話 ー正直に話そうと思うー
仲直りが出来たその翌日。
俺はフィルティアとお話をしていた。
「申し訳ありません」
俺は流れるように土下座をしていた。
ここ2日で3回目の最上級謝罪。
なんとも言い難いが、これも必要経費だ。
「え、えっと……なんで謝るの?」
フィルティアが疑問を投げかける。
そうだった。
まだ謝罪の理由を話していなかった。
「非常に申し上げにくいのですが………エミリー、並びにマオのことも…………好きに…なって……しまい…ました」
「え……」
フィルティアの失望した声。
覚悟してはいたが、やはり心にくるものがある。
隠しておこうとは思った。
だが、前世の父親はそれで失敗したし、そのせいで母親は自殺した。
もし、フィルティアが母親のようになってしまったら…
そう考えると自殺したくなったので、正直に言うことにした。
「そして2人から求婚をされ……それを知らなかった僕は…それに応えてしまいました………申し訳ありません」
重ねて謝る。
言い訳がましいかもしれない。
こんな俺を嫌いになってしまうんじゃないか。
自殺に追い込まれはしないか。
そんな不安が常に頭にある。
この感覚には慣れない。
気持ち悪いものが蠢いている。
「シャル、顔を上げて」
その声は憤怒に染まっているわけでも、痛哭しているわけでもなく、いつものフィルティアの優しい声音だった。
そっと顔を上げる。
目は伏せているため何も見えないが、フィルティアが目の前で、俺と同じように座っているのが分かる。
今の俺は打首寸前のような表情をしていることだろう。
いずれ来る叱咤を待っているのだ。
「私ね……何となく、そんな気はしてたんだ」
「え……?」
「エミリーとマオも、シャルのこと好きみたいだったから」
俺ってそんなに信用なかったのか。
なんだか複雑な気持ちだ。
「フィルティアも大好きです」
「うん。ありがと」
フィルティアが微笑みかけてくれる。
こういうやり取りをしていると、実年齢と立場が逆な気がする。
「「 …………… 」」
……会話を続けられない。
なんて言ったらいいんだろうか。
「その………シャル、聞いてもいい?」
フィルティアがモジモジして問いかけてくる。
「…? ええ、大丈夫です」
「えっとね……その…二人とは…………したの?」
「してないです」
それに至りそうになったことは伏せる。
「ぁ…そうなんだ」
フィルティアが頬を赤く染める。
今の会話でナニかを思い出したのか、それとも別の理由かは分からない。
分かるのは、今のフィルティアは俺の息子にとってドンピシャということだけだ。
頬を赤く染める彼女は非常にくるのだ。
色々とバタバタしていたこともあって気が付かなかったが、一夜を遂げたあと、フィルティアを見る度に息子が反応を示してくる。
だが、俺はそれに応えられないでいる。
フィルティアやエミリー、マオと致していいのか分からないからだ。
もし3人のうちの誰かとして、また軋轢を生んだら嫌だしな。
「あと……私たちって…その…付き合ってるのかな?」
「…………分かりません……また後日みんなで話し合いましょう」
「うん……分かった」
フィルティアが笑顔を向けてくれる。
悲しげな笑顔だ。
フィルティアには悪いことをしてしまった。
俺の愚かさが招いたことだ。
最後まで責任を取りたいが、どうしたものか…
ー
3人と話す前に、俺は自室で勉強をしていた。
今回の件の原因は俺の無知にある。
この世界のことを知っておく必要がある。
今回調べたのは地理とその特徴だ。
この世界は大きく分けて3つの大陸が支配している。
魔大陸、レノアーノ大陸、龍王国。
この3つを世界三大大陸と呼ぶ。
3つというところは国力の均衡的に大丈夫なのかと思うが、それはそういうものなのだろう。
魔大陸はその名の通り、主に魔人が支配している。
と言っても、人が支配しているレノアーノ大陸にも、そこら辺を歩けば普通に魔人はいる。
あくまで形だけだろう。
レノアーノは俺が住んでいる国でもある。
国名が大陸名になったのだ。
レノアーノが如何に大きい国なのかが分かる。
続いて龍王国。
