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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
12/150

彼女とお家で… ー俺はひとりじゃないー

ー魔王城内部ー


靉靆(あいたい)たる雰囲気の中、彼らは話をしていた。


「お前、飼っていた飛竜はどうした?」


3mもの体躯をもつ化物が喋る。

人間ならば鼻にあたる部分を中心に渦巻いている顔は不気味で、その中心は終わりの見えない奈落のようであった。


異様に脚の発達した馬の下半身をもち、そこから異常に延びた肉と臓器の欠落した胴体。

肩口から伸びる長い腕にも肉は無く、とても動くようには思えない。


「さあの」


それに答えたのは無味乾燥な表情をする女。

黒曜石のような両腕をもつところを除けば人間と遜色はない。

だが、その腕から感じられるのは暴力。

人間のものとは大きく懸け離れたそれは、前腕が太く、鉤爪のついた手。

それは触れるものを潰滅(かいめつ)させることを容易に想像させる。

恐ろしいことに、光の照らさないこの場所でも煌めいているそれは、幻想的でもあった。


腕と同じような色をもつ髪は腰まであり、どこか妖艶な雰囲気を纏っている。

艶めかしい身体をもつ彼女は大きな胸を薄い布で申し訳程度に覆い、挑発的な服を着ている。


(とぼ)けるな。また龍国にちょっかいを出したのだろう?」

「違うわい」

「ならば何だ?」


化物が身を乗り出して問い詰める。

常人ならば失神してしまう程の光景だが、彼女はピクリとも反応を示さない。


「人間の国に気になるものがあっての」

「ほう……そうか」


化物はその先を聞かない。

興味が失せたかのように、乗り出していた上半身を持ち上げる。



世界の二番手を争う化物の会話がそこで終わった。




ーシャル視点ー


ロウネ、フィルティアと一緒に我が家へと向かう。

久しぶりの我が家だ。

相変わらず大きすぎる家に、大きすぎる庭。

俺の身に余る光景が広がっている。


色とりどりの花が植えられている庭を歩き、玄関へとたどり着く。

待っていたメイドが大きな扉を開けてくれる。


開けた視界の先には俺の父、ジェフがいた。


「やあ、シャル。久しぶり」


平然と言ってのける若男に、若干の怒りを覚える。

無許可で仕事に放り出されたことは全く気にしていないが、そんな感情が出てくる。


「父様、お久しぶりです」


俺は自分の内心を悟られないように顔をつくる。

歳は30ぐらいだろうに、若々しい肌に、自然な白髪。

ロウネはジェフを見ると、すぐに彼の腕の中に収まって行った。


「あれ? 彼女は?」

「ジェフ聞いて! シャルったら彼女を家に連れてきちゃったのよ!」

「それはそれは……その子がかい?」


目を見開いて驚くジェフが、フィルティアの方を見て聞いてくる。


「はい、僕の愛しの彼女。フィルティアです」

「フィ…フィルティアです……よ…よろしくお願いします」


そう言って、俺の陰に隠れずにぺこりと頭を下げる。


「可愛い子じゃないか」

「でしょーっ!」

「やるね、シャル」

「やるわねっ、シャル!」


緊張した面持ちのフィルティアを見ると、ジェフが俺をからかうように言ってくる。

ロウネは元気だ。

ロウネのこういうところを見るのは何年振りだろうか。


「それはお互い様でしょう?」

「あらっ!」


ロウネが嬉しそうに声を上げて俺を見てくる。


「シャル、僕の愛しい妻に浮気は駄目だぞ?」

「父様こそ、僕の愛しい彼女に浮気は許しませんよ?」


俺が言えたことではないないが、これもスキンシップのひとつだ。

ジェフとこうして冗談を言い合うのは久しぶりだ。

懐かしの心地良さを感じる。


「ところで、シャルは妹か弟、どっちがいいかな?」


ロウネを後ろから抱いて、その腹を擦りながら言ってくる。


「どっちでもかわいがりますよ。めちゃくちゃね」

「お、いいお兄ちゃんだね」

「でしょっ?」


ロウネが嬉しそうに答える。

この夫婦の仲の良さに、俺たちも見せつけてやりたくなる。

そう思うが、俺の体は動かない。

いざやろうとすると手汗が出てくる。


童貞を捨てたというのに、なんてざまだ。

俺の50年に(わた)る童貞気質は1回寝ただけでは解消されないというのか?


