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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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リオンの手料理 ーお嬢様の笑顔が1番ー

待ちに待ったリオンの手料理。

俺はロウネの隣の椅子に座っていた。


場所は食堂。

8人ほどが座れるテーブルに、天井にはシャンデリアがある。

花瓶の花からは気品のある薫りが漂っていてリラックスできる環境だ。

家にはもう一部屋食堂があるが、あそこは来客用なので豪奢だ。

そこではあまり落ち着けないのだ。

リオンの料理が来るまでロウネと時間を潰す。


「シャルって『竜滅ぼし』の称号持ってるんでしょ?」

「ええ…まあ」


『竜滅ぼし』……

俺としてはあまりいい記憶ではないものだ。

あの竜の所為でフィルティアとの初夜が阻まれたのだから。

思わず苦笑いで答えてしまう。


「すごいわねっ!」

「…それより、母様は赫級魔術まで使えるんですよね?」

「……ええ…まあね」


そう言って、苦笑いを浮かべる。

ロウネにしては珍しい反応だ。


「…何か嫌な思い出でも?」

「…まあ……少しね」


そうか。

話したくないなら無理に聞かない。

天真爛漫なロウネでも忘れたいことはあるだろう。


「赫級魔術ってかっこいいですよねぇ」


話は聞かないが、教えてはもらいたい。

俺はチラチラしながらロウネに語りかける。


「そうねぇ」


そんな俺に対して、ロウネは頬杖をついてニヤニヤしながら俺を見てくる。


「教えてはもらえないのでしょうか?」

「そうね…」


まじか。

ジェフもそうだったが、強い魔術を教えてはいけない理由でもあるのだろうか。

俺がまだ子供だと見られているのかもしれない。

11歳の子供に武器を与えるのも可笑しな話だしな。

独学でやるか…


「そうですか……では、昔の父様はどんな人だったんですか?」


無理やりに話題を変える。


「すっごくかっこよかったのよ!」


途端、ロウネが目を輝かせながら身を乗り出す。

待ってましたと言わんばかりの勢いに怯んでしまう。


「昔のジェフはね┄┄┄┄」



話をされた。

2人もまだ若く、王宮にいた頃の話を。

ジェフはテラムンド家の長男として。

別家の次女であるロウネは有り余る一般的なメイドとして雇われていたそうな。


ジェフは歴代のテラムンド家の中でも秀でて才能がある訳でもなく、平凡だった。

それでも健気に、そして誠実に執務を真っ当する彼に惹かれたロウネはまだ初々しく、恋愛には奥手だったそうだ。


「それなのに、私にアプローチをかけてくれた時は本当に嬉しかったわ…」


懐かしむ雰囲気で語る彼女に思わず見蕩れてしまう。

昔を懐かしむ大人はいいものだ。

前世の俺にはそういった思い出とかは無かったからな。


「ジェフと一緒に龍王国に行った時なんてすごかったんだから」

「龍王国に?」

「ええ。謁見にね」


それは初耳だ。

ジェフたちが行ったのなら、俺もいつか行くことになるのだろうか。

観光なら愛しの彼女たちと行きたいが、謁見となると気が引けるな。


「私ね、龍王様に会うの怖くて緊張しちゃってたの。この世で最強の存在に会うって思ったら震えてきちゃってね。それでジェフったら、私の手をやさしく握ってこう言うのよ!」