『陸』と名前が付いていないのは、単に領地が他と比べて小さいからだ。
その広さは国ひとつ分。
これほど小さいのに、世界三大大陸に数えられるのには理由がある。
それは武力。
ひとつの国が保有しているとは思えないほどの力がその国にはあるのだ。
住人のほとんどが龍の血を受け継いでおり、一般市民でも一端の騎士以上の戦闘能力がある。
そして、その筆頭の龍王は原初にして、現代の王らしい。
建国して500年経つらしいが、長寿なものだ。
この3つで俺が最も注目したのは魔大陸だ。
ここには俺の知らない魔術があった。
それは闇魔術なるもの。
厨二心をかなり擽られる。
魔教本に載っていなかったのには幾つか理由がある。
闇属性は死霊系の魔術が多いらしく、人族に忌避されていること。
そして、特殊魔術に分類されていること。
魔大陸の方では普及しているのに、特殊に分類されている。
多分、魔界陸の魔教本だときちんと属性として区別されていそうだ。
そしてもうひとつ。
なんと、そこには魔王がいる。
それは悪の限りを尽し、世界を我がものとする暴君。
そう思っていたのだが、どうやら違うらしい。
龍王国とは仲が良くないらしいが、人族とは手を結んでいる間柄らしい。
なんとも期待はずれだ。
この世界は普通に平和だ。
勉強をし終えたら、集合の時間だ。
俺は『世界三大大陸 〜あなたはまだ、世界を知らない〜』を閉じ、教室へと向かった。
ー
教室に着いた時、既に3人は集まっていた。
そこにはメイアさんの姿もあった。
「すみません。お待たせしました」
エミリーとマオはいつもの格好だ。
フィルティアは大きめで中袖のパーカーに、チェック柄のシャツを中に着ている。
「じゃ、向こうで話しましょ」
エミリーが示しているのは備え付けの部屋だ。
「はい」
中へと入ると、少しばかり家具の配置が変わっていた。
壁にくっついていた机は中央に置かれ、それを囲むように、4つの椅子が用意されていた。
それぞれ席に着く。
俺の前にエミリー、右にフィルティア、左にマオ。
そして、エミリーの右手後ろにメイアさんがいる。
少々手狭だが、くつろぐために来た訳では無い。
「それでは、会議の方を始めます」
メイアさんが進行役を務める。
「シャル様は、エミリーお嬢様、並びにマオセロット様の両名と婚約の契をしました。間違いないですね?」
「は┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈待ってください」
肯定を示そうとしたところ、フィルティアが待ったをかけた。
「シャル」
名前を呼ばれた。
鋭い目で俺を見ながら。
こんなフィルティアは初めて見る。
また何かやってしまったかと記憶を辿るが、心当たりがない。
「は……はい」
フィルティアはメイアさんに顔を向ける。
「私も、シャルと結婚の約束をしています」
「「「 えっ? 」」」
……俺はまた大罪を犯してしまったみたいだ。
3人と知らず知らずのうちに結婚の約束をしていた。
どんな確率だろう。
というか、故意にやったと思うほうが自然だ。
「………では、シャル様は三名と契を交わした。ということでよろしいですね?」
「え? あ………はい」
承諾はするが、後でフィルティアと話さなくてはいけなくなった。
頭が痛いが、意識を話に集中させる。
「では、私の役目は終わりでございます」
「ありがとう、メイア」
メイアさんが頭を下げて、1歩引く。
ここからが本番だ。
「シャル」
「はい」
早速、エミリーから問われる。
「これから私たちをどうするつもり?」
当然の質問だ。
そして、1番の難問でもある。
俺はこれから、3人に対してどう接したらいいのだろうか。
「……3人と…お付き合いをするのは…どうでしょうか?」
自分で言ってて嫌になる。
床に這いつくばりたくなる衝動を抑える。
「……付き合うとはなんだ?」
マオが聞いてくる。
「一緒に出かけたり、手を繋いだり、時間を共に過ごすこと……です」
「ふむ」
尻窄みして答えると、マオは顎に手を当てて考える素振りを見せた。
「わ…私はシャルと…その……付き合いたい」
フィルティアが俯きながら嬉しいことを言ってくれる。
