死んでも奉仕する
◆
はああぁ…………。
セックスしてえぇ…………。
自らの股間が珍しく勃っているのを感じながら、重たい瞼を開く。
そして、糞ダルい体を起こしながら目を開ける。
「………………ん?」
目の前で寝ている老人┈┈┈┈俺の親父を見て思う。
正確にはその傍に置いてある心電図を。
「ぷっ……┈┈┈┈┈┈」
俺は初めて、腹の底というものを感じた。
「┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈プハハハははハハハはハハハはははは!!!!!!!!」
笑いが抑えられない。
ネットで安かった携帯型の心電図だが、それがこれ程までの高揚を与えてくれるとは思わなかった。
「ついに死んじまったか!!! 糞親父!!!!!」
薄い壁に囲まれたアパートだろうと、深夜であろうと、清々しいほど腹から湧き出てくる笑いを抑えられない。
今までの人生でこれほど笑った経験など無い。
「プハっ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ハハハハハはハハハはは!!!!!」
間違いなく、これが俺の人生で最も幸せな瞬間だろう。
◇▲_▲◇
「あぁー…………笑った」
笑い疲れて座り込み、目の前の死体を見ながら笑みを浮かべる。
やっとだ……。
やっとあの糞介護から解放される。
良い気分だ。
柵から解放される、とは正にこの事だ。
全てがスッキリして、全てが上手くいきそうな気がする。
これで俺も犯罪者の仲間入りだが、そんなものは気にならない。
こんなに人生楽しんでるやつ、他に居ないだろ。
生まれてからずっと糞みたいな人生だったが、案外悪くなかったのかもしれない。
「さて……羽目でも外すか」
久しぶりに外に出よう。
今日は記念日。
豪遊でもしよう。
◇▲_▲◇
オナホを買って帰る途中、俺は橋から川を見た。
川堤があり、子供の頃から見てきた川だ。
そこの欄干に持たれかかり、夜の空気を吸う。
「そろそろ死んでもいいな」
それも良いだろう。
今日は人生で最も楽しい日。
きっとこれから先、これ以上楽しくなることは無いだろう。
なら、これで終わらせても良い。
昨日までは寝ても覚めても介護のことばかり。
彼女も出来た試しが無い。
童貞だし。
もうおっさんだし。
もう少しで捕まってるだろうし。
確か、母さんが自殺したのも俺と同じ40歳くらいだったか……。
「………………」
自然と体が動き、眼下の川に向けて身を乗り出し┈┈┈┈┈┈
「っ…………!」
突如として我に返り、反対方向に思い切り重心を移動させる。
「痛っ……てぇ……」
さすがの俺でもこれには悶絶する。
コンクリートに重い体重が乗った腰をぶつけたのだ。
本気で死にたいなんて思ってる筈ないのだが、今のは何だったのか……。
死んだあいつの霊的なやつだろうか……。
「はっ、死んだあとの方が元気とか、馬鹿じゃねぇのか」
ブロろろロロ……
「…………?」
俺の耳と未だ鈍痛の残る腰がこちらに迫る音を報せてくる。
視線をそこに動かすと、大型のトラックがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「やっ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ッ……」
体を起こそうとするが、全身に走る激痛によってそれを阻止される。
マジで折れてんのかよ……。
くっそ……。
「本当に報いなんてあるんだな……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈。
……………………。