ロウネは自分の手を胸の前で組む。

そして、天井を見上げ、目を細めて顔と声を作る。


「『何があってもロウネを守るよ』って! きゃー!」


そう言って、赤らめた頬を両手で抑える彼女は乙女そのものだった。


いいなあ。

俺も今度使ってみよう。


コンコン


と、ノックの音がした。

扉が開かれ、1人の少女が皿を2つ、その細い腕に器用に持っている。


「お母様っ! お兄ちゃんっ! できたよー」

「あら、もう?」


目の前に運ばれてきたのは肉料理だった。

1口サイズに切られた、あざやかな赤を持つそれはローストビーフを思わせる。

宛ら高級料理のように盛り付けがされていて、9歳の子供が作ったとは到底思えなかった。


「これリオンが作ったの?」


ロウネも驚いたようで、リオンに問いかけている。


「はいっ!」

「すごいわ! リオン!」


ロウネは嬉しさから椅子から立ち上がり、リオンを抱きしめる。

まだ肝心の味を確かめていないのに、この喜びようだ。

かと言う俺も、目の前の料理に身を震わせているのだが。


「では、食べてみてください」


ロウネの胸の中からリオンの籠った声が聞こえる。

俺はナイフとフォークを持ち、肉をフォークで刺し、用意されたメレンゲのようなものを付け、口に運ぶ。

咀嚼し、呑み込む。


その一連の動作をリオンはじっと見ていた。


「……ど、どう?」


何も言わない俺にリオンが不安そうに問いかけてくる。

俺はどこかの司令のようにテーブルに肘をついて、手を組んでいた。


「リオンよ、悪いがはっきり言わせてもらおう」


リオンの喉が鳴る。

俺の舌をうねらせる料理人は、世界でも数えられる程しかいないだろう。

何せ、前世の俺が主食としていたものはカップラーメン(神々への献上物)だったからな。

その俺が言わせてもらおう。


「ちょーうまい」

「「 いえーい! 」」


リオンとハイタッチする。

いやー、びっくりだ。

これほどの料理は食べたことがない。

やはり、妹の料理は世界一だな。


「あら、おいしいわね」


いつの間にか座ったロウネもあまりの素晴らしさに称揚している。


「これなんのお肉使ってるの?」

「お兄ちゃんが倒した飛竜です」


ロウネの問いかけにリオンが…

…ん?

飛竜?

あの忌々しい?

……まあ、それはそうとして、あいつらって食べれたのか?


「あれをここまで柔らかくできたん? リオン」

「まあねっ」

「さすがだな」


素直に驚く。

飛竜は天災に数えられる魔物だ。

それに、あの筋肉の塊のようなものをここまで仕上げたのは流石リオンと言ったところだろう。



二口目と、料理に手を伸ばす。



食事を終え、リオンに皿を片付けられる。

量的には物足りないが、味はこの世の頂点に君臨するだろう。


「リオン、将来はいいお嫁さんになりますね」


とは言うが、誰にも渡す気は無い。

最低でも飛竜を同時に5体倒して、それを食せる程の大物じゃなければ、交渉すらさせない。

かわいい妹に手を出す不埒者は飛竜と同じ目に合わせてやる。


「ははっ、シャルったらジェフみたいなこと言って」

「父様は多忙の身ですからね。僕が父親替わりにと」

「そう? なら私とシャルは夫婦ね」

「はは、冗談はよしてください」


母さんと結婚しているなんてのは勘弁して欲しいもんだ。

だが、ロウネも忙しい身だから、リオンは母親替わりのようになるんだろうか。

だとしたら、実質俺とリオンは結婚しているわけで…

ぐへへ




ー同時刻ー


教室で2人の少女が睨み合っている。

1人は金髪碧眼の少女、もう一方は獣族の少女。

マオとエミリーだ。


2人とも腕を組んだ仁王立ちで顎を突き出し、一触即発の雰囲気を醸し出している。


「マオ、今日があんたの命日よ」

「ふっ、ろくに剣も振れない温室お嬢様が何を言っている」


ぎっ!


