日常 ーでは、よろしくお願いしますねー
やったあああああああああああああ!!!
目覚め1番にそう思った。
マオが俺のことを好きでいてくれた。
あれは夢じゃなかった。
夢みたいに幸せだ。
体を密着させて寝ている彼女が証拠だ。
温かい。
そして、柔らかい。
今は何時頃だろうか。
お互いに愛しすぎたため、体内時計がズレている。
日が昇っているため、朝か昼くらいだろう。
さて、今日はどうするか。
マオと延長戦を決め込んでもいいが、龍王城に滞在している以上、何かしらしなければいけないだろう。
挨拶、御礼、会話…
どれも面倒くさい。
マオと愛し合っている方が遥かに価値が高いな。
よし、そうしよう。
龍王のことなど知るか。
そうと決まれば善は急げだ。
俺はマオに抱きついて、2度寝を決め込もうと…
コンコンコン
ああ?
んーだテメェ、ぶっ殺┈┈┈┈
「お兄様ー、お昼食の準備ができましたよー」
「はーいっ」
さて、マオを起こすかな。
半身だけ起き上がり、マオの肩に手を置く。
「マオー、ご飯ができ……」
「すぅー………ふぅー……」
…………。
あー、駄目だ。
これ毒りんご食べてるね。
これだけ声をかけても起きないんだから間違いない。
眠れるお姫様を起こすのは王子の役目。
いざ尋常に┈┈┈┈
「っ……?!」
って、俺の方からキスをする筈が、マオの方からされてしまった。
マオは俺の後頭部を掴んで、押し付けるようにキスをしてくる。
柔らかい唇から逃げる術は無い。
「っ………マオっ……起きてたんですか…?」
「……シャルの発情してる匂いがした」
なんじゃそれ。
マオなりの冗談だろうか。
「それなら…マオからもしてますよ」
「っ……」
もう一度キスをする。
優しく、ソフトなキスだ。
マオの物足りなそうな顔。
やっばい。
マジで可愛い。
あれ?
何でこんなに可愛いんだ?
俺、こんな人に愛されてるのか?
どんだけ幸せなやつだよ。
理性が吹っ飛びそうだ。
「シャル…」
名前呼んでくれた!
嬉しい!
「なんですか?」
「……続きしたい」
ぐはあっ!
マオがご飯より俺を食べることを優先してくれた!
やばい!
超嬉しい!
しっかし、マオは本当に…
「マオは性魔獣ですね」
「なにっ?!」
あ、やべ。
怒った。
「私が性魔獣だと…? お前の方が性欲強いだろ……!」
「なにおぅ? あれだけ搾り取っておいて、何を今更……!」
お互いに顔を見合わせながら言い合う。
マオとこういう事をするのは初めてだ。
何だか頬が緩んでしまう。
「っ……シャルの…元気なままだぞ……?」
おいおい、それは卑怯だろ。
マオの裸見たら、どんな時でもなっちゃうんだよ。
「……マオだって…息荒いですよ」
「っ……シャルが触るからだ…」
マジで嬉しい。
マオが俺に触られて興奮してる。
その事に俺も興奮する。
「じゃあ…どっちが性欲強いか……試しますか…?」
「……望むところだ」
マオが俺の首に手を回す。
そして…
「望まないでください! 龍王陛下がお呼びですよっ!」
ノックと共にリオンの声が飛んでくる。
「………勝負はまた今度にしましょう…」
「……うむ」
マオにキスをして、ベッドから起き上がる。
そして扉に…
おっと、まだ服を着ていなかった。
いけない、いけない。
その後、服をきちんと着て、昼食に向かった。
ー
龍王たちとお昼ご飯だ。
でっかい長テーブルを彼女たちと妹、そして龍王とその使い魔たちで囲っている。
エミリーはユノナキさんと話し、フィルティアとリオンは仲良く喋り、マオはぜラルドと話しかけられている。
「シャル・テラムンドよ! あの魔石は何なんだ?」
龍王が俺の隣に座って聞いてくる。
この人は常に豪商な態度で、笑みを浮かべている。
今回の従者はテトメロさんとプラネルセンさんだ。
「あれは僕の特殊魔術で作ったんですよ」
「ほう、あの奇怪なやつか。あの魔石は実に素晴らしい能力を有しておる! 誇るがよい!」
そう言いながら、デカい手で俺の背中をバンバンしてくる。
世界の龍王に感心されるのはやはり嬉しい。
そういうのは俺の自信に繋がる。
「陛下も! 練習すれば! できるやも! 知れませんっ!」
俺も龍王の太い腕をバンバン叩く。
……全然ビクともしない。
「ガハハハハ! なかなか言うではないか! シャル・テラムンド……さて、次の質問だ」
「その前に、フルネームで言うのやめませんか? シャルでいいですよ」
そう言うと、龍王に目を丸くされた。
……何か変なこと言っただろうか。
そういう目をされると怖いのだが。
「よかろう! 一戦交えた仲だ、余のこともファルダランと呼ぶがよい!」
「陛下の方でいいですよ」
「なんと! シャル! 貴様も肝が据わっておるな!」
また肩をバンバンされる。
「それで、先の質問だが…」
叩いていた手を顎に当てる龍王。
「シャルよ、其方はどうやって魔術を使っているのだ?」
「……はい?」
何言ってんだこいつ。
自分もよく知っているだろうに。
「どういうことですか?」
「手から離れていても魔術を行使していたであろう?」
……?
