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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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途中の生活 ー唯一の剣ー

予定通り、コロシアムに向かうことにした。

宿を出て大通りから歩きでそこへ向かう。


街は活気で満ち溢れている印象を受ける。

レノアーノも負けてはいないが、人がみんな笑顔で活き活きして、歩いているだけでこちらも浮かれてしまう。


街ゆく人たちの服装は全員どこか露出している箇所がある。

その箇所は千差万別で、露出度合いもそれぞれ違った。

だが、共通している点が1つ。

それは、皆自分の鱗を露出させているということ。

胸だろうと背中だろうと、その鱗を誇らしげに晒している。


「シャル! あれ竜が飛んでるよ!」


フィルティアが興奮の面持ちで指を指した方向には、確かにちっちゃい竜が飛んでいた。


「お、焼き鳥にでもしましょうか?」

「え…?」

「冗談ですよ」


フィルティアの真に受けた顔。

さすがにちょっと飛竜に似てるってだけで殺生はしないさ。

俺もそこまで野蛮にするつもりは無い。

龍王国内では。


「ちょっと、一応私たち招待されてここに来てるんだから、もうちょっと品位良くしてちょうだい」


騒いでいたら、エミリーに注意される。

エミリーに…

え?!

エミリーに?!


「……! 見てシャル! あそこドレイクよ! ほらシャル見て!」

「ちょ、エミリー騒ぎすぎですよ」


よかった、いつも通りだ。


服を引っ張ってまで興奮するお姫様。

その顔が向いている方向には赤鱗をもつ蜥蜴がいた。

人の腕ぐらいある大きさの蜥蜴を女の子がペットのように抱いている。

その隣の母親と思しき人もその蜥蜴を撫でている。

ドレイクというよりリザードだな。


「シャル、シャル」

「はいマオ」


今度はマオにも呼ばれた。

マオもテンションが上がっているな。

街人の肉を見ているのが原因だったらどうしよう。


「あれは武器屋じゃないか?」


と、指さされたところは肉屋ではなく、確かに武器屋だ。

入口に上半身だけの立派な鎧が置かれ、傘立てのような入れ物には多種多様な武器がある。


「お、ほんとですね」

「見てきていいか?」

「はい、僕もいきますよ」


俺もこの世界の武器は王宮騎士たちのものしか見たことがないからな。

龍王国の武器とやらは気になる。


「らっしゃ…」


店主らしきおっちゃんは首に土色の鱗があり、俺たちを見ると冷やかしと判断したようだ。


中は思っていた通りの内装だった。

棚には多種多様な武器が並べられており、壁に飾られているものは高そうだ。


「いっぱいあるね、お兄ちゃん」

「迷うな」


いつの間にかついてきたリオンに返事をする。


「これ重たそうだね」

「竜人は力持ちらしいですからね」


フィルティアにも返事をする。


「これなんて名前かしら」

「名前なんてあるんですか?」


エミリーにも返事をする。


「そこは『銘無(みょうな)し』のところでっせ」

「え……?」


『銘無し』という初めて聞く言葉。

店主はエミリーの服装を見ると冷やかしではないと気づいたらしい。

だが、それよりもフィルティアの反応が気になる。


「どうしました? フィルティア」


彼女に心配の声をかける。

彼女が何故そんなに血の気の引いた顔をしているのか気になる。


「え……いや…『みょうなし』って…」

「ああ、嬢ちゃん長耳族(エルフ)の子かい?」

「…はい」

「それは申し訳ないことをしたなぁ…」


ん?

