痴話喧嘩 ーそれでもやるしかないー
俺もフィルティアも片手に持ったベリーをパクパクと食べながら露天街を歩く。
今日はフィルティアとデートだ。
「フィルティアは好きな食べ物とかありますか?」
当たり障りの無い疑問を投げる。
「うーんと…………」
……?
やけに深く考えているな。
そう思って彼女の方を見ると、何故か軽く蹲ってしまっていた。
「ど、どうしました?」
なんでそうなったのか分からない。
変なことを聞いただろうか?
突然の腹痛かもしれない。
俺は解毒魔術をかけて、様子を見る。
「だ……大丈夫だよ」
未だ赤い顔で笑いかけられる。
腹も抑えていないし、どこか痛そうにしている訳でもない。
ますます分からない。
「顔が赤いですが…」
「これは………もう一回質問してくれる?」
やだ!
この子怖い!
言動の繋がりが全く読めない。
フィルティアのことがこんなに理解できないのは初めてだ。
「好きな食べ物って……ありますか…?」
引きつった顔で先程と同じ質問をする。
俺に何をさせようというのか…
「えっとね………」
赤い耳を弄りながらチラチラしてくる彼女。
これはとんでもないことを言われかねない。
俺はフィルティアのことならなんでも受け入れる所存だ。
覚悟を決めた。
「シャルが好き」
…………は?
何言ってんだこいつ。
「どういうことでしょう…?」
「えっと……シャル…おいしいから…」
上目遣いでこちらを見てくる彼女。
俺がおいしい…
好きな食べ物…
あ!
そういうことか!
「なら僕もフィルティアが大好物ですよ」
俺はフィルティアの耳を弄りながら笑いかける。
全く、夜のお誘いならそう言ってくれればいいのに。
うちの彼女は可愛くて堪りませんな。
「えへへぇ」
やだ!
この子可愛い!
今すぐ抱きたい!
子作りしたい!
「誰かぁあ! そのネズミ捕まえてくれぇ!」
イチャイチャしていると、どこからか男の叫び声が聞こえてきた。
俺たちの時間を邪魔するとはいい度胸じゃないか。
死ぬ覚悟はできているのか問いたいところだが、仕方ないから助けてやろう。
俺は辺りを見回す。
と、露天街の脇に毛繕いしてるネズミを見つけた。
多分あいつだ。
そのネズミは人の顔より一回り小さいくらいの大きさで、薄ピンクの毛色だ。
その奥からは先程の声の主と思われるおっちゃんが走ってきていた。
「ちょっと捕まえて来ますね」
「えっ?」
素っ頓狂なフィルティアの声を聞き、ネズミのところへ向かおうとする。
だが、服の裾を掴まれて身動きできない。
「…どうしました?」
「別のとこ行こうよ…!」
フィルティアの焦った声。
俺が何処かに行くのがそんなに心配だろうか?
大丈夫さ。
俺は何処にも行かないよ。
「大丈夫です。スっとやってパッで終わりますから」
「いいからっ…!」
裾を引っ張られる。
「待てぇぇぇええい!!」
おっちゃんのデカい声がして、それを聞いたのか、ネズミがこちらに向かって走り出してきた。
「ひゃっ!」
それを見たフィルティアが悲鳴を上げる。
俺は何故彼女がこんな反応をするのか分かった。
フィルティアはネズミが苦手なんだ。
そりゃ大変だな。
そう思っている間にも、ネズミは目の前までやってきていた。
ここまで近くに来られたら捕まえない訳にはいかないだろう。
「ぎぇいっ!」
ネズミを片手で捕まえる。
変な声を上げるネズミも、首根っこを捕まえるとかなり大人しくなった。
「ひゃあああっ!!」
だが、大人しくない子が1人。
「いやぁ……坊主、たすかっ┈┈┈┈」
「シャルっ! 離して! 早く離して!」
フィルティアだけが、この中で1番動揺していた。
彼女は『離して』と言いつつも、俺の裾を力強く引っ張っている。
マジモンのパニックだ。
そんなことをされたら俺も普通にはしていられないな。
俺はネズミを持っている手をピンと伸ばし、別の手をフィルティアの背中に回す。
「ぎゃあああ! ノーポイズンかな?! ノーポイズンかな?!」
「知らないよ!! シャル! いいから早く離して!! シャル!」
ははっ、おもろ。
「ぎゃぁぁあああ!」
