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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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急成長 ーさては天国?ー

挿絵(By みてみん)

ジェフ・テラムンド


暗い……。

いや、明るいか……?


よく分からんが、なんかフワフワしてる感覚だ……。

頭も回らない……。



「『おい!!! なんでだよ!!!』」



……?


ぼんやり。

本当にぼんやりと黒い人型のモヤが見える。

何やら焦っているようだが、まったく頭に入ってこない……。



「『返せぇ!!! ボクの体だぞ!!!』」



ああ、ねむ……。

もう、なんでもいいや…………。



「『おい!!! お┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈』」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈。



┈┈┈┈┈┈┈┈。



┈┈┈┈。









目が覚めた時、俺の目の前には金髪の姉ちゃんがいた。

綺麗な人だ。

それに胸がデカい。


その横には白髪(はくはつ)のかなりイケメンの兄ちゃんがいる。

その髪は年齢を積み重ねてできる白ではなく、あまりの美しさにイケメンへの嫌悪を忘れてしまった。

染めているのかもしれないが、どうにも不自然さがない。


こいつらは誰だろうか。


「ぁ……あうぅ…………?」


声を出そうとするが出るのは喘ぎとも唸り声ともとれる声。

2人とも医者にしては随分と若いな。

いや、医者にしてはというより、普通に若い。

10代から20代前半ってところじゃないだろうか。


「…………」


トラックに轢かれたことを思い出した……。


そうか……。

今、俺は瀕死の状態なのか。

体が思ったように動かないし、感覚も薄い気がする。

これは完全に後遺症が残るやつだ。


うん……。

まあでも、死なずにすんだんだ……。


良かったとは思わない。

俺には心配してくれる家族なんて居ないのだから。

死んだ方がマシだったな。


「……?」


金髪の姉ちゃんが顔を近づけ、俺を抱き抱えようと……。


「…………?!」


おいおい、どんな筋肉してやがんだこの人。

俺はろくに運動もせず食っては寝ていただけだから、人が軽々と抱けるような、やわな蓄え方はしていない。

一体何が起こって…………。


いや、そんなことより、姉ちゃんの胸が顔のすぐ横にある。


絶景だな。

そう思うと俺は反射的に手を伸ばしていた。


「…………」


…………………………あれ?


なんか……いつも見慣れている太くて、毛の祭り状態だった俺の腕じゃない。

なんだこの柔らかそうな腕は。



あれぇ?





