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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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自己紹介 ー二番手ー

『竜滅ぼし』


龍王にそう言われた。


俺はすっかり忘れていた。

数多くの竜を倒してやっと手に入る称号、『竜滅ぼし』。

俺がその持ち主だということを。


俺は必死でここから逃げ出す方法を考える。

彼女3人を連れて目の前にいる世界最強の存在から逃げる方法。


無理だ。


ならば、一か八か戦うか?

それこそ無理だ。


ならどうする…

どうすればこの3人を守れる?


と、俺が返事をしない内にも龍王が動く。

妙に緩慢な動きで玉座を立つ。

龍王の一挙手一投足に神経を研ぎ澄まさなければならない。

次の瞬間に首が飛んでたとかは嫌だ。


俺の全神経を注いだ目が、龍王の口が動くのを捉える。

取るに足らないその動きさえ、俺には恐怖の要因になる。


「よくやった!」


…………は?

今、あいつ…


身体が固まる。

てっきり戦闘になるかと思ったら賞賛された。


龍王は満足そうな笑みを浮かべ、俺を見据えている。

同族を殺めたやつを何故褒めるのか分からない。


「シャル・テラムンド、其方は我が国に仇なす竜。飛竜を討伐して回った! その功績、余からも褒誉(ほうよ)してやろうではないか!」


理由が分かった。

どうやら、あの忌々しい飛竜は龍王国でも同じらしい。

よかった。

マジで死ぬかと思った。


「龍王陛下のお言葉、有難く頂戴致します」

「うむ!」


俺は左手を胸に置き、優雅に辞儀をする。

未だ小刻みに体は震えているが、きちんと立っていられる。

彼女たちに気づかれていないかだけが心配だ。


「龍王陛下、我らレノアーノ王国からも感謝の献上品を用意しております」


頭を下げながら、用意していた言葉を発する。

そして、献上品を持ってきてくれたメイアさんに目をやる。

献上品はワゴンで持ち込まれ、中身が見えないように布が掛けられている。


と、メイアさんに目を配る時に3人の彼女の姿が見えた。

全員いつもと同じ姿勢のように思える。

フィルティアは緊張の面持ちだが、しっかりと立ち、マオはいつもの表情。

そして、エミリーもいつものように腕を組んだ仁王立ちの体勢。

いつも通りの…


…………え、なんで仁王立ちなん?

龍王の御前だよ!

お嬢様!


テトメロさんと話していたエミリーはどこに行ったのか。

あれはやっぱり俺の幻覚だったのか?

それともそっくりさんか?

だが、エミリーと同じ可愛くて綺麗な顔を持つ者なんて2人といるはずがない。


そういえば、セリフは覚えたけど礼儀は知らないって言ってたな……

ま、いいや。


メイアさんが前に出て、掛けられた布を外す。


「おお! これは!」


龍王が声を上げる。


晒されたのは六面体の青い宝石。

それは、俺が1日かけて作った割にはカットが施されていない。

だというのに、龍王が声を上げたのは他でもない。

その大きさである。


俺の体の半分もの大きさをもつそれは、自然に生み出される筈が無い代物。

だが、その輝きと光の深さはどこか安心するような、吸い込まれるような魅力がある。


「なんと…」


龍王も顎に手を当てて感心している。

その姿に満足する。


俺が作ったものに世界最強の龍王が感嘆しているのだ。

嬉しくないはずがない。


「シャルが創ったのよ!」


エミリーが言葉遣いそっちのけで、胸を張って声を上げる。

彼女の緊張は既に解れているように見える。


「ほう! 其方が創ったと!」

「恥ずかしながら」


俺がそう言うと、テトメロが龍王に短く耳打ちする。

何を伝えているのか分からないが、その後に龍王が満足そうにウンウンと頷いていたため、悪いことではないように思える。


「それで、なんのために呼んだのよ」


え、ちょっエミリー?


流石にそれは…

俺の緊張を解す魔法が効きすぎたか?

