表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
144/150

二度目の別れ

---シャル視点---



「…………」


じめっとした感覚で目が覚めた。

だが、目は冴えてスッキリしている。


彼女とシた後の目覚めはいいものだ。

窓からさす日がいつもより輝いて見える。

そして、隣の温かさはそれ以上の輝きだ。


「おはよう、エミリー」

「…………ええ、おはよう」


彼女は俺の腕を抱き枕にして、そこに顔を埋めている。

いつもなら目を合わせてくれるところだが、こちらを向いてくれる気配はない。


「どうしたの?」

「……いいえ」


ううむ……。

何かしたっけか?


少し頭を悩ますが、何も思い当たる節がない。

まあ、悪いことではなさそうだし、気にしないでもいいだろう。


彼女の掴む腕をほどき、ベッドの背にもたれる。

それから体を伸ばし、溜まった凝りをとっていく。


いい気持ちよさだ。

エミリーとたくさんシたという事実が体に染み込んでいると実感する。

今日もたくさんシよう。


エミリーも体を起こし、俺の左隣に背をもたれさせた。


「?」


彼女の体をよく見ると、少し艶かしさを纏っているような気がした。

いつも彼女はセクシーで可憐で魅力的だが、今は少しえっちに寄った魅力だ。

不自然に思い手を握ってみると、いつもより体温が高い。


それはほんの少し。

本当にほんの少しだけ汗ばんでいるように思える。

寝起きの硬い体ではなく、温まった柔らかさ。


「…………」


やはりだ。


溜まっている証拠だ。

これだけの情報で断定は出来ないが、俺の彼氏パワーがそれを感じ取っている。


少しえっちな話題でも話そうか。


「昨日のエミリー、凄い可愛かったよ」

「……ええ」


……?

思っていた反応じゃない……。

手を握り返したり目を合わせたりしてくれるかと思ったが、逆に手の力は抜け、目線の角度を落としてしまった……。


いや、思っていた反応と違うなんていつもの事だ。

だが、今のは何か……。


彼女の手を優しく握り、表情をうかがう。


「…………」


なんでそんな悲しい目をするんだ……?


何かしてしまっただろうか?

昨日のえっちでやらかしたか?

いや、後戯の時は機嫌が良かった……。

今は生理でもないし、体調が優れないというわけでもないはずだが……。


「シャル……話があるわ……」

「ん……? うん……」


なんだろうか……。

あまりいい予感はしないが、悪い予想もつかない。


「「 ………… 」」


胸が締めつけられそうな気がした。


「あのね……」

「……うん」


きっと言いにくい事なのだろう。

俺の手の中でギュッとシーツを握り、唇を内側に巻き込んでいる。


「…………」


…………。

俺は言いたくなさそうにしている彼女の肩に腕を回┈┈┈┈┈


「もう…………フィルのとこに行きなさい……」

「……?」


フィルのところ……?

なぜ今さら?


回そうとしていた腕を下ろす。


「どうしてだ? まだ一緒にいれるはずだろう?」

「……駄目よ」

「…………」


理由が分からない……。

俺たちは四年も会えず、互いに再開できる日を羨望していたはずだ……。

それは言葉でも、行動でも確認し合えた……。


それをたった一日で……?

マオとは一ヶ月以上もそばにいた。

なら、エミリーとも同じくらいの時間を過ごしたい。


「……何か理由でもあるのか……?」

「……まだ家族と会ってないでしょ……?」


ああ……。

今の今まで忘れていたな……。


俺はまだ家族とはまだ再開していない。

確かに久しぶりの家族と抱きしめ合いたい気持ちもあるが、それよりも……。


「エミリーと一緒にいたい」

「…………だめ」

「…………」


頑固だ……。

そういうところは昔と変わっていない……。

そんなところも懐かしく思うが、今は都合が悪い……。


「……エミリー、素直になってほしい。この四年で我慢する癖がついたのも分かってる……。今だってそうだろ……?」

「…………」

「だから、正直に言ってほしい」

「…………」


エミリーの背中に優しく手を添え、彼女の手も握る。

あくまで()かさず、安心させるような手つきで。


「…………」


エミリーが口を開き、何かを言いかけ、やめる。

下唇を噛むその姿からは悔しさが見て取れる。


「…………私だって……」

「うん」

「…………私だってシャルと一緒にいたいわよ……」

「うん……」


彼女の表情は悔しそうで、口調もまたやるせないように見える。


「……でも駄目……」

「…………」

「……だって……私しか得をしないもの……」


エミリーしか得をしない。

自分の欲を通したい気持ちはあるが、それをするとフィルや俺の家族が悲しむ、ということだろう。


…………。


本当にこれだけか?

