寝起き
---エミリー視点---
「んん……」
ぼやけた視界で目が覚めた。
何度か瞬きをすると焦点が定まり、隣で寝ている人の顔が見えた。
「…………」
清白で、眩いほどの美貌をもった顔。
普段は朗らかで、微笑みが似合う彼の眠りについている顔。
私だけのシャル。
私の大好きなシャル。
私が愛してるシャル。
心臓が早く動く。
顔が近いのもそうだけれど、手の感触に気づいたから。
「…………」
握られてる……。
横寝する二人の間に置かれた私の右手に、上からシャルの右手が重ねられている。
彼の大きくて優しい手が私の手を包み込んでいる。
「……」
体温が上がって、私たちの手が熱いほどに感じられる。
心臓が一つ鼓動する度にその温度をより意識してしまう。
でも離す気にはならない。
むしろ、シャルが起きないようにそっと私のもう片方の手を二人の手に重ねる。
「……」
両足がモジモジする。
たまらなく愛おしい。
思いきり抱きついてやりたい。
この手で私の全部を触ってほしい。
「…………」
…………えっちしたい。
寝る前に一日中えっちしたばかりなのに、もう性欲が溢れてきてしまった……。
シャルと会えなかった時は、こんなふうにはならなかった……。
もっと落ち着いていたし、性欲は低かったはずだ……。
「…………」
彼の近くによる。
ギュッと重ねた手を私の胸に当てて、彼の手に私の鼓動を伝える。
彼の体温が伝わるほどに、私の鼓動も早くなる。
逞しくて大きい手をすりすり愛でて、柔らかそうな唇を見つめる。
「…………」
抱きしめたい気持ちが溢れ出てくるのを彼の手の甲にキスすることで抑える。
この“婚約の約束”をするのも好き。
えっちしている時も、何度もこれをした。
やるとドキドキするし、愛してるって感じがする。
「……」
けれど、もっと扇情的なことがしたい……。
破廉恥な姿になりたい……。
「……」
シャルの前で喘ぎたい……。
彼の瞳を真っ直ぐ見ながら鳴かされたい……。
彼も寝る前に好きと言ってくれていたし、もっと聞いてもらいたい……。
「しゃる…………」
大好きな彼の名前。
この名前を呼ぶと安心する。
そして、少しだけ興奮も。
「……」
まずい……。
シたくなってきた……。
「……」
起こすのはシャルに悪い。
でも、我慢が出来る訳でもない。
「…………」
起きるかもしれない。
けれど、この情欲はどうにかしないと……。
「……」
シャルの手に重ねていた手を離す。
彼の体温が手に纏わっているのを感じながら、下部に移動させる。
私の左足を彼の後ろ足に回して、軽く巻きつける。
体がより近く、より熱く感じられる。
密着している分だけ興奮する。
息も湿度を帯びてきて、二人の手に私がどれだけ興奮しているのか分かるような熱い息を吐きつけている。
「……」
シャルの指を唇で挟みながら、下の手を動かす。
「…………」
綺麗に寝てる彼を目の前にしながら、服越しの快感に身を任せる。
普段一人でするよりぎこちなく動くけれど、いつもよりも感じる……。
想像ではないシャルを目の前にしているのと、その状況の背徳感がたまらない……。
「好き……シャル…………好き」
シャルの指にキスをしながら、彼の閉じた瞳を見る。
瞼の奥にある妖艶な瞳を意識すると力が抜けて、体がベッドに沈んでいくのが分かる。
「…………」
もうちょっとで絶頂ける……。
シャルになるべくくっつきながら絶頂きたい……。
起きないように気をつけながら……。
もうちょっと……。
もうちょっと…………。
「…………っ…………」
…………絶頂けた……。
「…………」
けれど、なぜだろう……。
「……」
ちっとも気持ちよくない……。
「…………」
快感が来たかと思えば、一瞬で熱が引いてしまった。
余韻も何もあったものじゃない。
シャルに握られている手だけが妙に熱く感じる。
「……」
なんだか、とても味気ない……。
シャルと絶頂ときはもっと全身で絶頂感じだった……。
腟内が寂しいし、手以外どこも触れられてない……。
抱きしめられてもないし、“好き”も“愛してる”も言われてない……。
「……」
ちょっとだけ以前の生活と似た感覚だ。
どれほどの男と寝ようと、女と寝ようと、種族と寝ようと、どれもつまらないものだった。
空虚な感覚に包まれるだけ。
テラムンドに依頼した時はかなりマシだったけれど、それでも満たされなかった。
「……」
シャルに愛されたい……。
シャルが今の火照った私を見たら、どうなるだろう。
きっと、すぐに脱がされて、たくさん貪られるのだろう。
「……」
シたい……。
シャルじゃないと満たされない……。
起きてほしい……。
「…………」
…………ゴソ
「!」
シャルがおもむろに体を動かして、毛布が擦れる音がした。
それにビクっと跳ねて、見開いた目で彼を見る。
脱がされる覚悟をした。
「……?」
「…………」
「……」
寝返り……?
