新しい家族 ー私の家族に…ー
俺にはもうひとり家族がいるらしい。
少し気になることがあるが、とりあえずは実家に向かうことにする。
彼女たち3人はついてきていない。
ロウネ自ら断ったのだ。
何でも受け入れるようなロウネにとっては珍しい。
家に着くと、ジェフが待っていた。
「やあシャル」
「どうも、父様」
この前ぶりのジェフだ。
「お兄ちゃんっ!」
「リオンっ!」
脇にはリオンが今日も元気にしている。
我が妹はやっぱり可愛いな。
ロウネはジェフを見ると、そそくさに腕の中に入っていった。
相変わらず、仲が良いらしい。
「シャル、今回は予め伝えておくことがある」
ジェフが真剣な面持ちで俺を見据える。
珍しい表情に俺も身構える。
「分かりました」
「うん。では、ついて来てくれ」
連れてこられたのはこの家に多くある部屋の内のひとつ。
ソファが机を跨いで2つ用意されており、調度品などは他の部屋と比べて少ない。
だが、置かれているものはどれも一級品のものだ。
片方のソファに俺とリオンが座り、向かい合った方に座ったのがジェフとロウネ。
初めてやる家族会議だ。
吉報って雰囲気ではなさそうだが、少し楽しみではある。
「シャル、リオン」
ジェフは前屈みで腕を組み、俺たちの名前を呼ぶ。
改まった話だ。
俺も姿勢を整える。
「あの子に会ったら、少し驚くかもしれない」
声はいつも通りの優しい雰囲気だ。
『驚く』とは、どういう意味だろうか。
障害があるとかだろうか。
もしそうでも構わないが、リオンはどうだろう。
この年齢で自分と違う人が受け入れられるかは分からない。
ジェフも俺と同じことを思っての行動かもしれないな。
「それでも会いたいかい?」
「もちろんです」
「はい」
リオンも直ぐに返事ができた。
ならば、どんな姿でも受け入れられそうだ。
「ならよかった」
ジェフはそう言って、いつも通りの笑顔を浮かべた。
「それで、これだけは聞こうと思う」
ジェフは隣に座るロウネの腹に手を置き、擦る。
「妹と弟、どっちがいい?」
いつもの質問だ。
もっと重い話がされると思ったが、微笑ましいものだ。
俺としては、既にリオンがいるから弟に会ってみたい気もする。
だが、リオンを見ると、妹というのが如何に素晴らしく、尊く、可愛い存在であるのかが分かる。
それを考えると、次女というのもいい。
だが、弟も可愛い存在であるかもしれない。
一緒にキャッチボールして、「兄ちゃん!」なんて呼ばれたりして…
うむ。
どちらも幸せだな。
「お兄ちゃんはどっちがいい?」
「どちらも魅力的だな。リオンはどっちがいいんだ?」
「私もどっちもいいかな。どっちでもお兄ちゃんと可愛がるよ」
『可愛がる』……か。
リオンも遂にお姉ちゃんか…
ずっと可愛い妹と思っていたんだが、将来的にはしっかりしたお姉ちゃんになるのだろうか。
少し寂しくはある。
「じゃあ、隣の部屋にいるから、話してくるといいよ」
「はい。リオン、行くか」
「うん」
と、その前に聞きたいことがあった。
「父様、その子って何歳なんですか?」
今まで気になっていた事を尋ねる。
この国の貴族の習わしは10歳になってから弟妹を明かす。
リオンはまだ9歳だから、今から合う子は8歳とかそこらだろうか。
うちの親は我慢ができない体質らしい。
「9歳だよ」
そう思ったが、ちょっとは我慢できていたらしい…
…………9歳?
リオンと同じ?
ありぇ?
「双子ですか?」
「そうだよ。驚いた?」
お前っ……マジでバコォンいってやろうか?
ヴァコォンって。
「お父様! 私聞いてないです!」
リオンが驚くのも無理はない。
何せ、自分と同じ遺伝子を持つ姉弟を隠されていたのだから。
「そうですよ。リオンと一緒に紹介してもよかったのでは?」
「それも考えたよ。でも、ロウネが『その方が驚くから』と言ってね」
「あっ! ジェフ卑怯よ! その後ニヤニヤしながら『やろっかっ』って言ったのは誰かしらっ!」
「さぁてねぇぇ、ぼかぁ何も覚えてなァいけどなぁ」
「ジェフぅ!」
2人のイチャつきが始まり、これ以上聞けることは無さそうだ。
扉を開けて、隣の部屋へと向かうことにする。
緊張の対面だ。
ー10分後ー
「リオン、開けていいぞ」
「お兄ちゃん、開けていいよ」
俺たちは扉の前で開扉の押し付け合いをしていた。
改まって会うとなると、とても緊張してくる。
「なんでだ? 俺は美味しいところをリオンに譲ってやろうとだな」
「お兄ちゃんこそ、私がおいしいところ譲ってあげようとしてるのになんで?」
「いやいや、リオンと初めて会った時は俺から出向いただろ? なら今度はリオンの番じゃないかな?」
「あれは私がドアを開けたんだからお兄ちゃんは待ってただけでしょ? 今度はお兄ちゃんの番だよ」
ふむ。
9歳のくせになかなか口が回るじゃないか。
流石は我が妹。
だか、まだまだ甘い。
俺は生きてきた歴が違う。
今からその真髄を見せてやろう。
俺は『右腕』を左腕で抑え、呪いの力を封じ込める。
「ぐはぁっ! 腕が痛てぇ! これはリオンが開けてくれないと治らない気がするぅっ!」
「あっ! お兄ちゃんそういうことするんだ! なら意地でも開けないからね!」
なにっ?!
ここまでして開けてくれないだと?
なんという頑固者。
なんという執念。
「なら、せーので開けよう。それなら大丈夫だろ?」
「………ずるしない?」
「しないよ」
2人でドアノブに手をかける。
リオンが下で、俺がその上に被せる。
「じゃあ……いくよ…?」
「ああ…」
手に力がこもり、ドアノブに意識が向けられる。
そして…
「「 せー……の ┈┈┈┈」」
「┈┈┈┈ぐはぁっ! 腕があああ!」
「ほらやっぱりずるした!」
なにっ?!
リオンはここまでしても開けてくれなかった。
リオンめ。
なかなか聡いやつじゃないか。
コンコン
扉を叩く音がした。
どうやら、内側から叩かれたようだ。
リオンと顔を見合わせ、少し騒ぎすぎたと反省する。
リオンと一緒に扉を開ける。
緊張のためか、妙にゆっくりと開かれる扉の先に目を向ける。
目の前にはリオンと同じくらいの身長をもつ子がいる。
その子は腕を組み、鋭い目つきこちらを見つめている。
これが俺の…
「お初にお目にかかります。お兄様、お姉様」
執事服を着た『妹』がそこにいた。




