掴めない手、掴んだ手
すみません。
遅れました。
ーマオ視点ー
「後は私がやろう」
「ああ…任せた」
背中にシャルの声を聞く。
彼の声は疲労している様子だが、いつものように余裕を持っているのも分かる。
だが、シャルがやられるとは思わなかったな。
ここに来る道中、シャルに頼りすぎたようだ。
遠くに倒れている金竜を見る。
「『っ…………』」
今まさに起き上がっている金竜。
シャルが戦っている間に絶好の機会を狙っていたが、中途半端な一撃になってしまった。
だが、十分だ。
「では行ってくる」
「うん、気をつけて」
「うむ」
シャルに返事をし、金竜へと向かう。
地面を抉る音が直ぐに遠のくのを感じながら、金竜が近づくのを眼でしっかり捉える。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈。
「『 ………… 』」
私が金竜の間近に迫って尚、奴は動く気配が無い。
武器を上段から振り下ろす。
パァァァァァン!
金属が響き、鈍い音がした。
遅れて衝撃による風が金竜を中心にして起こり、私の髪を揺らす。
「┈┈┈┈┈┈。」
金竜に攻撃を止められた。
片手で。
先程あった腕のオーラが無くなっているとはいえ、その力は健在か。
「『っ……』」
だが、完全に止められた訳では無い。
金竜の手からは一筋の血が流れている。
奴の硬かった鱗も脆くなっている。
刃こぼれが心配で斬りつけることを避けていたが、これで遠慮なく料理が出来そうだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈。
自分の武器を持ったまま、軽く地面を蹴る。
ドガアアアァアン!
そして、思い切り金竜を蹴った。
私の武器を離し、何の抵抗もなく地面スレスレを飛んでいく金竜。
透かさず追撃をかけるため、飛んでいく金竜を追う。
「┈┈┈┈┈┈!」
だが、金竜へと辿り着く前に奴が先に仕掛けた。
ゴボァオオオォオォオ!
金竜の手から放たれた魔術。
金竜の指から大量の氷柱が襲いかかってきた。
その一本一本が太く、それが束になる姿に少しだけ美しいと感じてしまう。
スゥッッッウッゥ!
氷が斬れる音が耳に響く。
見た目の割には簡単に斬れ、威力よりは氷の霜の方が煩わしい。
シャッ┈┈┈┈┈┈┈┈┈!
視界が開けた。
氷の塊から開放され、外気が暖かく感じる。
氷柱の勢いが抜けたことで私の髪の毛を靡かせる。
「『┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈』」
金竜が私に飛びかかり、鋭く太い爪を向けてくる。
キィンッ!
その刃を弾く。
「『┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈』」
刃を弾┈┈┈┈┈┈
「っ…!」
弾かれた。
「っ!」
透かさず、次撃に備えて武器を動かす。
「「『┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈!』」」
連撃。
連撃。
連撃。
お互いの刃がぶつかり合う度に風が巻き起こる。
刃を奮う度に地面が斬れる。
刃同士が衝撃を放つ度に火花が散る。
「『っ………』」
金竜の表情が若干の苦痛を感じているように見える。
やはり、こいつはシャルとの戦闘で弱っている。
刃を交える度に鱗が飛び散り、肉を少しずつ顕にしている。
こいつは長く戦えない。
戦うとすれば、距離を取ろうとするはずだ。
ガキィイン!
刃が弾かれると同時に、私の体が数歩後ろに引く。
透かさず距離を詰める。
「!」
だが、金竜はそれを読んでいたようだ。
太い足が私に向かって伸びてくる。
だが、あまりに遅い。
「『っ……』」
金竜の太腿を掴み、もう片方の足を掬い上げる。
体勢を崩した金竜の頭を鷲掴みにする。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈パアアアァアアン!
そして、地面に叩きつけた。
金竜の頭を中心として蜘蛛の巣のように亀裂が地面に入る。
幾らかの土と岩の破片に混ざり、金竜の煌めいた鱗も飛び散っているのが分かる。
パシッ
空中に放り投げていた武器を手に取る。
そして┈┈┈┈┈┈
シュッ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
殺った┈┈┈┈┈┈
ボゴオオオオオオオオォオン!
「っ…!」
なんだ?
金竜が白く光ったと思ったら、急に爆発が…
自爆か?
それとも…
ゴボァオオオォオッオッオォォオ!
大量の土煙が上がる大地から大量の岩柱が飛んでくる。
それは先程のよりも巨大なもの。
だが、対処など余裕だ。
ガガッ┈┈┈┈┈┈ギャキッ┈┈┈┈┈┈ボゴオンッ!
迫り来る岩を斬る。
暗い視界の中、作業を続ける。
ボゴァッ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ふむ。
終わっ┈┈┈┈┈┈
「…………!?」
一瞬、頭の動きが止まった。
私が思っていた光景と今の光景が全く違っていたからだ。
これは…さっきの小さい金竜ではない…
まるで、山┈┈┈┈┈┈
「っ……!」
全身が巨大な何かに掴まれる。
掴まれた瞬間に抜け出せないことを突きつけられ、体が硬直するのを感じる。
圧倒的な力。
ブ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ゥンッッッ!
「!??」
投げられた。
感じるのは大きな浮遊感と巨大な重圧感。
指の一本すら動かすことが出来ず、血が極端に偏っているのが分かる。
早く…体勢を┈┈┈┈┈┈
ドゴアアアァアァアアアン!
糞…
勝てると思ったんだがな…
「『 …………っ 』」
かなりグラつく目で見えたのは元の姿の金竜。
それが片膝をつく姿だった。
「『かはっ………っ』」
かなり疲れた様子で息は荒く、血を吐く音が聞こえる。
「『獣の娘……っ…もう動いてくれるでないぞ……っ』」
そう言って膝に手を置き、立ち上がる金竜。
立ち上がった勢いで転びかけるが、何とか踏みとどまったようだ。
こちらに歩いてくる。
「…………」
ザッ………ザッ………
ふむ…
覚悟は出来ている。
喰われようと、殺されようと構わん。
好きに………
「………?」
なんだ?
「…………」
まだ動く…
見れば、武器も手に持っている…
可笑しい…
地面は爆発でも起きたかのように抉れているのに…
何故こんなに痛みは無く、体は軽いんだ…
「…………」
まだ戦える…
だが…
「………」
その必要は無いな…
「『!?』」
金竜の姿に影が重なる。
「『貴、さっま┈┈┈┈┈┈』」
シャルが来た。
「┈┈┈┈┈┈じゃあな、虹色野郎」
「『 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 』」
キュイィッ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ボガアアアアアアァァアン!
白い爆発が起きた。
大量の土煙の中を歩くのは一つの影。
それが私の元へと歩いてくる。
そして私の手を優しく取り、いつもの微笑みで言った。
「マオ、よく頑張ったな」
金竜の生態
メスは居らず、オスのみの種族。
鉱山に好んで住み、主食はそこの鉱物。
更に鉱物を卵とし、そこに種を植え付けることが出来る。
鉱物を食べた分だけ強くなれるが、それだけ子供の数が減る。
今回の金竜は大量の鉱物に恵まれたため、大量の子供と強大な力を手に入れた。




