地獄へ誘う天使
「……………」
よし。
そろそろ二人も寝ただろう。
荒ぶる息子を抑えにいこう。
「シャル…」
と、ほんの少し動くと横から声がかかった。
「寝れませんか? フィル」
「うぅん…」
曖昧な返事だ。
フィルはゴソゴソと動き、俺の上に被さってくる。
俺の胸にその尖った耳を当て、彼女の腹が息子に刺激を与える。
動いてもいないのに、俺の息子はそれに過剰な反応を見せている。
しばらく使っていない間に、かなり敏感になってしまったようだ。
「シャル……本当にえっちしないの…?」
ぐっ…
フィルめ、昔はそんな誘い文句なんて言わなかったのに…
だが、俺は耐える。
でなければ、彼女に失礼だ。
「しませんよ…」
俺はしない。
なぜなら、俺は鉄の男。
世界で一番好きな人に俺の心臓の鼓動を感じられ、上に寝転がられ、俺の硬いものを弄られたところで俺は動じない。
「………」
…………やばい。
ああ、やばい…
いや…彼女の気持ちを考えろ。
自分とえっちしている最中に他の人を思われたらどうする。
俺だったら嫌だ。
だから、えっちはしない。
「シャル…」
フィルがお互いの頭の位置を合わせる。
彼女の目線が俺の目から唇へと移った。
「…………」
そして、キスをされた。
ゆっくりとした、密度の高いキス。
丁寧に丁寧に舌を絡ませていく。
「んっ………シャルの……凄く硬いね…」
「フィルが近ければなりますよ…」
ああ、やばい…
フィルの生暖かい息がかかる。
火照った顔、潤んだ目が視界を埋める。
こんなに可愛い子が俺の彼女なのだ。
誇らしいし、同時に性欲が高まる。
「シャル…私ね…」
不味い…
今のフィルは俺を昂らせることしか言わない気がする。
上に乗られるだけでも限界なのに、そこに言葉を畳み掛けられれば俺は我慢できなくなる…
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、フィルは言葉を続けた。
「シャルに会ってから……えっちのことしか頭にないの…」
っ……耐えろ…
「シャルとえっちするって考えたら…ずっとドキドキしてるの…」
大丈夫だ…
俺は我慢のできるやつだ…
「…………」
キスをされる。
短いキス。
「っ……だからシャル…」
惑わされるな…
「えっち………しよ…?」
「…………」
ここまで誘われてしまえば仕方がない。
仕方がないのだ。
俺はエミリーに抱かれていた腕を解く。
そして、フィルの腰に回そうと…
「シャル」
横から声がかかる。
その声にフィルも俺も体が強ばり、動きが止まる。
エミリーが起きてしまったのだ。
「フィル、シャルが困ってるでしょ」
「でも……エミリーだってしたいでしょ…?」
「そんなことないわ」
えっ。
「シャルが我慢してるなら一緒によ」
「………分かった…」
えっ。
「おやすみ……シャル…」
「はい…おやすみなさい…」
フィルが俺の上から退き、横になる。
「…………」
これでよかったはずだ。
うん…
ー
よし。
そろそろ二人も寝ただろう。
今度こそ、荒ぶる息子を抑えにいこう。
「シャル…」
と、横から声がかけられた。
「エミリー…起きてたんですか…」
起きていたのは俺の腕を抱いていたエミリーだった。
彼女は俺の首筋に顔を近づけ、深く呼吸をする。
無防備な首をエミリーに捧げているように思え、彼女が息を吸う度に体がゾワゾワする。
「シャル…えっちしましょ…」
「……駄目です」
「………」
エミリーが無言のまま俺の上に乗る。
俺の頬に両手を置き、視界が固定される。
エミリーの目を見つめ、唇を見つめる。
綺麗だ…
どこを見ても美しく、ずっと眺めていたくなる。
触りたいし、キスもしたい。
「シャル……キスして…」
「ん…」
エミリーの首後ろに手を置き、キスをした。
「っ………えっちしないの…?」
「しませんよ…」
したい。
今すぐしたい。
ずっと心臓はうるさいし、股間は硬いし、エミリーは可愛いし…
体が疼いてしょうがない。
「……シャルの……凄く辛そうね…」
「……はい…」
なんで俺は我慢なんてしてるんだ。
四年ぶりに会った彼女だぞ。
たくさんイチャイチャすればいいじゃないか。
………四年ぶり………だからこそか。
だからこそ、久しぶりのイチャイチャはキッチリしたい。
久しぶりなのに他の人を思いながらするのは嫌だ。
だから、俺は我慢する。
これは絶対であり、揺るぎない決意だ。
「私も辛いわ…」
「……はい…」
エミリーに軽くキスをされ、彼女の親指で頬が撫でられる。
彼女の瞳に見つめられ、上に被さられると俺の体が彼女のものになっている気がする。
彼女の瞳から目が離せなくなって、自然と息が荒くなる。
「シャル…」
そして、エミリーがそんな心を更に掻き立てた。
「シャルに……気持ちよくしてほしい…」
「…………」
よし、やるか。
鉄の心なんて知ったことか。
エミリーの背中に手を回し、彼女の体が俺の方へと沈んでいく。
ドレスのホックを外し、それと同時にエミリーの目が蕩けていくのが分かる。
「エミリー…愛してます」
「私もよ…シャル…」
ああ…
体の力が抜けていく…
身を任せられるこの感じ…
いいな…
上布が緩くなり、エミリーの柔肌の露出が高まる。
エミリーの息が荒い。
俺も荒くなっているだろう。
背中を滑り、首に手を持ってくる。
そして、そのままキスをしようと…
「シャル」
と、横から声がした。
その声にハッとなり、二人で顔をそちらに向ける。
「エミリー、シャルが困ってるよ」
「………分かったわ…」
俺は分からん。
全く分からん。
「おやすみなさい…シャル…」
「おやすみなさい……エミリー…」
ああもう…
頭がおかしくなりそうだ…




