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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
133/150

託された者

遅れました……


「『 …………… 』」


金竜が(だる)そうに起き上がり、俺たちを見据える。


二本の足で立つその姿に疲れた様子は見えず、鱗についた汚れを払っている。


「『よもや、放置していた獣がここまでの獅子だとは』」


マオと俺に視線を向け、言葉を発する。


まだそんなことを言う余裕があったとはな。

俺の魔力も底が見えてきた。

ここに来る道中、張り切りすぎてしまった。

そのおかげでこちら側の犠牲はほとんど出ずに済んだが、それは悪手だったかもしれない。


「『これは腹が空くのが難儀だったが┈┈┈┈┈┈』」


…?

何だか、金竜の右腕が光っているような…


「『┈┈┈┈┈┈仕方あるまいて』」


…!


瞬間、金竜が一つ大きく振動した気がした。


空気を揺らすような震え。

その音は耳から聞こえた訳 ものではなく、目で感じたように思える。

つまり、心が感じた音。


俺が恐怖した音。


「っ┈┈┈┈┈┈!」


金竜が下から上へと腕を振り上げた。


たったそれだけで離れていた俺たちの元へと地面が割れる。


「っ…」


視界に映っているのは(えぐ)れた地面。

三本の太い亀裂が入り、痛々しい見た目をしている。


マオと俺が分断されてしまった。

なら、次の攻撃は┈┈┈┈┈┈


「来い」


金竜が俺の目の前まで迫り、今まさに薄紫色のオーラを纏った右腕を振り下ろそうとしている。


焔の鉄槌(ゼクティウス)┈┈┈┈┈┈!」



ドゥッ┈┈┈┈┈┈┈┈ドオオォォオォオン!



俺の全身に質量の暴力が襲いかかる。


その衝撃で足元は地面にめり込み、辺りはひび割れた大地と化す。

上から降り注がれた強風は重力のように圧しかかり、適度な負荷を感じさせる。


だが…


「『!?』」


俺はその金竜の驚いたような顔を見て、不敵に笑う。


「軽いなあ? 蜥蜴野郎」


そう。

俺が金竜の拳を受け止めたのだ。


金竜の目が俺の腕に向かう。


そこには人間のものでは無い腕があった。


先程、俺が唱えた焔の鉄槌(ゼクティウス)

その悪鬼の腕がそのまま俺の腕に出現しているのだ。


蒼級召喚獣による部分召喚。

人体一部一体化。


これまでの成果ってやつだ。



ガアァンッ



「『っ…!』」


金竜の腕を跳ね飛ばし、胴体をがら空きにする。

そして、思い切り横腹を()いだ。


火花が衝撃波の存在を知らしめ、鈍い音を響かせる。


金竜が転がりながら地面に跳ね飛ばされていく。


幾らか転がったあと、自らの腕を地面に突き刺し、その動きを止めようとする。

腕を突き刺して尚、その勢いは続く。


金竜の腕が地面にその軌道を描き、妙に長く感じた動きは止まった。


今すぐに追い打ちをかける。


「落ちろ」


金竜の頭上に巨大な氷が生じる。


金竜が自らの周囲に現れた影を(いぶか)しみ、それを見上げる。


「『 っ………… 』」


両腕を地面に突き刺していては、対処は遅れるってもんだ。



ゴオオオォォオォン!



圧倒的な質量が金竜に襲いかかる。


地面を這うように砂が強風と共に流れ、離れた俺の方まで辿り着く。

それ程までの威力を持った攻撃だったが、その影は未だに動いている。


「『……お前は┈┈┈┈┈┈』」


少し疲れた様子で立つ金竜。


よし。

このままいけば┈┈┈┈┈┈


「『┈┈┈┈┈┈危険すぎる』」

「!?」


瞬間、金竜の気配が変わる。


先程まで奴の右腕に纏っていた薄紫色のオーラが急激に増幅したからだ。

そのオーラは荒々しく(なび)き、右腕に極端に集中している。


金竜が俺の方へ右の指を指した。


「『攻落(こうらく)せよ』」



……ゴオオオオオォオ!



一拍置いて、金竜の指から大量の岩柱が襲いかかってきた。


その一本一本が太く、それが束になる姿はそれだけで怖気付きそうになってしまう。


俺はそれを真正面で受け止める。


「っ……」



ガアアアァァアァ!



悪鬼の腕と岩柱の塊がぶつかり合う。


何故、俺はこんなものを態々(わざわざ)受け止めたのか分からない。

幾つかメリットは思い浮かぶが、デメリットの方が大きいだろう。


目の前で火花を上げ、切り裂かれていく岩柱を見て思う。


「はっ…これが高揚(ハイ)ってやつか」


こいつは程よい強敵だ。

こいつとなら、気持ちの良い思いで戦うことが出来る。


岩が全て切り裂かれ、視界が開ける。


「『 ┈┈┈┈┈┈ 』」


圧迫感から開放された気分を味わう暇も無く、金竜が即座に襲いかかってくる。



ガキィイィイィン!



金竜の一振(ひとふり)を受け止める。



キィイィイィン!



また受け止める。



キィィイン!



「『 ………… 』」


やっぱりだ。


やはり、あいつ(ルーシャ)と比べれば、こいつは何割も劣る。

あいつの方が何倍も怖かった。

あいつの方が重く、鋭く、速く、逃れられず、勝てる気がしなかった。


だが、今はただ…


「┈┈┈┈┈┈がはあっ!」


勝てないってだけ。


「『……ふむ、人の体でよくやるものよな』」


俺が岩に打ち付けられ、体が動けないところに話しかけてくる。


「『その魔術…魔力消費が激しいと見た』」


違う。


これは俺の練習不足だ。

この魔術の魔力消費が多いのではなく、慣れない魔術を使った弊害だ。


もう魔力はほとんど残っていない。

悪鬼の腕も既に姿を消した。


だが、生命の危機は全く感じていない。


それは何故か。


「やっぱり頼りになるな…」

「『…?』」


金竜が疑問を顔に浮かべた気がした。


俺は彼女の名を口にする。


「マオ」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈バァアアアァァアアアン!



「『っ┈┈┈┈┈┈┈!』」


その刹那、虹色の煌びやかな欠片が飛散する。


「大丈夫か? シャル」


吹き飛んで居なくなった金竜を他所(よそ)に、格好いいマオが心配してくれる。


「まあな…食事前の準備運動ってやつだ」

「うむ、後は私がやろう」

「ああ…任せた」



清々しい思いでマオに託した。



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