら、俺が追い払ってやる。
「…………彼女を作る予定はありません…」
まーたそんなこと言って!
「駄目です、お風呂湧いてるから入ってきなさい」
「…分かりました」
フォウは起き上がり、『では…』と言い残し、トボトボと風呂に入りに行った。
俺も昔はエチケットとかを気にしたことは無かったが、今となってはしなければ落ち着かないようになっている。
好きな人の前で無節操な真似は出来ないからな。
さて、フォウが準備している間、時間ができた。
ジェフたちに聞きたいことがあったから、それでも聞いてこよう。
何処にいるか分からないため、家中の部屋に聞き耳を立て、お取り込み中ではないかを確認する。
と、2人の話し声が聞こえる部屋を見つけた。
コンコンコン
念の為ノックをし、入る。
「ん、おはよう、シャル」
「おはようっ、シャル」
「おはようございます。父様、母様」
2人はいつものように体を寄せあい、お互いを温めあっている。
今日もラブラブだ。
「今日はどうしたんだい?」
ジェフがロウネを抱きながら問いかける。
「用が無いと親に会ってはいけないんですか?」
「あらっ!」
まあ、用はあるのだが。
「嬉しいこと言うじゃないか。それで、今日はフォウと出かけるようだね」
「はい、弟と仲良くなってきます」
「……手が早いじゃないか、シャル」
ジェフは見るからに悔しそうだ。
やはり、最も慕われる存在はお兄ちゃんなのだよ、ジェフ。
男同士だし、楽園にだって入れる。
リオンも後々誘ってみたいが、それはまた今度だ。
「それで、少し聞きたいことがあるのですが」
「うん」
「まだ弟か妹っているんでしょうか?」
「いないよ」
あれ?
はぐらかされると思ったが、案外あっさり答えてくれた。
ジェフはロウネを更に抱き寄せ、夫婦のスキンシップを見せつけてくる。
そして、口を開いた。
「また出来るかもしれないけどね」
ロウネの腹を撫でながら言ってのける。
この男はどこまで性欲が高いのだろう。
「もうっ…シャルが見てるわよ…?」
「………ロウネ…」
2人が見つめ合い、唇を重ねる。
子供が見ている前でそういうのはどうかと思う。
「可愛いよ、ロウネ」
ロウネの顔がポッと赤くなり、ジェフの首に腕を回す。
「ジェフ…」
「……いいのかい? シャルが見ているよ?」
「もうっ…分かってるくせに…」
俺はそっと扉を閉じ、フォウの支度が終わるのを待った。
ー
フォウの支度が終わり、3人で街に赴く。
俺とフォウは執事服で、リオンがメイド服だ。
大通りへと出て、フォウが見るからに驚いた顔をしている。
多くの人が歩き、露天からは活気が溢れ、俺としても居心地がいい場所だ。
「人すごいよねっ」
「はい…すごいです…」
大通りを歩き、露天を見て回る。
「フォウ君は服とか好き?」
「あんまりです」
「そう? 私が服選んでもいい?」
「はい、お願いします」
双子同士の微笑ましい会話が聞こえる。
俺はその声を聞きながら、ただ歩いている。
和む散歩だ。
「お兄ちゃん?」
「ふぇっ?」
と、急にリオンから声をかけられ、素っ頓狂な声が出る。
「聞いてる?」
何を?
