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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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後悔と反省 ー耳を塞いでー

どうも。

美少女2人に嫌われたシャルです。

現在、私の専属メイド(本当)こと、メイアさんに相談をさせてもらっています。

場所は教室備え付けの部屋。

誰もいない静かな部屋で、相談にはピッタリだ…


「1人の女の子と一夜を共にしたことで嫌われてしまったみたいです…」

「なるほど……そして、お嬢様とマオセロット様の仲を戻したいということですね?」

「はい」


エミリーとマオが授業に出なくなってから1週間。

その間、何も起きなかったし、起こせなかった。


「………お嬢様は何も言わずに出ていかれたのですか?」


エミリーが?

何か言ってたっけか?


「確か………『誓ったのに』と、言っていましたね」

「…!『忠誠の誓い』をしたのですか?」


『忠誠の誓い』?


「あの、手の甲にキスするやつですか?」

「はい…そうです…」


溜息混じりにそう言われた。


あれって騎士とか執事としてってことではないのだろうか。


「……何か…不味いことでもしちゃいましたか…?」


恐る恐る聞く。


「……はい」


……まじか。

あのエミリーがあそこまで泣いていた理由がそれにあるんだろうか。


「それってなんでしょうか?」

婚媾(こんこう)の契りです」

「………………ぇ」


言葉が頭に滲みるのに時間がかかった。

そして、後悔の念が押し寄せてくる。


あの時のエミリーの照れた顔。

あれはキスをしたことではなく、キスをした後のことに照れていたのか。

求婚をして、それを受け入れられたと思ったのだろう。


俺はそれを無視して、他の女とした。

俺だったらそいつをどう思うだろうか。


………………最悪な気分だ。


俺は、前世の親父みたいには絶対にならないと決めていた。

気持ちを裏切って相手を泣かすのは最低な行為だと、本人に対して罵ったことだってある。


求婚されて、それを受け入れて、将来は結婚をするとお互いが約束し、それを片方が破棄する。


…………やってる事、変わらないじゃないか。


「どうしたら……いいんでしょうか…」

「……お嬢様と話す…しかないかと」

「何を話しましょう」

「お嬢様は寛大なお方です。説明と誠意を見せればご理解頂けると思います」

「…………分かりました。ありがとうございます」

「いえ…」


エミリーと話すのか…

正直言って、かなり気が引ける。

だが、話さないと仲が戻らないのは事実。


……やるしかないか。




―エミリー視点 寝室―



シャルに裏切られた。

婚約の約束をしたのに、フィルティアとした。


それを知った日はずっと泣いていた。

メイアをシャルの専属メイドにして、様子を見させているけど、何も起きない。


シャルは私にとって太陽だった。

私を照らしてくれている光だった。

なのに、その光は…


これからは何をしよう。

シャルと約束したあの日から、ずっと幸せな毎日を想像していた。

二人っきりで出かけて、一緒に笑って、一緒に寝る。

そんな毎日を期待していた。

だけど…………だけど……


だめだ、また泣けてきた。

一週間も経つのにまだ引きずっている。

こんなの初めてだ。


「もう!」


枕を叩く。

悲しみを怒りに変える。

枕は柔らかい音を立てるばかりだ。


不安だ。

自分がこの先どうなるのか。

こんな性格だ。

貰い手も見つからずにどうやって国の王になるのか。

正直、王になるなんて実感はないけど、いずれなるとは聞かされている。


「………………」



コンコン



途方に暮れている時、扉が叩かれた。


「エミリー、シャルです」


裏切り者の声がした。




―シャル視点―



エミリーの自室に着いた。


「………………」


ここまで来てまだ躊躇っている。

フィルティアの時とは違い、今回は確実に拒絶されるだろう。

人生経験50年の俺でも、こういう時にどうすればいいのか分からない。

そもそも俺の人生なんて赤ちゃんと同等レベルだからな。


「すぅー……はぁー…………」


扉の前で深呼吸する。

何事も落ち着きが重要だ。

…………よし。



コンコン



「エミリー、シャルです」

「…………」


返事はない。

だが、ここにいるのはメイドから聞いている。


扉を開ける。


そこには、枕に顔を埋めたエミリーがいた。