―数時間後―



ようやく状況が掴めた。

俺はむさ苦しい太ったおっさんから、可愛らしい赤ちゃんに転職したらしい。

赤ちゃんになった今でも前世の記憶はちゃんとある。

なんという幸運だ。


ひょっとして、赤ちゃんはみんな前世の記憶をもつのだろうか。

だとしたら、いずれ忘れてしまうかもしれないが、この記憶を忘れるとは思えない。


とりあえず話してみるか。


「あー、あう」


そうだ、まだ話せないんだもんな、俺。


「ーーー ○ー ーー」


知らない言語だ。


「ー ○ー ーーー」


……これは参ったな。





―半年後―



言語が大体だが掴めてきた。

母の名前はロウネ、父はジェフ、俺はシャル、元気な男の子だった。


「ロウネ、いつもより肌が綺麗だね。素敵だよ」

「もうっ……」


ジェフは紳士そうな顔をして意外とやるらしい。

ジェフがロウネの頬を赤く染めている。


「…………」


話してることが分かったはいいが、俺の目の前でイチャイチャするのはやめて欲しい。

いくら親とはいえ20歳ぐらいのペーペーだ。

それ以上ニャンニャンする気なら、こっちだって糞みたいな考えがあるぞ。

みたいな、ではなく、実際に糞を漏らすだけなのだが。


ちなみにシモは遠慮なくぶちまけるが、この歳になってまで泣くのは恥ずかしい。

なので、「あう、あうー」と呼んでから顎をしゃくってシモが出たのを知らせている。

これをすると、親たちが微妙な顔をするのでちょっと面白い。





―10ヶ月後―



ようやく歩けるようになった。

会話を聞き取るぐらいしかやることがなくて暇だったから、これで時間を潰せそうだ。


部屋を出ると驚いた。

超広い。

廊下が50メートルぐらいだろうか、そして部屋がいくつも並んでいる。


どうやら、俺は金持ちの家に生まれたらしい。

この家はメイドのコスプレをした家政婦さんを雇っているからそれなりに裕福だと知っていたが、まさかこれ程とは……。





ドアを適当な掃除道具などで開けてみる。


そこは書斎だった。

適当な本を取って中身を読んでみた。

文字はロウネが読み聞かせをしてくれるから、大体は読める。


「ぷふっ…………!」


そしたら噴いた。

その本には魔法がどうとか、魔術がどうとか書いてある。


なんだこれ!

ジェフのやつ、こんな黒歴史本持ってやがったのか!

どひゃー!

めちゃめちゃ恥ずかしいじゃねえか!


まあ、誰にでもそんな時期はあるさ。

俺だって、右手に包帯をしていた時期があったし、眼帯を買った経験もある。

そんな俺から言わせてみればこんなもの可愛い…………。


ん?

黒歴史本にしてはやけに書き込みが多い。

手に取った時からかなり分厚い本だと思っていたが、全てのページに至るまで魔法について記されていた。


さすがに(こじ)らせすぎじゃないか?

まあいいか。

もしここが魔法のある世界で、魔王的な存在がいるとしたら、そんなやつの1人や2人ひねり潰してやろう。


次は外を見ることにした。

本を何冊も積み重ねて窓を見てみると、違和感を感じる。

何かと思ったが、すぐに分かった。


時代が遅れている。


大きすぎる庭の奥の道には人が行き交っているが、その服装は中世の平民を思い起こさせる。

馬も普通に歩いている。


なんだここ?


そのまま外を見ていたら、さらに驚くべきものがあった。

それはトカゲと呼ぶにはあまりに大きすぎる生物。

それには人が乗っていて、周りの人も一瞥すらせずに普通に通り過ぎている。



ガコンッ!



あまりの驚きに足がすくみ、頭から床に落ちてしまった。


「キャっ!」


落ちたと同時に悲鳴が聞こえ、そこからロウネが青い顔で駆け寄ってきた。


「シャル! 大丈夫?!」


俺を抱き上げて頭の様子を注意深く見る。

怪我がないのを確認すると、ほっとした様子だ。


「大丈夫そうね……。でも念の為……」


そう言うと、ロウネは俺の頭に手を当てて……。


「『治癒(ヒーリング)』」

「ブプハァっ!」


思わず吹き出してしまった。


あの黒歴史本は母様のでしたかあ!


そう思った瞬間、ロウネの手が淡く光って頭の痛みが一瞬で消え去っていく。


…………………………ん?!


おかしい。

いや、絶対におかしい。

さっきのトカゲといい、これといい、何か俺の知っている世界とは異なる。

俺が当惑していると、ロウネが顔を覗きこんでくる。


「どうしたの?」


助けて……お母さん……。





―数時間後―



ようやく頭が追いついてきた。

どうやら、俺は別の世界で生まれ変わってしまったらしい。

魔法が実際に存在する世界。


「………………ふへ」


考えるだけでワクワクしてくる。

こんなに興奮したのは好きだったヒロインのポロリシーン以来か。

ならば、やることは1つ。


魔法について知ることだ。


俺は自分の部屋にあの黒歴史本もとい、魔術教本を持っていった。

すると色んなことが分かった。


属性はそれぞれ8つあり、水、火、土、風、治癒、毒、聖、固有。

固有というものは、個人で作った魔術のこと、らしい。

自分で魔法が作れるものなら是非作ってみたいものだ。


そして、魔法には7つの階級がある。

三級、二級、一級、蒼級、赫級、(すみれ)級、白級。

蒼とか赫と書いてあるが、水属性と火属性とは関係がないそうだ。

ただ、その階級の魔術を初めて使った人物がその属性を得意としていたから、そういう名前が付けられたらしい。


そして、白級は聖属性のことではなく個人で作った魔法らしい。

つまり、個人で作ったものが最強の階級になったのだ。

そういうのはすごく憧れる。


そして、1番気になる使い方。


『杖を持ち、魔力を引き出す』


そう書いてあるが、わからん。


あれ?

