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短編

盗賊さんは戒めたい!~断罪好きの王弟は盗賊に貶められても正義を執行致します~

作者: 譚織 蚕

  ……ある日、俺は小さな違和感を感じた。


 


  俺の名前はバラン・フォン・アンスリー。職業は盗賊だ。そう、盗賊だった筈だったんだ。 なのにおかしい。


  最近何者かの記憶が流れ込んでくる。おかしい。俺も狂っちまったか……




 ――――――――――――――――






  元々先王の弟として公爵位を戴いていた私は、皇太弟として権力の頂きにいた。


しかし、ある日次の王を巡る政争に敗れてしまう。


  血筋的に言えば私が継ぐのが道理だったにも関わらず、従兄弟のデッカーが周りの貴族達を束ねて王城を血の海にし戴冠してしまったのだ。




  当然皇太弟であった私は処刑の対象。抵抗はしたが捕らえられ、牢にぶちこまれてしまう。


  そして、あわや死刑執行と言うところで命からがら魔法を使い逃げ出した。




  野を掛け、馬を奪い、船底に隠れた。


 


  逃げて逃げて逃げて、命が惜しくて……




  辿り着いたのは隣国と我が国の海峡にポツンとある島。通称【転国島てんごくじま




  王都を出てから一ヶ月後、沖に停泊中の豪華客船エンタント号の貨物室を抜け出して私は備え付けのボートを漕いで島に上陸した……




 ―――――――――――――




「はっはっはぁはぁ、俺は王弟…… 私が、盗賊……」




  記憶はそこで途切れていた。


  島に上陸したところで頭に霧がかかったようになり次に目覚めた時には私は盗賊の頭領という自意識を持ち、襲撃の準備を整えていた。




「お頭、いよいよ初仕事ですね! 金、酒、ジュエリー! 盗賊生活にわたしゃワクワクしちゃいますよ!」




  一人で酷い頭痛に耐えながら、洞窟の壁に向かい記憶を確認していた私に声が掛けられる。デッピと言う名のその黒髪ショートの少女と言っても過言ではない女は、私のたった1人の盗賊の部下である。




「あ、あぁそうだな…… 頑張ってくれよ!」




  正直、貴き血の私が犯罪行為を行う事には抵抗感しかない。




「なぁ、デッピ…… やっぱやめないか?明日の襲撃」


「な、なにを今更言ってるんですかお頭! 」


「今更じゃない、今だからだ…… 今ならまだ犯罪は犯してないだろう?」


 


  デッピを説得し、どうにか犯罪行為をする未来を止めてこの島を出たい。




「で、でもお頭! 『明日ここを通る奴はクズの極みだ』って昨日言ってたじゃないですか!? それなのに……」




 その言葉に私の耳がピクッと動いた。「うん? そうだったか?」




  私はクズに厳しい。


 


  自分の領地でも他人に迷惑をかける犯罪者達は私自ら騎士団を率いて討ち滅ぼし、王都でも不正を働く貴族どもをどんどん打ち首にしていった。




「ク、クズ野郎か…… 」




  心が正義に動く。あぁ、犯罪行為はだめだ……




  でも断罪行為なら? 正義が私を誘惑してくる。




「えーっと…… クズ野郎はどんな事をやったんだっけ?」


「ソイツ、テンセイシャ? とか言う謎の立場を利用して、無理やり町娘達を襲ったり商人達の倉庫を壊して中の金をあさり、無銭飲食を繰り返してるらしいっす!」


「お、おぉ……」




  名も知らぬ被告はクズの極みであった。




  バランは決意した。必ずかの邪知暴虐な誰かさんを裁かなければならぬと。




「ま、まぁあくまで噂だろう? 」


「でも本当だとしたら襲われて当然っす!」




  デッピの言うことには百理ある。そうだ、義賊になろう!




「で、でも万が一が怖いし…… 」


「お、お頭ぁ…… 弱気っすね」




  そう、万が一が怖い。私は正義に背きたくないのである。罪のない者を処し、罪を犯したくない。




「そう言うなら良いですよ! 私一人で行くっすもん!」




  そう言うとデッピは脇に置いてあった短剣をガッと掴み、洞窟を飛び出して行った。




「ちょ、ちょと待て!!」




  慌てて私も剣を掴みデッピを追うように洞窟を飛び出した。


  しかし、いつまで経っても追い付けない。これでも武術を嗜み、身体能力にはそこそこの自信があった俺だがデッピはそれを軽く凌ぐ速さだ。




  森を抜け街道に出るとデッピと黒髪の男、そして真っ青な髪の少女がなにやら話をしていた。




「へー、ナツキさんはゆうしゃ? なんっすねー! 勇気があるだけでお金が貰えるなんて優良物件じゃないっすか! ライラちゃんも好い人見つけたっすね」


「えへへ~」


「ふっ、そこまでの者ではない」




  なんでデッピが対象と談笑しているのかは分からないが、私はその中に入り男の人柄を探ることにした。




「おーいディー、急に走っていってどうしたんだ?」


「あ、お頭っ! やっぱり来たっすかー」


「お頭? ふん、いたいけな子供に随分変に呼ばせているんだな。奴隷か? 買ったのか?」




  黒髪の男はそう言って侮蔑するように私を睨み付ける。




  (初対面の人間に対しこの態度…… 思い込みが激しいな。 これはクズの素質がある。もう少し探ってみよう)




