狩る側、狩られる側
すみません。遅れました。
「っ!」
金竜が一気にこちらに攻めてきた。
一足で離れた俺の方まで辿り着き、空気を貫きながら体を素早く動かす。
それはあまりにも速く、力強い動き。
だが、俺にはゆっくりに見える。
どうやら、それは彼女も同じのようだ。
ッガアン┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈!
マオの一撃が金竜に命中する。
薙いだハルバードで斬りつけるのではなく、顔面を思い切り殴った。
殴られた金竜は体勢を崩しながらも、しっかりと二本の足で地面を滑る。
俺は未だ停止しきれていない金竜に右手を向ける。
「囲め」
瞬間、金竜の足元から這うように土が盛り上がる。
直ぐに金竜の姿が見えなくなり、俺は更に魔術を使う。
左手で固定した右手に魔力を込め、放つ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ボオオオォオオッ!
目が勝手に細まるほどの白い炎柱が金竜に轟く。
金竜を囲っていた壁が赤く、次に白く光り、周りの地面と共に溶けながら抉れていく。
「…………」
眩しい光も轟音も消え、その残骸が静かに残る。
それを背景に佇む影が一つ。
「『 ………… 』」
地面から上がる煙の中、地面が焼けるような音を立てる中、金竜は俺に向かって駆ける。
その動きはまたも直線的で、軌道は読みやすい。
マオが透かさず俺と金竜の間に立ち、ハルバードを構える。
そして、金竜の頭にピッタリと振り下ろした。
「!」
だが、金竜が流れるような動きでマオの攻撃を避ける。
そして軽く飛び上がり、マオの顔に蹴りを入れた。
「っ…」
マオは間一髪のところで直撃を防いだが、そこの岩へと吹き飛ばされてしまった。
透かさず金竜は俺の方へと体を向ける。
「焔の鉄槌」
蒼級魔術を行使する。
金竜の頭上に影が出現し、即座に焔の拳が振り下ろされる。
「『 ……… 』」
溶岩のような肌を持つ悪鬼が姿を現す。
金竜の表情は分からないが、全身で耐えている姿に見える。
両腕で悪鬼の拳を抑え、両足で全ての重みを支えている。
隙だらけだ。
手を向ける。
「『っ…』」
ズゴゴオォォォ
すると、金竜が体をずらすことで悪鬼の拳を地面に叩きつける。
そして悪鬼の足を蹴り、巨大な体をいとも簡単に宙に浮かせた。
ダ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ンッ!
金竜は無防備になった悪鬼の横腹を思い切り蹴る。
溶岩のような肌が脆く崩れ、衝撃波のように巻き散る。
赤い巨体が俺の方へと猛スピードで向かってきているのだ。
蒼級召喚獣が思い切り投げられた。
だが、焦りは全く感じない。
対処のしようは幾らでもある。
パァァンッ…
悪鬼を手を向けることで消滅させた。
俺が出した召喚獣だ。
消す時も簡単だ。
だが、金竜の狙いは別にあった。
「!」
金竜が舞い散る粒子を突っ切り、拳を握りしめている。
あっという間に開いていた距離を詰め、その拳を俺に┈┈┈┈
ギャゴオオォオン!
金竜が俺の目の前から居なくなった。
帰ってきたマオがハルバードで金竜の横顔をぶん殴ったのだ。
殴られた金竜は遠くの岩へと吹き飛ばされた。
「治癒は要らん」
「ん」
マオの体を見る。
彼女は少し汚れた程度で、特に傷は無さそうだ。
頑丈だな。
「このまま押し切るぞ、シャル」
「ああ、食料調達だ」
「ご馳走だな」
俺たちにも余裕が出てきた。
簡単な会話を交えながらも、その目は一点を見つめている。
「『 …………… 』」
金竜が怠そうに起き上がる。
このままなら、勝てそうだな。




