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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
33/150

龍王 対 シャル ー存在証明ー

龍王との戦い。

ある程度の距離をとり、再度向かい合う。

俺たちの後ろには、それぞれ見物人がいる。


彼女たちの前で醜態は晒せない。

せめて善戦くらいはしてみせる。


俺だって結構強くなったんだ。

1歳から魔術の訓練をしてきたし、毎日の練習は欠かしていない。

500歳以上の龍王からしたら、俺の魔力なんて微々たるものなのかもしれない。

だが、それでもやるしかない。


俺は着ている上着を脱ぎ、それを高くに放る。

消し炭色のベストに、白シャツの姿になる。


横目に俺の上着がマオに被さるのが目に入る。

申し訳ないと思ったが、彼女がそれを羽織りだしたので何も言わないことにした。


「ほう…」


龍王は俺の動きを見て1つだけ呟いた。

そして、自らも羽織っていたマントを勢いよく脱ぎ捨てた。


その動きは俺よりも大仰で、魅力的で、ここで1つ負けた気がした。

隠れていた身体はかなり逞しく、筋骨隆々としている。

服越しでも筋肉のラインがはっきり分かる程に。

また負けた気がする。


だが、怖気付くわけにはいかない

そこだけは負ける気は無い。


「それでは………」


開戦の合図はテトメロさんがしてくれる。

俺は腰を落とし、両手に魔力を込める。


「始めっ!」


合図と同時に『岩柱(ロックピラー)』を発現させる。

何本もの太柱が龍王目掛けて放たれる。

津波のように放たれたそれは高い魔力を込めて、速さと頑丈さを兼ね備えさせた。


轟音と共に命中したのを確認する。

だが、この程度で龍王が倒れないのも知っている。

だから追い打ちをかける。


「焼けッッ!」


土煙で正確な場所は分からないが、移動した気配がない。

龍王の元いた場所に『炎柱(ファイアピラー)』を起こす。

天井まで届くその炎にはあまり魔力を込めていない。

これは目隠しの意味で使ったからだ。

それに、龍王は髪が赤いから炎に耐性を持ってそうだしな。


風を起こして龍王の背後と思わしき場所に高速で回り込む。


先程の岩柱は役目を終えて消滅している。


「囲め」


そして、炎柱を囲むように岩を空中に置く。

かなり硬く、かなり鋭くしたもの。

それを高速回転させながら発射する。

寸分の違いも無く、同時に発射されたそれは炎柱を通り過ぎると、時間差で炎に大きな穴を開ける。


炎柱が消え、龍王が姿を現す。


「いやはや、種元()が異常ならその種火()もまた異常とくるか」


そいつはピンピンしていた。

腕を組んで、俺に笑いかけていた。


「何が異常だ。あんたの方がよっぽどだろ」


汗が流れ、鋭い目付きで龍王を睨む。

あれだけ食らって平気なら俺に勝ち目は無い。

本気で魔力を込めて、本気で撃った。

なのにあいつは笑っている。


「余も愉悦の限りを尽くしたが……やはりテラムンド。惰気(だき)を感じさせぬその身持ち…」


龍王は言葉を止め、俺と目を合わせる。


「余の臣下に降る気は無いか?」


おいおい。

こんな時に仕事の勧誘か?

