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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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初めまして ーいざ、冒険へー


挿絵(By みてみん)



エミリーとの1件から2週間が経過した。


俺はその間、いつ処刑されるかをビクビクと過ごしていた。

そして、いつものメイドさんが俺に話しかけてくる。


俺を殺しにやってきたのだろうか。


「シャル様、獣人の族長であるウォルテカ・ザニャール様がお会いしたいとのことです」


そう端的に述べた。


どういうことだろうか。

いくらなんでも、言葉足らずだろう。

理由もわからない。


「会いたいとは、何故ですか?」

「私にも分かりかねます…族長様はあまり多くを語りませんので…」


…まあ、そういうことなのだろう。

とにかく処刑じゃなければなんでもいい。




―廊下―

とはいったものの、獣族がなぜ俺に会いたいのだろうか。

獣族に会うのは初めてだが、ワクワクよりも不安が勝っている。

怒られでもされたらどうしよう。

まずは謝罪から入ろう。


そう思い、扉が開かれた。


場所はエミリーと初めてあったあの客間。

俺は流水の如く流れる動作で土下座のポーズをとろうとしたところ、肩をガシッと掴まれた。

そして…


「おお! 君がシャルか!」


掴んできたのは、がっしりとした体を持つ褐色の男獣人。

整った顔立ちをしていて、多分ベースは猫だ。

名前ザニャールだしな。


肩甲骨ぐらいまである銀髪の長い髪に、灰色の髪も混じっている。

その頭には、ピンッと立派に立つ猫耳があった。

飾りや作り物ではないのが、そのピクピクとした動きでわかる。


そして、その後ろには若干この男に似た格好いいよりの美少女。

髪は長さが腰まであるところ以外は同じだが、服装が違う。

白いシャツにフード付きのジャケットを肩を出して羽織っている。


フードに動物の毛を使っているやつなのが気になるところだ。


そして、ホットパンツを履いている。

長い靴下を履いているようだが、筋肉質で健康的な太ももが顕になっている。


こういう子は前世でもいたな。

正直言って、大好物だ。

今すぐにむしゃぶりつきたい。

が、とりあえず話を聞く。


「……本日はどう言ったご要件でしょうか」

「む、今日は君に折り入って頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」


俺がそう言うと、男が振り返って後ろの女の子を見る。


「実は前々から話は聞いていたんだ。エミリーお嬢様に勉強を教えている者がいるとな。それで見に行こうと思い、パーティーに出席したら君の演説を見てしまってな」

「ああ…お恥ずかしいところをお見せしました」

「いや、その逆だ。実に熱い演説だった」


ウォルテカが身を乗り出して言ってくる。


「そこで…だ。俺の娘にも勉学を教えてはくれぬか」


嫌です。


……はっきり言って、これ以上仕事が増えるのは勘弁してほしい。

エミリーだけでも手一杯なのだ。

なにせ、魔術をだんだん使えるようになって、イタズラの質が上がっているのだ。

その度に悔しそうな顔にしてやるが、2人同時はきつい。

この女の子がイタズラをしてくるとは限らないのだが。


まあでも、普通の生徒が増えるのはやぶさかでは無い。

だって、俺教えるの好きだし?

別に可愛い子の教師でエロいイベントが起きそうだなんて思ってない。

断じて、そんな不純なことは思ってない。


エミリーが授業中に寝ているのをいいことに、ちょっと胸を触ったりなんてしていないのだ。


「…まずは娘さんと話をしてからでもよろしいでしょうか?」

「うむ、そうしてくれ」


俺はそうして、女の子に座るよう促す。


「まずは初めまして。シャル・テラムンドです」

「ああ。マオセロット・ザニャールだ」


初対面での印象はクール。


「では、なぜ勉強をしたいか聞かせてください」

「私は言葉がわからん。困ったことはないが、親がうるさくてな」


…言葉がわからない?