これだけであれば、マオの時も同じように言えただろう。

あの時はエミリーとフィルを犠牲にしてマオと一緒にいた。

エミリーもそれは分かっているはず。


何か他に理由がある気がする……。


「……本当にそれだけ?」

「…………他は言わないわ……」

「……どうしても?」

「どうしてもよ……」

「理由がある?」

「あるわ……」

「ん……分かった」


…………。


どうしてもなら仕方ないか……。

彼女にも考えあってのことだ。

俺が詮索したら意味がないのだろう。

ここは恋人として理解を示すべきだ。


エミリーの肩を抱き、互いの体をくっつける。

そして、ベッドに置かれていた二人の手を俺の太ももに置く。


「…………シャル?」

「ん?」

「……フィルのとこ…………行ってほしいのだけど……」


…………。


「エミリー」

「……?」

「一回は離れちゃったけどさ、またこうすることが出来てよかったね」

「……ええ」


より体を寄せる。


「えっちもさ、心が通じ合ってる感じがしてよかったね」

「…………ええ」

「……エミリー」

「…………」


彼女の鼓動が早くなった。

それに伴って体温も上がり、肌も柔らかくなってくる。

そんな体を包み込み、太ももに置いていた二人の手を彼女の胸に添える。


そして┈┈┈┈┈┈。



「君が一番好きだ、エミリー」

「………………っ」



ドクンと彼女の心臓が跳ねたのを感じた。

耳を赤くして、鼓動を強く早く鳴らしている。


体を小さく縮こめるエミリー。

胸を苦しそうに抑えるエミリー。

その手の指先を撫でる。


「君を一番大切に思ってる」


両手でエミリーの手を包み込む。

彼女も胸の代わりに俺の手を握り返してくれる。


「ほんとにっ…………だめっ……」


彼女も両手で俺の手を握り込む。

そして、逃げるように体をさらに縮こまらせた。

俺の手をしっかりと握ったままするその動きは、俺には挑発しているようにしか見えなかった。


体の熱が逃げないうちにエミリーの体を再度抱擁する。


「ずっと一緒にいよう」

「っ…………」

「だからさ、エミリー┈┈┈┈┈┈」


┈┈┈┈我慢しないでいい。

そう言いかけた。

だが……┈┈┈┈


「┈┈┈┈┈┈やだっ…………」

「…………」


心臓を強く鳴らしたまま。

未だに手を握ったまま、そう言われた。


「「 ………… 」」


舞い上がっていた熱が引いていくのを感じる。

頭が冷えた。


「…………ごめん」

「…………」


心が弱ってる時に来る射精後のような感覚だ……。

自己嫌悪の念が襲ってくる……。


「…………」


分かってはいる。

エミリーは本当に嫌だとは思っていない。

今も俺の手を強く握っているし、鼓動も早い。


だが、ここまで拒絶されれば落ちる肩もあるだろう……。


「……分かった」

「…………」


握っていた手の力を緩め、二人の間に出来た熱も逃がしていく。


「……」


エミリーの手にも抵抗なく離された。

抜けた熱が体を緩ませ、余計に肩が落ちているのを感じる。


エミリーの丸められた背中を軽く撫で、ベッドから下りる。

足に硬い感触が伝わるのを不快に思いながら、服の(しわ)を伸ばす。


「……じゃあ……行ってくるね」

「…………待って……」

「……?」


俯いた視線で俺の足元を見たまま止められた。

少しだけ期待する。


「……服だけ……くれないかしら……」

「……両方とも?」

「ええ……」


部屋の窓際に置かれた机に目線をやる。

そこの椅子に俺の執事服とエミリーの服が掛けられている。

窓際だが、両の服ともに日は当たっていない。


パジャマのボタンを外しながら、執事服の方へ歩く。


そして、上半身裸で両の服をエミリーに手渡した。


「ありがとう……」

「うん」

「……」


と、エミリーがベッドの下に手を伸ばし、そこの引き出しを開ける。

中には白と黒と濃緑の服が何故かギッシリと入っている。


「はい……」

「ん、ありがとう」


三つ一式の服を手渡され、礼を言う。


「ええ……」


エミリーは平坦な声でやり取りをする。

渡した服を隙間なく閉じられた太ももの内側に巻き込みながら。


「……エミリー」

「……?」


落ちていた顔が少しだけ持ち上がる。

だが、まだ足りない。


「……」


彼女の体に一歩近づき、首筋に手を添える。


「「…………」」


彼女も何をするか気づいたのだろう。

今まで下げていた顔を上げる。


「「…………」」


キスをした。


「「…………」」

「……すぐに帰ってくる」

「……ええ」


最後に微笑み、扉に足を向ける。

シャツを着ながら歩き、扉を開く。


「またね」

「ええ、また……」


扉が閉まる音を背に、少し中空を見つめる。

そして、まだ着ていない服を着た。


「………………はぁ」


その場にしゃがみこむ。


「…………」


エミリー、悲しそうだったなぁ……。


「…………」


絶対我慢してたよなぁ……。


「…………すぅ……はぁぁぁ」


深呼吸をし、背中の名残りを払う。

ここで足踏みしていても仕方ない。

エミリーが決断したんだ。

俺もするのが筋だろう。


「……」


立ち上がり、固まっていない体を伸ばす。


「よし」


次はフィルのところだ。


脱いだパジャマのズボンを腕に掛け、懐かしい廊下を歩く。

柔らかい素材のカーペットが敷かれ、左右には大きく煌びやかな窓たちが並んでいる。

頭上には一つのシャンデリア。

この長い廊下を一直線に跨げるほどの大きさだ。


カーペットが敷かれた廊下に足音は響かず、自然と大きな窓から覗く景色に目を向ける。

王宮中央の最も大きな庭。

向かい側の城が小さく見えるほど、開放的で広々とした場所。


良い場所だ。

あの庭で彼女たちと一緒に過ごすのもいいな。

マオももうすぐ妊娠後の超負荷の運動(新命の誓い)に力を入れる時期だろうし、あそこで一緒に運動するというのもいいだろう。


「…………」


窓からの景色を見ていると、長い廊下も短く感じる。


エミリーの部屋からフィルの部屋は比較的近い。

昔は遠かったが、今はエミリーの身辺警護を担っているからなのだろう。


軽い足取りで歩く。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈。


┈┈┈┈。



「シャル・テラムンド」

「?」


突然、名前を呼ばれた。

低く、重厚な声。


窓の景色を見ていたのと、絨毯に足音が吸われて気が付かなかった。


久しぶりに見るガタイのいい中年。

俺を魔王城(あそこ)に連れ去った張本人。


「陛下……」



エミリーの父親、ユラーグ陛下がそこにいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