渡し、受け取る
「シャル様、マオセロット様、お久しぶりです。大きくなられましたね」
「四年ぶりですからね」
全員で一緒に連れてこられたのはかなり豪華な部屋。
木造ばかりのこの村とは毛色が逸脱している。
うちの王宮と似た造りだ。
「お嬢様」
突然、メイアさんが立ち上がった。
急な行動だが、彼女の声音と表情を見れば分かる。
お怒りだ。
「早速ですが、別室でお話したいことがございます」
「……じゃあシャル、ちょっとメイアを説教してくるわ」
そう言って、腕を組みながら立ち上がるエミリー。
いつもより身構えているように見える。
「うん、いってらっしゃい」
「…フィル、いくわよ」
「ええっ? それって私も一緒に怒られろってこと…?」
「もちろん、フィルティア様もご一緒です」
あらま。
フィルティアもエミリーの護衛だからな。
仕方ないか。
「シャル様は…」
ん?
なんで俺の名前も呼ぶんだ?
「……シャル様はあとでお話しましょう」
ん?
なんで俺に抱きつくマオを見てから言ったんだ?
納得できない。
ガチャ…
扉が静かな音を残し、三人が別室へと向かった。
俺とマオとウォルテカが残された。
「「「 ……………… 」」」
非常に気まずい。
なにか話した方がいいだろう。
だが、話す内容といえば金竜のことしか思い浮かばない。
しかしそれを話したら、ウォルテカが気を悪くしてしまうかもしれない。
あ、そうだ。
確か、メイアさんとウォルテカは幼なじみだったな。
それを根掘り葉掘り聞いて┈┈┈┈┈┈
「すまなかったな、シャル」
「?」
昔のドロドロした男女関係を聞こうと思ったが、先にウォルテカから話されてしまった。
「なんのことでしょう?」
「金竜との戦い、助力できなかったことだ」
「そのことですか」
金竜との戦いを思い出す。
あれは俺も最初から不自然に感じていた。
マオの親があんな簡単に退場したことに。
遠くへ飛ばされたからといって、帰ってこれなかったわけでもない。
目立った外傷もなかったしな。
「あれは結果的に勝てたからいいですよ。それに、あれはマオに経験を積ませる意味もあったんですよね?」
「うむ」
やはり、そうだったらしい。
思い切った考えをするものだな。
「だが故意に離脱したのは変わらん。最大限の謝罪をさせてもらう」
「受け取りにくいですね」
「ザニャール家からの謝罪だ。謝罪の意味合いも変わってくる」
そういうことか。
『これで貸し借りは無し』、そう言いたいのだろう。
「ではお言葉に甘えて」
「うむ。我らの家畜を五千、オスメス百ずつ、穀物を何割かやろう」
そんな提案をされる。
正直、魅力は感じない。
俺の国は人口も食糧も間に合っている。
「要らないですよ。それに、金竜で人口が減ったのはそちらのはず。僕らに送る分は宴にでも使ってください」
「ふむ…そうか」
ウォルテカが肩を落とす。
二度も断られれば、そうなるだろう。
だが、俺は謝罪そのものを断ったつもりはない。
「ですがその代わり┈┈┈┈┈┈」
腕に力を込める。
「┈┈┈┈┈┈マオは僕がもらいます」
「「! (!?!?)」」
マオの腕がキュッと締まり、ウォルテカの頭髪がボワッと膨れ上がった。
「マオをっ………」
自分の娘の名前を喉から絞り出すウォルテカに現れているのは憤怒。
目を限界まで見開き、その目で俺を真っ直ぐ見つめている。
ほんの少しでも隙を見せたら殺される。
そう思わせるのには容易すぎるほどの感情が込められている。
だが、それとは全く逆の感情を抱く者が二人。
「シャル……全部あげる…」
「うん、大切にする」
あったけぇ…
今日もマオとたくさんイチャイチャした。