通じているじゃないか。


「…もしかして、文字のことですか?」

「……そうだ」


マオセロットが頬をほんの少し赤らめて言った。


なるほど。

なかなか重症だ。


これは教え甲斐がありそうだな。


そう思えてきたのも、エミリーとの授業がなんだかんだ言って楽しいからか。


「分かりました。では今日からよろしくお願いします。マオセロットさん」

「さんは要らん。マオと呼べ。親もそう呼んでいる」

「はい。マオ」


俺たちは共に席を立って握手を交わす。



こうして、俺に生徒がもう1人出来たのだった。




甘かった。

そう。

甘かったのだ。

このマオセロットと言うやつ、エミリーの比じゃないくらい頭が残念だ。

言語学はなんとかなる。

だが、算術となると絶望的だ。


「3というのは、この状態を言います」


俺は机に小石を並べて説明していた。


「そして、そこからこの状態のことをなんと言いますか?」


3つ並べたところから2つの小石を取る。

すると…


「減ったな」


マオさんマジぱねえっす。


「…減りましたが、石は何個になりましたか?」

「………」


俺は1と書いてあるところに指をさす。

それでも頭の上にクエスチョンを浮かべるので、「1です」と小声で教える。


(いち)だ」

「正解です!」


茶番だ。

だが、困ったな。

この状態からだと、俺も何をしたら良いのかわからない。


算術は諦めるか?

