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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
147/150

父の意地

---第三者視点---


「…………」



ガタチャン……



王宮の中でも大きめな扉を中年の男が開ける。


一人の国王。

それも一人の父親が自分の娘の部屋を久しぶりに見た感想は“満悦”だった。


一人の娘が使うにはあまりに広すぎる部屋。

あまりに豪華すぎる部屋。

だが、それはあくまで一般的な尺度で測った場合のみ。


彼女の器を考えれば、これでも小さい方だろう。


そう思う親がここに一人いる。


「…………」


そして、子供思いな親の視界に愛しの娘の姿が入る。


普段は美しく端正なその顔は悲しみに暮れ、曇っている。

毛布が掛けられた自分の膝を抱き、背中を丸める情けない姿だった。


「エミリー……」

「……お父様……」


(しお)れた声。


一瞬、今すぐ(きびす)を返して愛しの娘にこんな顔をさせた男。

シャルの顔をぶん殴ってやりたい気持ちに駆られる。

だが、それよりも優先すべきものがあることに気づかされた。


「大丈夫か……?」

「……ええ……意志を貫いただけですもの……」

「…………」


エミリー・エルロードの親、ユラーグ・エルロードは悩む。

この場合、親として接するか、王として接するか。

どちらがより我が子のためなのか。


「…………」


窓際に置かれた椅子を持ち、ベッドの脇でそれに座る。

辛うじて作った短い時間。


そして、選択の時が来た。


「子を作る気か?」

「ぶち殺しますわよ」


間髪入れずに娘から厳しい一言が飛んできた。


もちろん、自分もこの質問が娘に向けるものではないと理解している。

いつもであれば軽い世間話から入り、質問と共感を織り交ぜながら話していただろう。

だが、今日ばかりはいつも通りとはいかない。

王として話す躊躇いを無くす必要がある。


いつもの優しいパパは置き去りにするのだ。


「落ち込んでる娘にかける言葉かしら?」

「うむ、全くその通りだ。だが┈┈┈┈┈┈」


お互いの口が同時に開いた。


「「 互いに決めたことなら大丈夫。(わたし)がこの目で見たのなら大丈夫。言ったはずよ、私は『誰にも騙されない』って(互いに決めても相手がテラムンド。お前がその目で見ているのはテラムンド。言ったはずだ、私は『奴らを警戒しろ』と)」」


エミリーはユラーグを人差し指でさし、あとに自分を親指でさした。

ユラーグはエミリーを人差し指でさし、あとに自分を親指でさした。


「「…………」」


互いに睨み合う。


エミリーがシャルに出会ってからは何度かしているやり取りだ。



“テラムンドは絶対に信用するな”



エミリーが赤ん坊の頃から口を酸っぱくして言っていた文言だが、それも既に無意味になってしまった。


ユラーグはテラムンドを恐れている。


テラムンドは永くエルロード王家に仕え、どの貴族よりも、何よりも多くの功業を築いている。

王家に不利益が生じたことなどただの一度もない。

エルロード王国が人国随一の大国となったのも、テラムンドの存在が大きいだろう。


にも関わらず、この王は彼らを信用できずにいる。


奴らは誰でも堕とす。

年齢、性別、果ては種族も何も問わずに。

そして、何でもやる。

何でもだ。


その噂を聞きつけた世界中の者たちが奴らを求める。

初めは大きな期待を持たずに接するが、直に理解する。

“噂のような生半可なものではない”、と。


当然だ。

アレは何よりも危険な毒。

全ての生物を堕とすために創られた存在なのだ。


だが、決して悪用はしない。


その性質が恐ろしい。

何故そんなことが出来るにも関わらず、王の座を狙わないのか。

何故下に()いたままなのか。

何故あんなふうに笑えるのか。


そして、理解が出来ないものの中に自分も含まれているのも解せない。


(私も既に()()()、ということだろう……)


ユラーグは悲しげな目をエミリーに向ける。


「シャルは私を利用して何かしようなんて思ってないわ」


この分からず屋の娘をどうにかしなければならない。


「思っているかどうかではない。出来るかどうかが問題だ」


これ以上、犠牲者を出さないために。


「例えそうでも私は彼に籠絡なんてされないわ。この状況がその証拠よ」

「それすらもだ。何度も言っていることだろう。┈┈┈┈」


エミリーの眉が寄った。


「┈┈┈┈あいつらを人間だと思うな」

「…………」


悲しんでいる娘の機嫌が更に悪くなる。


痛む心はある。

だが、王として父として、国と娘を守らねばならない。


「……そう。それでも私はシャルと一緒に過ごすわ」

「…………」


意志は変わらない。

全くもって頑固極まりない。


「大丈夫よ。私は彼に堕とされたりなんかされないわ。()()()()()したのに、それをはね除けたんだもの」

「……うむ、そうだな。簡単には出来ぬ所業だろうよ」

「でしょう?」


ユラーグは心の中で肩を落とす。


(四年も我慢するのが問題なのだ……)


心の中を悟られぬように椅子から立ち上がる。


「だが決して油断は許されない。警戒は続けるんだぞ」


たとえ(くど)いと思われようとも、これだけは言い続けなければならない。

今回はこれだけに留めるが、また時間があれば伝えるつもりだ。


「ええ、分かってますわ」


椅子を元あった場所に戻し、『何かあったら呼ぶんだぞ』と言い残し、エミリーの部屋を出た。



ガチャン……



背中に扉が完全に閉まるのを感じる。

そして窓の縁に手をかけ、体重を寄せた。


「…………」


(嫌な父親になったものだ……)


王であるユラーグがこんな姿になるのは珍しい。

彼は基本、何があろうと表情一つ動かさないよう意識している。


“王が動じれば民が揺らぐ”

“王は誰にも弱みを見せてはならない”

という持論を持っているからだ。


故に、弱っている今も、廊下に誰もいないのを確認したあとに行っている。


(シャルのヤツめ……)


娘を悲しませ、あんな目にした男の顔を思い浮かべる。

八つ当たり気味な感情だが、筋違いという訳でもないだろう。

何しろ、相手はテラムンドだ。


「…………」


(覚えておけ……。次に会ったら引っぱたいてやる)



一つの決意を固め、父親は歩みを進めた。



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