だけどロウネは杖を持っていなかったよな。

上達すれば杖は要らなくなるとかか?


まあ、杖を探すのも面倒だ。

まずはやってみるか。


自分の魔力を引き出す、だったか。


「『水弾(ウォーターボール)』」



スカッ



まあ、そうですよね。

口に出して思い切りやってみたが失敗したようだ。

杖探そ。





―杖の探索―



「…………」


あっさりと家のメイドに見つかって部屋に戻される。


ちっ、俺の晴れ舞台を邪魔する悪魔め。


だが、俺は抵抗しない。

落ちたら危ないからだ。

決して、メイドさんの胸がムネムネして心地よいとかそういう理由じゃない。


いっそのこと、喋れるんだし杖の場所を聞いとくか?

いや、こんな生後1年すら経っていない赤ん坊が流暢に話したら気味悪がられるだろう。

うーむ……。





―部屋―



「坊っちゃま、勝手に部屋から出てはいけませんよ」


そう言われ、メイドは部屋から出ていった。


俺は考える。

杖をゲットするというミッションをどう達成するか。





悩んでいたら、両親が部屋に入ってきた。

ノックもせず、失礼な奴らだ。

まあ、そんなもの必要ないが。


すると父、ジェフが魔術教本に気づく。


「魔術教本じゃないか。なんでこんな所に」

「あら、誰かがシャルに持ってきたのかしら?」

「まさか、シャルにはまだ文字を教えていないだろう?」


ジェフとロウネが状況を確認し合っている。


どうしたものか。

ここで本を持っていかれては困る。

高いところに置かれても困るし、場所を探すのだって面倒になる。

今は何としても早く魔法が使えるようになりたい。


「とりあえず、書斎にしまっておこう」


まずい。

早くしないと本が持っていかれてしまう。


ジェフがドアノブに手をかけた。

その瞬間……。


「そこに置いといてください」


両親は急に聞いたことがない声がして、時が止まったように固まる。


こちらに振り向き、「信じられない」と顔に書かれている。

その出処はひとつ。


「「 ……………シャル? 」」



俺は仕方なく声を出すことにした。





声を出すことにした俺は現在、俺は両親の反応を静観していた。


「ジェフ!今シャルが喋ったわよ!」

「そんなわけない……まだ生後十ヶ月なんだよ……? それがあんな流暢に……」


2人が驚いているが、まあここで誤魔化してもしょうがない。


「落ち着いてください」


もう一度喋る。


「……ほんとに……シャルが喋っているのか?」


ジェフが聞いてくる。


「はい」


2人がまだ信じられないという顔をしている。


「魔法を使いたいので、本は置いといてください。それと申し訳ありませんが、杖の場所をお教えくださいませんか?」


とても赤ん坊とは思えない口調で喋るが、もうそんな事はどうだっていい。


「あ、あぁ……」


ジェフが力の抜けた声で返事をする。





杖をメイドさんが持って来てくれた。

それは歪に曲がりながらその中心に水晶を携えた、まさにゲームとかで出てくるイメージ通りの杖だった。


「ありがとうございます」


メイドにお礼を言うと、ピクっとしてからお辞儀をする。

やはり声を出すのは早かったかと思いつつ、早速魔術教本を開いてみる。


部屋にはもう誰もいなくなっているので、万が一のことがあっても心配はない。


「よし」


そう意気込んで魔法を放つ。


「『水弾(ウォーターボール)』」



ピシャン!



壁に水が放たれ、カーペットが濡れる。


お!

よっしゃ、成功だ!

