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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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龍王国の迷宮へ ー笑顔で迎えなきゃなー

翌日。

暇だから挨拶回りでもしようかと思う。


廊下を歩きながら臣下さん達を探す。

レノアーノの王宮と作りが似ていて、気持ち的にも歩きやすい。


早速、プラネルセンさんを発見した。

相変わらずの赤黒い肌に、1本の髪も無い頭。

民族衣装っぽい服装で、後ろに腕を組みながら歩いている。


「こんにちは、プラネルセンさん」

「おや、これはシャル殿、今日はいい天気ですな」


穏やかな表情で挨拶される。

やはりこの人の肌は性格と合わない。

声音は優しいのだが、暴力的な肌色のため、どうにも違和感を覚える。


「はっは、私の性格と肌は不自然でしょう」


そんな考えが顔に出ていたのだろう。

温和にそう言われた。


「まあ、そうですね」

「ところで、シャル殿は何用で私に?」

「挨拶がまだでしたので」

「ほお、これはご丁寧に」


俺も社交辞令的なことは初めてやる。

貴族たちと話す時は相槌か嫌味しか言わないからな。


「ところで、臣下さん達は普段何をしてるんですか?」

「我々ですか? ただの業務ですよ」


強い人でもやることは(レノアーノ)と変わらないな。


「シャル殿はレノアーノでは何を?」

「ただの授業ですよ」

「あの御三方にですか?」

「ええ、日々の癒しですよ」




あのままも会話が続き、次はベノスタシアさんのところだ。

彼は何時もお決まりの部屋にいるらしく、あまり出歩かないらしい。

プラネルセンさんに教えてもらった。


ノックをして、部屋に入る。


「こんにちは、ベノスタシアさん」

「ん? ……ああ」


椅子に座り、机に置いてある紙に何かを書き出しているベノスタシアさん。

右目を隠す眼帯をし、黒髪に1房の白髪(しらが)がある。

袴姿が様になっている男前の人だ。


脇には積み上げられた紙が沢山ある。

さっき言っていた業務をやっているのだろうか。


「お仕事中でしたか?」

「ああ…俺のじゃないがな」

「…? では、今日は挨拶だけということで」


元々それだけのつもりだが、とりあえずと言うやつだ。


「ああ…」





次はぜラルドさんだ。

そう思ったが、彼女は探しても見つからなかった。

活発的な性格そうだから直ぐに見つかると思ったが、部屋でも聞いておけばよかったな。


訓練の時間になったので、修練場に行くことにする。


扉を開け、中を見ると、そこにはテトメロさんとぜラルドさんがいた。


「お、シャル!」


気さくに片手をあげて笑いかけてくる赤髪の女性。

左目に眼帯を着け、海賊を思わせる格好の巨乳美人のお姉さん。


「ぜラルドさん、丁度探してたんですよ」

「おん? 浮気は駄目だぞ?」


……?