あ、はい。
「それがどうかしましたか?」
「なんと!」
え?
何だろう。
何でこんなに驚かれるんだ。
龍王は愉快そうに笑って、自分の太腿をバチンと叩く。
「シャルよ、魔術というものは自らの手の及ぶ範囲にしか発現せぬものだ。それを其方は遠方からの魔術行使を常とする……もう一度問おう…其方はどのように魔術を使っておるのだ?」
どのようにって…
手から離れるやつがそんなに珍しいのか?
エミリーとかヒョイってやってたが…
そうだ、エミリーだ。
彼女が俺に見せてくれたんだよな。
エミリーを見る。
……多分今の会話聞いてたな。
頬が緩んで、ユノナキの話を聞きながらも、俺の方をチラチラ見てくる。
絶対に期待してる。
言って欲しそうな顔してる。
「お嬢様が教えてくれました」
「なんと!」
うんうん。
主が瞠目されるのは臣下としても鼻が高いな。
正確には、エミリーは俺に見せただけだが、それはよしとしよう。
「エミリー嬢、それは本当か?!」
「ええ、シャルに魔術を教えたのは私よ」
ん?
『魔術を教えた』?
ちょっと誇張している気がするが、まあいいだろう。
「ほう、この寸時の間に余が知らぬことをやってのける者が二橋も現れるとは! 何という僥倖だ!」
「お嬢様は僕の自慢ですからね」
「ほう、エミリー・エルロードよ、良き臣下を持ったな!」
「当然よ!」
えっへんと胸を張るエミリー。
俺も良き主を持った。
「それでシャルよ」
「なんでしょう」
再度、俺に質問してくる気らしい。
龍王も俺のことが大好きだな。
「軍門に降らぬのなら、ここで魔術の修練に励むのはどだ?」
お、願ってもないことだ。
俺も龍王に歯が立たなくて結構落ち込んだからな。
今よりも上達するに越したことはない。
だが…
「エミリーの誕生日会があるので無理ですね」
「ほう」
そう。
もうすぐエミリーの誕生日だ。
龍王国からレノアーノまで3週間。
今からならギリギリ間に合う。
いや、ギリギリ間に合わない。
「それなら転移を使うがよい。テトメロ」
「畏まりました」
傍に控えていたテトメロさんに促す。
「いいんですか?」
「うむ。まあ、その代わりと言ってはなんだが…」
コツコツと顎の鱗を叩く龍王。
おいおい。
そっちから勝手に押し付けて借りを作るってか?
何て卑劣極まりないんだ。
それが龍王のやり方┈┈┈┈
「エミリー嬢の生誕日を、余からも祝わせてはくれぬか?」
………………。
へー、やるじゃん?
分かってんじゃん、龍王。
「家のお姫様は強欲ですよ?」
「ははっ! なあに、余は歓迎には手を抜かぬ主義故、なんでも申してみるがよい!」
なんでも?
今、なんでもって言った?
「そうね、強い敵を倒したいわね!」
こら!
エミリー!
龍王のなんでもをそんな簡単に使って!
「ほう! なら丁度よいものがあるぞ」
勝手に話が進んでいく。
俺たちだけの愛の巣が欲しかったのに…
まあ、エミリーのしたい事が俺のしたい事だ。
これが1番いい選択だろう。
「飛竜の討伐ですか?」
「はっは! 飛竜などちっぽけに見えるものを用意しよう」
あれ?