舐められてるのが癇に障るが、いつでも冷静にいられるのが俺の長所だ。


「残念だが、俺はエミリー以外のやつに与するわけにはいかないんでね」


これは絶対だ。

エミリー以外の下なんてなんの価値も無い。


「ほう、では余興を続けるとしようか!」


龍王はそう言って、魔術を使用した。

右手を振り、それを追うように炎が零れる。

その瞬間、魔獣が召喚された。


全身に炎を纏い、恍惚とした光を放っている獣。

大きく反った牙に、太く、長い鼻。

不動を連想させる体躯は何者にも屈しない気高さを感じさせる。


そいつはマンモスだった。

龍王に跨られた巨獣。


あまりの精悍(せいかん)さに驚くが、これは俺の知らない魔術ではない。

蒼級魔術だ。

蒼級までなら対処出来る。


「はっ!」


龍王の掛け声と共に走り出してくるマンモス。

その巨体とは裏腹の速さに一瞬たじろいでしまう。

だが、風魔術を使えば避けられる。

まだ避け┈┈┈┈


「ッッ!」


俺の視界は炎で埋め尽くされていた。

マンモスの体躯が、俺の髪を掠めて通り過ぎる。


避けたと思ったら、まさかの速度で第二撃がきたのだ。

危うく直撃しかけた。

咄嗟に固定魔術で身を守ったのがよかった。


「ほう、奇怪な魔術だ」


龍王に固定魔術がバレた。


風魔術で距離をとり、深呼吸する。

さっきの攻撃で分かったことがある。

龍王はあの魔術にそれほど魔力を込めていないということだ。


本来の魔力であそこまで近づかれたら火傷している。

一先ず、俺を殺す気が無いのは分かった。


呼吸を整えたら、今度は俺から突進する。

遅れてマンモスも動き、俺の速度も相まって、急速に近づいてくる。


真っ直ぐに巨体が向かってくるのはやはり怖い。

俺は固定魔術で自分の身を守る。

角ばったものではなく、曲線を描いたものでマンモスの力を流す。


そして、がら空きになった体躯を手で触れる。

熱いが我慢できる。

俺はそこに大量の魔力を込めた。


「覆え」


その瞬間、氷の波が獣を覆った。

それと同時に、急速な温度変化によって、視界が水蒸気に包まれる。


恍惚とした光はもう見えない。

巨体な影も既に無い。

だが、そこにはまだ1つの影が残っている。


「見事だ。シャル・テラムンド」


息一つ乱していない龍王。

氷は龍王ごと飲み込んだはずだが、一切の痛痒も感じていないように思える。


「終局も近づいてきたな」


龍王はそろそろ終わらせる気らしい。

だが、それをへし折ってこそ格好がつくってものだ。


「┈┈┈┈?!」


一瞬にして龍王が俺の目の前にくる。

俺は咄嗟に固定魔術で自分を囲う。

間一髪で龍王の拳を防げた。

そして、お返しに岩柱を龍王の背中目掛け大量に生成する。


「なんと!」


龍王が驚きの声を上げる。

何に対してなのか考える暇は無い。

俺は固定魔術を解除し、風魔術で空中に上がり、状況確認をする。


龍王は岩に埋もれ、横目に見物しているマオが映る。

この国に来てからマオのことがやたらと目に入る気がする。


地面に着地し、気がついた時には龍王が目の前にきていた。

俺は右腕を薙ぎ払うように動かし、炎で壁を作る。


「貫け」


俺は炎の壁越しに光の柱を放つ。

形容し難い音と共に幾つもの光が伸びる。


炎も光も消え失せ、龍王の姿が顕になる。

未だ無傷の龍王の姿が。


スっと龍王の手が俺の額に伸びる。

手が触れると同時に意識が遠のいていく。


倒れゆく体。

遠のいていく意識の中で、俺は感じていた違和感を思い出す。

薄れゆく視界に写ったマオ。

俺の愛しい彼女。


俺は後悔する。





マオは強い男に惚れる。





ーマオセロット視点ー


シャルが倒れ、龍王の腕に支えられる。

分かってはいたが、シャルが負ける姿は見たくない。


「テトメロ、シャル・テラムンドに部屋を()てがってやるのだ」

「畏まりました。皆様もお部屋をご用意しております」




テトメロとやらに部屋に案内される。

あまり王宮の部屋と変わらんな。


ベッドに座る。




……おかしい。

下腹部に何も感じない。

なぜ私はこんなに冷静なんだ。


今の気持ちを考える。


私は強い男が好きだ。

シャルも強いから惚れた。

飛竜を倒したから惚れた。

それ以前のあいつには何も感じなかった。


だから、より強いやつに惚れるはずだ。

シャルを忘れて、龍王の元に行くはずだ。


なのに、私は分からない。

私には分からない。


頭を使うのは苦手だが、想像してみる。



龍王と交尾をして子供を産む。

龍王は私と、私の子供を撫でてくれる。



シャル以外が私を撫でて…


シャルは私を撫でなくて…


シャルの「好き」が聞けなくて…


シャルに「好き」と言えない…


シャルに抱きしめてもらえない…



…………?


気がつけば、手が濡れていた。

脚も濡れていた。

視界がぼやけているのに気がつく。


…………こんなに出るものなのか。


……わかった。


私はもう、シャルの女なのだ。

シャルが近くにいてくれないと我慢できない。

シャルに撫でられないと嫌だ。

シャルに愛されないのを想像するのが辛い。


今すぐシャルに会いたくなった。

シャルに愛してもらいたくなった。




扉を開け、シャルの元に向かう。



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