何のことだろうか。


「ただの挨拶ですよ」

「ああ! そうだったか!」


そういえば、この人この間マオと話してたな。

その時に聞いたのか。

俺が浮気なんてする筈もないのに。


「何故ぜラルドさんがここに?」

「お前を鍛えに来てやったのさ!」


願ってもないことだ。


「それはありがとうございます」

「礼には及ばんさ!」


そう言って、笑うぜラルドさん。


気持ちの良い笑い方をする人だ。

見ていてこっちも元気になる。


それにしても、綺麗なお姉さん2人と訓練か…

この響だけで俺は一夜を過ごせる。




こうして、全員の挨拶回りが済んだ。




ー翌日ー


今日はエミリーの生誕祝賀会の日だ。


城を離れ、街を抜け、案内されるまま歩いていたら目的地に着いた。

案外遠くにあった。


目の前に在るのは洞窟と聞いたら真っ先に浮かべるであろう穴。

中に引き摺り込まれるように周辺の岩が歪んでおり、昼間だというのにその中は窺い知れない。


初めて行った迷宮とは格が違う。


「迷宮なんて久しぶりね!」

「そうですね」


エミリーは腕を組み、ワクワクした表情で洞窟を見ている。

その顔に俺も楽しくなってくる。


今回はエミリーと2人きりで挑む。

龍王も気の利いた事をしてくれる。

だが、マオとフィルティアはどう思っているだろうか。

それが不安だ。


「これは龍王国で隠れ無い洞窟である。致死性の魔物は取り除いてある故、存分に楽しんでくるがよい!」

「ええ!」

「はい」


2人で返事をし、歩みを進める。


エミリーの初めてをもらった場所。

あの時のエミリーは本当に…

ぐへへ




中は乾いた岩で構成されており、道は腸のように曲がりくねった1本道。

迷宮というより地下という雰囲気だ。


「出たわね!」


エミリーが声と同時に剣を抜く。

目線の先には壁を這いずり回るデカい蜥蜴。


俺たちと同じ身長で軽やかに這いずり、岩と同化した鱗に、長い舌、鋭い爪を持つ。

じっとしていれば直ぐに見つからないが、ギョロっとした目が光っているため、案外見つけやすい。


両者とも臨戦態勢に入る。


双方とも間合いを測りながら、ジリジリと距離を詰めている。

足が止まり、一瞬の間ができる。

その瞬間、戦闘が始まった。


蜥蜴の舌がエミリーに伸びる。

4メートルほど距離があるはずだが、一瞬で彼女の元にたどり着く。

それをエミリーが予期していたかのように、舌の延長線上に剣を流す。

それに至るまでの動作には無駄がなく、実際よりもゆっくりに見えた。


ちょうど真ん中で斬られた舌が2つになり、鮮血が飛ぶ。

エミリーはたじろぐ蜥蜴を見逃さず、距離を詰める。

初速から凄まじい勢いで詰めるエミリーから逃げる手段は無い。


未だ動く舌を叩き斬り、蜥蜴の張り付いている壁に跳躍した。

そして、全体重をかけて薙ぎ払う。

蜥蜴が絞声(こうせい)を上げながら地面に叩きつけられ、肉の音が耳に残る。

エミリーは跳躍したその足で地面に落ちた蜥蜴の首を斬った。


「ふんっ、こんなもんね」


さすがお嬢様だ。

身体能力が人間離れしている。

これでマオから1本も取れていないと言うのだから、信じられない。


「流石ですね、エミリー」

「当然よっ!」


仁王立ちで自慢げなエミリー。

あんな動きをしたというのに、本人は汗ひとつ流していない。


あの柔らかい体の何処からそんな力が出ているのだろう…

今度、入念に確かめる必要があるな。

隅から隅まで丹念にな。


「いつも頑張ってますからね」

「っ……ええ」


さらに奥へと進む。


「そういえばエミリー、龍王国は楽しいですか?」


魔物が出ない間は雑談する。


「ええ、楽しいわよ」

「それはよかった」

「シャルは?」

「楽しいですよ。こうしてエミリーと2人きりになれたんですからね」


そう言うが、龍王国は楽しいという印象よりも有益な場所という方が大きい。

魔術を鍛えれるというのはそれほど嬉しい。

蒼級なんて龍王か、その臣下さんにしか向けれないからな。


「っ……私も……シャルと2人きりで……っ!」


エミリーが照れてる。

顔を俯かせ、自分の裾を引っ張って何かに耐えているようだ。


一瞬、何でそうなっているのか分からなかった。

だが、先程の俺の発言を思い出せば分かる。


俺は口説き文句を無意識の内に使っていたみたいだ。


「エミリー、無理しないでください。気持ちは伝わってますから」


肩をポンポンしながら笑いかける。

無理して口説かなくてもいいのに。

全く、エミリーは可愛いな。


魔物が行き交う場所でこんなことをするなんて、いつ襲われても文句は言えな┈┈┈┈


「エミリー!」


咄嗟にエミリーを抱き寄せる。

その瞬間、先程までエミリーがいた場所に勢いよく影が通った。

着地点の岩を抉り、小石と砂が舞う。


そいつは人の腕程の長さで、小さい翼の生えた蛇。

以前出会ったことのある毛蛇(ダウンスネーク)の子供だ。


蛇は飛びかかりに失敗すると、俺たちから遠ざかろうと地面を這っていた。

追撃はしてこず、攻撃手段はあれだけらしい。

俺はそいつを風魔術で輪切りにする。