彼女がいなかったら、俺は今頃前世の俺に戻っていたかもしれない。
「私もシャルと付き合うわ!」
エミリーはハッキリと俺を真っ直ぐ見て言ってくれる。
こんなにモテるようになったのは幸運だろう。
ジェフが俺を王宮に送らなかったら、この生活はなかったんだもんな。
自然と皆の視線がマオに向く。
マオは未だに顎に手を当てている。
「…………付き合うということはつまり…………交尾だってするのだろう?」
全員がビクっと跳ねる。
呆気に取られるが、それは俺も気になっていたことだ。
1度だけとはいえ、俺の息子は経験済みだ。
ずっと自分でし続けたままだと、不機嫌になってしまう。
「っ……シャル」
「はい」
「ど……どうなのよ」
どうって。
そりゃあしたいに決まってる。
『やるんだな!? 今…! ここで!』と言われたら、俺は必ず肯定してしまうだろう。
だが、生憎俺は戦士じゃない。
「するとなると……マオはどうするんですか?」
マオと交尾する時は、「まだ早い」と言われた。
フィルティアの時とエミリーの話を聞く限り、あれは獣族の文化なのかもしれない。
となれば、マオだけしないというのも不公平だろう。
「うむ……付き合うというのが獣族にはないからな。よく分からん」
ふむ。
困った。
どうしたものか…
「シャル」
と、物思いにふけっていると、マオに呼ばれる。
「はい、なんでしょう」
「シャルは……………したいのか…?」
目線が一点に集まる。
皆、俺の返答を待っているのだ。
エミリーは気色ばんで、フィルティアは不安そうにこちらを見ている。
これは不味い。
非常に不味い。
『はい』と言っても『いいえ』と言っても悪い結果が待っている気がする。
確実にバッドエンドだ。
しかし、マオとは勿論したい。
かなりしたい。
本能に嘘はつけない。
ならば、返答は『はい』か『イエス』だ。
「したい……です」
「そうか……ならば、よろしく頼む」
マオがそう言って、微笑んだ。
「はい、お願いします」
エミリーとフィルティアの様子を伺う。
エミリーはバツが悪そうにし、フィルティアはプクッと頬を膨らませている。
……否定の声はない
これで3人とすることが一応は認められた。
これからはどうしようか。
認められたと言っても、後ろめたさのようなものがある。
なんだかんだ言って、しないかもしれない。
「話は終わったな。私は部屋に帰るとしよう」
そう言ってマオは席を立つ。
「じゃ、じゃあ…シャル?」
「はい」
フィルティアも席を立って、俺を促す。
話す内容は分かっているため、すぐに承諾する。
「では、失礼します。エミリー」
「ええ、またね」
そう言って、部屋を後にする。
これから俺は、フィルティアのお叱りを受けることになるだろう。
ーメイア視点ー
御三方が退室し、お嬢様と二人きりになる。
今はお嬢様と向かい合って座っている。
「それで、メイア」
「はい」
「どうしたらシャルの一番になれるかしら」
分かっていた質問だ。
あの方の一番…
いくらお嬢様とて、シャル様の一番は容易ではないだろう。
「迷宮に入ったり、看病をしてもらうなどが良いかもしれません」
「迷宮っ!」
お嬢様が別の意味で食いつく。
この方は冒険者に憧れているところがある。
年相応ではあるが、少々思うところもある。
「迷宮に入る男女はお互いを求めるようになると聞き及んでいます」
「聞いている」と言ったが、私の実体験だ。
王宮に務める前は何度か冒険をしたこともあった。
あの時は私も若く、想いを寄せる男性に振り向いてもらうために必死になったものだ。
「いいわね! 早速お父様に頼んでくるわ!」
「はい、お気をつけて」
お嬢様は元気よく扉を開けて去っていった。
恐らく却下されるだろうとは思いつつも、あの純粋な笑顔を落とすような真似は出来なかった。
ユラーグ陛下は少々過保護なところがある。
一人娘、それも将来は一国の頂点に君臨される御方なのだから当然だとは思うが、妾の子が可哀想になる。
ー
一杯の水を飲みきる程の時間が経った。
昼前の時間帯でいつもなら休んでいることはないが、シャル様の専属メイドとなってからはどうにも仕事がない。
