近い距離感 ー計画通りにー
フィルティアと朝帰りした。
今日は普通に授業があるため、体を入念に洗う。
洗って、香水もつけて、マオに肉を多めにあげたら何も言われなかった。
気づいていた素振りはなかったが、気を遣ってくれたのかもしれない。
ー翌日ー
「シャ……シャル、ここ教えて…?」
「はい。ここはですね┈┈┈┈」
フィルティアに教える。
あれ以来、体の距離感が縮まった気がする。
教える時も、普段は俺が机に向かうのだが、フィルティアから俺のところに来てくれる。
教え終わって、フィルティアが自分の椅子に座った頃、エミリーが何かを疑うような目で見てくる。
やばい。
バレちまったか…?
ー
授業が終わり、各々が自分の部屋に帰ろうとする。
フィルティアとマオが退室し、俺も支度をする。
だが、エミリーだけが何もしていないことに気づく。
「どうしました? エミリー」
エミリーは机の教材もそのままに、腕を組んで俺を見据えている。
「……分からないわ」
「…何がですか?」
「勉強よ」
彼女はそう言って、エミリーの左手隣、先程マオが座っていたところをポンポンと手で促す。
本当は勉強ではなく、何か話したいことがあるのかもしれない。
俺は素直に隣に座る。
「どこが分かんないんですか?」
「……全部よ」
「…………え?」
「全部よ!」
ぜぇんぶ?
何でまた?
いや、これはエミリーなりの意思表示だ。
今、エミリーは俺の肩に頭を乗せて、左手を俺の右太腿に置いている。
顔が赤くなって体が震えているのが分かる。
そして、『全部』という言葉。
フィルティアとのスキンシップを見せられては、エミリーだって心中穏やかではないだろう。
つまり、これはいやらしい意味だ。
エミリーはそれを全て教えて欲しいと言っているのだ。
ここは漢シャル。
いざ尋常に…
「ちょっと」
「……はい?」
「…どこ触ってんのよ」
あれ?
エミリーの横腹を撫でていたら怒られた。
そっと手を離す。
どうやら読み間違えたみたいだ。
「そういうのは……大人になってからよ」
おとな?
大人ってなんだ?
「エミリーは十分大人の魅力を兼ね備えていると思いますが…」
「…………」
エミリーが俯いてしまった。
顔を赤くして体を震わせているため、一瞬、怒っているのかと錯覚する。
「……じゃあ…私の誕生日のときにしてちょうだい」
エミリーが顔を俯かせたまま言ってくる。
いやっほーい!
言質頂きましたー!
うむうむ。
これで気兼ねなくできるな。
おっと、我が愚息よ、まだ気が早いぞ?
エミリーだってレディなのだ。
丁重に扱わねばいかん。
「はい。その時はよろしくお願いしますね」
「……ええ」
大人の余裕を持った笑顔を向ける。
それにしても、エミリーの誕生日か…
あと3ヶ月後。
気が遠くなるほど長い。
あまりにも長い。
すると、エミリーがプリントをスっと目の前に持ってくる。
ああ、そうだった。
「ここはですね┈┈┈┈」
エミリーに教える。
フィルティアよりも密着してくる彼女にかなりドキドキしながら。
エミリーとマオには寂しい思いをさせてばかりいるな。
今度のデートは気合いを入れなければ。
「シャルはすごいわね」
不意にそんなことを言われた。
どうしたんだ?
「エミリーだって凄いですよ」
「私なんか…」
エミリーらしくない回答だ。
弱気なエミリーは意地でも支えたくなる。
この世には絶対に撃沈してはいけないものがある。
俺は左手のペンを置き、エミリーを抱きしめる。
「『なんか』なんかじゃありませんよ」
エミリーは何ら抵抗することなく俺の抱擁を受ける。
「僕はエミリーを尊敬していますし、愛しています。いつでも胸を張ってしている姿が好きですし、弱い一面を見せてくれるところに惚れ直します。全部好きなんです。全部愛しているんです」
なんの引っ掛かりも無く出た言葉。
エミリーの腕が俺に伸びる。
「私も…私も好き………すごくすごく……大好き」
喋るエミリーは泣いていた。
鼻をすすりながら思いの丈を打ち明けていた。
彼女の体は温かく、いつまでも抱いていたかった。
「だから」
体がビクッとする。
俺が恐れていた質問が来ると思ったから。
今まで考えるだけ考えて、何時までも答えが出なかったもの。
俺は覚悟を決める。
「だから……………………」
エミリーが暫時、言葉に詰まる。
いや、これは俺の体感時間の中だけかもしれない。
俺はこの質問を何時までも来ないものだと思っているのかもしれない。
エミリーが椅子から立ち上がる。
「だからっ! デートの時は楽しみにしてなさいよね!」
未だ涙痕の残る顔で言われた。
いつもの仁王立ちで、いつもの笑顔で。
改めて、エミリーに尊敬の念を抱く。
「ええ。楽しみにしてます!」
笑顔を返すと、エミリーは部屋を後にした。
やっぱり、エミリーには笑顔が1番似合うな。
エミリーが忘れていった教材を整え、俺も部屋に戻るとする。
いやー、いいもん見れた。
ー翌日ー
エミリーが体調を崩したと連絡が来た。
メイアさんに今日の授業は休みだと伝え、急いでエミリーの元へ向かう。
バンッ!