「大丈夫ですか? エミリー」

「……ええ」


エミリーは俺の胸にピトっとくっついている。

咄嗟に抱いてしまったが、今の俺は格好よく映っているのかもしれない。

エミリーの早い鼓動が伝わり、俺も恥ずかしくなってきた。


「「 ………… 」」


抱き合ったまま離れようとしない。

お互いに無言で体温を感じている。


体を重ね合わせた仲なのに、まだこんな初々しさを残しているとは。


「先に進みましょうか…」

「ええ…」





長い間洞窟に入り、魔物の数が増えてきた。

入口付近では1匹や2匹だったが、奥に進むにつれて5匹、6匹と増えていった。


それが今となっては…


「エミリー! 背中は任せました!」

「ええ!」


前にも後ろにも魔物が迫ってきていた。

それは正に壁。

洞窟を埋め尽くす程の数が俺たち2人に向かって襲いかかってきていた。


俺は前方に向かって大量の魔術を使用する。

岩、火、水、風。


数は多いが、当てれば直ぐに落ちていく。

だが、折角開けた穴も他の魔物によって修復される。

まさに『生物の城壁』だ


これでは埒が明かないので、固定魔術を使うことにする。

洞窟の地面、壁、天井を覆って余りある網を作る。

頑丈に、そして柔らかく作り、絡まりやすくした。

それを放つ。


風魔術で力強く等速で移動するそれは、大量の魔物を掴んでも失速の様子を見せない。

魔物が捕らわれる時の鳴き声で、どれだけの種類の生物がいるのかよく分かる。


「ギエッ!」


「ガアァ!」


「ギイ!」


「ジィージジジッ!」


「きゃっ! なにこれ?!」



色んな鳴き声が聞こえる。


動作が問題ないのを確かめ、エミリーの手助けをする。





終わった。


「多かったわね…」

「そうですね」


流石のエミリーもお疲れのようだ。

汗を垂らして、それを拭っている。

肩で息をしている様は少しえっちだ。


俺も汗をかいた。

水を飲もう。


「どうぞ」

「ありがと」


エミリーに水を渡し、俺も自分の分を作る。


冷たい水が喉を通り、息をつく。


「……おかわり」


エミリーが口を拭きながらコップを差し出してくる。

そこに水を注ぐ。


「ありがと…」


エミリーは2杯目も一口で飲んだ。

俺も残った水を飲み干す。


「少し休みましょうか」

「ええ」




休憩をとった後、さらに奥に向かう。

魔物の数も落ち着いて、息を切らさずに進めた。


「エミリー、体は大丈夫ですか?」


1番体を動かしている彼女に問う。


「ええ、平気よ」


その返事に驚く。

俺だったらとっくに倒れているほど動いているのに、本人は余裕の表情だ。


「エミエミってお嬢様だよね?」

「きゃっ!」


突然、後ろから声がかかり、エミリーが生娘のような声を上げる。


「ユノナキさんじゃないですか」

「どうも、ルーシャ!」


俺とエミリーの間から顔を出すユノナキさん。

気さくに笑顔で話しかけてくる彼女は相変わらずだ。

というか、何でここに?


「なんであんたがここにいるのよ」

「ちょっとね」


ちょっとらしい。


「陛下に怒られないですか?」


俺は疑問の声を上げる。


これは龍王が用意し、実行したもの。

それを部下であるユノナキさんが邪魔をしたのならお叱りを受けるだろう。


「大丈夫だよ。龍王様は私たちには滅多に怒んないもん」


そういう問題ではない気がするが、まあ平気なのだろう。

というか、龍王って怒るんだな。


「陛下ってどう怒るんですか?」

「んー、今まで一番怒ったのはお尻ペンペンかな」


怒ってねえじゃねえか。

平和な世界だな。


「誰が怒られたんですか?」

プラプラ(プラネルセン)だよ」


何だよその絵面。

あの赤黒い人が大男にお尻ペンペンされたのか?

酷いな。


「ユノナキはどうするのよ」

「エミエミたちについて行くよ」

「その呼び方やめてって言ってるでしょ? ナキナキ」

「はぁあっ!! エミエミー!」


エミリーに抱きつくユノナキさん。

仲がいいのなら、一緒に行くのもいいかもしれないな。


何せ、龍王の臣下がいるのだ。

魔物の負担も減るだろう。


「じゃ、行きましょうか」

「ええ」

「うん!」


曲がり道を歩き、足を止める。


「なによこれ」


エミリーも足を止め、眼前にあるものを見上げる。


そこにあるのはデカい扉。

岩と同じような色に、鱗のような凹凸を持つもの。

その上部には鋭い目が1つだけあり、こちらを睨んでいるように見える。


『真実を答えよ』


………真実を答えなければいけないらしい。

さて、どうするか。


「シャル! 扉が喋ったわ!」


まあ、扉が喋るなんて当然だろう。

扉だもの。

低くて重い声が無機物から発せられても不思議ではない。

だって、扉だもの。


「喋りましたね」


ユノナキさんをチラッと見るが、彼女はポカンとした顔だ。

なら、真実を答えるしかないのだろう。


「真実ってなんですかね」

『汝らに問う』


問われるらしい。


『そこにいる女人の内、最も可愛いのはどっちだ』


……ん?

