嘘つき
---シャル視点---
陛下と別れ、ようやくフィルのところへ行ける。
彼女のことは随分と待たせてしまった。
マオときて、エミリーときて、よく分からんオッサンときて、ようやくだ。
俺もフィルのことは待ち望んでいたが、彼女はよりその意識は強いだろう。
これ以上待たせてはいけない。
陛下を見送ったあと、フィルの部屋へ振り返る。
ここからフィルの部屋は近い。
もう邪魔するものは何も┈┈┈┈┈┈
「あ」
「…………」
目の前の曲がり角で壁にもたれ掛かる可憐な少女。
その表情はあまり機嫌が良さそうには見えず、ムスッとしている。
俺の愛しの彼女。
フィルさんだ。
「「…………」」
まずい。
嫌なところを見られた。
自分という歳若い女よりも、中年のオッサンにかまけているところを見られた。
これは相当まずいことをしたんじゃ……。
……いや!
待て。
まだ早とちりする時間じゃない。
こういう時は逆の立場だったらどうするかを考えるんだ。
俺がフィルの立場だったら……。
「…………」
キレてる。
「えっと…………ごめん」
「…………」
返事はない。
斜め下を見ながらムスッとしているだけだ。
俺は腕を軽く広げ、ゆっくりとフィルに歩み寄る。
「…………」
抵抗する気配がないのを確認して、ギュッと抱きしめた。
「ほんとごめん……。後回しにしすぎたね……」
「……うん」
俺としたことが、最近は失敗続きだ……。
可愛い彼女の悲しい顔は見たくない。
「……一日で満足なんて、できない……よね……?」
俺の腰に手を回し、ボソッとそう言った。
多分、エミリーと同じく“一日で終わる”と決めていたのだろう。
だが、それも今崩れた。
「うん、そうだね」
俺も一日で満足なんてできない。
エミリーは反対するだろうが、なるべく長くいたい。
「……どのくらい一緒にいられる……?」
「ずっと。満足するまでいよう」
「…………ぅん」
キュッと抱きしめられた。
細めの彼女に抱きしめられるのはなんだか心地がいい。
「部屋行こっか」
「うん……」
「「……」」
ハグしながらでは歩きづらい。
しかも、お互いに足を動かしてすらいない。
「抱っこしよっか」
「うん……」
腕の力を緩めて、その場に屈んだ。
フィルが首に腕をかけると、立ち上がる。
軽い。
だが、しっかりと筋肉はついている。
抱っこしやすい体だ。
「こうして抱っこするの、久しぶりだね」
「うん……」
フィルの長い耳が顔に当たるこの感覚。
けっこう癖になる。
フィルも俺の耳と自分の耳を重ね、感触を楽しんでいるようだ。
「行こっか」
これからはフィルの部屋に向かう。
四年ぶりのフィルとの時間。
一緒に楽しい思い出になるよう頑張ろう。




