フィルティアとデート ー胸の中ー
フィルティアとのデート当日。
俺は浮き足立つ内心を表に出さないように、自分の身嗜みを確認することで誤魔化していた。
服装は爽やかに見えるように見繕ったもので、何気に執事服以外で外に出るのは初めてだ。
今日は愛しの彼女との初デートだ。
集合場所は王宮の門前。
幸い、今日は快晴で無理やり天気を変えることもなく迎えれた。
集合時間まではあと1時間ほど。
それだけ時間があると言うのに頬の緩まりを抑えられない。
空いた時間は魔術の練習でもしておこう。
ー40分後ー
俺の嫁が来た。
服装は茶色のワンピースに無地のシャツを合わせた格好だ。
フィルティアは何を着ても様になるな。
「ど、どうも……まった?」
「いいや、今来たとこです」
カップルの定番のやり取りをできることに満足する。
髪の毛を弄りながら俺を見てくる彼女は健気で、加虐心に駆られる。
日に照らされて、いつもより紫色の目立った髪は煌めき、幻想的だった。
「フィルティア、今日は一段と素敵ですね」
「あ、ありがとう……シャルも…素敵だよ」
「ありがとうございます」
フィルティアに微笑み返す。
このぎこちないやり取りが心地いい。
今、世界で1番幸せなのは俺だな。
「では、行きましょうか」
フィルティアに手を差し伸べる。
「うん」
そっと手が置かれる。
小さくて細い手だ。
か弱くて、守ってあげたくなるような。
ー
向かったのはいつもの大通り。
露天が多く建ち並ぶところだ。
「フィルティアは宝石とか好きですか?」
「う、うん。好きだよ」
俺たちは小物店に来て、それらを物色していた。
正直、俺が魔術で作ったレプリカ宝石の方が綺麗だが、フィルティアにそれをするのは駄目だろう。
また求婚をしてしまうことになる。
「これとか似合いそうですね」
俺はフィルティアの髪よりも薄い紫の宝石を指さす。
「うん…………でも、シャルの作ったやつの方が……すきだよ」
嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
フィルティアも少しずつではあるが、お世辞とか冗談を上達させているようだ。
「僕が作ったやつをあげれればいいんですが…」
俺だってどでかいダイヤとかあげたい。
だが、生憎それほどの持ち合わせは無い。
俺が作ったやつなら金はかからないんだが。
まあ、どうしても欲しいと言うならどこからでも奪ってくるが。
「え………くれないの?」
あれ?
思った反応と違うな。
「そうだね」と言うと思ったが、今のフィルティアの顔は不安そうだ。
「あれ? 魔術で作ったものをあげるって『求婚』て意味じゃなかったでしたっけ?」
「そうだけど…………『最愛』が主な意味だから…」
やべ。
ならここに来たのは間違いだったか。
フィルティアに変な思いをさせてしまった。
「申し訳ありません。だったら幾らでもあげれますね」
「うん……」
そう返事するフィルティアの顔は少しだけ寂しそうだった。
いきなり失敗したことに焦りを覚えるが、まだデートはこれからだ。
「では、帰ったらプレゼントしますね」
「うん…」
ー
あの後も服屋で買い物をしたりして、今は昼食を取っている。
「それで、今も練習してるんだけど上手くいかなくて…」
「創造魔術はそうですね……自分の体と一緒に動かしてみてください」
食事を撮り終えた俺たちは、この前フィルティアにだけ教えた創造魔術のことを話していた。
俺はお手本を見せるために人形創造を唱える。
フィルティアの前に創られた手のひらサイズそれを、俺が右腕と連動させるように動かす。
ポふっ
フィルティアの胸にゴーレムの右手が触れる。
「ふむふむ。いい胸ですな」
と言っても、感覚は伝わってこない。
だが、彼女の恥ずかしそうな顔を見るだけで満足だ。
「ちょっと………シャルっ」
「すみません。手が滑りました」
「もう……」
人形を引っ込める。
思えば、セクハラをするのは初めてかもしれない。