「すみませんねぇ。私はしがない行商人でして。この子は孤児だったんですよ。それで拾って育てましたらね、こんな風にお頭お頭って言って仕事を手伝ってくれるんですよ」


「お頭っ!? お頭はとうz……モゴモゴ」




  デッピは頭がユルユルな様だ。盗賊と口走りかけた彼女を抑え、黒髪の男をヘコヘコ見つめる。




「そっか、まぁいいや。ところでその子供気に入った。僕が変わりに育ててやるよ」




  男は私の言い訳を聞いていたのか、いなかったのかいきなりデッピの身柄を要求してきた。




「!? 変わりに育てる、とは?」


「そのままの意味に決まっているだろう? そんな小さな子供に仕事の手伝いをさせるなんてなんて鬼畜な奴なんだ?」




  確かに盗賊という職業は鬼畜であるが…… 今の私は設定上ただの孤児を助けてあげているいい行商人である。




「は、はぁ…… ディーはあげられませんよ。可愛い妹のようなものですし」


「お、お頭ぁー!」


「ふんっ、わからず屋だな。それなら力ずくだ。この盗人犯罪者めっ!」




  そう言いながらナツキとか言う野郎は腰に掛けていた剣を抜き放ち、切りかかってきた。




  盗人犯罪者。我が身は盗賊ではあるが、一応前科0犯である。


  しかも、しかもだ…… 手塩にかえけて育てた妹を渡せる奴がこの世にいるかっ!?


 


  ……ハッ しまった、役に入りすぎた。デッピは部下だ。妹ではない。




「お、お頭! 死んじゃイヤっす!」




  そんな馬鹿なことをあれこれ考えているうちに剣が迫り、私の身を切り裂いた。




「お、お頭! 私たちの盗賊ライフは今からじゃないっすか! 死んじゃイヤっす!」


「あ? お前達盗賊だったのか!? うっほ、テンプレテンプレ、貯金箱じゃないか!」




  あぁ、デッピお前は馬鹿だよ。なんでそんな……ユルユルなんだ……




「ふっ、とどめめを刺しておくか。本当に盗人だったとはなぁ…… 妹(笑)は犯罪者として可愛がってやるよ」


「は、離せっす!」




  そう言うとヤツはデッピの腕をグッと掴みながら、私の首へ剣を振り下ろす。




  あぁ、ははっ……


  クズだ!


  正義だ!


  執行だっ!




  王都に行ってから、中々執行できず溜まっていた正義欲が溢れだす。




  キンッ!




  硬い音とともに首筋に当たった剣が弾かれる。




  私の高貴なる血に宿るパッシブスキルである《王族壁キングズガード》が発動したのである。


  これは1日に100までの攻撃を防ぐことができる、支配者の証。


  先ほどの攻撃も当たった演技をしただけで、私には傷1つ付いていない。




「なっ? くっそ、ただの盗賊が何故勇者の剣を止められるんだ! 早く死ねよ! テンプレだろっ!?」




  その後も奴は3度攻撃を放ってきたが、それでやられる私王族ではない。




「ライラァ! 変われっ!」


「は、はいナツキ様!《聖剣化:スプリガン》」




  業を煮やした奴が隣にいた青髪の少女に声をかけると、彼女は光を放ちながら一振の剣に身を変えた。




「うぅむ、それは少々ヤバそうだ。」




  『聖剣』と名の付く剣は特殊な力を持つものが多く、大体王殺しの伝説を持っている。


 


「ハッ、そのわけのわからない力も聖剣の前では無力だ! 今度こそ死んじま……「《王雷》」え?」




  【王族魔法】そんな系統の魔法がこの世には存在する。まぁ大体の王族は殆ど鍛えていないが、私は別だ。




  正義の為に研鑽は惜しまない。




  最上級の王族魔法《王雷》が突き刺さる




  デッピは聖剣を持った際に手は離されている。




「はっ、お前はクズだ。ここは我が国の領土!転国など嘯いておるが、法は我々の法だ。ここでの無法は私、次期国王バラン・フォン・アンスリーが許さん!」




  そう口上を述べるが、もう男は意識を失い倒れ伏し聞いてはいない。女も剣から人に戻り、被さる様に倒れていた。




  ただデッピだけが、




「お頭は王様だったんすね! すごいっす! てか強いっす!」




  などと跳び跳ねている。能天気でいいヤツだ。




「まぁそうだな。よし、デッピ縄をかけろ。町へ突き出すぞ」


「はいっす!」




  洞窟にあった台車を持ってきて、私たちは二人を詰め込み、町へ向かって歩きだした。




「そういえばお頭はどうして盗賊なんてやってたんすか?」


「それがよく分からんのだ。まぁここの王、とやらに会えばわかるであろう。」




  ここは本当に不思議なところだ。しかし、我が国の領土であることに変わりはない。


  私は王族として、正義を執行していく。






 ――――――――――




 ???


(ふっふふ…… あの世界線にイレギュラー、ですか……)

連載中の拙作も良ければ……

VR×逆転生物です。↓

"逆"転生者のVR無双~前世の知識と固有技能【魔法弓術】でこの世界を生き抜きます!~


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