いや、この程度の算術も教えられないようじゃ、他の教科でも上手く教えられないと認めているようなものだ。


根気強くやってみるしかない。


「……とりあえず、数字の名前を覚えましょうか」

「うむ」


様子を見ることにした。

すると…


「シャル! できたわよ!」

「お! では見してください」


エミリーに配っておいたプリントを採点する。


「お嬢様! 凄いじゃないですか! 9割採れてますよ!」

「ふふんっ」


エミリーが自慢げな表情をする。

エミリーは今、桁の変わる足し算引き算をさせている。


「マオにはこれを渡しておくので、空いた時間があったら覚えておいてください」

「ああ、わかった」


俺は数字とその名前が書いてある紙を渡す。

すると、エミリーがむっとした顔で見てくる。


「どうしましたお嬢様?」

「…あんたたち、いつから名前で呼びあってるのよ」

「初めて会った時からですが…」

「なんでよ!」


エミリーが怒る。

女の子とまともに喋ったのなんて、小学生が最後だったから、なんで怒ってるのかはわからない。

すると…


「私がそう呼べと言った」


マオが答える。

そして、エミリーはそれに返事はせずに、俺の方を頬を赤らめてチラチラと見てくる。


「じゃあ……私もエミリーって呼びなさいよ」

「…………」


なるほど。

これがデレというやつか。

こうして向けられると気分がいい。

頬がかなり緩んでしまう。

だが、俺は実年齢50歳を超える男。


この程度のことで表情を変えるほど若くない。


「なんでそんなにやけてんのよ」


やべ。

めちゃめちゃにやけてたみたいだ。


「嬉しくてついってやつです」

「それで…どうなのよ」

「はい、エミリー」

「……!」


なるべく爽やかに言ったつもりだが、正直自分がどんな顔をしているかわからない。

すると、エミリーが恥ずかしさからか、部屋を勢いよく出ていってしまった。


「…………」



ちょうど授業が終わった。




―その日の夜―


俺は廊下を歩いていた。

なぜか。

マオの部屋に行くためだ。

なぜか。

今まであの美味しそうな太ももに気を取られていたが、マオにはもう1つ。

いや、2つのたわわな実がある。


この世界の住人は前世よりも成長が早い。

やはり、危険が身近になれば、体の方も早く成長しなければならないのだろう。


体の成長は早いが、精神はどうだろか。

エミリーとマオを見ている限りでは、変わらないように見えるが…


しかし、今回はマオのぺぇが第1目標ではない。

第1ではないだけで、期待はしているが。

ぐへへ。


マオの部屋に着き、ノックをする。

中からの返事を聞いて、部屋に入る。


そこには上着を脱いで、薄着になったマオがベッドに座り、授業で渡した紙を眺めていた。


その無防備な姿は、俺ほどの精神力を持ち合わせていなかったら、俺のハンドガンがライトマシンガンになっていただろう。


「どうした?」

「今日は少し頼みたいことがありまして」

「なんだ?」

「実は……撫でさせてもらえないかと思いまして」


そう。

俺は今日、マオを撫でさせてもらいに来たのだ。

マオの猫耳はまがい物ではなくモノホンのやつだ。

そして、この毛量。

ならば撫でずにいては、俺の魂が腐ってしまう。


「撫でる? 何故だ」

「撫でたいからです」


俺は真っ直ぐ目を見て言う。

そこには確固たる意思が込められている。


「そうか…わかった」

「ありがとうございます!」


そう言って俺はマオの隣に座る。


ヒョイっとマオが頭を差し出してくる。

そして…


「「 ………… 」」


それはかなりサラサラで、少しひんやりしていて気持ちいい。


俺は前世で猫を飼っていたことがある。

可愛がっていたので撫でなれている。

猫みたいに舐めてもらいたいもんだが。


「どうだ?」

「すごく…気持ちいいです」

「そうか」


マオも目を細めて、気分が良さそうにしている。

耳を横に倒しているのが猫っぽい。



こうして俺は10分ほど撫で続けた。





―1週間後―


「シャル、授業に剣術はないのか?」


マオにそう聞かれたため、メイドに聞いてみることにした。


この世界には魔物と呼ばれる生物がいる。

それぞれ危険度に差はあるが、大抵は人に危害を加える。

剣術を習わないのは確かにおかしいな。


「なんで剣術は習わないんですか?」

「お嬢様が怪我をしたら大変です」


そう言われた。

まあ、お嬢様だもんな。

なら、マオには教えてもよいということだ。

時間を空けて剣術をしたいところだが、俺は剣を扱うなんてやったことがない。


教えてくれる人がいてくれたらいいんだが。




「ということで、雇われてはみませんか?」


俺はマオのお父さんこと、ウォルテカに頼んでみた。


「教えたいのはやまやまだが、ずっとは教えられないぞ?」

「はい。ここにいる間だけでよいので、お願いします」


俺は頭を下げる。


「うむ、わかった」



こうして、ウォルテカが俺たちの先生になった。



―剣術―


そこには、木剣の音が響き渡っていた。


「もっと相手をよく見ろ!」

「はい!」


俺は王宮の庭でウォルテカに稽古を付けられていた。


稽古では基礎中の基礎をする。


この体は運動神経がよいため、結構動ける。