「エミリー!」
ノックもせずに扉を開ける。
そこには壁にもたれかかってベッドに座るエミリーがいた。
彼女は俺を見ると驚いた顔をする。
「シャル…」
見た感じでは元気そうだ。
「体調は大丈夫ですか?」
「ええ…………まあね」
ううむ。
やはり、少し言葉のキレがない気がする。
傍に近寄って解毒魔術をかける。
解毒魔術は病気にはあまり効かない。
猛毒ですら中級の解毒魔術で完治するのだが、病気に対しては弱いのだ。
「ありがと…」
「いえ」
使ったのは上級解毒だが、治っている気配はない。
それにしても、エミリーも風邪を引くんだな。
万が一風邪にかかっても平然としていると思っていた。
「今日は僕が面倒見ます」
「……うん」
「朝ごはんは食べましたか?」
「ううん」
エミリーらしくない弱々しい返事に余計心配になる。
心配性だろうか。
「では、僕は朝ごはんを作ってきますね」
「……うん」
おかゆでも作ってこよう。
ーエミリー視点ー
罪悪感で胸がいっぱいになる。
私はシャルに振り向いてもらうために嘘をついた。
シャルはあんなに私のことを心配してくれているのに、私はそれをいいようにしている。
フィルティアとマオだって授業をしたいだろうに…
「エミリー、できましたよー」
後ろ手に扉を閉めて、シャルが朝ごはんを持って来てくれる。
看病の予定だって、本当は休みの日にやってもらおうと思っていた。
だけど、メイアに昨日あったことを話したら『今しかありません!』なんて言うから…
「スープを作ってきました」
横に置かれたのは野菜の多いスープ。
野菜はあんまり好きじゃない。
でも、シャルが作ってくれたものならなんでも美味しい。
「……ありがと」
トレーごと太ももの上に乗せて料理を見る。
湯気がたくさん出て熱そうだ。
冷まさないと食べれない。
スプーンを手に取って、そのまま口に運ぶ。
「あつっ」
やっぱり熱かった。
シャルをチラッと見てから、もう一度口に運ぶ。
「あつっ」
「エミリー?」
シャルが不思議そうに聞いてくる。
「………………」
「……冷ましてあげましょうか?」
私がじっと見ていると、気持ちを察してくれた。
シャルはいつだって気持ちを汲み取ってくれる。
いつだって欲しい言葉をかけてくれるし、抱きしめてもくれる。
そんな彼が好きでたまらない。
「うん…」
返事をして、彼にスプーンとお椀を渡す。
……魔術で冷まされたらどうしよう。
「ふーっ、ふーっ………どうぞ」
彼からスプーンを向けられる。
大きく切られた野菜を口に入れる。
シャルが冷まして、シャルが食べさせてくれたもの。
考えるだけでよだれが出てきて、少し食べにくくなった。
「おいしい…」
「それはよかった」
正直、味は分からない。
緊張と恥ずかしさから感じられない。
「もっかい…」
頼んで、もう一度口に運んでもらう。
シャルに甘えるのはなんだか心地いい。
ー
食べ終わった。
これからはずっとシャルに食べさせてもらいたい。
スプーンが口に触れる度に力が抜けていった。
シャルに口の中を弄られているような気がして、気持ちよかった。
「では、片付けてきますね」
シャルが食器を持って立ち上がる。
彼が行ってしまう。
まだ行かないで欲しい。
ずっといたい。
「待って」
気がつくと、彼の裾を掴んでいた。
なんだか今日はおかしい。
本当に風邪を引いたみたいに頭がぼんやりする。
「エミリー…?」
「いかないで」
「大丈夫です。10秒で戻りま┈┈┈┈」
「やだ」
今日はシャルと離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
なんでこうなったんだろう。
昨日、シャルに抱かれたからだろうか。
それとも…
「今日のエミリーは甘えんぼですね」
「うるさいわよ…」
膝を曲げて布団を深くかける。
下半身が見られないようにしてから、両手を毛布の中に入れる。
太ももの間に手が伸びる。
…だめだ。
もう、彼の前ではしないと思っていたのに。
それなのに…
手が止まらない。