一夜を共にした彼女だからできたが、エミリーやマオにやったらどんな反応をするんだろうか。
フィルティアが人形を俺の前に作る。
そして、左手でパンチの動きをする。
人形は動かない。
「あの……フィルティアさん?」
「なに?」
「………すみません」
「ん…」
店でやることじゃなかったな。
今度は教室とかでやってみよう。
「できそうですか?」
「ううん」
フィルティアは創造魔術が苦手らしい。
別にできなくても何も問題ない。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
腹も満たされたし、このまま王宮に帰るとしよう。
「待って、シャル」
と、フィルティアに止められた。
「えっと…………話が、あります」
改まって言われた。
…嫌な予感がする。
ーフィルティア視点ー
シャルを引き止めて、話をする。
内容は決めていない。
ただ、シャルと一緒に居たかっただけだ。
でも、話したいことができてしまった。
「シャルは…エミリーとマオのこと……好き?」
ずっと心に引っかかっていたことだ。
「ええ。大好きです」
それを聞くと、少しだけ胸が痛くなる。
分かっていた答えなのに。
「フィルティアも超好きですよ」
もう…
シャルは私をすぐ笑顔にしてくれる。
この甘い言葉にどれだけ惑わされたか分からない。
でも、それが私以外にも向いていると考えると…
本当は私の胸の内を伝えたい。
「私はシャルだけが好きなのに、どうして?」と。
だけど、それを言ったら彼はきっと困ってしまう。
だから言わない。
エミリーやマオだって同じことを思っているはずだ。
私だけが言うのも間違ってる。
「シャルは………好きな食べ物ってあるの?」
無理やり話題を変える。
彼と一緒に居たい気持ちを優先する。
「んー………飛竜の肉ですかね」
「おいしいの?」
「ええ。リオンが食べさせてくれました」
シャルの妹。
リオンちゃんは料理ができるんだ。
それも、シャルの好物に選ばれるほどに。
私も頑張らなくちゃいけない。
「フィルティアは何が好きですか?」
「んー………えっとね…」
好きな食べ物…
すぐに思いつかない。
村で食べていた木の実やお肉は美味しいけど何か違う。
シャルはこういう時はなんて言うんだろう…
「……シャルのプリンが………好き」
やっぱりシャルの喋り方は恥ずかしい。
面と向かって好意を伝えるのは難しい。
だんだん顔を俯かせてしまう。
「ああ、ありがとうございます」
ー
あのあとも話をして、時間は昼下がりにぐらいになった。
王宮への帰り道、シャルと手を繋いで歩く。
優しい手が私を包んでくれている。
私を抱いてくれた人が目の前にいる。
あの時の記憶は緊張と期待でぼやけているけど、私を愛してくれたことはハッキリ覚えてる。
あの時は痛かったし、次の日は歩くのにも苦労したけど、シャルにされていると思ったら興奮してきたのも覚えてる。
シャルがしてくれることならなんでも受け止められる。
「フィルティアといると楽しいですね」
そう言って、笑いかけてくれる彼はとても眩しい。
私を助けてくれた王子様。
物語の中だけだと思っていたものが、私の目の前にいる。
夢でも見ているのかと思ってしまうほど幸せだ。
と、王宮が見えてきた。
2人っきりの時間が終わってしまう。
これが終われば次はエミリーの番だ。
嫌だ…
まだ終わって欲しくない。
そう思って、足を止めてしまう。
手を繋いでいた彼も止まる。
「…どうしました?」
不思議に思ったシャルから声がかかる。
「私、シャルにやってほしいこと……言ってなかったよね…?」
「はい……そうですね」
今日は…
今日だけは私のわがままを聞いて欲しい。
私はして欲しいことを伝える。
「今日は………帰りたくない」
ー
私のわがままが通った。
シャルが宿を取ってくれて、その夜は2人で過ごすことにした。
部屋の真ん中に大きめのベッドがあって、角に引き出しが1つある。
そこの上に2人の荷物を置く。
「フィルティア、少し待ってください」