どういうことだ。

話が見えないな。


「どういうことですか?」

「ああ…んん……嬢ちゃんがいるとこでは説明しにくいな…」


コンコンと鱗を指で(つつ)きながら困った顔をする店主。

フィルティアが困るようなことはなるべく知っておきたい。

知らないうちに地雷を踏むのはもうごめんだからな。


俺はフィルティアの背中を摩ってから店主の元に歩く。


「どういうことですか?」


カウンターで前屈みになり、内緒話の姿勢をとる。


「長耳族のとこだと『名無(みょうな)し』っていうのがあってな、読みは一緒なんだが、武器屋の界隈だと『銘』って意味で、嬢ちゃんのとこだと『名前』って意味なんだよ」

「ほう…それで?」


それが何故フィルティアのあの反応に繋がるのか分からない。


「長耳族の世界だと、それは大罪人とかに与えられる極刑なんだよ。名前を奪うっていう陰気なやつがな」

「なるほど」


名前を奪われるのがそんなに辛いことなのか。

俺からしたら良心が痛むだろうが、大して気にしない気がする。

だが、フィルティアの反応を見ればどれだけ(むご)いことなのか分かる。

俺の中に『みょうなし』という禁句が追加された。


「ありがとうございます。お礼に追加でなんか買いますよ」

「そりゃありがとよ、坊主」


店主に礼を言って、フィルティアの元へ歩く。


「大丈夫ですか? フィルティア」

「うん、びっくりしただけだから」

「そ! ならよかったわ!」


エミリーの元気な声。

この声を聞くと、自然と俺もつられてしまう。


「ようし! なら今回はみんなの好きな武器買っちゃいますか!」

「いいわね!」


俺も武器を買うということで舞い上がっている。

何せ今まではずっと魔術で、しかも召喚したやつが勝手に倒すだけだったからな。

自分でやってる感が無かったのだ。


「シャル」


と、早速マオから声がかかった。


「はい」

「これはどうだ?」


マオが親指でさしたのは壁に掛けられた人の身長と同じ長さのハルバード。

見ただけだ分かる暴力的な形姿(なりかたち)のそれは普通に怖かった。


「なかなかいいですね」

「ん、これにする」


そう言って、マオはハルバードに手をかけようと…

えっ、ちょ!


「嬢ちゃん危なっ┈┈┈┈」


ヒョイっ


店主の焦った声が簡単な動作で途切れる。


「む? どうした?」


当の本人は何事もないような顔をしている。

なんという膂力だ…

獣族恐るべし…


「いえ……さすがマオですね」

「……?」

「お兄ちゃんっ」


と、今度はリオンだ。


「なんだい、未来の勇者よ」

「勇者はお兄ちゃんでしょ。で、私何がいいかな?」


さてはお兄ちゃんに意見をお求めですな?