エミリーの歯が軋む。

だが、すぐに余裕の笑みを浮かべ、マオを見据える。


「…マオ、随分と口が回るようになったじゃない」

「ふっ、私のシャルのおかげだ」

「私のよ!」


2人の言葉に気色ばんだ少女が一人。

耳の突出した髪の短い少女。

フィルティアだ。


「天地」

「獄地」


その言葉を聞くと、フィルティア正四面体で半透明の(さい)をテーブルに放る。

出たのは、底面に書かれている『天地』

頂点が机に直立している異様な光景。


「どうよ! マオ」

「……今回はお前に譲ろう」


エミリーが胸を張り、マオのしっぽと耳が力なく垂れ下がる。

現在、彼女らは一人の少年の休日は誰が一緒に過ごすのかを決めていた。



3人は同じ机に座り、会合する体勢をとる。


「フィルティアは休みの日なにするのよ」

「えぇ……買い物行ったり、ご飯食べたり…とか……」


体をモジモジさせて言う彼女に、エミリーが眉をピクリと動かす。


「……フィルティアは…勝負下着とかあるの…?」

「え……」


フィルティアが予想外の質問に口が空いた状態で固まる。

聞いている本人ですら頬を赤くしている。


「え……えっと………シャルはえっちだから……その…」


煮え切らない態度に、徐々にエミリーの眉がつり上がっていく。

だが、フィルティアの言葉を遮ったりはしない。


「毎日……着けて…る」


そう言って、股の辺りを服の裾で隠すように引っ張る。


「そ……そう」


エミリーは自分の下半身を見る。


「え、エミリーはどこに行く予定なの?」


未だ紅潮させた頬で話を振る。


「………迷宮よ」

「ほう」

「危ないんじゃないかな…」

「シャルがいるから平気よ」

「ふっ。お前がいたらシャルも大変だろう」


マオの挑発にキッとエミリーが睨む。

だが、すぐに普通の顔に戻る。


「初心者用のところに行くわよ…」

「そうか」

「……マオはどこに行くのよ」

「む、私か……そうだな…」


既に決めている2人に対して、マオは顎に手を当て思案する。


「………私の部屋だな」

「なっ!」 「えぇっ?!」


純情な乙女の声が飛ぶ。



乙女たちの会合はこれからも続いた。




ーシャル視点ー


翌朝、王宮に帰る日になった。

時刻は朝、既にロウネは仕事に出かけ、今は俺とリオンとメイドしか居ない。


「お兄ちゃん…」


リオンが寂しそうな声を出す。

その声を聞くと、思わず「1日くらい…」と思ってしまう。

だが、それはいけない。

長耳族の村のようにしては、また迷惑をかける。

あの時とは違い、俺たちは恋人関係だ。

無責任な行動はとれない。

そのために王宮から馬車を手配してもらったのだ。


「ごめんな、リオン。なるべく早く帰ってくるから」

「うん…」


寂しそうな返事をする彼女に気が揺れてしまう。

やっぱり1日くらい…

いいや、駄目だ。


俺だってこんな葛藤はしたくなかった。

リオンに『王宮で雇われたらどうだ』と聞いたが、まだ王宮で雇われるには実力不足らしい。

ならば、『俺の生徒は?』と聞いたら、『修行ができなくなっちゃう』と断られた。

リオンは俺よりよっぽど大人だ。


ガタパタガタ


と、迎えの馬車が来たようだ。

馬車が止まった音を聞き、それへと振り向く。


と、馬車の踏み場に見慣れた美少女が仁王立ちで立っていた。

サラサラした金髪は風でたなびき、その髪を太陽の光が祝福するかのように照らしている。

青空よりも綺麗で、透き通った碧眼を俺に真っ直ぐ向けている。

突然の女神降臨に心臓がドキドキしてしまう。


「迎えに来たわよ! シャル!」


そこにはエミリー(女神)…ではなく女神(エミリー)が居た。

いつもと変わらない格好なのに一際美しく見える。

たった1日合わなかっただけで…

俺も女々しいやつだな。


「ええ………では、リオン…いってきます」

「うんっ…いってらっしゃいっ!」


リオンに向き直ると、笑顔で見送りをしてくれた。

俺も笑顔を返す。


馬車に体を向けると、エミリーが掌を差し出していた。

顔を見ると若干赤くなっていて、目を逸らしている。


「ありがとうございます」


俺はその手を握って馬車に乗る。

エミリーの手を握ったのは何時ぶりだろうか。

暖かくて優しい手だ。


馬車が進み出し、名残惜しさが残る。

だが、いつまで経ってもそんなことは考えていられない。

エミリーと世間話でもしよう。


そう思って馬車内を見渡すと、気がかりな点がある。

中にいるのが2人だけなのだ。

俺と、俺の前に座るエミリー。


フィルティアとマオが居ないことを訝しく思う。

だが、俺は鈍感男じゃない。

レディの気持ちを察するのも紳士の務めだ。


「そういえばエミリー、休みの日はどこに行きたいですか?」

「……迷宮に行きたいわ」


エミリーが遠慮がちに答える。


迷宮か…

確かに、俺も冒険者らしいことしてみたい。

だが…


「危なくないですか?」


エミリーの性格上、俺とエミリーの2人だけで挑むつもりなのだろう。

真正面からの戦いなら俺も自信がある。

だが、奇襲やら隠密行動をしてくるやつには自信が無い。

迷宮にはそういうやつが生息しているのだ。


「初心者用の迷宮にするわ」


初心者用か。

なら問題ないか。

エミリーはちょっと毛の生えた若造冒険者よりも断然強い。


ウォルテカ不在の今でも剣術は続けているが、エミリーには才能がある。

未だマオには1度も勝ったことがないらしいが、マオが強すぎるだけだ。

素人の俺でも見ていれば分かる。

エミリーは強い。


「なら、大丈夫ですね」

「ええ!」


頷くエミリーは嬉しそうだ。

この笑顔で世界を救えると思う。


「エミリーと迷宮か……楽しみですね」

「っ……そ、そうね…」


笑いかけると、エミリーが身を縮ませてチラチラと見てくる。

エミリーの頬が若干赤いのを見て満足する。


ジェフは本当にいい影響を与えてくれたと思う。

ロウネに言っていた口説き文句を参考に出来ていなければ、俺は前世のようなおっさんになっていたかもしれない。

でゅふふが口癖のヤバいやつに。


それにしても、エミリーと迷宮か…

暗い中2人で彷徨う男女。

緊迫した環境は2人の動物的生存本能を掻き立て…


でゅふふ



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