落ち着きの時間
夜更けの時間。
俺は見晴らしのいいバルコニーで胡座をかいて見張りをしていた。
この屋敷が攻め込まれる可能性は低いが、ここは魔獣が彷徨く森の近く。
用心は必要だろう。
「シャル、代わるよ」
と、後ろからフィルの声がした。
どうやら、彼女も起きていたらしい。
「いいよ。もうちょっとここにいるから」
「そお?」
そう言って、俺の横に座るフィル。
今は魔獣たちも大人しく、静かな風が心地よく体を撫でる。
フィルの昔よりも伸びた髪も靡き、夜空の下では美しい黒色に見える。
「シャルあんまり寝てないでしょ。大丈夫?」
「まあ、フィルが起きてる時は俺も起きてたいから」
「……ふぅん」
あ、照れた。
「シャルさ…体おっきくなったよね」
「…? ああ、鍛えたからね」
「…触っていい?」
「どうぞ」
体をフィルに向け、腕を軽く広げる。
そこにポフっとフィルが座った。
細い体を軽く抱き、俺の胸が触られる。
「わぁ……硬いね…」
今まで何度もこの胸で抱いたが、驚いた顔をするフィル。
その顔に少し情欲が湧いてしまう。
「フィルは昔と今、どっちの方が好き?」
「うぅん……どっちも好きだけど…今の方がいいかな」
「ん、ありがとう」
そう言ってくれると、俺も鍛えた甲斐がある。
あいつに鍛えられたこの体だが、性欲を誤魔化すためにも鍛えてたな。
そのおかげで体力もついたし、二人同時に抱きしめられるようになった。
エミリーはどっちが好きなんだろうな。
マオもどっちが…
………。
「肩も大きくなったね…」
肩を撫でられる。
「胸も…」
フィルの動いていた手が止まる。
彼女の目線が俺の胸で留まり、俺も彼女の胸に目を向ける。
そういえば、フィルの胸は全く成長していないな。
膨らみが一切存在しない。
これでは俺の方が…
「シャル」
「…はい」
「今…私の胸…変わってないなって思ったでしょ…」
「思ってないです」
「…………」
フィルがムスッとした表情になるが、それも可愛く映る。
彼女は小さいのを気にしているが、俺は小さいのも好きだ。
彼女の胸は俺もよく見るし、それを気にするフィルも可愛い。
だから、胸を張って欲しい。
「いいもん……シャルの胸は硬いけど私のは…」
「…………」
うん、同じくらい硬いよね。
「……今…同じくらい硬いって思ったでしょ…」
「思ってないです」
「…………」
あれ?
なんで俺、ほっぺぷにってされてるんだ?
墓穴を勝手に掘ったのはフィルなのに…
「シャルはさ…私の胸好き?」
なにを今更。
「うん、好きだよ」
「へへぇ、よかった」
俺もフィルと会えてよかった。
俺はこの笑顔を忘れてたんだよな…
もう二度と忘れないように、記憶に焼き付けなければ。
「じゃあ、今度は俺が胸触る番だね」
「えっ…」
フィルの胸へと手を伸ばす。
「「 ………… 」」
だが、その手を握られることで阻止された。
「……駄目?」
「駄目…」
えぇ…
「俺も触りたい…」
「……我慢できなくなるでしょ?」
それはどちらのことを言っているのだろう。
俺は我慢できるから、彼女自身のことを言っているのか。
全く、性欲の高い子は困っちゃうな。
さて…
バシっ
「………」
「駄目だよ」
いや、まだいける。
俺はいける男。
さあ、いってやろうではないか。
「シャル…」
「分かった…」
ちぇっ。
俺はフィルの頬に手を添え、口端を親指で軽く撫でる。
「なら、キスはいい?」
「……うん…」
フィルの目が細まり、唇に意識が向いているのが分かる。
そして、キスをした。
「「 …………… 」」
そういえば、二人きりの状況でするのは今までなかったな。
時間も深夜で、月明かりの照らすいい空気だ。
「………!」
どさくさに紛れてフィルの胸を触る。
彼女の驚いた反応が俺をより積極的にし、フィルを床に押し倒してしまう。
「っ………シャル…」
………あれ?
これって、えっちする流れみたいになってないか?
ああ、やばい。
フィルの顔、凄く可愛い。
えっちを意識してる、火照った顔だ。
「……フィル…」
キスをする。
手が勝手に彼女のボタンを外していく。
駄目だ…
止めないと…
何個かのボタンを外し、空いた服の隙間から背中へと伸ばす。
フィルも自分の背中を浮かせ、上下着の留め具を外しやすくしてくれる。
………留め具が外れた。
「…………」
あ、やばい。
止まらない。
フィルのボタンを全て外し、顕になった上下着も外そうと…
「ちょっと」
「「 …!! 」」
横から聞き覚えのある声が一つ。
そこには腕を組んだエミリーお嬢様がいた。
「なにしてんのよ」
「………と……取っ組み合いっこ…」
「そ、もう寝るわよ」
フィルの必死の言い訳も流される。
俺はフィルと目を合わせ、外した留め具を直す。
えっちは出来なかったが、これでよかったと思う。
今はマオに会うために出かけているのだ。
きっと、えっちの最中に彼女のことを思い出してしまったに違いない。
だから、これでいいのだ…
さ、明日に備えて寝よう…




