大人エミリーと子供フィルティア ー大人になりましたねー
「二人とも起きて」
体を揺らされ、重い瞼を開ける。
声の源と、温かみを感じる方向を見る。
そこにはフィルとエミリーがいた。
フィルは俺たちを起こし、エミリーは俺の腕に軽く抱きついて寝ている。
ただの女神様だ。
「おはようございます…フィル…」
「うん、おはよう」
エミリーに抱きつかれている腕が温かい。
離そうとすると、外気に温度が逃げていってしまう。
それが寒くて、俺もエミリーに抱きつく。
「ちょっと…」
「もう少し…」
エミリーがまだ起きていないんだ。
このまま彼女の体温を感じていたい。
と、麗しいエミリーの顔を見ると、その頬がにやけている。
「エミリー、起きてたんですね」
「……起きてないわ」
嘘つきエミリー。
きっと、俺に抱きつかれたのが嬉しいのだろう。
ならば、彼女の喜ぶことをするのが紳士というもの。
さらに抱きつく。
「もう…」
フィルが困った声を出しているが、少しくらいのサービスは大丈夫だろう。
その分、フィルにも後でサービスしてあげなくては。
少しの時間が経ち…
「まだ…?」
「もう少し…」
少しの時間が経ち…
「……まだ…?」
「まだまだ」
少しの時間が…
「もうっ! そろそろ起きてよ!」
あ、怒った。
「フィルも一緒に寝ますか?」
「私は眠くないよ! エミリーも起きて!」
「……私は起きてないわ」
「エミリー!」
2人は仲がいいな。
俺も嬉しい。
だが、そろそろ起きないとフィルが拗ねてしまう。
それは紳士のやることではない。
「エミリー、そろそろ起きましょう」
俺はベッドから起き上がり、エミリーの肩をポンポンと叩く。
「んん…」
すると、未だ満足していなさそうな顔をしながら起き上がった。
「部屋まで送りますよ」
「いいわよ……それに…」
「…?」
エミリーがフィルを見る。
そして、何故かニヤッと笑った。
「フィルに悪いわ」
「 ?! 」
どうやら、エミリーもフィル呼びをしたいらしい。
うんうん。
仲がいいのは良いことだ。
「エミリー…」
「なに?」
フィルはエミリーの質問に答えるより先に俺の背中に隠れた。
そして、ひょこっと頭を出してエミリーを見る。
「…………へっ」
「なっ!」
フィルがエミリーを挑発する。
こんな光景は初めて見る。
フィルとエミリーの距離がいつの間にか縮まっていたようだ。
2人を宥めた。
「……それで、なんで急に呼び方なんて変えたのよ」
「ぇ……」
フィルがこちらを一瞥し、赤面する。
彼女から理由を説明するのは恥ずかしいのだろう。
ならば、俺から説明するのが優しさだろうが、どうにもその気が起きない。
頬が緩むばかりで、口が動かないのだ。
「シャル…」
助けて欲しそうな目を向けられる。
そんな顔をされたら俺も動かない訳にはいかないな。
「エミリー、『フィル』って名前は僕の名前に似てるからです」
「………」
「…?」
俺がそう言うと、エミリーは無言になり、部屋を出ようと扉に向かう。
その行動に何か異様なものを感じる。
「エミリー…どこ行くんですか?」
少し嫌な予感がする。
何かをしでかしてしまいそうな、そんな予感。
エミリーはこちらに振り向き、そして…
「ちょっとフィルの戸籍消してくるわ」
「なっ?!」
俺は驚きの声をあげる。
エミリーがそれを言うと洒落にならない。
なんたって、一国の王女様だ。
庶民のフィルの戸籍なんて私情で簡単に変えれてしまう。
流石に冗談だよな…?