「それで、僕のかわいい弟妹(ていまい)はどこですか?」

「ああ。リオン、出ておいで」


そう言って、ジェフはどこかの扉に語りかける。

俺はそこに違和感を覚える。

何かおかしい気がする。


扉が独りでに開かれて、そこから小さな人影が見える。

そして、てってってっと擬音がつきそうな小走りでジェフの元へと向かう。


「お兄様、おはつにおめにかかります。リオンです!」


そう言って、俺に向かって元気よく挨拶した。

女の子だとひと目でわかる子だ。

ロウネと同じ金髪で、肩口まで伸びた髪をもっている。

服装は何故かメイド服だ。


………あれ?

ちょっとまっ………ん?


俺がこの家を出たのが10歳の時。

この子はなんというか……小学生と中学生の間の見た目をしているのですが…


この世界の体の成長が早いのは俺も知っている。

だが、この子が0歳児だとしたら、ここに来た時の俺は何歳児になるんだ?


「父様……」

「ん? なんだい?」


『なんだい?』ってなんだい?

煽ってんのか、こら。


「この子は……何歳ですか?」

「9歳だよ」

「僕は何歳ですか?」

「ん? 11歳だろう?」


俺の歳もしっかりと覚えてくれているらしい。

前世の親父は俺の歳どころか、名前も忘れるほどだと言うのに。


いや、そうじゃない。

俺が聞きたいのは別にある。


「教えるのが遅いんじゃないですか?」

「ああ、言っていなかったね」


こいつぶち殺してやろうか。

そんな簡単に流していい問題じゃない。


俺は前世では一人っ子で、兄弟とかに憧れていた。

ジェフとロウネの営みを見ていた時からワクワクしていたのだ。

それをこいつは!


「王族と上級貴族は弟妹を明かすのは10歳になってからなんだよ」


俺が手に魔力を込めようとした時、そんな言葉が発せられる。


「そ………そうなんですか?」

「まあ、10歳になるまで待ちきれなかったけどね」


そう言って、ジェフは肩を竦めた。


……つまりはまた文化ってやつか。

文化ってやつにいい思い出はないな。

あれ?

てことは、まだ妹か弟がいるんじゃないか?