「聞いてる聞いてる。あれのことだろ? ほらあれ」
「そう、フォウ君の口調のことでね」
ああ、やっぱりそれか。
「フォウ君には気楽に話しかけてほしいんだよ」
「あぁ」
確かに、フォウはいつも敬語だな。
それに対して距離感を感じない訳でもない。
俺も出来れば気軽に話しかけてもらいたいものだ。
「んん…失礼じゃないですか?」
「そんなことないぞ、俺だって父様とか母様に敬語使わない時あるぞ?」
使ったことはないが、フォウと仲良くなるための嘘だ。
誰も損はしない。
「そうなんですか? なら…考えときます…」
「今から練習したらどうだ?」
「んん…」
困り顔も様になっているな。
眉毛が曲がった上目遣いはかなりいい。
こんな顔を見たら誰でもイチコロだろう。
何としても、俺がこの子を守らなければ。
「じゃ…じゃあ……あそこの小物屋…行きたい…」
「うんっ! 行こうっ!」
「行くか」
俺もリオンもニヤニヤしながら答える。
小物店に入り、売り物を物色する。
「お兄ちゃんっ、これかわいくないっ?」
リオンが持ってきたのは卵形のティーポット。
卵そっくりの表面には大小様々な民家らしき絵が描かれている。
「確かに可愛いな、リオンはお茶とか好きなのか?」
「うんっ! 自分でブレンドしてるんだっ」
それは初耳だ。
リオンは良いメイドさんになりそうだな。
「そりゃいいな。今度飲ませてくれないか?」
「もちろんっ!」
「やったぜ」
やったぜ。
と、フォウが何かを手に取り、キラキラした目でそれを見つめていた。
見ると、それは懐中時計だった。
金色の枠に、同色のチェーン。
男貴族たちが好んで持つアイテムだ。
「それ欲しいのか?」
「っ!」
俺が後ろから声をかけると、フォウはビクッとして、時計を自分の背に隠した。
「どうした?」
「い…いえ…」
背の裏を覗こうとしても、俺に見られないように背けてしまう。
なぜ隠そうとしているのか分からない。
「それ時計?」
「………うん」
「欲しい?」
「……うん」
「ん」
俺はティーポットの入ったバスケットを前に出す。
「……いいの?」
「いいの」
「変じゃ…ない…?」
「変じゃない」
「……でも俺…その……」
フォウも苦労しているな。
「フォウは男だろ? 格好いいじゃん、時計」
「……うん」
バスケットに懐中時計を入れた。
ー
帰宅した。
お土産と家用の果物も買った。
それをフォウとリオンを誘って一緒に食べようかと思い、廊下を歩いている。
「フォウ様、お話があります」
と、フォウの部屋の前でメグさんが扉に向かって語りかけている。
何かあったのだろうか。
「どうしたんですか?」
「坊っちゃま…」
彼女は俺に気がつくと、一礼した。
「それが……フォウ様が侍女修行にお出でになられてくれないのです…」
フォウが?
あの子も反抗期なのだろうか?
と思ったが、フォウは男だ。
侍女修行は出なくてもいいんじゃなかろうか。
だが、メグさんも考えあっての事だろう。
ここはお兄ちゃんの俺が何とかするか。
「大丈夫です、僕が何とかしてきます」
「宜しいのでしょうか…?」
「お兄ちゃんなので」
「……頼もしくなられましたね」
微笑むメグさん。
この人は糞を漏らしてた時代の俺を知ってるからな。
そこから成長しなかったら逆に凄い。
「では」
「はい、いってらっしゃいませ」
ノックをせずに扉を開ける。
広い部屋、大きなベッドにポツンと座る子がひとり。
フォウがムスッとした顔でそこにいた。
「フォウ、これ一緒に食べよ」
「……うん」
果物を入れたバスケットを隔て、フォウの隣に座る。
「……お兄様も修行に出ろって言うの?」
話すフォウは不機嫌そうで、叱れ慣れしていそうな物言いだ。
「まさか、フォウの好きな事をしなさい」
俺がそう言うと、フォウは目を丸くした。
「……いいの?」
「そりゃあな、俺はフォウがやりたい事をして欲しい」
「でも……変じゃない…?」
フォウの意見が右往左往している。
なりたい自分と周りの求める自分が違う所為だろう。
俺はフォウに自由に生きて欲しい。
前世の俺には出来なかったことだ。
「フォウは男だ。なら、執事としての修行を積む方が合ってる、絶対な。それで周りから咎められることもあると思う。だが、周りの意見に流されながら生きて、いつか死ぬ時が来たら後悔するんだ。『なんでもっと自分らしく生きなかったんだろう』ってな」
少なくとも、俺はそうだった。
自分でどうにでもなる環境にいながら、何もしなかった。
『何であの時』、『何でもっと』
そんなことを思って死んでいくのは辛かった。
愛しの弟にそんな思いをして死んで欲しくない。
「お兄様って……すごいね…」
「若いのにこの話を理解できるフォウの方が凄いよ」
俺は40歳でようやく気づいたからな。
「じゃ、話は終わり。それは適当に食べといてくれ」
「うん」
俺はベッドから立ち上がり、硬くなった腰を伸ばす。
「お兄様」
そのまま扉に向かおうとしたら、フォウに止められた。
「どうした?」
「あの……」
目を忙しなく動かし、言い淀むフォウ。
「……兄さんって……呼んでいい…?」
…………。
「もちろん。お兄ちゃんでもいいんだぞ?」
「それは……また今度で…」
こうして、フォウとの距離が縮まった。
ー
リオンの部屋にも行ってこよう。
ついでに自慢話も。
フォウに兄さんって……
兄さんって……
ひゃっほおぉおおおおい!