横向きから仰向けになって、二人の間でこもっていた熱が冷えていく。
「……」
……ちょっとだけガッカリした私がいる。
起こさないようにシていたけれど、本当は二人で愛し合いたい……。
何も気にすることなく彼と過ごしたい……。
…………けど、それはしない……。
「………………」
我慢しないと……。
「…………」
ああもう、頭痛い……。
「……」
もう寝ようかしら……。
あとちょっとで起きる時間だけど、眠りたくなってきた。
仰向けでもシャルは私の手を離さないでいてくれているし、このまま眠ったら気持ちいいだろう。
体を持ち上げて、彼の唇を見つめる。
「おやすみ、シャル」
キスをして、また同じように横になった。
彼を横から抱きしめて、目を閉じる。
「…………」
…………。
「…………」
もう一度、体を起き上がらせる。
そして、また唇を見つめる。
「…………」
頭の中にやらしい考えが出てきた……。
彼の無防備な顔を見て、さっきの背徳感を思い出してしまった……。
「……」
気持ちよくはなれないだろう……。
分かってはいる……。
けど……。
彼の顔に跨りながらシたい……。
「……」
起きるかもしれない……。
けど、考えついてから動くまでは早かった。
「……」
体を起こし、握られている方の腕を彼の頭上にもっていく。
そして、その腕ごと頭に跨った。
「………………」
私の股の間にシャルがいる……。
えっちだ……。
何度もしたこの体勢だけれど、状況が違う。
胸がドキドキする。
「……」
起こすのは駄目……。
起こさないようにシないと……。
「…………んんっ……」
彼の手を握っていない方の手で弄る。
もう片方の手で体重を支えて、ギュッと握りしめながらベッドに押し付ける。
「…………」
彼はまだ目を瞑っている。
自分を慰めている私を前にして、ぐっすりと。
「んん…………」
だんだん腰を振る力が強くなる。
手を握る力も強くなる。
こんな恥ずかしいところを見られたら、きっと凄い目にあってしまう……。
「…………シャル……」
シャル……。
シャル…………。
しゃる……┈┈┈┈┈┈┈┈┈。
┈┈┈┈┈┈┈┈。
┈┈┈┈。
ー
「…………」
絶頂を迎え、握っていた手の力が抜ける。
私の股の下を見る。
「…………」
起きなかった……。
あんな大胆にシたのに、シャルは気持ちよさそうに眠っている……。
熱が引いた股の間を見て思う。
「……」
私は何をしているんだろう……。
こんな遠回しで陰湿なことをしている自分が分からなくなってきた……。
素直になればいい……。
“シたい”って伝えればいい……。
「…………」
もう寝よう……。
彼の顔を袖で拭って、横になる。
彼の腕を抱き枕にして、体を少し丸める。
「…………」
ちゃんと目を見て話せるかしら……。
あまり温かさを感じないまま、彼の横で眠った。