俺はネズミを上に放った。
「ひゃぁぁああっ!!」
その日、フィルティアは口を聞いてくれなくなった。
ー
風呂に入ってサッパリし、俺は自室までの廊下を歩いていた。
日は落ちたというのに、フィルティアはまだ口を聞いてくれない。
まさかネズミ1匹でこんな事になるとは思わなかった。
あの後もデートは続いたのに…
龍王の献上品を作ろうかなと思いつつ、自室の扉を開ける。
欠伸をした目に部屋のベッドが映る。
そこには今までいなかった人影があった。
うつ伏せになっているフィルティアがそこにいた。
枕に顔を埋めて、明らかにいじけているのが分かる。
一瞬、部屋を間違えてしまったかと思ったが、そんなことはない。
女子部屋と男子部屋は離れているしな。
「あの……今日はすみませんでした…」
今日で何度目かの謝罪をする。
「…………」
フィルティアからの返事は無い。
嫌われていないのは分かっているが、機嫌が悪いのも確かだ。
どうしたものか…
俺は床に胡座をかいて座り、フィルティアを見ながら思考を巡らす。
彼女は怒っている。
だが、俺の傍に来ているため嫌われてはいないと思う。
対話の余地があると思いきや、話しかけても返事は無い。
ううむ…
少し賭けをしてみよう。
俺は立ち上がり、フィルティアの元へと歩み寄る。
ベッドの縁に片膝をかけて、フィルティアの肩を優しく揺さぶる。
「フィルティアー、少し話をしましょう」
「んー…」
フィルティアが呻き声を上げる。
そして、肩に置かれた俺の手を掴んで、自分の頭にポンと乗せる。
俺は賭けに勝ったことを確信する。
これでペシッとかされたらマジ泣きしてたところだ。
フィルティアの内心も分かった。
今日はこのまま寝るとしよう。
「シャル…」
と、フィルティアが枕から顔を覗かせた。
その目はいつもの彼女より鋭く俺を捉えていた。
「ここで寝ちゃだめ」
えっ…
心得たりと思ったらまさかの仕打ちだ。
「一緒に寝てくれないんですか…?」
「……うん」
デレたが駄目なようだ。
今日のフィルティアは何を考えているのかよく分からないな。
「……分かりました」
なるべく寂しそうな雰囲気を出しながらかけていた脚を下ろし、フィルティアに背を向けて床に寝そべる。
というか、冬なので寒いんですが。
震えるほどではないが、何かに包まりたくなる寒さだ。
部屋を魔術で暖かくしてもいいが、ずっと魔力を流さなければならないため面倒くさい。
抱き枕的なものを作れればいいのだが。
俺はそう思い、固定魔術で空気を纏め、その中に熱を込める。
即席抱き枕の完成だ。
うむ。
我ながら良い抱き心地だ。
初めて試したが、その気になれば柔らかく固定することも可能ということが分かった。
手触りはゴムのようで、思いきり抱きしめても割れないときた。
これは最高のものが出来てしまったかもしれない。
これならよく眠れそうだ。
「シャル…」
と、フィルティアが話しかけてきた。
「はい、なんでしょう」
抱き枕ごと回って、フィルティアの方を向く。
彼女は何故か恨めしげな目で俺を見ている。
「……なにそれ」
「抱き枕です」
抱き枕を抱きしめて答える。
それと同時にゴムの擦れる音がする。
彼女はその音を聞くと、余計目を細めて不機嫌そうな顔になる。
「どうしました?」
「…………私以外も抱くんだ」
………え、めんどくさっ
優しくしたら跳ね返されて、放っておいたら非難されて…
今日のフィルティアは構ってモードなのか。
そういうところもまた愛おしい。
面倒くさ可愛いというやつだろうか。
「僕はフィルティアに嫌われているので…」
悲しげな演技をする。
面倒くさい子には面倒くさいやつを見せてやるのだ。
「別にっ……嫌ってなんか…」
なかなか好感触な反応。
普段は優しいフィルティアだ。
こちらが悲しげな態度になれば、そういう反応をするのも分かっている。
「フィルティア」
「なに…?」
「そっちに行っていいですか?」
これは俺にできる最大限のデレだ。
これで駄目ならあとは土下座しか残ってない。
「…………いいよ」
勝ったあ!