何だその質問?

もっと別のものを聞かれるかと思ったが、小学生みたいな問いかけしてきやがった。


エミリーは俺の裾をキュッと引っ張り、ユノナキさんは祈るように手を組み、俺を期待の眼差しで見ている。


究極の選択……ではないだろう。

エミリーの上目遣いを見れば答えは1つだ。

俺はエミリーの肩を掴んで、抱き寄せる。


「エミリーです」

「ええっ!」


これだろう。

間違いない。


「もう! ルーシャなんて知らない!」


1人(うるさ)いのがいるが、問題ない。

エミリーの照れた顔を見れば、俺の答えは正解だと確信できる。


ユノナキさんはプンプンしながら扉に向かって歩く。

そして、扉近くの地面に足が着くと、そこが段々と光を灯し始めた。


「痛ったぁあい!」


稲妻が走った。

ユノナキさんが白く輝き、収まった頃には髪が乱れていた。


『そこは両方って答えんかい!』


扉に怒られた。


「ねえなんで?! 私間違えてないのに! 答えたのルーシャなのに!」

『…………』

「ねえってば!」


へっ


「エミリー」

「……?」

「可愛いですよ」

「………ええ」


俺に体を預けるエミリー。


かわええ。

やっぱりかわええ。


『次の質問だ』

「ねえ!」


またも質問があるらしい。


多分、素直に答えたら怒られるだろうな。

扉好みの答えを言わなければならない。


『どちらがタイプだ?』


さっきから俺の方にしか質問が来ない。

しかも、質問がそっち系のやつばっかだ。


「エミリーです」

「ルーシャ!」


うるさい。

自分に嘘はつけない。

エミリーはさらに身を寄せてきているし、一石二鳥だ。


『ほう、お主らは相思相愛とな?』

「はい」


今度は前置き無しで聞いてくる。

もうこれはただの恋バナだ。


『ほお! ラブラブとな!』

「ラブラブです」

『ひゃー! よいなよいな。ユノナキ、お前ざまあないな!』

「うるさいよ!」


この2人知り合いなのか。


『いやーっ、良いものを見た。通ってよいぞ』


独りでに扉が開いた。

そして、その先には玉座のように置かれた椅子があり、拝謁の為の空間があった。

部屋は広いが、玉座以外は何も置かれていなく、かなり閑散としている。


洞窟に玉座。

異様な光景だ。

辺りも冷たい光が漂っており、陰気な雰囲気だ。


「……なにかしら」


エミリーも辺りをキョロキョロと見回している。

俺も似たようなものだが、1人の行動に目が止まる。


それはユノナキさんの行動。

彼女だけが玉座に向かって、ただ静かに歩いていた。


「ユノナキ…?」


エミリーの疑問の声があがる。


俺はエミリーより1歩前に出て、彼女を体で隠す。


ユノナキさんが玉座まで上がり、こちらに向き直る。

彼女は初めて見た時の仮面を着けており、表情は窺いしれない。

だが、ここからの展開は分かっている。


「勇者たちよ、先ずはここまで辿り着いたことを称賛致しましょう」


彼女は軽く手を広げ、俺たちを迎える姿勢をとる。

元々の服装も相まって、それっぽい雰囲気が出ている。


「しかし、今貴方たちが向かうのは敗北の枯れ地。それでも進むと言うのなら称賛ではなく、哀れみを向けることになるでしょう」


普段の彼女からは想像できない、強者感漂う物言いだ。

ならば、俺もそれなりの対応をしなくてはならない。


「俺は世界を救うためにここに来た。ここで引いてしまえば自分に蔑みの目を向けることになる! 貴様をここで倒し、俺たちは笑顔で帰らなければいけないんだ!」

「そうよ!」


よし。

これで場は整った。

あとはボスを倒すだけだ。


「エミリー、攻撃は任せられますか?」

「もちろんよ!」

「よし。僕はこっちに注意が向くようにしますから、ガンガンやってください」

「わかったわ!」


よし。

これで作戦も整った。

あとはユノナキさんを泣きっ面にしてやるだけだ。


といっても、相手は龍王直属の臣下。

テトメロさんとぜラルドさんにすら1度も勝ったことがないのだから、勝ち目は薄い。

せめて、一泡吹かせるくらいはしたい。


「では、始めましょうか」



ユノナキさんとの戦闘が始まった。



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