もっとも、前世と比べてだが。


「がはあ!」


俺は3メートルほど吹っ飛ばされる。


「次!」


俺が吹っ飛ばされて、マオがウォルテカの前に向き合う。

そして、稽古を始める。



「…………すげぇ…」


その動きは常人の域を超えた戦いだと思った。

空中にマオが飛んだと思ったら、ウォルテカの攻撃が飛んでくる。

その力を利用して、マオが回転しながらウォルテカを蹴りつける。


俺ではたどり着けない領域にあると思った。


「よし、終了だ」


稽古が終わってバテバテだ。


水を魔術で出して、それを飲む。

コップは土魔法で作ったやつだ。

キンキンに冷えた水を飲む俺を見て、マオが羨ましそうに見てくる。


「はい、マオ」

「すまんな」


マオは受け取った水を勢いよく飲む。


「ふう」

「それにしてもマオは凄いですね。あんなの僕には出来そうもないですよ」

「産まれた時からやっていたからな」


当然とばかりにマオは言う。

エミリーが見たら、絶対に文句を言うだろな。

『私も混ぜなさいよ!』って。


「二人で何やってるの?」


と、そこにエミリーが来た。


「剣の稽古だ」

「……!? ずるい! 私も混ぜなさいよ!」


やっぱりだ。

俺もなるべくエミリーの希望に応えてやりたいが…


「でもエミリーは受けちゃいけないんじゃないですか?」

「どうしてよ!」

「怪我すると危ないからと言われましたが…」


そう言うと、エミリーは『もう!』と言ってどこかに行ってしまった。


俺もちょっと話をするべきかもしれない。





「と、いうことでエミリーお嬢様に剣術の稽古を受けさせてはくれないででしょうか」


俺はエミリーのお父さんこと、ユラーグに頼み込んでいた。


「うむ。そなたの言いたいことは分かる。だがエミリーが怪我をしたらどうする?」


当然の質問だ。

俺は用意していた答えを言う。


「治癒魔術で即座に治し、稽古の時は僕が注意していれば、転んで怪我をすることはありません」

「ふむ。だが剣を受けて怪我をすることはあるだろう。余はエミリーに怪我をして欲しくないのだ」

「当然のお考えだと思います。ですが、お嬢様も剣術を習いたいご様子。そして剣術は怪我をするものではなく、怪我をしないためのものであります。いざ襲われでもした時に護身の術がないのはお嬢様もご不安かと思います。」

「ふむ……………そうだな……わかった。剣術を学ばせることを許可しよう」

「ありがとうございます!」


よし。

とりあえず許可は出た。

これでエミリーも機嫌を直すだろう。




―翌日―


「エミリー、剣術の稽古をしましょう」


俺はエミリーに話しかける。


「え? いいの?!」

「はい、お父様の許可は得ました」


俺がそう言うと、エミリーは笑顔で飛び回った。


そんなに嬉しいだろうか。

このお嬢様は座って勉強するよりも、体を動かす方が好きそうだからな。


「ありがとう! シャル!」


お、おう…


やっぱり、笑顔のエミリーはかわいいな。





―1ヶ月後―


こんにちは。

シャルです。

現在僕は体育座りをして、エミリーお嬢様とマオお嬢様のお稽古を見学しています。


何か気に入らないことがあれば殴り掛かるだけだったエミリーが、なんということでしょう。

剣を交える彼女は自らの体を自由自在に操り、さながら野原を舞う蝶。

勝利への意志を感じさせる瞳に宿るものは彼女の純粋さを表します。


そして、マオ。

獣人である彼女から感じられるのは、強さ。

スラッとした体からは想像も出来ない剛力で相手を打ちます。

その2人の攻防はまさしく芸術。


俺は剣術を学ぶことを諦めていた…


「お前も動けているんだがな。二人が強すぎるんだ」


ウォルテカが慰めてくれる。

実際、俺はこの歳にしてはできる方だと思う。

最近、俺にもちょっとだけ筋肉がついてきた気がする。


マオとは無理だが、エミリーとならまだ打ち合える。

だが、エミリーはすぐに俺の行けない領域にたどり着くだろう。


―翌日―


今は算術の授業をしている。

マオは足し算に挑んでいる。

エミリーは掛け算である。


待っている時間は暇なので、俺は持ってきたジャーキーを食べながら本を読む。

すると、視線を感じた。


マオが俺の方をじっと見つめているのだ。

いや、俺ではなく肉を見つめている。

実際、ヨダレが垂れている。


「…欲しいですか?」

「うむ」


コクリと頷く。


「では、プリントが終わったらあげますよ」

「待てない」

「……」


確かに、集中が逸れているのはいけないことだ。

だが、ちょっと意地悪したくなる。

俺はゆっくりとジャーキーを彼女の口に近づけて、パクっといくところで手を引っ込めた。


「へへへ」


俺はニヒルな笑みを浮かべる。


「…………」


ガチな目で睨まれた。


「すいません」


俺は持っているジャーキーを全部あげた。




―その日の夜―


俺はマオの頭を撫でさせてもらいながら考えていた。


マオとエミリーは仲良くやっているのだろうか、と。


考えてみると、2人が話しているところはあまり見ない。

できれば仲良くしてほしいところだが。


「マオ」

「なんだ?」

「エミリーとはどんな感じなんですか?」

「良きライバルだ」


ライバル?