フィルティアは毛布を捲って、俺のスペースを作ってくれる。
俺は抱き枕をそこらに放って、フィルティアの方へ歩く。
「ん……」
毛布に入り込み、フィルティアを抱きしめる。
体温と毛布の温かさが体を包む。
やはり彼女の方が抱き枕より何倍も抱き心地がいい。
「フィルティア、今日はすみませんでした」
ネズミの件を謝罪する。
まだ許しの言葉を貰ってないからな。
「もうしない…?」
「もうしません」
フィルティアをさらに抱きしめる。
彼女の胸が押し付けられ、体が反応してしまう。
「ん……ならいいよ」
フィルティアも抱きしめ返してくれる。
彼女の細い腕が俺の体に纏わる。
やはり、フィルティアの抱擁は癒される。
ずっとこうしていたい。
お互いに密着状態が続く。
こんなに引っ付きあってたら、そういう気が起きても仕方がない。
体が疼いてきても仕方がない。
健康男児だもの。
俺は回していた腕を下の方へと動かす。
フィルティアの小ぶりなヒップが掌いっぱいに広がる。
うんうん。
相変わらず良い揉み心地ですな。
ペシッ
と、堪能していたらフィルティアに手を叩かれた。
「駄目ですか…?」
「子供はまだ早いでしょ?」
そんなことはない。
早くなんかないさ。
「んん…」
俺は曖昧な返事をしながら、再度フィルティアのお尻を…
「シャル」
「すみません」
怒られた。
でも揉みたい。
俺は根気強くフィルティアの腰を撫で回す。
ズボンから手を入れて、直接撫でる。
フィルティアの腰はやっぱり細くて、温かくて、最高だ。
フィルティアは俺の行動を咎めない。
これはえっちなことじゃない。
ただ、これでフィルティアが欲情してくれないかなと期待しているだけだ。
「シャル…」
と、呼ばれてしまった。
だが、いくら注意されようと俺は止まらない。
これはえっちじゃない。
「なんでしょう」
だからすっとぼける。
「…………そんなに…したいの…?」
えっ……!
やばい!
そんなこと言われたら余計やばい!
「……はい」
俺は声音の制御も上手くなったと思う。
こんなに興奮しているのに、悲しげな声を出せるようになった。
フィルティアも声には出さないが、本当は興奮しているのかもしれないな。
フィルティアは背中に回していた腕を下に移動させ、俺の腰に手を置いた。
「本番はだめだけど………その……してあげようか…?」
あーっ、もう!
そんなん言われたら駄目なんだって!
我慢できなくなるんだって!
絶対気づいてる!
絶対俺を虐めて楽しんでる!
「駄目です……我慢できなくなります…」
フィルティアの吐き出す息が余計俺の心臓を速めている。
今すぐフィルティアを剥きたい。
可愛い顔を見てみたい。
温かみを感じたい。
と、フィルティアの体がゴソゴソと動く。
「フィルティアっ…! ……駄目ですって…」
彼女は自分の脚を俺の後ろに回し、俺の体を自分の体で擦ってくる。
フィルティアが動く度に快感が伝わってくる。
マジでやばい。
これは本当にやばい。
「フィルティアっ……」
「だめ……我慢っ……して…」
絶対できない。
というか、これってお誘いじゃないのか?
お誘いだよな?
俺はきちんと駄目と伝えたし、その上でフィルティアは行動している。
つまり、大丈夫ってことだ。
それなら仕方ない。
彼女がしたがっているんだ。
ならばしょうがない。
俺はフィルティアを無理やり仰向けにし、組み敷く体勢をとる。
フィルティアの顔を見ると、やはり彼女も顔を火照らせ、その気になっていた。
「っ……フィルティアが…悪いんですからね…」
荒い息を出しながら言う。
もう、俺は感情丸出しの獣になっていた。
「…………するの…?」
その言葉に、俺は完全に出来上がった。
フィルティアは腕を放り、抵抗の色を全く見せない。
今夜は眠れる気がしない。