綺麗な金髪は乱れていて、いつもの旺盛さは感じられない。


「申し訳ありません」


土下座した。


「……裏切り者」


……返す言葉もない。

分かってはいたが、エミリーに言われるとかなりきつい。


「………………忠誠の誓いの意味を…聞いてきました」


一瞬、エミリーがピクリと動くのを耳で捉える。


「エミリーには酷いことをしたと後悔しています」

「………………うるさい……もういい」

「僕は、エミリーと……もっと、一緒にいたいです」

「っ…なんで………なんでフィルティアとしたのよ!」


エミリーが悲痛な叫びを上げる。

俺は自然と顔を上げていた。

エミリーと目が合う。


泣いていた。

目に大粒の涙を浮かべて、泣いていた。


エミリーが笑われている時に怒ったことがある。

エミリーが泣きそうな時、貴族たちに怒鳴ったことがある。


………俺は最低だ。


「すみません………僕の意思が弱い所為です」

「なんで私を無視したのよ!」

「無視した訳じゃないです!」


意図せず声が大きくなってしまう。

胸が締め付けられるように痛い。

喉から臓器が出てきそうなくらい気持ち悪い。


「ですが…………エミリーのこと()好きです! 大好きなんです!」

「なら!…………なら……っ」


エミリーが言葉に詰まる。

時間が長く感じられる。


………ここに来なければよかった。

喧嘩した時から家に帰ればよかった。

そうすればこんな………こんな…


「なら…………ここで証明して」


発せられたのは予想外の言葉。

『出てけ』と言われると思っていた。

言われれば、すぐにでも出ていくつもりだった

それが…


俺はその場にゆっくり立ち上がる。


「本当に…いいんですか?」


いいわけがない。

こんな雰囲気でするものじゃないし、エミリーの純潔をこんな形で散らせたら駄目だ。


「…………」


返事はない。

エミリーも迷っているはずだ。

こんな形で、こんな男に。


「………今日は寝るだけよ」

「…分かりました」


よかった。

もし別の意味だったら、きっとフィルティアやマオ、エミリーとの関係も崩れていた気がする。


俺はベッドに上がり、正座をする。


「なんで座ってるのよ」

「…はい」


そう言われ、大人しく寝転がる。

エミリーも俺の隣に寝転がる。


少しの時間が過ぎた。

お互いに会話もないまま、背中を向けていた。


「………ねえ」


声が掛けられた。

正直言って、かなり気まずい。


「はい」

「儀式の意味………シャルは知らなかったのよね?」

「え…? あ…はい」

「それで………私のこと…『好き』って言ったわよね?」


え?

なにこれ怖い。

なんだか異様に既視感のある文言に、ナイフでも突きつけられている感覚だ。


「はい……大好きです」


なんだろう。

この後に『じゃあ、私のために死ねるわよね?』とか言ってくるんだろうか。

幾らエミリーの頼みでもそれは…


……あれ?

でも、一晩寝たということをしたってことは、俺はフィルティアと付き合ってるってことか?

…………あれ?

もしかして今、相当やばいことを言ってしまったんじゃ…


「………でも、フィルティアの方が好きなのよね?」

「え?」


思ってたのと違った。


「どうでしょう………まだ、僕には分かりません」

「…何よ……それ」


その口調は、含羞んでいるように聞こえた。

そしてエミリーがもぞもぞと動いて、俺の背中に控えめにくっついてくる。


エミリーの息が背中にかかる。

今となって、部屋が薄暗いことに気づく。


あれ?

エミリーってこんなにいやらしかったっけ?


いやいや、落ち着け。

今のエミリーは自暴自棄になっているだけだ。

『もうどうなってもいいや』と、そう考えているんだ。

そんな幼気な少女に手を出したらどうなる?

そう、それこそ最低な奴のやることだ。


だから落ち着け…



それから1時間ほど経ち、俺は眠りに落ちた。




―エミリー視点―



「申し訳ありません」


シャルが謝ってくる。

今は枕に顔を埋めていて、シャルの表情は分からない。


なんで自分が顔を埋めているのか、私にも分からない。

裏切り者のシャルに、もう見限った筈のシャルに、ただ思ってしまった。


『こんな格好をシャルに見て欲しくない』


なんで今更…

もうシャルのことなんて好きじゃなくなったのに…

顔も見たくなかったのに…

自分が嫌になる。


どっちつかずな考えは嫌いだ。

しかもこの男は裏切って尚、私のところに来た。

まだ私に未練があると思っているのだろう。

そんな考えも嫌いだ。

全部嫌いだ。


「忠誠の誓いの意味を聞いてきました」


…………?