どういう意味だろうか。

俺を取り合って恋のライバルという意味だったら飛び上がるほど喜んで、2人とも食べちゃいたいところだ。


「ライバルですか?」

「ああ。あいつは私の肉を食べようとしたからな」


ああ、そういう意味か…

俺が今日あげたジャーキーのせいか。

確かに、取り合っていたな。

剣術ではマオが勝って、学力ではエミリーが勝っているから、ライバルと呼んでいるのだろう。


「1つくらい分ければいいじゃないですか」

「やらん」

「お肉なんていつでも取ってきてあげますから」

「本当か?!」


マオは肉のことになると少し取り乱す。

今度、肉をやる代わりに体を頂いてやろうか。


「仲良くできたらあげますよ」

「うむ、分かった」




―翌日―


エミリーとマオの様子を見る。

2人は黙々とプリントをやっている。

本当は2人で教えあったりして欲しいんだが、話す気配がない。


俺は肉を食べる。



―30分後―


まだ話さない。

一体らどうしたら仲良くしてくれるのだろうか。

わからない。


俺は肉を食べる。


―休憩時間―


「シャル、くれ」

「ん? ああ、これですか? はい」


俺はマオに肉を2つ渡す。

2人で分け合ってくれればと思ったが、マオは自分の席に着いて、1人で食べた。

エミリーの様子を見ると、こっちを睨んでくる。


どしたの、お嬢ちゃん。


「私にもよこしなさいよ!」


お嬢様も欲しいらしい。

このお年頃で食欲旺盛なのはいいことですな。

いっぱいお肉を食べて、上のお肉に蓄えるのじゃぞ。

将来が楽しみですな。

ぐへへ。


「はい、どうぞ」


みんなが黙々と食べる。

そして、いつぞやのことを思い出した。


「そうだエミリー。まだ僕たち冒険に出かけてないですね」

「……あれって大人になってからじゃないの?」


そう言いつつも、エミリーは期待の目を俺に向けてくる。


「冒険に行くのか?」


マオが聞いてくる。


「ええ。エミリーの誕生日の時に約束したんですよ」

「そうか…」


マオがちょっとだけ寂しそうにしている。

一緒に行きたそうな顔だ。

誘っても問題なかろう。

そう思ってエミリーを見ると、なぜか『ふふん』という顔をしていた。


「あんたはお留守番よ!」


どうやら、ハブる気らしい。

たかが肉1つでここまで仲が悪くなるものなのか。


「エミリー、そんなこと言っちゃダメですよ。マオ、もちろんあなたも連れていきます」

「ええ?!」

「当たり前じゃないですか。マオも同じ生徒なんですから。連れていかないと不公平です」

「……わかったわよ」


エミリーを納得させて、マオの方を見ると、今度はマオが『ふふん』といった顔をしていた。




―説得―


「というわけでして、エミリーお嬢様を少しの間冒険に出かけさせる許可を貰えないでしょうか」


俺はまたユラーグのところに来ていた。


「駄目だ」


今回は真っ向から否定される。


「理由を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「エミリーはまだ子供だ。旅行ならまだしも冒険となるとそなたらだけで行くつもりなのだろう? それでは戦力が心もとなすぎる。本来なら百の軍で臨まなければ安心できぬものをだ」