だが、当のフィルが動揺していないのが気になる。
フィルの方を見ると、何故かまたニヤッとしていた。
「ぷぷーっ! 私の戸籍は故郷の精霊様が持っちゃっているのでしたっ! だからエミリーには無理だよぉ!」
俺の背中に隠れたままエミリーを煽る。
いつの間にこんな三下に成り下がったのだろう。
だが、それも仲が良くなった証なのだろうか。
煽られたエミリーは…
「……シャル、最後にちょっといいかしら…」
フィルを打ちやり、俺に話しかけてくる。
普段のエミリーなら拳が飛んできてもおかしくないのだが、大人になったものだ。
それにしても、エミリーとはこれでお別れになってしまうのか…
正直、まだ一緒にいたい。
横で寝てくれるだけでもいい。
声をかけてくれるだけでもいい。
一緒にえっちしてくれてもいい。
「はい、いいですよ」
どうせなら、最後はどデカいお願いをして欲しい。
えっちな事でもいいし、無茶な事だっていい。
エミリーの頼みなら何でも叶えてやりたい。
「……ん」
エミリーが手を差し出してきた。
握手の体勢で。
てっきり忠誠の誓いをして欲しいのかと思ったが、ただの握手のようだ。
少し拍子抜けだな。
エミリーと握手する。
すると、エミリーが俺の手の甲を自分に向けて、段々と顔に近づける。
そして…
手の甲にキスをされた。
「えっ…ちょっ…エミリー?!」
エミリーに忠誠の誓いをされた。
顔が熱い。
心臓の音がうるさい。
片手で口元を隠して、目を見開く。
やられる側はこんな気持ちなのか。
かなりドキドキするし、かなり嬉しい。
「じゃあ……おやすみ」
「えっ……ええ…おやすみ、なさい…」
エミリーの照れた顔。
閉められる扉。
名残惜しさが残る。
まだ寝る時間には早いが、今日はこの事で眠れそうにない。
今も胸がドキドキして、顔も赤い。
頬が緩むのを手で抑えて、未だエミリーの出ていった扉を見ている。
「シャル」
その言葉にハッとする。
今はフィルとの時間だ。
あまりにエミリーを気にしすぎてしまった。
「すみません…フィル…」
フィルが機嫌を損ねてしまったか心配になる。
「いいよ別に…シャルはこの後やさしくしてくれるもん…」
明らかにむくれているが、日頃の行いが良かったおかげだな。
だが、エミリーにドキドキしながら優しくなんてできるだろうか。
「はい、沢山サービスしますね」
「うん…」
俺はベッドにもたれ掛かり、フィルを抱いている。
細い体が胸に収まり、つい撫で回してやりたくなる。
この胸の鼓動は一体どちらのものなのだろう。
「シャルってさ…」
「はい」
「……私にしかしないことって…ある?」
フィルにしかしないこと?
直ぐには思いつかないな。
そもそも、3人にはなるべく平等に接したい。
たまに偏ってしまうのはノーカンだ。
「宝石ですかね」
最愛の意味をもつ宝石の授与。
3人それぞれ違うところと言えばこのくらいだろう。
それ以外は思いつかない。
「……それ以外で」
それ以外?
「ありませんね」
「じゃあ作って」
フィルも我儘に育ったものだ。
それにしても、フィルにしかやらないことか。
ううむ…
「何がいいですか?」
「…わかんない」
めんどくせっ。
ともかく、まだ彼女たちにやっていない事を探そう。
なでなで、マッサージ、求婚、えっち、添い寝…
ううむ…
「膝枕でもしますか」
「うん…」
フィルに回していた腕を解き、ベッドに2人で座る。
俺は正座をして、ポンポンと膝を促す。
「じゃあ…失礼します…」
フィルの頭が乗せられる。
尖った耳がちょうど太腿の間に入っているのが分かる。
「大丈夫? 重くない?」
「はい、大丈夫ですよ」
フィルの頭を撫でて答える。
彼女は横向きに寝ているため、突き出た耳が気になってしまう。
付け根を揉んで、その感覚を楽しむ。
「ごめんねシャル…めんどくさいこと言っちゃって…」
撫でられながらフィルが話す。
どうやら、自覚はあったらしい。
だが、別に気にすることではない。
「大丈夫です。フィルにお願いされるの嬉しいんですよ?」
本音だ。
フィルに頼まれるのは嬉しい。
面倒くさくてもそれが可愛いし、もっと好かれようと俺も頑張れる。
悪いことなどひとつも無い。
「………もうひとつ…言ってもいい…?」
「いいですよ」
次はどんなお願いをされるのだろう。
「今日は…一緒に寝てもいい…かな?」
……?
「最初からそのつもりですよ」
「……うん」
フィルはえっちだな。
先程の発言に恥ずかしがって、身を縮めている。
今日は早めに寝る準備をしよう。