っと、愛しき妹に挨拶が遅れた。


「リオン、初めまして。シャルです。これからよろしくお願いしますね」


なるべく爽やかに見えるように笑いかける。

今はちょっと疲れているが、俺もポーカーフェイスが上手くなったと思う。

いつからこんなのが身についたのか分からない。


リオンが何と返していいか分からず、ジェフを見上げる。


「リオン、お兄ちゃんと遊んできなさい」


ジェフがリオンの頭を撫でながら言う。

リオンが俺を見つめてくる。


「ええ、僕と一緒に遊びましょう」


手を差し出して笑いかける。



念願の妹だ。

好かれなくては困るからな




昔、俺の部屋だった場所で遊ぶ。

ここには大して思い入れはない。

赤ちゃんの時ぐらいしかここにいなかったし、俺は書庫で一日のほとんどを過ごしていたからな。

思い出らしいものはロウネとジェフに初めて話しかけたのがここってことぐらいか。


未だに置かれている赤ちゃんベッドには、ちょっとだけ懐かしさを感じる。


「リオン、魔術は使ったことあるか?」

「ないですっ、お兄様っ」


俺がそう言うと、目をキラキラさせて期待しているのが分かる。


「なら、面白いものを見せよう」


俺はそう言って、空中に人差し指を置く。

指先に魔力を込めて水を生成する。

それをスラスラと流すように動かす。


出来たのは、この世界の言葉で『リオン・テラムンド』と書かれたもの。

水で構成された文字が空中に留まっている。

魔力を流し続ければ魔術はその場に留まるのだ。

これも練習すれば出来たし、魔術の練習にも使える。


「これ…私の名前?」

「そうだよ。触ってごらん」


リオンが水に指をくっつける。


「どう?」

「なんか、不思議な感じです」


俺はそれを聞いて水の温度を急激に下げる。


「ひゃっ!」


それに驚いて指を引っ込める。


「あはははっ、ごめんな、驚かせちゃったな」

「もうっ、お兄様っ!」


ちょっとしたイタズラをしても笑い合える仲になれた。

我が妹は9歳にしては大人びている。

この世界は体だけではなく、精神の成長も早いのかもしれない。


「ごめんな、はい、手触れて。温かいぞ」


リオンが俺の手に触れる。

濡れた指先が温かくなっていく。


そんなやり取りをフィルティアはじっと見ていた。


「シャル」

「…ん? なんですか、フィルティア」


振り向くと、彼女はちょっとだけむくれた顔をしている。


やべ、リオンにばかり構っていたからか。

調子に乗りすぎたことを後悔する。

出来たてカップルだと言うのに機嫌を損ねてしまった。


「私、それ教えてもらってない」


あ、やべ。


「あれ? そうでしたっけ?」

「どうやってやるの?」


彼女は身を乗り出して、俺の腕にぴとっとくっつく。

彼女の体温を右腕で感じ取る。


ありゃま、この子はこんなに積極的だったっけか?

ボディタッチは苦手だと思っていたが…


フィルティアの顔を見ると、若干だが赤くなっている。

自分からしているのにそれを恥ずかしがっているのだ。

彼女のそういったところに惚れ直す。


「使いたい属性の魔術を選んで、魔力を流し続けるんです」

「………んーっ………………できた」


出てきたのは水で構成された『シャル』という文字。


「さすがですね」

「えへへぇ」


フィルティアはいつものように笑って、頭をスリスリと擦り付けて来る。

今日の彼女は積極的だな。

俺もドキドキしてしまう。


ここまでデレられたら、俺も黙っている訳にはいかない。

指先に魔力を込めて文字をつくる。


出てきたのは『フィルティア、愛してるよ』の文字。


「…………」


それを見た彼女は耳まで赤くして俯いてしまった。


「………お兄様とフィルティア様はどういった関係なんですか?」


その反応を見たリオンが純粋な目を向けて質問してくる。

フィルティアの体がぴくっとする。


「そうだね…お互いに愛し合ってる関係だね」


そう言うと、「まあっ!」とでも言いたそうな表情で口元を手で隠した。

その反応にフィルティアは俺の横腹に顔を埋める。


その頭を撫でる。

さらさらとした短い髪が心地いい。


何気に、マオ以外の頭を撫でるのは初めてかもしれない。

こんな俺にもかわいい彼女が3人もできるなんて、未だに信じられないな。


「リオン」

「…ん? なに?」

「『お兄様』じゃなくて、『お兄ちゃん』って呼んでくれないかな?」


かわいい妹にお兄ちゃんと呼ばれる。

全人類の男の夢だ。

その一言で俺は世界をも敵に回せる。


「え……だめじゃないですか?」

「お偉いさんの前だと駄目だろうけど、こうしている時はいいんじゃないかな? もちろん、無理にとは言わないよ」

「う〜ん…………そうだね! わかった!」


元気よく頷くリオンに心の準備をする。

まずは深呼吸だ。

そして、この世の全ての神に感謝を捧げて、儀式を執り行な───


「お兄ちゃん!」


ぐはぁあああぁぁぁ!

な……なんて破壊力だ。

この威力はこの世のありとあらゆるものを破壊してしまうだろう。

危険だ。

即刻、他の男共から守らねば。


「………あ……ありがとう妹よ」

「いいよっ、お兄ちゃん!」


ぐはあ!

やめて!

もうお兄ちゃんのライフは0よ!