ついに俺も魔法使いの仲間入りだ。

杖を持った途端、自分の中の魔力が放ちたい魔法に姿を変えていくのがわかった。


杖を使えば案外誰でもできるのか。

特別感がなくなってしまったな。

そうなってくると、蒼級とか赫級に焦点を絞る必要があるだろう。

幸い、この魔術教本には三級から白級に至るまで、ほとんどの魔法が記載されている。

固有は載っていなかった。

やはり、個人で作った魔法はその人特有の魔力の流れがあるからなのだろうか。

それとも著作権的なものだろうか。


とりあえず、蒼級の魔法を唱えてみる。


「『水の御業(ウォーターワークス)』!」



スカッ……



やはりできない。


さすがに魔法の階級が上がるとコツとか必要になってくるのかもしれない。





―3年後―



3歳になった。

書斎にあった本を読み漁り、繰り返し魔術の練習をしていたらある程度の一級魔術なら使えるようになっていた。


こんだけやっていたら魔術を放つときのコツも大体だが分かってくる。


まず三級から一級への流れ

これは魔術の操作┈┈┈つまり速度や大きさ、硬さなどを細かくいじれるようになるほど上達していった。


そして魔力量

これは使えば使うだけ増えていった。

ただ、魔力量が多いからと言っていきなり蒼級とか赫級の魔法が使える訳ではないらしい。


このくらいだ。

しかし、一級から蒼級までいくのがなかなか難しい。





―2年後―



5歳になった。

相変わらず蒼級の魔術で四苦八苦していると、父のジェフが部屋にやってきた。


「シャル、魔術のほうは進んでいるかい?」


ジェフとはあまり……というか人と話していないので3歳と大人の距離感が分からない。


「あまり進んでいません。一級まではとりあえずできるのですが、蒼級までは中々…」

「もう一級まで使えるのかい。それは凄いな」


驚いた顔で言ってくる。


「父様はどこまで使えるのですか?」

「僕は蒼級までだよ。とは言っても一つだけだけどね」


ジェフめ、案外やるじゃないか。

俺はジェフと同じ白髪だ。

魔術の才能も受け継いでいてくれると助かるんだが。


「まあ僕よりロウネの方が使えるけどね」


ほう。

どうやら俺は凄い親のもとに生まれたらしい。


「教えてくださいませんか?」

「そうだね。では庭に行こうか。僕からシャルへ、蒼級のプレゼントだ」





庭に来た。


「シャル、先に言っておくがこの魔術は殺傷能力が高い。だから使う際は┈┈┈┈┈┈」

「┈┈┈┈┈┈安全なところでやるので大丈夫ですよ」


俺が先にそう言うと、ジェフが「はは……」と苦笑する。

そんなことより早く見たい。


「コホン。では┈┈┈┈┈┈」


ジェフが空に向かって手を向けた。


「┈┈┈┈┈┈『水の御業(ウォーターワークス)』!」


その瞬間、水で構成された巨大な手が勢いよく空へと昇る。


「………………やば」


俺はそう一言だけ音を発した。


あまりに一級との差が大きかったのだ。

一級はせいぜい、大量の水を勢いよく放つぐらいだ。

範囲は大きいが、殺傷能力があるのかはよく分からない。


だが、蒼級は違う。

本でしか見たことがないが、あれはまさしく龍の手。

鋭い3本の爪を持つ、巨大で恐ろしい手。

それが何者をも握り潰さんとする勢いで放たれている。


これが蒼級か。


「ふう」


ジェフがそう言うと、魔術が解除されたのか、魔力が無くなったのか、龍の手が解けて小雨程度の水が落ちてくる。


「どうかな? 分かったかい?」


わかんねーよ。

あんなん見て「はい。分かりました」なんて言えるわけがない。


「……父様は凄いですね」

「ロウネはもっと凄いけどね」


俺はこうしてジェフと師弟関係となった。





ー5年後ー



10歳になった。

俺はジェフから蒼級の魔術を教わり、それを行使できるようになっていた。


「『水の御業(ウォーターワークス)』!」


龍の禍々しくも美しい手が空へ向かって打ち上げられる。

見慣れてくると、綺麗なものだ。

同じ魔術と言えども、ジェフの放つものよりも俺のは質が低い。

だが、俺はもう一つ蒼級の魔術が使える。


「『焔の鉄槌(ゼクティウス)』!」


魔術を唱えると、筋骨隆々の焔を纏った腕が空を殴る。


まるで魔人が怒り狂ったような一撃だ。

そして、拳からの飛び火で庭が焼ける。


慌てて消化する。

と、声がかけられた。


「いやいや、あっという間に僕を追い越したね。シャル」


話しかけてきたのはジェフだ。


「まだまだ父様よりは威力が低いですよ」

「十歳でこの腕とは大したものだよ。本当にね……」


案外さっぱりしてるな

俺だったら10歳の子供に抜かされれば、泣き叫んでしまうかもしれないのに。


それにしても、こんな危ない魔術を当時まだ5歳だった俺に教えるのはいかがなものだろうか。

まだ危険なものを扱うには若すぎやしないか?