冗談で言ったつもりなのだが…
飛竜よりやばい奴ってことか?
それって…
「迷宮がいいわ」
「うむ。用意しよう」
またもエミリーの要望に応えてくれる。
要求するところが違う気がする。
エミリーは飛竜のことはノーコメントなのだろうか。
「これならシャルも訓練に励めるであろう」
龍王も粋なことをしてくれる。
だが…
「どうして、そこまでご親切にして下さるのですか?」
「む?」
さすがに何か裏があると思ってしまう。
俺なんかに借りを作って何をするのかは知らないが、一応俺も大貴族の子息だ。
何かに利用しようってんなら拒絶しておかなければならない。
「龍王国もテラムンドには世話になっておるからな」
…………?
「あ、そうなんですか…」
ポケっとした顔で答える。
ロウネとジェフにはまた聞いておきたいことが出来た。
あの2人は少々隠し事が過ぎる。
1回リオンを人質にとって説得するのもいいな。
「龍王様」
「何だ?」
テトメロさんが龍王に近寄って、話しかける。
「シャル様に魔術を教えるのは私が適任かと」
「うむ。素よりそのつもりだ」
「ありがとうございます」
どうやら、俺の先生はテトメロさんがやってくれるらしい。
この人は教えるのが優しそうだから俺も嬉しい。
「お願いします、テトメロさん」
「はい、こちらこそ」
俺に笑いかけてくれる。
これでスパルタだとしても俺にとってはご褒美になるな。
「それにしてもテトメロよ、其方も負けず嫌いであるな!」
……?
「いえ…私はそんなつもりは…」
「はっ! 其方は虚言は見抜けても、使う方はからっきしであるな!」
……?
「シャルよ、テトメロは其方の作った魔石に嫉心を抱いておるのだ」
なんと!
テトメロさんが嫉妬!
やった!
「………龍王様、後でお話がございます」
「無視する!」
「しないでください」
龍王もいい臣下を持ったな。
ー
昼食後。
早くもテトメロさんと訓練だ。
場所は龍王と戦った修練場。
「では、一緒に魔術を撃ちましょう」
変わった教え方だ。
俺の授業では見せてから撃たせる。
一緒にやると、何か違うのだろうか?
だとしたら参考になるな。
「水の御業にしましょう」
「はい」
いきなり蒼級だ。
その魔術は既に十分使えるのだが、これも参考にしよう。
「では…」
何も無い方向に体を向ける。
そして、同じ方向に掌を向ける。
「「 『水の御業』!! 」」
同時に水で形成された龍の手が勢いよく放たれる。
案外分かるものだ。
テトメロさんの方が精錬されている。
「ふぅ……流石ですね、テトメロさ…」
テトメロさんの顔を見る。
彼女は顔は「私の方がすごい!」と書かれている。
凄く嬉しそうなドヤ顔だ。
龍王の言っていた『負けず嫌い』というのは本当だったらしい。
ハッキリ言ってムカつく。
この顔を今すぐ悔し顔に変えてやりたくなる。
剥いて、泣かせてやりたい。
だが、そんなことが出来たらこんな顔をされていない。
ここは素直に負けを認めよう。
「テトメロさんって大きくて綺麗な魔石……作れますか?」
「なっ…!」
ガハハハハ!
口が滑ったああぁ!
「いや、ただの興味本位です」
「…………私に虚言は通じませんよ?」
あ、やべ。
「…………………魔術って魔力量以外に上達方法ってあるんですか?」
華麗に話を逸らす。
たしか、テトメロさんは万言の審判者とか言っていたな。
この人に嘘は通用しないらしい。
ちっ
「……シャル様は普段どういった訓練を?」
テトメロさんも追求せずに話を進めてくれる。
「ただ使ったり、そこから色々調節したりしてますね」
「でしたら、実践を積むのが良いでしょう。使用するのみでは上達に難儀するでしょうから」
実践か。
今まで俺はほとんどしてこなかったな。
レノアーノでは敵と呼べる人がいないし、蒼級なんて向けたら殺人になりかねない。
というか、なる。
「では、これからは実践していくんですか?」
「ええ、そうなります」
テトメロさんと模擬戦ってことか。
「では…」
テトメロさんが俺に向き直り、笑みを浮かべる。
「よろしくお願いしますね」
こうして、俺の特訓が始まった。