あんなの迷信もいいとこなのに。


「ほう! 聞き及んだ通りの娘であるな! 次代のレノアーノは良き治世になるだろうて!」


龍王は面白そうに声を上げる。

王というのは寛大さが備わっているらしい。

というか、エミリーの傍若無人っぷりは世界の龍王国にまで知れ渡っているのか…


「だが、まずは余の臣下を胸紹(きょうしょう)するとしようではないか」


龍王はそう言って、左手で臣下たちを示す。


赤毛の女性が1歩前にでる。


「あたしはゼラルド! 二つ眼の二龍の一人だ。よろしく頼む!」


ゼラルドと名乗った女性はそれだけで豪快な性格だと窺える。


袴の男性が前に出る。


「同じく二つ眼の二龍が一人、ベノスタシアだ。よろしく頼む」


淡々と述べたその男の印象は質実剛健。

芯の強い印象を受ける。


テトメロさんが前に出る。


「龍王様の耳にして、万言(ばんごと)の審判者を務めさせて頂いております、テトメロです。以後お見知りおきを」


テトメロさんが丁寧に頭を下げた。


赤黒い肌の男が前に出る。


「初めまして。龍王様の血にして、心動の門番を務めております。プラネルセンと申します。龍王国を是非、楽しんでお過ごしくださいませ」


そう言って、優しく微笑む男は穏やかそうな印象を受ける。

だが、その赤黒い肌がそれを受け付けさせない。

暴力的な見た目とは逆の性格に、少しむず痒さを感じてしまう。


最後に、仮面の女性が前に出るかと思ったが、彼女は龍王に顔を向ける。

すると、龍王は彼女を見ずに1つだけ頷き、それを合図に仮面を外す。


彼女の素顔が晒される。


それは虚ろな目をしていて、仮面と同じような涙のメイクがされている綺麗な女性だった。

だが、血の気の引いたような白い顔に、幸福が抜け落ちた目は

見ているとこっちまで不幸が襲いかかって来そうだ。


彼女が前に出る。

そして、何故か俺を見るとニヤリと笑った。


「どうも! 私は龍王陛下の口にして、饒飜(じょうはん)の混濁者を務めているユノナキです! よろしくお願いしますね!」


イメージと違う。

体の動きが多く、にこやかに笑う彼女は第一印象とは大きくかけ離れた性格だった。

余りの正反対さに体が固まってしまう。


「さて! 自交(じこう)も済んだ。先の質問に答えようではないか」

「ええ」


エミリーの腕を組んだ姿に、龍王もまた腕を組む。


「ここに招待したのは、レノアーノの嬢とテラムンドの嫡子(ちゃくし)とは顔合わせをしたくてな。それが一つ」


そこで龍王はニヤッと笑った。

俺の方を見て。


「そして二つ、『竜滅ぼし』の称号持つ者。正に龍王たる余と一戦交えるには最高の脚本ではないか!」


やだ。


大仰に両手を広げて、俺を真っ直ぐ見ているけどやだ。


これ断ったら駄目?

断ったら処刑されるんだろうか?

流石にないと思うがやだ。


「ふんっ、(うち)のシャルは強いわよ?」


エミリーィィィィ!!

なに本人そっちのけで進めてんの?


俺はマオに助けを乞う目を向ける。


「シャル、本気で戦える相手だぞ」


マオォォォォォ!

まじ勘弁してください。


フィルティア、君なら俺を助けてくれるはずだ。

彼女を見る。



…………あ、駄目だ。

だって、目が凄いキラキラしてる。

絶対に期待してる。


まあいいさ。

俺には血を分けた妹がいる。

リオンは俺の気持ちを分かってくれているだろう。


リオンたちけてー


「しゅっ! しゅっ!」


リオンは効果音を口に出しながらシャドーボクシングをしている。

可愛い動きに肩の力が抜けるが、そうじゃない。


俺、今からサンドバッグになりに行くんだが?

彼女たちの前で醜態晒したくないんだが。


「うむ! 修練場で待っておるぞ!」


龍王はそう言って、テトメロに巻物を渡され転移していった。


やだなぁ……


「ルーシャー!」


と、何処からか声がした。

その方向を見ると、他の人達が席を外している中、1人だけ俺たちの方に走ってきた人物がいた。


仮面を着けていた女性。

先程、ユノナキと名乗っていた人だ。

ご機嫌の面持ちでこちらに走ってくる。


「ルーシャ! 陛下と戦うってすごいね!」


そう言って、俺の手を両手で掴み、ブンブンと振られる。

いきなりの事で頭が追いつかない。


「あの……僕はシャルですが…」

「うん! だからルーシャ!」


ん?

どゆこと?