そういえばリオンは戦闘とかはしたこと無かったな。


「んー、防具とかの方がいいかもな」

「んー……ならこれかな」


選んだのはよく見る5角のもので、銀色の面に、その縁には赤が使われている。

その表面には2つの竜翼が彫られており、気高さのようなものが感じられる。


「お、いいな」

「うんっ」


リオンの満足いった顔に満足する。


「シャル、私は何がいいかな?」


と、フィルティアも俺にお求めだ。


「そうですね、フィルティアは弓とかがいいんじゃないですか?」

「そう?」

「フィルティアの弓を引く姿とか素敵じゃないですか」

「…それなら弓にしようかな」


長耳族は弓が得意なイメージがあるが、フィルティアが上手いのかは分からない。

彼女ならなんでも器用に使いこなせそうだが。


「シャル」

「はい、シャルです」

「シャルは何がいいと思う?」


ほう、エミリーもご所望か。

だが、彼女のは全く悩まなくて済む。

エミリーの欲しいものなんて簡単に言い当ててみせよう。


「エミリーはこの剣とかいいんじゃないですか?」


俺は壁に掛けてある一振の剣を指さす。

この店に来た時最初に目に入ったのがこれだ。

左右対称の綺麗な外形に、(つば)と柄は黒く、光に照らされた刀身は斬れ味の良さを表しているようだ。


うん。

エミリーは絶対に剣だ。

間違いないだろう。


「私、剣は持ってるわ」


……まあ、多分そうだろうな。

だと思った。


「剣以外は何か持ってますか?」


エミリーの欲しいものなど手に取るように分かるが、一応聞いておく。

持ってるやつをまた選んでしまったら恥ずかしいからではない。


「剣以外は持ってないわね」

「ほう」


やはりか。

だと思った。


「剣を持ってるなら……これですかね」


俺はさっきの剣の下にあるガントレットを手に取る。

銀に染まるそれは光を反射し、しっかりと守ってくれそうな重厚さがある。


「それにするわ」


その返事を聞いて、俺は手に持ったガントレットを両手に装備する。


そして、エミリーの頬をぷにっとした。


「……なによ」


眉根を寄せて言うエミリーは面白かった。

柔らかい頬が圧せられ可愛い顔になるが、それとは対照的な感情を表に出している。


「ちょっとやりたくなったので」


手を離し、ガントレットをエミリーに渡す。

すると、エミリーもそれを手に()めた。

そして、同じように頬をぷにっとされた。


「……あんまりいいものじゃないですね」

「でしょ?」


硬いものに圧せられるのはあまり心地よくないな。

エミリーには悪いことをした。

だから…


ぷにっ


今度は俺の手でやる。


「どうですか?」

「……いいわね」


かわえー

エミリーの頬は柔らかくて、解すともっと触っていたくなる。



やがて満足して、会計を済ませた。


ある程度店を周り、コロシアムに向かっている。

買った武器は店に預かってもらった。


「よかったのか?」

「ええ、平気ですよ」


バナナを頬張るマオの問いかけに答える。

今回の武器代は俺の懐から出している。

皆王宮を出る時に少なくない金を渡されているが、少しだけ意地を見せたかった。


俺に給料というものは無い。

王宮には雇われではなく奉仕で来ているため、そんなのは出ないのだ。

だが、実家から幾らか仕送りがある。

さすが大貴族だけあってかなりの大金だが、使い道が無くて困っていたのだ。


マオの食べているバナナも人数分買った。


フィルティアも自分の金で何か買っていたか、何を買ったか聞いたところ、はぐらかされた。

多分えっちなやつだろう。

そうに違いない。

フィルティアもお年頃ってやつだ。


さて、俺もバナナを食すとするか。


「シャル、弓ありがとね」


と、食べようとしたらフィルティアが話しかけてきた。


「いえ、愛しの人に奉仕するのは当然ですよ」

「……なら、私もシャルに奉仕しなきゃね」


心臓がドクンと大きく跳ねた。


急にそんなことを言われると驚いてしまう。

フィルティアもだいぶ口説きの腕を上げたようだ。

いたずらっぽく笑う彼女を見ると、今すぐに押し倒したくなる。

だが、ここは公共の場。

そんなことをしたらレノアーノの恥だ。


そうだ、こういう時はバナナを食べるんだ。

バナナを食べれば全て上手くいく。


「お兄ちゃん、あそこの人すごくない?」


バナナを片手にリオンが見ている方向を見ると、そこには翼をもつ竜人がいた。

その翼は畳まれてはいるものの、その勇ましさは隠されていない。

周りの人を見ても、その人に注目が集まっているのは確かだった。


「お、ありゃかっこいいな」

「ねっ」


さてと、バナナでもパクリといきますか。


「シャルなら倒せるんじゃないかしら」


エミリーーーッ!


「不穏なことは言わないでくださいよ。まあ、エミリーもあの人は倒せそうですが」


他の人に聞かれたら嫌な顔をされる会話をする。

皆あの人のことを見ているから多分大丈夫だ。


よし、今度こそバナナを┈┈┈┈


パクっ


……………。


「あの…………マオ?」


俺の目の前にはマオがいる。

俺のバナナを黙々と食べるマオが。


パクっ


………………。


目も合ったはずだし、俺の声が聞こえていないわけではない気がするが、未だに食べ進めている。


パクっと1口食べて、少し咀嚼したらまたパクっと…


「あの……マオ?」

「…………」


その時には、既にバナナは皮だけになっていた。

もぐもぐしているマオはいつも通り凛とした表情だ。

罪悪感など微塵も感じていない顔だ。


「…………すまん、食わないのかと思った」


……え?

俺、声かけたくね?


「全く……僕のバナナは美味しかったですか?」

「うむ、うまかった」


はい、ご馳走様です。

まあ、マオが満足したならそれでいいか。



そうして、俺たちはコロシアムへと向かった。



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