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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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ユノナキ 対 カップル ー酷く歪んだ笑みー


「潰せ!」


ユノナキの左右に岩柱を生成する。

太く、頑丈に作ったそれが勢いよく襲いかかる。

衝突と同時に轟音と土煙が上がるが、それはユノナキさんが腕で防御した音だ。


だが、両腕を使ったことで隙ができる。

エミリーはそれを見逃さない。


ユノナキの胴体目掛けて斬りかかる。

だが、エミリーは彼女の片手から放たれた風魔術で吹き飛ばされてしまう。


ユノナキは岩柱から抜け出し、吹き飛んだエミリーの元へと走る。

俺はエミリーとユノナキの間に岩壁を作り、ユノナキに手を向ける。


「燃やせ」


俺は炎でユノナキを囲い、爆発的な熱量を発生させる。

常人がこの中に入れば焼け死んでしまう程の魔力を込めた。

だが、ユノナキはその熱をものともせず、ただ歩いて通過する。


俺は彼女に向かって初級魔法、水弾(ウォーターボール)を放つ。


「…?」


ユノナキは右手をそれに向かって突き出しながら首を傾げる。


俺が撃ったのは初級魔法、それもたった1発だけ。

何がしたいのか分からないのも当然だろう。

だが、それには仕掛けが施されている。


「っ!」


ユノナキの腕に着弾した瞬間、空気を切る音がする。

これは風魔術を水弾に組み込んだもの。

混合魔術のさらに上位のものだと思っている。


ユノナキの不意をついた。

だが、ダメージは皆無。

本来ならば肉が裂けたり、腕が落ちていても不思議ではない。


ダメージを与えられないのなら…


「『人形生成(クリエイトゴーレム)』!」


動けなくするまでだ。


俺は大量の人形を同時に作る。

大小様々で、3メートルほどある巨体のやつに、30センチほどの小さいものまでを合計で50体ほど作った。


大きさは違えど、込めた魔力量は同じだ。

そして、与えた命令もまた同じ。


「『捕らえろ』」


全員がユノナキに向かって走り出す。

大量の無垢な人形に追いかけられるのだ。

俺だったら怖くてチビってしまうだろう。


最初の1体がユノナキに飛びかかり、他の人形たちも次々と跳躍していく。

それをユノナキは1つの魔術で消し飛ばしてしまう。


乾いた土で構成されていた人形が屑となって散る。

だが、分かっていたことだ。

何も問題は無い。


「『爆ぜろ』」


倒れた人形たちが赤く膨れ上がる。


爆音と共に強い風が体を走る。

黒煙の中から人影が走ってくるのが分かる。

ユノナキがこちらに向かってくる。


だが、目標を変えるのが遅すぎた。


「っ!」


エミリーが後ろからユノナキの胴体を薙ぎ払った。

全体重を込めた一撃だが、ユノナキは吹っ飛ばされることも無く、その場に踏みとどまる。


エミリーへの攻撃が始まる。


だが、俺は固定魔術で既にエミリーを囲っている。

拳が十分に振り下ろされるより前にユノナキの拳が止まる。

勢いの無い攻撃なら、俺の魔術でも止められる。


ユノナキの動きが止まり、それを怪訝しく思い、俺の攻撃も止まる。

だが、ユノナキは攻撃を止めた訳ではなかった。


ユノナキの傍に、音もなく現れた魔物が一体。


そいつは一言で言うなら化け物。

黒い球体に、(くるぶし)からしか生えていない足があるだけの生物。


体と言うべきか、顔と言うべきか、そこの8割を占める大きな口がある。

口以外には顔を構成するものが無い。

口は歯茎から剥き出しになっていて、黒ずんだ歯は大きい。


常に斜め上を見ているような体の角度で、妙に大人しいが、人一人くらいは余裕で食せるほどの大きさと、恐ろしい見た目がそれを受け付けさせない。


はっきり言って、戦いたくない。


だが、そいつは俺に向かって走り出した。

短いと言うよりも、無いと言う方が適切な足の筈だが、妙に速い足取りで向かってくる。


というか、あいつの攻撃手段って見た目からは『食べる』しか思いつかないのだが…

食べないよね?

大丈夫だよね?


