抜け道
励みになります
「マオ、帰るわよ」
「やだ」
俺に抱きつき、立ちながら四人で話す。
「というかそろそろ離れなさい」
「そうだよマオ……シャルが困ってるよ…」
「………」
フィルはそう言うが、俺は全く困っていない。
動きづらかったり、腰と背中が悲鳴を上げている以外は問題は無い。
マオに抱きつかれるということは、完璧な癒しを受けるということなのだ。
「シャルとは仲直りできたんだし、なんでまた意固地になってるのよ」
「…………」
ん?
エミリーはマオが金竜のことで色々あったのは知らないのだろうか。
ならば、俺から教えてやろう。
「エミリー、実は┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈シャル…やめろ…」
ん?
エミリーには言っちゃいけなかったか?
「どうしたんだマオ? ただ金竜が住み着いただけだろ?」
普通の声で話す。
だから、普通にエミリーにも聞こえる。
「おいシャル…!」
「( ゜д゜)ハッ!」
てへ。
「ちょっとマオ! 金竜ってどういうこと!?」
珍しく大きな声を出すエミリー。
金竜がどのくらいの脅威なのかは知らないが、エミリーの反応からして相当なやつなのだろう。
なら、尚更それを隠す理由が分からない。
「強敵は自ら倒さねば意味が無いからだ、お嬢様」
どこからかそれに答えてくれる声がした。
そちらの方を見ると、マオのお母さんが立っていた。
「……そう、支援を断っていたのはそれが理由?」
「そうだ」
エミリーにも遠慮ない口調で話すサラさん。
だが、支援とはなんだろう。
「支援ってなに?」
フィルが俺と同じ疑問を問いかける。
「サラたちが鉱石を回さなくなって、それで金銭と人材を送ろうとしたのよ。でもいつも断られるのよ」
「事情は伝えてなかったか?」
「あんたねぇ…」
いまいち分からんな。
金竜がいるのに支援を受け取らない?
いや、金竜がいるからこそ支援を断っていたのか?
「つまりはそういうことだ。我々獣族は、他種族の力は借りん」
なるほど。
これがマオの言っていた『誇り』というやつか。
サラさんたちは自分たちの力だけで金竜を倒すつもりらしい。
だが、四年も打倒できていないのだから、戦力差は歴然としているのだろう。
「マオも同じ気持ち?」
俺に抱きつく彼女に問いかける。
するとマオは上目遣いになり、急にキスしたくなる。
「まぁ……そうだな…」
「ん、分かった」
素直に了承する。
マオが今から王宮に帰ろうが、金竜を倒すつもりだろうが関係ない。
俺がやることは変わらないのだから。
「じゃあ、俺も手伝うよ」
「「 …? 」」
マオとサラさんが首を傾げる。
それもそのはず。
獣族のみで倒すと言っている金竜を、ただの人間の俺も加わると言っているのだから。
だが、どこにも問題は無い。
「だってそうだろ?┈┈┈┈┈┈」
マオを抱きしめる力を強くする。
「┈┈┈┈┈┈俺たち、結婚してるんだから」
「「「 …!? 」」」
そう。
俺たちは結婚する。
四年前にはマオに求婚されたし、俺はそれを了承した。
あの時の気持ちは今も変わらない。
ならば、俺たちは結婚していると言っても過言ではないだろう。
また俺から求婚するつもりではあるが。
「シャル……でも…」
マオが恥ずかしそうに顔を埋め、俺を強く抱きしめる。
彼女は反論の言葉を述べようとしているが、その胸中は全て分かっている。
「嫌か?」
分かってはいるが、意地悪はする。
「っ………する…」
「ん、これからもよろしくな」
「うんっ……よろしく…」
へへ。
これが幸せってやつか。
エミリーとフィルの視線が痛いが、今はマオが優先だ。
「サラさん、これで僕も獣族と認めてもらえましたか?」
「……ふむ」
俺の完璧な論に考え込むサラさん。
「よかろう、お前も今から獣族だ」
「ありがとうございます」
よし。
これで準備は整った。
あとは、あの忌々しい金竜とやらをぶっ倒すだけだな。