「しかしお嬢様は冒険に憧れを持っております。そして、魔物との戦闘経験も将来役に立つでしょう。あまり守られてばかりいては、民を守る王女になれるとは思えません」


そこで、俺はギロっと睨まれた。


「あまり図に乗るな。貴様は教師であり、エミリーの行動の決定権はお前にはない」

「…………」


そんなことは分かっている。

だが、やりたいことをやらせて貰えない苦しみを俺は十分に分かっている。


「……では、付き添いに騎士を連れていく旅行なら大丈夫なんですね?」

「ああ、それなら問題ない」



俺はそのまま部屋を出た。




―夜―


俺はこれまでの経過を話す。


「ということで、冒険は却下されました」


今は俺の部屋にマオとエミリーがいる。


「…そう」


エミリーが悲しげな声を出す。


「ですが、僕も引き下がる訳にはいきません」


2人が俺を見る。


「今回は騎士たちを連れての、いわば遠足のようなものです。それでは不完全燃焼に終わってしまいます。そこで、僕が途中で嵐を起こします。混乱に乗じて抜け出しちゃいましょう」

「……危ないわよ?」


エミリーが否定してくるが、その目は興奮している。


これは危険な旅になる。

国を離れれば、魔物だって出てくる。

一応、ここら辺の魔物は頭に入っている。

特別に危なそうなやつはいない。

だが、ここで実戦経験があるのはマオぐらいだ。

旅慣れない2人がいる状態で、安心は出来ないだろう。


だが、エミリーの希望は叶えてやりたいし、俺だって魔物と戦いたい。

これで王宮から追い出されたり、責任を取らされるようなら、相応の抵抗をさせてもらうことになる。


「あんな王様の言うことなんて聞いてるんですか? 無理やり前に立たせるような人ですよ?」


そう。

俺はあのおっさんのことを良くは思っていない。

ユラーグはエミリーの誕生日に演説を無理やりやらせたのだ。

ああなることは分かっていただろうに。


「お父様は演説を聞く前に倒れちゃうのよ」


あれ?

