確認
フィルの部屋。
ベッドの上で向かい合って抱き合う。
大きく、柔らかいベッド。
昔のフィルの部屋は使用人用の大きくない部屋だったが、今はエミリーの身辺警護をしているためか、広くて豪華な部屋になっている。
「あったかいね」
「うん……」
二人にかけられた毛布に熱がこもる。
二人の体温で温まり、一体感も共有される。
フィルの格好は私服。
そして、俺も仕事服。
互いにラフではないしっかりとした作りの服。
柔らかい毛布に包まれるには不似合いかもしれない。
だが、それがいい。
とにかく抱きしめ合うことを優先したこの状況。
互いの気持ちが表に溢れ出して初めて感じられるもの。
好きな感覚だ。
「シャルさ……」
「うん」
「……私のこと好き……?」
耳元で心配そうに聞いてきた。
か細い声が耳にチクッと刺さる。
フィルの気持ちも当然だろう。
マオ、エミリー、よく分からんおっさんときて、ようやく自分だ。
不安になるのも仕方ない。
軽い言葉では満足しないだろう。
「うん、めっちゃ好き」
軽い言葉しか思いつかない……。
だが仕方ない。
それ以外にどう言ったらいいというんだ。
背中を優しくさする。
「どういうところ好き……?」
「根はしっかりしてるけど甘えたなところ」
「……ふぅん」
「思ってたのじゃなかった?」
「ううん……“しっかりしてたっけ?”って思った」
「確かに」
「ん?」
フィルの間の抜けた声。
顔が俺の方に軽く向いたのが分かった。
そんなフィルの体をポンポンと触る。
特に脇腹のあたりを。
「前よりいい体してる。辛くても頑張った証だよ」
「んん……」
「前までは今みたいに抱きしめたらポキってなりそうだったし、治癒かけながら抱きしめたりしてたからね」
「え、そんなに……?」
「盛った」
「なぁん……」
フィルが不満げな声を漏らす。
治癒は冗談だが、ポキっといきそうだったのは本当だ。
ギュッと抱きしめれるようになったのは嬉しい。
「でも嬉しいよ、フィルがこんなに頑張ってくれてて」
「んん……まあね?」
フィルの頬が緩んでいるのが声から伝わる。
そして、俺の背中を撫でた。
「シャルもさ、いい体になったよねっ」
「うん」
俺の首の肉をムニュムニュ揉むフィル。
彼女の細長い指が体が緩ませ、彼女に体をあずける。
温かい空間に好きな人のマッサージ。
好き。
ほんと好き。
めっちゃ愛してる。
「エミリーとも長くシてたし、体力も凄くなったんだね」
「……ん?」
一瞬、寒気がした。
先程までの弛緩が一気に硬直に変わった。
フィルはエミリーと俺が長くシてたのを知らないと思っていた。
だが、現に知っている。
ということは……?
フィルの掴む首に意識が向いた。
「……見てた……?」
「……ちょっと聞いただけ」
む?
『聞いただけ』?
それはそれて悔しい。
普通、あの声と音を聞けば、覗き見くらいはする。
俺なら確実にしている。
なのに聞いただけだと……?
「……ふぅん」
「……なにさ……」
俺だってテラムンド。
ベッドのあれこれなどは知っている。
だから、覗かずに聞いただけというのは少し傷つく。
「いや? “感想聞きたいなー”って思った」
「別に……? 何もないけど……」
「ふぅん?」
ほほう?
これは見てたなあ?
そりゃあそうだ。
あんな声を聞けば誰だって覗く。
それほどまでの行為だった。
それに、フィルはこう見えても俺より性欲が強い。
そんな彼女があれを見て何もないわけがない。
フィルが自分の顎を俺の肩に乗せた。
「……私だって体力つけたし……」
「うん」
「エミリーとかマオよりはないけど……」
「うん」
「…………たくさんシたい……」
抱きしめる力が強くなった。
そして、フィルが自分の長い耳を俺の耳の中に入れる。
頭をグリグリと擦りつけて、互いの耳の感触を楽しんでいる。
「うん、たくさんシよう」
「ぅん……」
フィルの背中を撫でる。
よしよしよし。
やったぜえっちだ。
昔、フィルは朝にえっちすることを避けていたが、自分の欲に正直になったのだろう。
まずはゆっくりと体を慣らしてからやろう。
お互いに四年ぶりとなるえっち。
緊張してしまってはいけない。
「あとね……シャル」
「? うん」
フィルが恥ずかしそうに身を縮こませた。
彼女の熱い息が首筋を撫でる。
「ずっと前から考えてたことがあって……」
「うん」
「…………」
フィルの心臓が早くなっていくのを感じる。
同時に耳も熱くなっていく。
次の瞬間、彼女を撫でていた手の時が止まった。
「シャルに…………めちゃめちゃにされたい……」




