無知の道中
「マオってどこにいるか知ってる?」
朝、フィルを抱きしめながらマオの居場所を聞く。
「故郷で鍛えるって言ってたわね」
「二人も四年ぶり?」
「そうよ」
「そうだね」
二人も四年ぶりとは…
やるなら徹底的にということだろうか。
いかにもマオらしい。
「いつ行くかは決めたの?」
「明日にしようかな」
「……随分早いのね」
「申し訳ない…」
明日出かけると言っても、その日にマオに会うわけではない。
何日かは旅になるだろう。
つまり、その間は二人と過ごすのだが…
「マオのとこまでどのくらいかかりそう?」
「三週間ね」
え、長っ。
龍王国と同じ距離じゃないか。
「じゃあ馬車を……いや、要らないね」
「…? 要らないの?」
「魔術で飛ぶよ」
魔術で飛べば、馬車よりも早く着く。
前に冒険に出かけた時にそれで遭難したことがあるが、あれは四年前の話だ。
今の俺ならば大丈夫だろう。
「それ変なところに飛ばされたりしない?」
俺の自信とは裏腹に、エミリーが疑いの目を向けてくる。
「大丈夫だよ。鳥の気分が味わえるだけだから」
「……まぁ…それなら…」
未だに不安そうなエミリー。
確かに、空を飛ぶ練習なんてしていないし、風魔術が得意ってわけでもない。
だが、大丈夫だ。
俺は離れていても魔術は使えるし、吹き飛ばされても何とかなる。
だから、大丈夫だ。
「エミリーは高いところ苦手なのか」
「ふんっ、望むところよ」
俺の挑発に受けて立つエミリー。
これで王女様の許可も得た。
もう誰にも咎められることはない。
「フィルは高いところ平気?」
「平気じゃない」
「…………」
よし。
明日は楽しい空の旅の始まりだ。
ー
ここは空中。
美少女二人を抱えながらの空旅。
「シャル! 待って! ほんとにまあってっ!!」
俺の腕に抱えられたフィルが涙目で訴えかけてくる。
だが、俺の耳にはそんな声も興奮の一因でしかない。
「フィル! エミリー! 俺たち飛んでる!」
「ねぇ止まって! 落ちちゃう! 落ちちゃうから!」
「シャル! 今すごいフワッときたわ! もっと高くして!」
空を蹴るように足を動かし、体を軽く縮ませて飛ぶ。
下の景色は住宅が点々とし、上には大きな雲が見える。
それらの景色が近づいたり離れたりを繰り返し、俺の気持ちを昂らせる。
「よっしゃあいくぜえ!」
ー
時刻は夕前。
場所は近くに森があり、茶色の地面が見える草原。
そこに抱えていた二人を下ろす。
二人の反応は正反対だ。
「シャル、明日も頼むわねっ」
目をキラキラさせ、俺に笑顔を向けてくれるエミリー。
うんうん。
俺も張り切った甲斐があるというものだ。
喜ぶエミリーは俺に元気をくれる。
「シャルほんっと……もう…ほんっと…」
あひる座りで地面に手をつき、なぜか疲れた様子のフィル。
なにか嫌なことでもあったのだろうか。
まあ、息切れしているフィルが見れただけでも良しとしよう。
疲れたフィルは俺に精気をくれる。
「フィル、水飲む?」
「……うん…」
少しムスッとした表情でコップを受け取るフィル。
「はい、エミリー」
「ありがと」
エミリーにも水を渡す。
「じゃあ、少し狩りに出かけてくるよ」
「ん、私も行くわ」
「私も」
今回、食料も現地調達だ。
野宿もするし、俺以外の護衛もいない。
三人で挑むサバイバルだ。
というかエミリーは王女様なのに、こんな自由に連れ回していいのだろうか。
そもそも、エミリーは王宮の人にちゃんと連絡したのだろうか。
……あれ?
もしかして、俺って罪に問われることしてる?
………まあ、いっか。
ー
シュパァァァン…
巨大な魔獣の頭を貫き、その岩が後ろの木を破壊し、さらに奥の木に突き刺さる。
見つけて、魔術を放っただけ。
魔獣が残した地面の揺れとは裏腹に呆気ない勝利。
獲得したのは頭部とその周辺が大きく発達し、顔より大きい牙の生えた三メートルほどの猪。
その口には未だに涎が垂れている。
採れる肉も多く、美味いやつだ。
「すぐ終わっちゃったわね…」
エミリーが持っていた剣を鞘に戻し、残念そうな声を上げる。
「よし。ここら辺は危ないから、もう戻ろう」
「ええ」
「うん」
ある程度の肉を自然におすそ分けし、屋敷に戻った。
ー
「シャル、手伝えることない?」
「んー?」
厨房で肉の処理をしていたら、フィルが背中に抱きつきながら申し出た。
「じゃあ、これをお酒に漬けてもらおうかな」
「ん、分かった」
背中の温かみが消え、新たな温かみと柔らかみが現れる。
「シャル、私は何かないかしら」
「一緒にこのハーブ切ろうか」
「ん」
ー
晩ご飯が出来た。
今日のメニューはステーキ。
黒胡椒をふんだんに使い、焼き方はミディアム。
ハーブを一摘み乗せ、果肉をすりおろして作ったソースを添えたもの。
我ながら良い出来だ。
「シャル、料理上手ね」
「どうも」
三人でテーブルに座り、肉を食す。
「ん、美味しいわね」
「うんっ、美味しい」
「それはよかった」
うんうん。
今日も幸せだ。