確かに、ユラーグは俺たちに話しかける時には既に潰れかけていた。


……そういうことだったか。


「申し訳ありません」

「いいのよ」

「……では冒険に出かけるのは賛成ですか?」

「ええ。やりましょう」


エミリーが決意の目を向けてくる。

マオは…


「肉が食えるな」


いつも通りだ。




―冒険当日―


俺たちは騎士たちを連れて、馬車に乗っている。

馬車を引いているのは立派な馬だ。


俺は外を見る。


うん。

やっぱりこうも人が大勢いると、綺麗な景色も台無しだな。

現在は総勢200人の騎士たちが護衛についている。

魔法使い、弓兵などもいる。



しばらくして、森に入る。

ここまでで、魔物の姿は1匹も見ていない。

普通は国を出たら遭遇するはずだが、俺たちが視認できない距離で騎士たちが討伐している。


「これじゃあ、ただ馬車に乗ってるだけね」


エミリーがつまんなそうに窓の縁に肘をかけ、頬杖をしながら言ってくる。


「肉が食えんな」


マオは相変わらずだ。


「そろそろにしましょう」


俺は嵐を起こすことを伝える。

俺は風、水属性を合わせて嵐を起こす。

それぞれの魔法を合わせて使う、混合魔術だ。


何級の魔術を使っているかは自分でも分からない。

ただ強い風と雨を想像してそれなりの魔力を送れば出来た。


何とか級の魔術と言っても何種類もある。

多分、この魔術も探せば名前があるだろう。

風属性は日頃から練習していたため、結構上達していた。


なぜ、風属性を練習していたのか。

メイドたちのスカートをめくるために決まっている。

エミリーとマオはスカートを履かないため、困っている。


魔術を発動させる。


天気が急に変わり、外の騎士たちがざわめき始める。


そして、嵐が吹き荒れる。


それはまさに災害。

あっという間に木々を倒し、雨で視界は妨げられ、人が軽々と空に持ち上がっていく。


この混乱に乗じて、俺たちは外に出る。

もちろんだが、嵐の効果範囲には俺たちも含まれている。

ましてや成人した男が飛ばされているのだから、俺たちは簡単に吹き飛ばされる。

だが、俺は風魔術である程度飛ぶ位置は操作できる。




この考えが甘かったのだと、後に気付かされる。




目が覚めたとき、俺は知らない天井を見た。


この感覚は久しぶりな気がする。


それは木製の家で、民家を連想させる。

ゆっくりと痛む体を起こすと、何故か「「おお」」という声が聞こえた。


目のピントが合うのを待たずして話しかけられる。


「精霊様…ご気分はいかがですか?」


話しかけて来たのは……いまいち分からん。

まだピントが合わないな。


「……ここはどこですか?」

「…ここは精霊殿でございます」


ピントがあって、話しかけてきたのが老婆だと分かる。

髪は薄緑色だ。


頭がぼんやりするな。

頭を打ったかもしれない。

俺が今いるのは、前世の教室程の大きさの場所。

そして、そこの教壇のようなところにいる。


「僕はなんでここにるんですか?」

「…? この村に祝福をお(あたえ)に来たのでは?」


当然といった素振りで老婆が答える。

俺はさっき精霊様と呼ばれたが、それに関係しているのだろうか。


それにしても、なんだよ精霊様って。

俺はそんなものにジョブチェンジした覚えはない。

今は美少女2人に囲まれるスーパーナイスガイ先生として生きているのだ。


「精霊様とはなんですか?」


どよめきが起こる。


…何かまずいことを言ったらしい。


「…すみません。記憶が曖昧なんです」

「…! 左様ですか、ならすぐにもてなしの準備を!」


何とか誤魔化せたようだ。


それはそうと、エミリーとマオはどこだ。

この様子だと、多分はぐれたな。

早く探しに行きたいが、今はこの人たちの話を聞いて、精霊様

ではないことを隠す。

たらし込むのだ。

そしたら、一緒に探させることをできるだろう。

今の俺は精霊様とやらに勘違いされているらしいからな。




話を聞いた。

どうやら、俺はこの村に訪れるとされる精霊様と偶然状況が被ってしまったようだ。

精霊様とやらは髪が美しい純白で、災いが起きた時に空から突然現れるらしい。


俺と丸々被ってる。

そして、最も重要なのがこの村の住人が森に暮らし、耳が長く発達して、弓が得意とされている種族。

つまり、長耳族(エルフ)であるということ。


長耳族(エルフ)

そう聞いただけで俺の弓が射出されてしまいそうになる。


「精霊様…どうかこの村をお救い下さい」


そんなことを考えていたら、村長が頼んでくる。

村長と言っても、さっきの老婆だ。


村を救う前にエミリーたちを探したいが、手っ取り早く終わることなら付き合ってやるか。


「救うってどうすればいいんですか?」

「村の災いの象徴である、あの忌み子を祓って頂きたいのです」


忌み子。

なんか訳ありそうだな

だが、1つ気になることがある。


「祓うってなんですか?」

「殺すことです」


さらっと言いやがった。

まあ魔物とかだったらやってやろう。


「では、案内してください」


村長は頭を下げると俺を案内する。




精霊殿を出ると、村の様子がよく分かる。

この村は全ての家がツリーハウスのように出来ている。

家から家に繋がるのは木製の橋。

この村全体のほとんどが木から作られている。


生活しているのは全員長耳族(エルフ)

