真っ直ぐの分かれ道
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「シャル・テラムンド」
「?」
突然、名前を呼ばれた。
低く、重厚な声。
窓の景色を見ていたのと、絨毯に足音が吸われて気が付かなかった。
太っていると言うよりはガタイが良いという印象を受ける中年。
身につけている服色は地味なものだが、その生地は俺の目から見ても一級品だ。
茶髪の髪にところどころ白髪があるが、年齢を感じさせない気迫をその顔に携えている。
「陛下……」
俺を彼女たちから引き離した張本人。
エミリーの父親、ユラーグ陛下だ。
「…………」
正直、かなり気まずい。
俺を魔王城に送り込んだ人だが、それは仕方のないことだと理解している。
昔はこの人に対して怒りも覚えたが、それは過去のもの。
とにかく、今は何を話すかに苦しんでいる。
何せ、娘さんとシたあとだ。
その父親と話すのは些か気が引ける。
陛下はエミリーがいる扉を一瞥したあと、俺の方へ目を向けた。
「……エミリーはどうだった?」
気持ちよかったです。
「ええ、相変わらず芯のある強い方でした。陛下と似たものを感じますね」
「ふむ、そうか」
陛下も俺と同じように少し気まずそうだ。
先手を打つなら今だろう。
「陛下、以前は申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げ、心から謝罪する。
「……」
「あの時は感情的な物言いになってしまい……大変な無礼を……。どんな処罰も受ける覚悟です」
「……よい」
頭上から重低音の慈悲の声が降りる。
「……よろしいのでしょうか?」
まだ頭は下げたままだ。
明確な許しを聞いていない。
「構わん。むしろあれで良かったのだろう。エミリーに免じてだがな」
『顔を上げよ』の声を聞き、頭をゆっくり上げる。
そして、朗らかに笑った。
「さすがは陛下、懐の広さに感服致します」
「世辞はやめよ。テラムンドに言われるのは慣れん」
「いえいえ。陛下のそういったところを民たちは愛しているのでしょうね。もちろん僕も含めて」
「…………」
“うわ……”という顔をされた。
眉をしかめたり目を細めたりはしないにしろ、そういった感情は伝わってくる。
普通に傷つく。
「……まあいい。それより場を用意しろ。これまでのことを話してもらわねばならん」
ええ……。
フィルティアと会うのが遅れる……。
だが、積もる話があるのも事実。
部屋はすぐに用意できるし、そこまで長くはならないだろう。
「はい、喜んで」
少しだけ確認したいこともあるしな。