「ア゛ァァァアあぁア゛ぁぁあ゛」


耳障りな奇声を上げながら駆けてくる。

俺の知らない召喚獣だが、やるしかない。


俺は全属性の魔術を使う。

先ずは弱点を探るのが得策だ。


バクんっ!


……全部食べられた。


ならば、食べきれない量をお見舞いしてやる。


「貫け」


鋭く作った岩柱を、化け物を囲うようにして発生させる。

それを同時に突く。


岩は黒い球体を貫き、あいつは地面から足が離れている。


身動きを取れなくした。

消滅までには至っていないが、こいつが動かないだけでもかなり安心する。


こんなのに襲われるってだけで精神的にくる。


「ウ゛ァァァア゛ァァあ゛」


ははは!

藻掻(もが)藻掻(もが)け!

貴様のその丸い体では器用に動く事すら叶うまい!


しゅうぅぅぅぅ


……?

何だこの音は?

まるで、何かが蒸発するような、そんな音だ。


……嫌な予感がする。


化け物を見ると、そいつの体を貫いた岩柱から煙が出ている。

時間が経つにつれ、化け物の藻掻く範囲が大きくなっていく。

固定されていた岩柱も化け物と共に動き、徐々に揺れも大きくなっていく。


岩柱の先端が崩れ、巨体とは裏腹の身軽さで跳躍した。


「ウ゛ァァァアアアア゛゛」


化け物は岩柱を抜け出してしまった。


「…………仕方ないか…」


俺は肩を落とし、言葉をこぼす。

これは使いたくなかった。


なるべく上級以下の魔術で挑みたかったのだが、相手が相手だ。

仕方あるまい。


俺は化け物に右手を向け、魔術を唱える。


「『水の御業(ウォーターワークス)』!」


水で構成された暴力的な龍の手が放たれる。


これを使ってしまえばもう大丈夫だ。

あとは蹂躙される魔物を見るだけで済む。

さ、あいつはどんな声で鳴くのか┈┈┈┈┈


バクんっ!


………………ふーん、『バクんっ』て鳴くんだ。

変わった鳴き声だね┈┈┈┈


「ア゛ァァァアアア゛!!」


やばい!

まじやばい!


放たれた手を食べるなんて聞いてない!


どうすんだ?!

龍が誕生するには生命体に命中させる必要があるし、あれ以上の攻撃力のある魔術なんて使えない。

これ以上ないピンチだ。



あいつ、どう料理してくれようか。


俺は急場だというのに、その頬は緩み、笑みを浮かべていた。


やはり、手に汗握る戦いというのは心躍るものだ。


「ア゛ァァァア゛」


またも俺に襲いかかってくる。

腹が膨れている様子はなく、まだ食べ足りないようだ。


真っ直ぐに太柱を放つ。


あいつと同じ大きさで放たれたというのに、あっさりと胃袋の中に入っていく。

だが、柱に押されながら食べ進めているため、距離と時間は稼げる。


だが、それを短い間だけだ。

直ぐに食べ終わり、俺の元へと1回の跳躍で迫ってくる。


俺はそいつを、柱を生成して吹っ飛ばす。

横殴りに飛ばされたそいつは、予想以上に飛んでいった。


だが、空中で体勢を立て直し、またも俺に跳躍してくる。

また横腹にお見舞いしてやる。


またも吹っ飛ばされ、飛びかかってくる。

そして、横腹に柱を生成する。


「っ!」


しかし、読まれていたようで、寸前に体を横に向け、柱を食らう。

最後まで食いきらずに、残った柱を放り捨てる。


そいつは俺に向き直ると、大きな口を歪ませる。

今まで口内を見せていたが、それを黒ずんだ歯で閉じている。

口角を吊り上げ、俺を見ている。


デザートを前にして笑っているのだ。


「はっ…笑えるな」


俺も笑う。

作戦が上手くいったんだ。

俺もこいつと同じ気持ちだ。


ドガアァァァァァァアァン!