その全員が先程の老婆よりも少し濃い緑の髪を持っている。


そして、案内されたのは他の家よりも大きく、他のものより豪華な家だ。

神社のような雰囲気を感じる。


中に入ってみると、精霊殿と間取りはほとんど一緒だ。

入ったのは、老婆と俺の他に弓を持った男女が数人ずつだ。

その中の1人の男が縄を持っているのが気になる。


そして、その中には1人の子供がいる。

髪は一瞬黒髪に見えるが、紫がかっている。

煌々と綺麗に光っていて、見蕩れてしまう。


長さは短い。

男の子ぐらいだ。

服装は魔女が着ていそうな、ダボダボの黒い服。

宅急便でもしていそうなやつだ。


その子は俺たちを見ると、『ひっ…!』と小さく声をあげた。

そして、その目線が俺へと向けられる。

その瞬間、白く、綺麗な顔がみるみるうちに青くなっていく。


「いやだ……やだ………やだぁ!」


そして、俺からなるべく遠くに逃げるように部屋の隅へと後ずさる。

足が竦んでいるのか、何度も床を擦りながら。


よっぽど怖いものを見た時の反応だ。

念の為、村長に聞いてみる。


「あの子が忌み子ですか?」

「はい」


そうか…

なら殺しはなしだ。

魔物だったり、40過ぎても親の金でのこのこ生きているおっさんだったら話は別だが。

あんないたいけな少女を殺せるわけがない。


「あの子を殺すのですか?」

「はい」

「あの子は何かこの村に災いをもたらしたんですか?」

「忌み子の存在が災いです」


存在が災い?

なら、この子は何もしていないということじゃないか。

俺はそういった短絡的な思考に怒りを感じる。

他の人間と違うと言うだけで迫害を受け、そして何もしていない子供をさもそれが正義であるかのように断罪する。


だから文化は嫌いなんだ。


「2人きりにしてください」

「…しかし」

「いいから」


村長たちは渋々と家を出た。

今はあの子と2人だけだ。


俺はそっと近づく。

あの子はなるべく自分を小さく見せようと、頭を抱えて丸くなっている。


「大丈夫ですか?」


なるべく優しく聞こえるように語りかける。


「ひっ」


ぶるぶると震えている。


俺は肩に優しく手を置く。

するとビクンっとして、今まで以上に震えが大きくなる。

俺はその手で安心させるように背中を撫でる。

マオにしているようにゆっくりと。



しばらくして、だんだん震えが治まってきた。

そして、腕の隙間からこちらを覗いてくる。


「大丈夫ですか?」


微笑を浮かべて問いかける。


「……私…を…殺しに…来たんじゃ……?」

「殺したりなんてしませんよ」

「じゃあ……何を?」

「ただ話に来ただけです」

「話……?」

「ええ。実は┄┄┄┄」



俺はこれまでの経緯を話した。

精霊と間違われ、今ここにいること。

仲間とはぐれてしまったこと。

仲間を探すのに村の人たちを協力させたいこと。


「私には…どうすることも…」


まあ、分かっていたことだ。

この子には村人をどうこうする力は無い。

あったらこんなところに閉じ込められたりしていないだろう。

では、何故俺がこの子と今話をしているのか。

答えはとても単純。

この子が美少女だからだ。


「はい。ですがあなたにも協力して欲しいんです」

「……私…に?」

「ええ。ここで大人しくしているだけでいいです」

「……?」



家を出て、外で待っていた村の人たちと話す。


「祓い終わりましたか?」


話しかけて来たのは30代ぐらいの男だ。

何故かこいつらもびくびくした様子だ。

忌み子がそんなに怖いのだろうか。

どっちが本当に怖いのかすら知らないくせに。


「あの子は僕が保護します」


はっきりと言う。

その瞬間大きなどよめきが起こる。


「?! どういうことですか?! 忌み子を保護など!」

「どうもこうもありません。罪のない子供を殺す方が悪と言うんです。精霊の僕が言うんだから間違いない」

「ですが!」


まだ言い寄ってくる。


「やめなさい」


村長が静かに、そして貫禄のある声でどよめきを沈めた。


「精霊様はまだ祓うには早いとご判断された。それに従わんか」

「…………はい」


少し違うが、助かった。


こうして俺が定期的にあの子を視察しに行くことで、祓うことが延期になった。



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