「あだ名ですか?」

「そう!」


そうらしい。

初対面の相手にあだ名とは…

少し前の俺だったら「気があるのか?」と勘違いしてしまっただろう。

それほどまで好意的な表情だし、ボディタッチが激しい。

というか、身長高いな。


「ちょっと!」


と、隣からエミリーの声がした。

声を張り上げて、少量の怒気を含んでいる。


「シャルにそういうことしないでくれる!」


腕を組んで発声する彼女はやはり怒っていた。

不満気な顔を向けてきている。


「そういうのって?」


ユノナキさんがポカンとした顔で問う。

すると、エミリーが俺をユノナキさんから引き剥がし、俺の腕に抱きついた。


「こういうのよっ!」


言ってる彼女の顔は赤い。

自分でやって照れているのだ。

やはり愛おしい。


「ああ! ごめんね、そういうつもりじゃなかったんだ…」


申し訳なさそうにするユノナキさん。

俺は別に嫌ではなかったが…

エミリーはしょうがないな!


「ところで、ユノナキさんは案内役なんですか?」


てっきり修練場まではテトメロさんがやってくれるのだと思っていた。


「そうだよ。私がメロちゃんに頼んでね」

「……理由を伺っても?」


わざわざ頼んでまで案内をする理由が見当たらない。

この人の第一印象のミステリアスさは俺から抜けていない。


「ルーシャが気になったから……かなっ」

「「「 っ! 」」」


その場にいた全員が驚いた。

なんでいきなり告白されたんだ?

今まででそんなイベントは無かったはずだが、俺はそういう能力持ちなのだろうか?


「私の親友に名前が似ててね」


…………あっ、はい。

うん。

知ってた、知ってた。

あー、そっちのね?

あいつか。

あいつに似てたのか。


まあ、さすがに俺も4人目は体がもたない。

だから別になんとも思わない。

そう、なんとも思わないのだ。


「ルーシャさん…って誰でしょう」


少しだけ気になったため問いかける。

決して気を紛らわすことが目的ではない。


多分、『ルーシャ』って人はあの中にいたのだろうが、この人はあだ名で呼ぶため、少々分かりにくい。


「ああ、本名だよ。大親友はちゃんとした名前でよぶの!」

「そうなんですか」


ということは、あの中の人ではないらしい。

こんな人の大親友か…

少し気になるな。


「さ、修練場に案内するよ!」




修練場までの道中、ユノナキさんが話を盛り上げてくれる。

この人は見た目とは裏腹に饒舌だ。

今もエミリーの隣で話してくれている。


「エミエミは王宮で何してるの?」

「……勉強よ」

「へーっ、マオマオとフィッフィーと一緒に?」

「……ええ」


エミリーはユノナキさんの話し方に少し気圧されている。

人生経験の長い俺ですらよく分からないんだ、当然だろう。


ユノナキさんはマオのことをマオマオと呼び、フィルティアのことはフィッフィーと呼ぶ。

リオンのことはリンリンだ。


「お兄様、何か考え事ですか?」


リンリンが話しかけてくる。

俺は先程から口を開かずに、ずっと考え事をしている。


「まあ……少しな」


特に悩むことはないのだが、物思いに耽りたくなる。

俺の知らないところで何かが進んでいる感覚。


その肝心の何かが分からない。


「はい、ここが修練場だよ」


遂に着いてしまったみたいだ。

俺が敗北する場所に。


ユノナキさんが扉を開ける。


その先には白い空間が広がっていた。

その空間は殺風景で、影が存在しておらず、かなり広い。

戦闘には何も問題無さそうだ。


「おう! 来たか!」


龍王は部屋の中央でストレッチをして待っていた。

世界最強の存在がストレッチしている。


その後ろには龍王の配下たちが揃っている。


俺は脚が震えるのを堪えながら歩き、龍王に向かい合う。


「陛下、お気の毒ですが僕の彼女の前です。負ける気はありません」

「ほう! であれば余も臣下の前だ。良き見世物を披露するとしよう」


こいつ…

もう怒った。

絶対に一矢報いてやる。


一応、まだ龍王たちが俺を殺そうとしていることも視野に入れている。

手合わせと称して『竜滅ぼし』の俺を抹殺するのが目的かもしれないからな。


万が一にでも殺されかけるんだ。

本気で挑ませてもらおう。







この後、俺は後悔をする。


絶対にしてはいけない後悔を。



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