俺の視界から化け物が消える。

頭上から降ってきた巨大な岩壁によって潰されたのだ。


だが、完全には潰れていない。

岩壁と地面には屈めば入れるほどの隙間があり、岩が蠢動しているのが分かる。

あいつはまだ生きているのだ。


俺は隙間に入り、音のする方へ向かう。


やがて、そいつのいる所に辿り着いた。


「ウ゛ウ゛ゥゥゥウ゛」


威嚇するような唸り声を上げ、俺を食べようとガチンガチンと口を開けようとしている。

下唇まで地面に埋もれ、身動きが取れなさそうなのを確認すると、近くまで歩み寄る。


久しぶりに対等な勝負が出来た気がする。

臣下たちには負け続きで、俺もストレスが溜まっていたのかもしれない。

妙にスッキリした気分だ。


それにしても、こいつの食欲は凄かった。

未完成とはいえ、蒼級の魔術を食べるとは。

その暴食さに敬意を表そう。


俺は掌サイズのボールを作り、口に向かって放り投げる。

バクんっと食べたのを確認すると、俺はエミリーの手助けをしようと外に出る。


そして、魔術を起動させる。


爆発音と共に、浮いていた岩壁が地面と合わさる。

空気の流れが下から這いずってきて気持ちがよかった。


あいつはもういない。


エミリーの方へと目を向ける。

彼女は果敢に戦い続けていた。


剣をユノナキに斬りつけ、防御をされると今度は五体を使った攻撃に転ずる。

体重が乗った攻撃の筈だが、ユノナキはほとんど動かない。

そして、全身を使うエミリーに対して、ユノナキは片手でエミリーを吹き飛ばしている。


だが、吹き飛ばされて尚、エミリーの攻撃は止まない。

直ぐに距離を詰めて剣を奮っている。


俺が戦っていた間もこの動きが続けられていたとすると、エミリーの体力は計り知れない。


これに俺が加われば、両手くらいは使ってくれるだろうか。


未だ、俺の存在に気づいていないユノナキに手を向ける。

そして、固定魔術でユノナキを囲う。


「?!」


エミリーが突然のことで目を丸くし、ユノナキは俺の方に顔を向けている。

固定魔術がユノナキの一振で壊され、俺の方に駆けてくる。


「潰せ」


何本もの火柱がユノナキに向かって伸びる。

ユノナキは走りながら風魔術を使い、その炎を除ける。


だが、この火柱には仕掛けがある。


「?!」


炎の中に岩柱を仕込んでおいたのだ。

ユノナキが払った炎は表面にあっただけのもの。

ただの風では岩は切れない。


一瞬、魔術を使うのが遅れたユノナキに岩柱が命中する。

ユノナキの姿が岩の中に消える。


だが、爆発音と共に、岩柱の1本が宙に舞う。


空いた隙間からユノナキが出てくる。


あんな威力の爆発を間近で使ったのにも関わらず、ユノナキはピンピンしている。

普通なら自爆していそうなものだが…


と、ユノナキが俺に両手を向けていることに気づく。


あの人に魔術を使わせては駄目だ。

まともに撃ち合って勝てる気がしないし、距離が離れていてはダメージを与えられる気がしない。


俺は走る。


ユノナキの魔術が発動する。


火、風、土、水、光、そして闇の色をそれぞれ持った玉が現れる。

その全てが俺に撃ち込まれようとしている。


「爆ぜろ!」


その玉に向かって手を向ける。

ユノナキの辺りに一瞬光の線が差し、遅れて爆発が発生する。


光弾が消えたのを確認すると、俺も同じように光弾を作り出す。

闇のものはできないが、とにかく数を作ることに専念する。

こちらに注意が向くようにしたい。


こちらに走ってくるユノナキに光弾を撃ち込み続ける。

だが、足止めはできていない。


やがて俺の元に辿り着き、風魔術で体勢を崩され、組み伏せられる。

脚でガッチリと胴体を挟まれ、腕も抑えられて反撃はできそうにない。

だが、これでいい。


俺はニヤリと笑う。

作戦が上手くいったことに喜んで。


「っ!」


ユノナキも自分が何をしているのか気づいたようだ。


直ぐに立って、後ろを向く。

だが、もう遅い。


俺の視界には空中に飛び上がるエミリーの姿がある。

剣を上段に構え、今まさに振り下ろされようとしている。


ユノナキからしたら余裕で対処できるのだろう。

彼女は片手さえあればエミリーを跳ね除けられるのだから。

だが、それは叶わない。


「っ?!」


ユノナキの手には、俺が本気で魔力を込めた固定魔術が着けてある。

動かない手と、壊せない魔術。


エミリーの剣が振り下ろされた。



キイィィィンッッ



地面と金属が重なり合う音と共に決着がついた。



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