再開 ー再開ー
授業が終わり、自室で息子を落ち着かせた。
参考資料を集めに書庫へと向かうのが俺の日課となっている。
今日も今日とて、そちらに向かう。
扉を開け、歩みを進める。
ぴしゃぁん!
と、頭からお湯を浴びせられた。
理由は分からない。
だが、誰がやったのかは分かる。
「シャル! 引っかかったわね!」
最近、なりを潜めていた悪戯エミリーが姿を現した。
ぴしゃぁん!
「エミリーも、やり返されるのは変わりませんね」
俺もエミリーに頭からお湯を被せた。
俺は全身を濡らされたが、エミリーには頭だけを濡らした。
「濡れちゃいましたね。中、入ってください」
「ええ」
イタズラの追い打ちも無く、素直に部屋に入ってくる。
やけにサッパリしたイタズラだったが、急にしたくなったのだろうか。
お互い床に胡座をかいて座る。
混合魔術で温かくした風を送り、ドライヤー代わりにする。
エミリーも温度が疎らだが、俺を乾かしてくれる。
……?
混合魔術といえば、エミリーは確か…
「エミリー、混合魔術使えるようになったんですね」
「…ええ」
気づけてよかった。
今日はきっと、それを言って欲しくてやってきたのだ。
全く、エミリーの照れ隠しも困ったものだ。
「頑張ってますね」
「……ええ」
俺もエミリーが頑張ってくれて嬉しい。
努力してる彼女も素敵だしな。
「悪いわね…こんなことして…」
罪悪感を感じていたのか、申し訳なさそうに謝ってくる。
エミリーと戯れるのは楽しいから、別にいいのだが。
「大丈夫ですよ。別に悪気があってやった訳じゃないんですよね?」
「………………そうね」
……………。
「あ! なんで風弱めるのよ!」
「わざと全身濡らしてくる人が悪いんですぅー」
エミリーめ、わざとやりやがったのか。
まあ、それだけエミリーと長く居られるからいいんだが。
乾かし終わり、日課を済ませようと思う。
「エミリー、僕は書庫に行きますけど、一緒に来ますか?」
エミリーが本を読んでいるところは見たことがないが、一応誘っておく。
「ええ、行くわ」
「ん」
エミリーとの読書デートが決まった。
楽しみだな。
ー
適当に本を何冊か持ち、読書部屋に入る。
中は温かみのある材質で作られており、厚く柔らかい椅子とソファ。
正に、集中するにはもってこいの雰囲気だ。
「シャルはここによく来るの?」
「ええ、授業の資料とか探してますね」
俺たち以外に人は居なく、静かな部屋に2人きり。
その状況に興奮しなくもないが、今はこの雰囲気を楽しみたい。
ふかふかの椅子に座り、本を開く。
「エミリーも読みますか?」
「ええ」
エミリーに本を渡し、静読する。
「………難しいわね」
「そうですね」
ここの本はどれも大きく、分厚い。
魔教本以外はほとんどが文字で書かれているし、大して面白いものでもない。
俺も昔は文字を見ただけで目眩がしたものだ。
「別の本もってきますよ」
ここに絵本とかはあったっけか。
「いいわよ、これ読むわ」
そう思ったのだが、エミリーはその分厚く、難しい本を読むつもりらしい。
難しいものにも挑戦し、努力するエミリー。
素敵だ。
俺も見習わなければ。
今日は早めに読書を切り上げて、エミリーと一緒に夕飯も食べた。
ー
翌日、それは唐突にやってきた。
いつものように授業が終わり、少し話をして解散という流れになる。
コンコンコン
この時間帯でノックがされるのは珍しい。
3人の目線が扉に向けられ、俺が出る。
「はい」
「シャルーー!」
「「「 !? 」」」
扉を開け、顔を覗かせた俺に抱きついてきた女性。
「母様?」
美しいドレスに身を包み、フワッといい匂いがするロウネだった。
「久しぶりねっ! シャル!」
「お久しぶりです。で、今度は何を伝えに来たんですか?」
前回のこともあり、俺は少々せっかちになってしまっている。
「もう…久しぶりに会った親子なのよ? もうちょっとゆっくり話しましょう?」
「それもそうです┈┈┈┈」
「┈┈┈┈お嬢様っ!」
と、今度はエミリーに抱きついていくロウネ。
久しぶりに話をするつもりが、俺の話を遮られた。
相変わらず、天真爛漫な性格だ。
抱きつかれたエミリーは何をしたらよいか分からない顔をして、俺に顔を向けている。
「フィルティアちゃーんっ!」
今度はフィルに抱きついた。
「マオちゃーんっ!」
今度はマオに。
マオは平然としたまま、ロウネに耳を弄られている。
それはもうモミモミと。
「シャルの母か、久しぶりだな」
「あれ? 会ったことあったかしら?」
会ったことない人に抱きついたの?
「匂いで分かる」
「あぁ! ウォルの娘さん!」
「そうだ」
「あらぁ!」
マオの父親のことを話しているのだろうか。
うちの母とマオの父は顔見知りらしい。
昔の男とかだったらジェフに問い詰めてやろう。
楽しくなりそうだ。
5人で座り、話をする。
「それで、シャルはいい子にできてる? 迷惑かけてない?」
「大丈夫です…むしろ、私たちがお世話してもらってると言うか…」
現在、ロウネが俺たちの恋バナを問いただしている。
3人と付き合っていると伝えた覚えはないが、既にロウネはその事を知っていた。
いつかは伝えようと思っていたから、手間が省けて助かった。
「シャルはいい男だ」
「あらっ! シャル、随分とモテるわねっ!」
そういった話も聞きたくはあるが、俺としては早く別件のことを知りたい。
「3人が最高の女性ですからね。僕も頑張らないと」
「きゃーっ! でも全員ちゃんと愛さなきゃダメよ?」
「当たり前です。何があっても愛すのをやめません」
「きゃーっ!」
ロウネもこういった話が好きらしい。
いちいち身を捩らせては高い声を上げている。
俺も彼女たちへの想いを口にできて嬉しいが、早く本題を…
「……私もシャルのことずっと好きよ…?」
えっ!
嬉しっ!
エミリーは俺の目を見ながら、珍しくみんなの前で想いを述べてくれる。
「それでそれで?」
ロウネが身を乗り出して聞く。
俺も同じように身を乗り出していた。
「別に……あとは…」
「あとは? あとは?」
早く続きが聞きたい。
「っ! 早く本題を話してちょうだい!」
あ!
逃げた!
座りながら、赤い顔で仁王立ちの姿勢をしているエミリー。
俺としては早く続きが聞きたいのだが、まあそっちで妥協しよう。
「えー、マオちゃんとフィルティアちゃんはシャルの事どう思うの?」
確かに。
俺も気になる。
「超好きだ」
「ひゃーっ!」
ひゃーっ!
マオったら真っ直ぐに答えてくれた!
今すぐ抱いて欲しい感情が出てくる。
時間が空いたらマオの部屋にお邪魔しよう。
「フィルティアちゃんは?」
「ぇ……えっと………わた…しも……」
「も?」
「好き………です…」
「んもうっ!」
んもうっ!
かわええー!
今夜は重労働になりそうだな。
全く、うちの彼女はどれだけ俺を働かせる気なんだか。
「じゃ、ここに来た理由を話すわね」
お、遂にこの時が来たらしい。
ロウネは椅子に座り直し、腹を擦りながら俺を真っ直ぐに見つめる。
そして…
「シャル、妹か弟、どっちがいい?」




