リオンと再会 ー捜してもらいたいー
はあ…
俺は幸せ者だなぁ…
「お兄ちゃんっ!」
現在、俺は休日を利用して可愛い妹との生活を満喫している。
「んー? なんでい、我が妹よ」
「これっ、この服どう?」
扉から顔だけを出していたリオンがひょこっと体を出す。
それはリオンのイメージとは少し違う服。
以前買った村娘コーデだった。
「お、案外似合うな」
「でしょーっ」
元気よく俺の前に座る。
リオンの元気な姿は見ていて癒されるな。
「これなら『バレなさそう』ってか?」
「そのとおりっ!」
「「 へへへへへ 」」
リオンの会話は相変わらずテンポが合うな。
話す内容関わらず楽しい。
「どこか行きたいところできたか?」
「うーーん、服屋とか演劇とか見に行きたいかな」
演劇か。
そういえば、エミリーたちに歴史の勉強も兼ねて劇を見せようと思っていたが、忘れてたな。
リオンも連れて一緒に見るのもいいかもしれない。
「劇とかなら彼女たちと行こうと思ってるんだが、一緒にどうだ?」
「んー、私はいいよ。恋人様たちの前でイチャイチャできないよ」
「ん、なら、2人で見に行こうな」
リオンの頭を撫でる。
「うんっ」
かぁーっ!
妹は何故こんなにも可愛いのだろう。
前世で妹がいるやつは「そんな可愛くないで」とか言っていたが、全くもって信じられんな。
俺とリオンは実年齢が離れているのが原因かもしれないが。
妹といえば、まだ知らされていない弟妹たちがいるかもしれないんだよな。
「リオン」
「ん、なに?」
「妹とか弟がいるって知らされてるか?」
「ううん、まだだよ」
そうかぁ。
俺としては早く知りたいところではある。
早く会って抱きしめたいしな。
「リオンは妹か弟、どっちがいいんだ?」
「んー……よくわかんないかな」
「ほう」
まあ、リオンはこう見えても9歳だからな。
精神年齢は高いが、人生経験は9年分だ。
前世の俺がそのくらいの時は妹とか弟はわかんなかったと思う。
そもそも記憶が無い。
あれ…?
もしかして、こうして話している記憶も、リオンは幼記憶となって忘れてしまうのだろうか?
それは嫌だな。
どうにかして記憶に刻みつけてやらなければ。
「お兄ちゃんは妹か弟、どっちがよかった?」
む?
『よかった』?
自分の事を聞いてるのだろうか。
そんなのもちろん…
「リオンでよかったよーっ!」
リオンに抱きついた。
「へへぇ」
リオンの体はちっちゃいな。
すっぽりと収まる。
この幼い体も今だけなんだよな。
ロウネの体を見る限り、大きく成長しそうだもんな。
と、俺は1つ思い出したらことがあった。
「そういえばリオンって、9年もどこで暮らしてたんだ?」
そう。
リオンは俺が実家にいる間には既に生まれていて、9年間ずっと姿を隠して生きていたのだ。
それを知れればさらなる弟妹に出会えるかもしれない。
「別荘をあちこち回ってたかな。でもここにも来たことがあって、その時に1回お兄ちゃん見たよ」
「まじか」
この俺が妹の目線に気づかないとは…
何たる不覚。
だが、たまに家に来るのか。
なら、偶然会えるとかあるかもしれない。
タッタッタッ
誰かが廊下を走る音がする。
俺たちは同時に扉の方へと顔を向ける。
こんな話をした後だ。
「もしかして…?」なんて思ってしまう。
リオンと顔を見合わせる。
「お兄ちゃん」
「そうだな、妹よ」
いざ、捜索開始だ!
扉を開けて足音が遠ざかった方へと歩みを進める。
長い廊下を突き当たりまで小走りし、そこの曲がり角で顔だけを慎重に出す。
「どうですか、リオン捜査官」
「うむ、この先にいるのは間違いないわ。でも気掛かりなのは、“何をしにここに?“ってことぐらいかしら」
「捜査官は以前この家に来た時はどこにいたんですか?」
「どこかの部屋にずっといたわね。お兄ちゃんを見たのはその部屋に行く途中だったから」
「なるほど」
いつものやり取りをしながら捜査を続ける。
階段を下りて、左右の分かれ道を交互に見る。
「うむ、ここは手分けして探すか」
「えー、お兄ちゃんと探したい」
「よし、そうするか」
「うんっ」
うちの妹は寂しがり屋だ。
問題は右か左か。
「右に行こう」
「うん」
勘で進む道を決める。
長い廊下が続いて、左の窓を向けば庭が見える。
と、家の門前に馬車が止まっていた。
目線が行くが、たまにあることだから気にしない。
それにしても、見失った影をどうやって追うのだろう。
家の部屋を全部探すにはかなり時間がかかる。
これは万が一家に来ていても見つけることは不可能┈┈┈┈
タッタッタッ
(後ろ!)