シャルが目の前にいるのに。
シャルが見てるのに。
手がゆっくりと動いてしまう。
「エミリー?」
体がビクッと跳ねる。
ばれてしまったと思った。
でも、不思議と「よかった」と思っている自分がいる。
シャルには『私の誕生日に』と言ったが、待ちきれる気がしない。
今すぐに襲って欲しい。
私を求めて欲しい。
「迷宮には行けなさそうですか?」
体の熱が一気に冷めていく。
仮病なんてしている場合じゃないかもしれない。
「……行くわよ」
「大丈夫ですか?」
「ええ」
「分かりました」
彼が微笑みを向けてくる。
その顔を見ると、また体に熱が戻ってくる。
「エミリー、汗かいてますね」
シャルが胸ポケットからハンカチを取り出して、ベッドに上がってくる。
その行動に心臓が急にドクドクし始める。
彼が近づくにつれて音が大きくなっていく。
シャルの手がハンカチ越しに触れる。
でこを触れられてるだけなのに、体に力が入らない。
されるがままの私はこれからどうなってしまうんだろう。
「はい。大丈夫ですよ」
拭かれるのが終わってしまった。
でこが寂しくなる。
「ありがと」
「いえ」
「……それより、シャルは授業っ……大丈夫なの…?」
「ええ。エミリーの具合が悪い方が心配ですからね」
そう言ってくれることに嬉しく感じる。
同時に罪悪感も生まれる。
私は嘘をついていて、彼の目の前で如何わしいことをしている淫らな女だ。
それなのにシャルはこんな私を優先してくれている。
フィルティアやマオよりも…
「シャルは…私のお世話係なのよね?」
「はい。お嬢様の身の回りの補佐をさせていただきます」
シャルが片腕を胸に当て、礼をする。
シャルのこの姿は初めて会った時以来だ。
でも、そんなことはいい。
シャルは今日一日、私の『世話係』なのだ。
たくさん甘えても許される。
「シャル」
「はい。なんでしょう」
何か頼みたいこと、してほしいこと…
頭に思い浮かぶが、私からは言えないようなものばかり。
どうしよう…
「シャルは魔術の練習ってどうしてるのよ」
出てきたのは普通の質問。
本当はもっとえっちなことを言いたい。
でも、言えない。
そんな自分が嫌になる。
「んー……普通に魔術を使ってみたり、色とか、込める魔力をいじったり……色んなことやりますね」
そう言いいながら、空中で指を動かす。
出来たのは『エミリー・エルロード』の文字。
青色の水で出来たそれは美しかった。
私にはできなかったもの。
「エミリーは授業以外のときは何やってるんですか?」
「そうね……魔術の練習と、それと」
自分を慰める。
もう少しで口に出てしまいそうだった。
「…それと?」
「……うるさい」
素直になれない。
自分がこんなやつだなんて、シャルと会うまでは知らなかった。
フィルティアとマオはどうやって気持ちを伝えてるんだろう。
「はは、エミリーは可愛いですね」
その言葉に心臓がビクッとする。
なんでそんなことを言われたのか分からない。
でも、シャルに褒められるとすごく…
ー
あれからも話して、時間は昼を回った。
シャルは昼ごはんを作りに行った。
彼が行く時は寂しかったけど、朝よりはだいぶ頭がスッキリしてきた。
「できましたよー」
今度もシャルに食べさせてもらう。
シャルに食べさせてもらうのは気持ちいい。
「はい、あーん」
恥ずかしい声掛けでスプーンを差し出してくる。
「ん…………」
シャルを睨みながら食べると、ニヤニヤした顔が返ってくる。
それにムッとしたから、スプーンを咥えて離さないようにした。
「エミリー?」
「…………」
シャルの困った顔。
私が彼を困らせているのが心地よかった。
だけど、それもすぐに笑顔になる。
「可愛いですね。エミリー」
その言葉に顎の力が抜ける。
同時にスプーンが口から取り出され、そこから糸が引いて…
「ひゃっ!」
すぐに口を塞いで、服でよだれを拭く。
シャルに見られた…
だらしないところを見られた…
「はい、あーんしてください」
平然としているシャル。
あれを見ていたのか分からないけど、見てないはずがない。