専属メイドとしてもやることはあるが、すぐに終わってしまう。
溜息をついていると、扉が元気よく開かれた。
「お父様がいいって言ってくれたわ!」
一瞬、呆気に取られる。
あのユラーグ陛下が、危険の及ぶ迷宮の探索を許可するなど、思いもしなかったのだ。
「それはよかったですね」
笑顔を取り繕う。
「ええ! それで、看病をしてもらうってのはどんなのかしらっ?」
ご機嫌に椅子に座り、先程の話の続きを聞く。
「看病に限った話ではないのですが、好きな相手にしかしない行動をしたり、逆にされたりすると、より一層思いが強くなると思います」
『看病』とは言ったが、本来の目的はそこではない。
ベッドの上で自分に世話をされるか弱い女性。
そんな状況に陥ったシャル様は、お嬢様を押し倒してしまうだろう。
それを狙ってのことである。
フィルティア様には一歩先を行かれてしまったが、お嬢様もまだ間に合うはずだ。
シャル様は等しく御三方を好いている様子だが、ここでお嬢様が女を魅せればそれは傾くだろう。
「そう! ありがとう!」
「いえ」
再度、元気よく扉を開けて去っていく。
お嬢様の天真爛漫な御姿には、私たちメイドも元気をもらっている。
あの方にお仕えすることが出来た幸運に感謝する。
そして、どうかお嬢様の恋が実りますようにと祈る。
コップに水を入れ、再度読書に耽けった。
ーフィルティア視点ー
シャルを私の部屋に入れて、向かい合わせで座る。
シャルと同じように正座で座る。
「シャル」
「申し訳ありません」
私が何を言うでもなく、シャルが謝ってくる。
その顔は何かに悶えているように辛そうだった。
最近、シャルは謝ってばかりいるだろうから、あまり無理はさせたくない。
「シャルが告白したの…覚えてない?」
「……はい」
その発言にかなり落ち込んでしまう。
だけど、優しいシャルがそんな無責任なことをするわけがない。
「……その結婚の約束は……どういったものなのでしょう…」
シャルがそんなことを聞いてくる。
誰もが知ってる常識を。
でも………あれ…?
何かが引っかかる。
思えば、シャルはエミリーとマオにも約束をした。
その理由は約束の仕方を知らなかったからと、彼は言っていた。
……………。
もしかすると、私はシャルに酷いことをしているのかもしれない…
「…………シャルは……約束の仕方……知らなかったの?」
恐る恐る聞いてみる。
私のしていることが恥ずかしいことなのか、そうじゃないのか確かめるために。
「………はい」
やっぱり…
顔が熱くなる。
シャルは悪くないのに問い詰めてしまった。
していたことが間違っているのに、それが当然のことだと思ってしまった。
罪悪感が湧き出てくる。
「ご、ごめんね…! シャル……何も気づいてあげられなくて…」
こんな自分が嫌になる。
シャルの気持ちも考えられないで、どうやって彼に好かれるというんだろう。
「……いえ、僕が悪いんです」
「そんなことないよ!」
コンコン
扉が叩かれる音で会話が途切れる。
シャルと顔を見合わせると、彼が立ち上がる。
彼は扉を開けると、なぜか固まった。
シャルで遮られて見えないけど、女性らしき服装が隙間から見える。
「シャルうう!」
彼女は甲高い声でそう言って、シャルに抱きついた。
その行為にギョッとする。
エミリーでもマオでもない、知らない声。
そんな人が私の大好きな人に抱きついたのだ。
フツフツと怒りが出てくる。
「シャル…!」
気づくと、私も立っていた。
シャルは私の声に振り向いて、慌てた顔をする。
その顔を見て、私は感情が顔に出ていることに気がつく。
頭から熱が引くのを感じる。
シャルの前ではなるべく可愛くいたい。
「あぁ、えっと………母様…?」
「会いたかったわっ!」
『母様』
その言葉に、私は罪悪感を覚えた。
どうしよう…
私、シャルのお母さんに変な気持ちを…
「母様…どうしてここに?」
「シャルに会いに来たってだけではだめなのかしらっ?」
「冗談はよしてください」
あたふたしている内にも、二人の会話は進む。
「フィルティア、紹介します。僕の母親です」