コンコンコーン!
扉ガチャ!
「リオーン、これ食べよー!」
「んーっ」
リオンは飲み物を口にしていた。
口が離されたそのカップからは湯気が立ち、まだ入れたばかりのようだ。
「それって今日話してたやつか?」
「うん、お兄ちゃんも飲む?」
「是非」
リオンの隣にバスケットを隔てて座り、カップを貰う。
ティーポットは今日買ったやつを使っている。
注いでもらい、匂いを嗅ぐ。
「いい匂いだな」
「でしょ?」
どこかで嗅いだことのある香りだ。
鼻に爽やかさが通り、目を閉じると花園が容易に想像できる。
これをリオンが自分で作ったのだ。
我が妹ながら、流石と言ったところか。
一口飲む。
「味もいいな」
「どーもっ」
いい香りが喉を通り、ほっと息をつく。
こんな時はゆっくり話したくなる。
「俺、フォウに『兄さん』って呼ばれるようになった」
「えっ?!」
リオンの素っ頓狂な声。
「すまんな」
「………でもお兄ちゃんは明日には帰っちゃうんでしょ?」
「ぐっ…!」
そこを突かれると弱い。
いっその事、彼女たちを家に住まわせたら良いのではなかろうか。
妹も弟もいるし、楽園そのものだろう。
フォウの話題を中心に語り合い、もう寝る時間になってしまった。
「もうおやすみの時間だな」
「早いね」
「ほんと」
「一緒に寝よっ」
「うん」
今日もリオンと添い寝ができる。
できればフォウも混じえたかったが、あの子とはまだ早いだろう。
もっと時間をかけてから誘うか。
リオンと横になる。
「おやすみ」
「お兄ちゃん」
おやすみの代わりにお兄ちゃん呼びが飛んでくる。
「んー?」
「おやすみのチューは?」
何と。
そんな儀式をしてもよろしいと?
全く、うちの妹は可愛いな。
俺はリオンの肩に手を置き、彼女の額に近づく。
そして、唇をつけた。
「……っ!」
と、リオンは驚いた顔で、自分の額を両手で抑えた。
そういう反応をされると、少し悲しくなる。
「すまん、嫌だったか?」
「いや…………違くて……ほんとにするとは…」
見ると、薄暗い中でもリオンの顔が赤くなっているのが分かる。
その姿にドキッとしてしまう俺がいる。
もしかして、妹が俺に……とかも有り得るのだろうか?
いや、もしそうだとしても、俺はそれに応えられない。
どうしてもと言うなら……
いやいや、駄目だな。
「じゃあ、おやすみ」
「うん…おやすみ…」
今日はそのまま眠りについた。
リオンのオリジナル茶
ロウネの特殊魔術で作られたお茶を飲んでから、同じものを作れるように励んだ。
初めてロウネ茶の匂いを嗅いだ感想は『お母さんの匂いがする』。
味の感想は『お母さんの味がする』。
『優しい雰囲気』と言いたいらしい。
その雰囲気に近づくまでに数多の失敗があり、その期間はリオンとメグさん、ジェフとロウネのお腹がチャプチャプになっている。
ジェフ曰く『ロウネもこういうの好きだったよね』
ロウネ曰く『ジェフ、私のとリオンの……どっちが好き…?』