『意味を聞いてきた』?

なんで?


何かが引っかかる。

()()の口実が出来たような…

ただ、その()()が何かは分からない。

だが、悪いことではないように思えた。


「エミリーには酷いことをしたと後悔しています」

「………………うるさい……もういい」


もう聞きたくない。

シャルの声を聞くのが辛い。

前までは彼と一緒にいるだけで楽しかった。

なのに、今は居心地が悪い。


「僕は、エミリーと……もっと、一緒にいたいです」


だったら…

だったらなんで…


「っ…なんで………なんでフィルティアとしたのよ!」


叫んでいた。

シャルと目が合い、だらしない顔を見られてしまう。

未だ、彼の表情は分からない。


「すみません………僕の意思が弱い所為です」

「なんで私を無視したのよ!」

「無視した訳じゃないです!」


違う。

シャルは私を無視した。

無視してフィルティアとした。


「ですが…………エミリーのこと()好きです! 大好きなんです!」


その言葉に胸が跳ねる

だけど、そんなこと信じられない。

信じられるとしたら…


「なら…………ここで証明して」



それから、シャルがベッドに上がって来て、一緒に寝転がった。

ただ寝転がっただけ。

本当は、めちゃめちゃにされてもよかった。

無理やりでも、シャルに求められたかった。


沈黙の中、シャルの言葉を思い出す。


「儀式の意味………シャルは知らなかったのよね?」

「え…? あ…はい」


もう、騙されてもよかった。

都合のいい女だと思われても、シャルの傍にいたい。

それに…


「それで………私のこと、『好き』って言ったわよね?」

「はい……大好きです」


……もう、私は騙された。

シャルに好きと言われるだけで十分幸せだ。

私は、シャルのいない人生が想像つかない。

笑う時はシャルが隣にいて、落ち込んだ時はシャルが寄り添ってくれて…


「………でも、フィルティアの方が好きなのよね?」


え……?


こんなことを言うつもりはなかった。

口が勝手に動いてしまった。


答えは決まっている。

フィルティアが一番だ。

分かっている。

分かっている筈なのに、聞いてしまった。


「…どうでしょう……まだ僕には分かりません」

「ぇ…」


思わず声が漏れてしまった。

あまりに予想外の答えに、困惑する。

それとは裏腹に、頬が緩んでしまう。


まだ、私にも…


「何よ……それ」


そう言って、シャルに寄り添う。

シャルはまだ、誰にするか決めてない。

なら、二人っきりの今が好機だ。


そうしていると、なんだか胸がドキドキしてきた…


『抱いて欲しい』


そう言いたかった。

でも、自分から言うのが恥ずかしい。

シャルに迷惑じゃないか。

淫らな女だと思われないか。


そう思ったら、言い出せなかった。


それに、シャルとは約束をしている。

シャルの授業に初めて出た時、シャルは私に『勉強したら大人になれる』と言った。

まだ、私はできていない。

なら、まだ早い。


手が下の方へと動く。


自分を慰め始めたのは、シャルがパーティの時に怒った時からだった気がする。

初めは怖かったけど、その時からシャルのことが好きになった。

それからは、ずっとシャルのことを想いながらしている。

ここ一週間はそれをしていない。


動いた手を止める。


今はだめだ。

シャルが目の前で寝てる。

シャルの匂い、シャルの体温、シャルの息遣いが分かる。

……だめなのに




…………。



―シャル視点―



起きた。

横を向くとエミリーが寝ている。

一瞬、『もしや?』と思うが、ただ寝ていただけだと思い出す。

現在はまだ宵だろう。

窓を覗けば、まだ灯りがある。

予定とは遅れたが、マオのところへ行こう。



エミリーの部屋を出ると、メイアさんがいた。


「どうでしたか?」

「許して貰えました。メイアさんのおかげです」


頭を下げて礼を言う。

今回はメイアさんのおかげで踏ん張ることが出来た。


「いえ…………それより、これからはマオセロット様のところへ?」

「ええ、そのつもりです」

「マオセロット様の件については、何かお聞きですか?」


マオの件?