「あら……お取り込み中だったかしらっ?」
彼女は私を見るとそう言って、いたずらっぽく笑った。
エミリーよりも少し色の淡い金髪に、ドレスの上からでも分かる大きな胸…
お腹から腰まで、流れるような体つき。
私の理想とする身体に、ちょっと嫉妬する。
「そういうんじゃないよ。母様、僕の彼女のフィルティアです」
「彼女っ! ………まあぁ…」
『彼女』と紹介されて、顔が熱くなる。
そうか…私はシャルの彼女なんだ。
一緒に出かけたり、手を繋いだり、キスだってできるような仲なんだ。
恥ずかしさから顔を俯かせてしまう。
「きゃー! 可愛い子じゃないっ、シャルったら、ジェフに似ておませさんねっ!」
「こんな可愛い子がいたら見逃せませんからね」
その言葉にさらに恥ずかしくなる。
やめて欲しいと思うと同時に、うれしいと思える。
シャルはそういったことを平然と言ってしまう。
言われる度に顔を熱くしてしまうのが恥ずかしい。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「それよりっ、しばらく会っていなかったんだから、ゆっくり話しましょ」
彼女はそう言って、腰を下ろす。
そして、流れる手つきでカップを作り、その中にお湯を入れた。
「はい、フィルティアちゃん」
「あ…ありがとうございます…」
手渡されたそれは即席で作ったとは思えないほどに綺麗だった。
お店で売っているのと遜色ないように見えた。
そして、その湯気からは花のいい香りがする。
ほっと一息つきたくなるような、そんな香り。
「いい匂いですね」
「でしょ? これ、私が創った魔術なのよ」
特殊魔術…
花の香りをつけるものかな…
シャルもそうだけど、特殊魔術なんて簡単に使えるものじゃない。
王宮でも使える人は一人いるかいないかだと思う。
「シャル、随分と大きくなったわね」
「しばらくですからね」
そんな凄い親子の会話が流れる。
私にも子供が出来たら、こんな会話をする時が来るのだろうか。
「エミリーお嬢様にも気に入られてるって聞いたわよ」
「ええ、今はフィルティアとエミリーともう1人に色々と教えてます」
「あらあら、何を教えてるのかしらっ?」
そう言って、彼女はまたいたずらっぽく笑った。
軽く頬杖をついて笑う彼女は見とれてしまうほどに綺麗だ。
ひとつひとつの動きに大人の余裕を感じる。
私も将来、こんな人になりたい。
「それはまだ先の話ですよ」
「まあ! ………でも浮気はだめよ?」
「はい、分かってますよ」
エミリーとマオの関係は話さないのかな。
それについては悪い気はしない。
なんだか、シャルが私だけのものになってる感覚がある。
「じゃあ、ここに来た理由を話すわね」
彼女はカップのお湯を揺らしながらそう言った。
「シャル、妹か弟…どっちがいい?」
その発言に目を見開く。
お湯を飲む手前でそれを言われたから、噴き出さずにすんだことによかったと思う。
そして、お腹をさすりながら言う彼女にどこか羨ましさを感じてしまう。
「えっ、できたんですか?」
「もう産んだわよ」
「それは………おめでとうございます」
きょうだい…
私にもお兄ちゃんがいるけど、下の子ができる気持ちってどんなのなんだろう。
「それで…どっちがいい?」
「え……どっちでもめちゃくちゃ可愛がりますよ」
「あら、いいお兄ちゃんね」
見ているだけでほっこりするやり取りだ。
「今は家にいるけど、来る?」
「うーん……フィルティア、行っても大丈夫ですか?」
「…え? あぁ……うん」
突然話しかけられて驚いてしまう。
もっと余裕を持ちたい。
「では、行きますか」
「よかったらフィルティアちゃんも来る?」
「えっ? 私……ですか?」
願ってもいない誘いに困惑する。
「いいですね、もてなしますよ」
「え……じゃ、じゃあ……いこっか…な」
シャルの家…
私はそこに向かってしまうのだ。
好きな人の家に、今から…
緊張で心臓がドクドク鳴り出す。
そして、思わぬ嬉しさから頬が緩んでしまう。
彼の家に行って、彼の部屋で一緒に過ごすんだ。
それから…
今から楽しみでしょうがない。