…シャルに反応して欲しい自分がいる。
ー
食べ終えた。
あんなところを見られたのに、興奮している自分がいる。
また頭がぼんやりしてきた。
「シャル」
「はい」
「眠くなってきた」
「……はい、おやすみなさい」
違う。
言って欲しいのはそっちじゃない。
「暑い…」
脱がせて欲しかった。
シャルに剥かれたかった。
「では、布団めくりますよ」
布団をめくられ、中の温かい空気が外に出る。
「脱がしますよ」
私は女になる覚悟を決めた。
このままシャルと致してしまうのだ。
シャルの手が私の足に触れる。
そして、スルスルと靴下を脱がされた。
「…………」
「涼しくなりましたか?」
…予想と違ったけど、足がスースーして妙に露出している感じがする。
シャルに脱がされた。
この感覚にたまらなく興奮する。
「……ありがと」
「いえ」
眠くなってきた。
その眠気であの時の状況が思い出される。
シャルと寝た時の光景が。
「シャルは眠くない…?」
「んー、普通ですね」
彼の体が、息遣いが、体温が思い出される。
もう一度、近くで感じたい。
前屈みになって、シャルの近くに寄る。
「一緒に寝るわよ…」
「え……?」
彼の間の抜けた声。
言ってる自分が恥ずかしい。
私はシャルの服の裾を引っ張って、顔を俯けてしまっている。
「……分かりました」
彼がベッドに上がってくる。
シャルが私のベッドにいる。
私の好きな人が。
「「 ……………… 」」
お互いに座ったまま黙ってしまう。
どうしよう。
誘ったのは私なのに、何をすればいいのか分からない。
「エミリー?」
彼の声が耳に響く。
私は興奮に身を任せて、彼の体を抱き寄せる。
彼の鼓動が伝わってくる。
それが響く度に、私の鼓動も速くなっていく。
「シャル……」
「はい」
「キス…なら……大丈夫よ」
キスまでなら…
キスなら約束は守れる。
誕生日まで。
誕生日まで、本番だけ我慢すればいいんだ。
「はい」
彼が私の両肩を掴む。
逃げられなくなり、覚悟を決めて目を閉じる。
唇が重なり合う。
何度も想像したシャルの唇。
それは柔らかくて、温かくて、気持ちよかった。
シャルを思いきり抱きしめて、離れないようにする。
ずっとこうしていたい。
私をずっと見ていて欲しい。
長くそうしていると、シャルの鼻息が顔にあたる。
それがたまらなく愛おしくて、私も鼻息を荒くする。
シャルに舌を入れられそうになる。
だめだ。
舌を入れられたら、もう止まらない気がする。
歯を閉じて抵抗する。
それなのに、シャルは舌を無理やり入れようとしてくる。
シャルが私を求めてくれている。
シャルが私を味わおうとしてくれている。
そう考えたら、私はもう抵抗をしなくなっていた。
シャルの舌はいやらしく、私を貪るように動いていた。
それが気持ちよくて、腰が抜けてしまう。
それを、シャルを抱きしめることでなんとか耐える。
えっちな音がする。
シャルと私から出ている音。
そう考えたら、もっと大きな音を出したくなった。
唇が離される。
口から糸が引いているが、今度のそれはシャルに見ていて欲しかった。
私たちが絡み合った証。
気づくと、私の腕は下に伸びていた。
服越しじゃなく、直接触ってしまっている。
シャルがそれを見て驚いているが、私は自分の手を止められない。
見られた。
シャルに私のこんな姿を見られてしまった。
そう思うと、さらに気持ちよくなってくる。
もう、私にはどうすることもできなかった。
「しゃるぅ……」
甘い声が出た。
自分でも聞いたことがないような声。
約束なんてどうでもよかった。
シャルに抱かれたい。
シャルに襲われたい。
シャルに食べられたかった。
「シャル……いいよ」
押し倒された。
ついにこの日がやってきた。
シャルが固いものを私のものに当ててくる。
焦らされているようで気持ちいい。
シャルが私の服に手をかける。
そして┈┈┈┈
バンッ!
扉が勢いよく開かれる。
2人でそこを見ると、フィルティアとマオ、メイアまでもいた。
そこからの記憶はない。