全く覚えがないな…


「申し上げにくいのですが……マオセロット様もシャル様に求婚なさっております」


…………。


「…………僕はそれになんて応えたんでしょう」

「恐らく……承諾したかと」

「ですよね…」


エミリーに引き続きマオまで…

モテることはいいことだが、無知なのは最悪だな。


「では、急いでマオのところへ向かいます」

「はい。ご武運を」




マオの部屋に向かう途中、王宮の庭を見る。

エミリーのところへ向かう時、ここで剣術の練習をしていたのだ。

マオはここ1週間、庭にいることが多い

しかし、既にそこにはいなかった。



マオの部屋に着き、ノックをする。


「マオ、シャルです」


扉が開かれた。


「シャルか、どうした?」

「この前の件で謝罪をしに来ました」

「…? まあ、入れ」


あれ?

なんか思っていた反応と違うな。

さっぱりしているというか。


「失礼します」


出鼻をくじかれたが、目的に変わりはない。


「マオ、先日のことはすみせんでした」


頭を床につけて謝ろうとすると、ガシッと肩を掴まれた。


「フィルティアのことか? あれは気にするな、私が悪い」


何を言ってるんだ。

あれはどう見ても俺が悪い。

エミリーの時と同じように、俺はマオを裏切った。

後ろから包丁で刺されても文句は言えない立場だ。


「私が優秀なメスではなかったのだろう?」


優秀なメス…

マオは最高のメスだと思うが…


「いえ……マオは最高だと思います………僕がマオに求婚されていたと知らなかったんです」


そう言うと、明らかに胡乱げな目を向けてくる。


「では改めて聞こう。お前は私と約束できるか?」

「………今は……決めれません」

「…………お前の考えは分からんな」


マオが肩を落とす。

なんと返していいか分からない。

マオからしたら、今の俺は優柔不断なオスなのだろう。


「私は、森に帰ろうと思う」

「駄目です」


先程まで優柔不断だった俺が即答する。

寸分の誤差なく言えた気がする。


「…………」


マオがじっと見てくる。


「なんで、帰るんですか?」

「お前に認められるためだ」

「マオはそのままで十分です」


当初の目的とだいぶ話がズレている気がするが、帰郷することを見過ごすなんて出来ない。


「私はお前に釣り合う女ではない」

「マオは僕には勿体ないぐらいの女です」

「お前は何を言っている」

「マオこそ、何を言ってるんですか?」


堂々巡りだ。

俺はマオと一緒にいたいし、マオより強くなんてない。


「とにかく、帰っちゃ駄目ですからね?」

「…………分からん。なぜお前は私を引き止める?」

「マオが好きだからです」


また言ってしまった…

いや、俺がマオを好きなのは本心だ。

後々大変なことになると知っていても、これだけは言っておきたい。


「なら、なぜ約束してくれない? 交尾をしてやれないからか?」

「そうではありません」


一瞬心が揺らいだが、大丈夫だ。

俺は我慢の出来る男だ。


「マオもフィルティアもエミリーも、3人とも同じくらい好きなんです」


自分でも屑みたいなことを言ってると思う。

1人に絞れない自分も嫌になる。


「お前は本当に…………」


呆れられてしまっただろうか。


「えっちだな」


ビクンっと、どこかが跳ねた気がした。

どこかが……


「はい。だから結婚する時は覚悟してくださいよ? 1日中するなんてこともありますからね?」

「ああ……その時はよろしくな」


そう言って、マオは微笑を浮かべた。


はい、言質頂きました。

これで昼夜関わらずできちゃうもんね。


「ふぅ……では、僕はこれで失礼しますね」


俺は扉の方へ体を向けて、帰ろうとする。


「待て」


と、止められた。

振り向くと、マオがベッドの縁に座り、隣をポンポンと促していた。


「最近はお前に撫でられてなかったからな」

「あぁ、そうでしたね」


思えば、マオと交尾しかけた時以降、撫でに行かなかった気がする。

あんなことをした後では、息子の制御が出来ないからな。

だが、今の俺は大人なシャルだ。

身体だけ大きくなったおっさんではない。


マオの隣へと座る。

いつものように、すっと差し出された頭を撫でる。

マオの尻尾が、俺にすりすりと甘えるように擦ってくる。


「撫でられるのも久しぶりだな」

「そうですね」

「帰ってしまえば、撫でられることもなかっただろうな」

「おっと、撫でなきゃいけない理由ができましたね」

「ふっ……撫でられないのは寂しいことだ」


マオが目を細めながら言う。


マオも撫でられたかったとは、初耳だ。



こうして俺は、マオとの仲直りも済んだのだった。



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