振り向くと、そこには人がいた。
どこかで見たことあるような顔。
「…どうかなされましたか? 坊っちゃま」
俺がこの家にいた時、よく世話をしてくれたメイドがいた。
赤ちゃんのおしめはこの人がよくやってくれてたな。
「いえ……別に」
「あれ、メグさんじゃないですか」
リオンもこの人とは知り合いみたいだ。
「お嬢様、何かしてらしたんですか?」
「お兄ちゃんと人探しです」
「人探し?」
「はい」
掌を頬に当てて首を傾げる彼女。
「あっ、そうです、私も坊っちゃまを探してたんですよ」
「僕を?」
先程の走る音はやはりこの人のだったらしい。
だが、俺を探す理由が見当たらないな。
「はい……こちらを」
ポケットから出されたのは手紙。
どこかで見た覚えのある紋章の封蝋がされてある。
…何か嫌な予感がする。
「これは…?」
恐る恐る聞いてみる。
「龍王国からの招待状で┈┈┈┈」
俺はメグから背を向けた。
クラウチングスタートの姿勢をとる。
そして…
「…? 坊っちゃ┈┈┈┈」
ダンっ!
俺は走った。
音を置き去りにする速度で。
走れば、その言葉は置いていかれると思って。
あれを受け取らなければいいんだ。
あれを知らなければいいんだ。
そう。
俺は何も見ていないし、何も知らない。
「お兄ちゃんっ?!」
と、リオンの声が俺の速さに追いつく。
俺はその声で正気に戻り、今俺が何をしているのが気づく。
今、俺は格好悪いことをしている。
リオンの前で嫌なことから逃げる?
そんなのお兄ちゃんのすることじゃない。
俺は何時でも格好いいお兄ちゃんとして、リオンの記憶に残るんだ。
「すみません、少し汗をかきたくなったので」
「さ、左様ですか…」
苦しい言い訳にメグが困惑した顔で答える。
俺は優雅に歩みを進め、その手紙を受け取る。
龍王国の国章が入った手紙。
さっきメグさんは『招待状』と言っていた。
なら歓迎されるんだろうが、どうにも嫌な予感がする。
絶対に面倒くさいやつだ。
そして、面倒くさいと言うことは、長い間我が愛しの彼女たちと会えなくなってしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けなくてはいけない。
彼女たちとの営みを邪魔するのなら、世界最強の龍王とも敵対しようじゃないか。
それにしても、来るのが早すぎやしないか?
ジェフとロウネが龍王国に謁見しに行ったのだって、15、6歳の時だったはずだ。
僕まだ11歳ですよ?
「……これって行かなきゃ駄目ですか?」
「はい」
そうだよなぁ…
嫌だなぁ…
「僕1人でですか?」
「いえ、エミリー王女様もご招待されております。付き添いも何人かは認められていますので」
「お! いいですね」
それなら検討してもいいかもしれない。
3人と遠征。
遊びに行くわけじゃないが、少しくらいはいいだろう。
「リオンは一緒に行きますか?」
「えっ? 私はいいよ…」
ほう。
意外だ。
リオンは珍しいものには直ぐに飛びつくと思っていたが。
「龍王に会えるのに?」
「怖いよ…」
あら。
身を縮こまらせるリオン。
そういえばロウネも龍王に会うのは怖かったとか言っていたな。
確か、その時にジェフが言った言葉があったな。
「大丈夫、お兄ちゃんが守るから」
そう。
これでロウネはジェフに落とされたんだ。
俺は言う相手を間違えてる気がするが、好印象なのには変わりないからよしとしよう。
「………うん…わかった」
「へへぇ、やったぜ」
「お兄ちゃんってずるいよね…」
上目遣いで見てくるリオン。
相変わらず破壊力がえげつない。
龍王にもこれを見せたら、きっと泣いて喜ぶだろうな。
勢い余って国を差し出してしまうかもしれん。
「では、付き添いにリオンとマオ、フィルティアも入れといてください」
「畏まりました」
マオとフィルティアは勢いで登録してしまったが大丈夫だろうか。
大丈夫だろうな。
うん。
ー
楽しい時間が過ぎるのは早いものだ。
時刻は夜。
場所は玄関。
悲しみの舞台だ。
「リオン、しばしの別れだ」
「うん」
別れちゃうのかぁ…
「寂しい思いをさせる」
「うん」
させちゃうのかぁ…
「ただ、笑顔を忘れないでほしい」
「うん」
忘れないでくれ。
「だから┈┈┈┈」
「お兄ちゃん」
「ん?」
「そろそろ離して」
「………………」
俺は抱きしめていたリオンを離す。
胸の中の体温が名残惜しそうに冷めていく。
リオンは既に兄離れできているらしい。
「じゃあ、行ってくる」
「お兄ちゃん」
背を向けて、帰ろうとしたら呼び止められた。
ぼふっ
背中に重みがある。
体を腕で固定されている。
振り返るとリオンが抱きついていた。
「どうしたんだい」
「待ってるねっ、お兄ちゃん!」
そう言って含羞むリオンは天使だった。
どうやら、俺もリオンも兄妹離れはまだ先みたいだ。