「っと……そういえばなんでリオンはメイド服を着てるん?」

「今はメイドの修行中なの」

「あー」


ふむ。

テラムンド家は代々王族に仕えてきたらしいからな。


俺はそういった教育を受けた記憶は無い。

できるか分からないのに王宮に放り出されたのだ。

確かに、俺はメイドを観察し続けたから、そういったことは赤ちゃんの時から覚えていたが…

ジェフは案外そういったところは適当なのだろうか。


メイドは大体貴族家の跡継ぎになれない第二子とかそれ以降の子供がなるらしいが、テラムンド家は全員だ。


「じゃあ、料理とか家事とかもできちゃう?」

「うん、一通りはね」


それは大したものだ。

俺ができることと言えば、部屋にカピカピのティッシュをばらまいたり、プリンを作ったりすることぐらいだ。


「それはそれは、このシャル、殿様に尊敬の念を抱きます」

「やめてよ、私は殿じゃないよ」

「おや、これは失礼を。お詫びとしてお姫様にはこの首飾りをお渡しましょう」


そう言って、何も持っていない手をリオンに捧げるように向ける。

リオンは大仰に振る舞う俺のノリに乗って、手にある首飾りを取る動きをする。


「うむ、苦しゅうないっ」

「殿やないかい」

「「 へへへへへ 」」


このやり取りが心地いい。

まさか俺にこんな幸せな瞬間が訪れるとは。

なんか、ずっとこうしていたいな。


「おっと、そうだ」


俺はそう言って立ち上がり、部屋の引き出しの1番上の段を開ける。

探したのは金糸のような見た目のネックレス。

俺はそれを取り出して元の位置へ座る。


「ちょっと待ってな」


俺は指先に魔力を込める。

ネックレスに小物を付けていく。


付けられていくのは小さなブルーサファイアをイメージしたもの。

俺がただ青の色素を濃くして、固定魔術でブリリアントカットっぽく仕上げただけだが、かなり綺麗に見える。

王宮で宝石の類は日常的に見ていたから、イメージが出来やすいな。


最後に、首の中心にくるであろうところには一際大きいものをつけた。


「はい、どうぞ」

「え、いいの?」

「ああ、今日は妹と会えた記念日だからな」

「やったーっ!」


リオンはそう言って立ち上がり、部屋の魔光石に宝石を(かざ)す。


「綺麗……」

「…………着けようか?」

「うん」


首飾りを渡され、リオンの後ろに回る。

後ろ髪を掻き上げ、顕になった首にネックレスを着ける。


リオンが壁掛けの楕円状になっている鏡で自分の姿を見る。


「わぁ……」


気に入ってくれたようで何よりだ。

唯一フィルティアがムッとした表情なのが気になるが…


「ど…どうしました? フィルティア」

「………シャルって誰にでもそういうことするの?」


そういうこと?

どういうことだろうか。

ううむ…分からん。


「……結婚の約束」

「え?」


あれ?

またオレ何かやっちゃいました?


そういえば、フィルティアの方の文化については聞いていなかった。

エミリーのは既に知っているし、マオのは大体分かる。

だが、フィルティアのは見当がつかない。

ベッドインすることだと思っていたが、今の状況を見るとそうではないらしい。


「……それってどういったことが約束になるんでしょう」


恐る恐る聞いてみる。

これ以上フィルティアを失望させてはいけない。




説明を受けた。

どうやら、俺のあげた小道具が約束の証らしい。

まさか気軽にあげたあれがそんな意味を持っていたとは…


「すみません」

「ふんっ」


エミリーみたいにそっぽを向いてしまった。

ううむ。

どうしたら機嫌を直してくれるか。


こう考えられることに満足感を得ている自分がいる。


「フィルティアさーん…?」


顔を覗き込みながら話しかけるが、またもそっぽを向いてしまう。

ジェフはこういった時どうしているんだろうか。

後で聞いておこう。


「空いた日にでも、2人でどこか出かけませんか?」

「……ほんと?」


顔を向けてくれる。

これを言われるのを待っていたのか、先程のことを気にしている素振りはない。


「ええ、ほんとです」

「えへへぇ………やった」


そう言ってはにかんだ。

フィルティアとデートをする約束ができた。

この子は俺の扱い方をよく知っているように思える。


そうだ、何日かに1度は休みをつくってもいいかもしれないな。

そうすれば()()都合も合うだろう。




デートはどこに行こう…



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