彼はそう言って、手のひらに目を向ける。
小さな魔術の光が出て、少ししたら無くなった。
「どうぞ。先程話していたものです」
差し出された手のひらには指輪が乗っていた。
雪の結晶みたいに細かく作られているそれは、今作ったものとは思えないほど綺麗だった。
「ありがとう! シャル」
嬉しくて声を張り上げてしまうが、すぐに罪悪感が出てきてしまう。
小物屋で、私はシャルに嘘をついた。
『魔術で作ったものをあげるのは『最愛』の意味が主』と言ったことだ。
本当は『求婚』の意味合いがほとんどだ。
シャルにもう一度…
その気が無いと分かっていても、もう一度求婚して欲しかった。
今、指輪を渡されただけでもかなり胸がドキドキする。
シャルに愛されている証が手に入ったことが嬉しくてたまらない。
シャルを思いきり抱きしめたい。
でも、その欲求を抑える。
今日はたくさん歩いたから汗をかいた。
それに、持ってきた服も着たい。
メイアさんに言われた通り、少しえっちな服だ。
「シャル、お風呂入ってくるね」
「え……?」
彼が驚いたような顔をする。
…何かおかしなことを言っただろうか。
「どうしたの?」
「いや………お風呂は入らないでください」
「え?」
その言葉に驚く。
シャルの事は全部受け止めたい。
でも、汚れた体をシャルに見て欲しくない。
「でも……」
「入らないで欲しいです」
シャルがして欲しいならしょうがない…
「じゃあ……着替えだけしてくるね」
「…? はい」
持ってきたバスケットを持って脱衣所へと向かう。
ーシャル視点ー
フィルティアからお誘いを受けた。
今まで俺から誘ったことがないのが情けない。
今度は俺からやろう。
今、フィルティアはお着替え中だ。
覗きたい衝動を抑え、その場で待つ。
それにしても、今日のフィルティアは様子がいつもと違ったな。
急に話が変わったり、少し可笑しな態度もあった。
彼女も緊張しているのかもしれない。
ガチャァ
扉が開かれ、フィルティアが出てくる。
そこには天使がいた。
格好は黒のネグリジェに、同じく黒でシースルーの布を肩を出して羽織っている。
背中に漆黒の翼が見えたが、俺の幻覚だった。
フィルティアにしては露出の多い服のように思える。
蠱惑的な服装に心臓が早鐘を打つ。
「お…おまたせ」
「綺麗ですね。フィルティア」
今日はフィルティアとするのだ。
2回目の行為。
正直、初めてした時は緊張と期待で記憶がぼやけている。
あの時はかなり視野が狭くなっていたからな。
だが、フィルティアと致したことはハッキリと感覚に残っている。
そして、今回はそんな失敗はしない。
フィルティアを抱きしめる。
彼女の息遣いを肌で感じる。
息を吐くと暖かくなり、吸われると冷たく感じる。
「シャル、本当にお風呂入らなくてよかった?」
「ええ。いい匂いですよ」
事実、いい匂いだ。
風呂に入って、フィルティアの匂いを流すなんて勿体ないことはしない。
しばらくの間、お互いの体温を交換させてからフィルティアを抱き抱える。
俺はベッドの縁に座り、フィルティアは俺の太腿に跨るように座る。
フィルティアの火照った顔が目の前にある。
そのままキスをする。
お互いの舌が絡み合い、淫靡な音が部屋に響く。
唇を離し、彼女の横腹に手を伸ばす。
すると、ピクっと跳ねて反応する。
未だ、体を触れられるのには馴れないのか、体を強ばらせている。
体の緊張が解れるまで彼女の体を擦り、馴れてきたのを確認すると服を脱がせる。
フィルティアの綺麗な肌が顕になる。
小さい胸をコンプレックスだと思っているのか、胸を両腕で隠している。
俺はどっちでも等しく愛しているから気にしなくてもいいんだが。
「フィルティア、綺麗ですよ」
俺がそう言って二の腕を撫でると、そっと胸を顕にする。
恥ずかしそうに目を瞑る彼女は非常に魅惑的だ。
胸を愛してからベッドに寝かせる。
そして、入念に前戯をして┈┈┈┈
その日、俺は初めて男として卒業できた気がした。