遊び半分で家を壊されたら、たまったものじゃないだろうに。


「突然だけどシャル、仕事に興味は無いかな?」


唐突にジェフがそんな恐ろしいことを聞いてくる。


もちろん、俺に働こうなんて意思は無い。

あったらとっくに認知症の親を老人ホームに届けてやっている。


そんな俺に仕事?

ハハハ。


「まだ早いんじゃないでしょうか」


行きたくないと伝える。


「でも遅かれ早かれ働くことになるんだ。今の内にやってみてはどうかな?」


ジェフもなかなかしつこい。

家は金持ちなんだ。

働かなくたって生きていけるさ。

いや、ジェフの言っていることはもしかして冒険者のことかもしれない。

本には魔術以外にも、おとぎ話のようなものがある。

それは魔物や勇者が出てきて、人々を救うという物語だ。

俺だって辛うじてだが蒼級魔術が使えるのだ。

多少は戦えるだろう。


「僕たちテラムンド家は代々王家のお側に仕えている貴族。それはそれは偉いお家柄なんだよ?」


そうらしい。

知ってはいるが、実感は湧かない。


「嫌です」


はっきりと言う。


「どうしてだい? ここよりも良い暮らしができるし、王家に仕えるのは名誉な事だよ?」


そう言われても、俺は文化とか、しきたりとかが大嫌いなんだ。

全く理にかなっていないことを押し付けられて、やりたくもないことをするなんてまっぴらだ。

それに俺は朝の目覚ましが糞の臭いだった人間だ。

ここで生活出来ているのは幸運以外の何物でもない。

これ以上を望むのは強欲ってもんだ。


「暮らしは今のままで満足しています。お父様とこうして魔術の訓練が出来るんですから」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。でもシャルの能力を十分に活かせないのも悲しいことだと思わないかい? ほら、礼儀作法も覚えただろう?」


そりゃあ、一応はそういう修行もさせられていたからな。

それはもうとんでもない仕込まれ方をされたものだ。

性教育だって行き届いているし、何から何まで教えこまれた。


「父様はそんなに僕を王家に仕えさせたいんですか? 妹か弟が産まれるご様子ですので、そちらに任せては?」

「っ……! 知ってたのか……。まあそうするよ。全く、シャルには敵わないな」


ふっ。

言い負かすのは気分がいいぜ。

俺に職を与えたいのなら、美少女の1人や2人連れてこなきゃいかんぜ。


というか、ロウネとご無沙汰かと思ったが、そうでもないのだろうか。

仲がいいのはいい事だ。





―次の日―



目が覚めた時、知らない天井が目に映った。


…………?

どこだここ?


気だるい体で横を見ると、置き手紙があった。


『王家に仕えてくれるシャルを僕たちは誇りに思うよ。愛しの両親より』


「………………」


ぶっ殺してやろうか。

あいつら、俺に無理やり働かせようってことか。

となるとここは、王家の屋敷ってところか。

ま、ここで無能っぷりを発揮すれば、いずれあっちの方から辞めてくれと言ってくるだろう。

さて、どれだけ暴れてやろうか……。



コンコンコン



すると、部屋主が不快に思わないように気配りされたノックがした。

入ってきたのは、20代中盤くらいの女性だった。

メイド服を着ていて、キリッとした顔立ちで、いかにも出来る女って感じの人だ。


「失礼します。シャル・テラムンド様ですね。今から第一王女様への面会を行います。お時間をよろしいでしょうか?」


はいはい、面会ですね。

さっさと唾吐いて帰りま…………。

ん?

待てよ。


「今、王女様とおっしゃいましたか?」


「はい。第一王女のエミリー・エルロード様です」


なるほどなるほど。

王女様ねぇ。




こうして俺はここで働くことに決めたのであった。


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