表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の地に追放された元隠キャ〜ハズレスキル【眼福】で覚醒したら精霊にも吸血鬼にも魔王にも狙われたけど美少女戦士たちとSSSSSSSSランクの幸福を極めました!!!!〜  作者: 夢間欧
第7章 SSSSSSS〜ここからは第2部って感じでムードをガラッと変えてハラハラドキドキな冒険をしようと思ってるから応援よろしくね〜
86/283

第86話 深淵

「あ、馬が見えてきた」


 ザンギが言った。遠くの黒い点が馬とわかるのは、さすが遊牧の民だと感心した。


「よく見えますね。視力は2.0くらいですか?」


「前に調べてもらったとき、8.0だと言われた」


 なるほど。それなら見えるはずだ。


 ところが、馬のほうへ足を速めると、


「……む?」


 ザンギの顔が険しくなった。


「どうしました」


「あの馬ども……ツノが3本ある」


「え?」


 僕の目には、まだそこまで見えなかった。


 しかし視力8.0が言うのなら間違いない。

 

「ツノが3本というと、クレイジーホースがそうですが」


 ポイズンテールと同じく、山越えするときに会ったモンスターだ。炎のように真っ赤な姿は迫力があったが、【眼福】で視ると、いつでも荷物や人間を運べるように走って鍛えている、働き者タイプのモンスターであることがわかった。


「ジャック。もしあれがクレイジーホース改で、人間を襲うようになっていたとしたら、どうしたらいい?」


「前にも言ったが、鼻の先にニンジンをぶら下げれば、それを追ってどこまでも駆けていく。しかしニンジンをつけるのに手間取ってると、ツノで心臓をひと突きだ」


「どうもそれは危険だな。まず【眼福】で性質を見てみよう」


 3本のツノがくっきり見えてきたあたりで、【眼福】を発動させた。


 やはり……邪悪でしかない。


「本来人間の仲間になれるタイプのモンスターを、誰かが邪悪にした。そいつを許せない。そいつこそ、この世界の敵だ!」


 見えない敵に向かって、こぶしを握る。


「アリスター、クレイジーホース改の弱点は視えた?」


「いや、本来【眼福】は、対象の隠された良い面が拡大されて視えるスキルだ。弱点まではそうそう視えない」


 クレイジーホース改はぐんぐん近づいてくる。時速はおそらく100キロを超えているだろう。その数は3体。


「やるしかないな。セイラ、頼む」


「ホーリーレイン!」


 抜けるような青空から、聖なる雨が降る。


 しかしーー


 HIHIEEEEEYN!!


 狂ったように疾走するクレイジーホース改は、雨を浴びても平気で迫ってきた。


「ダメだわ。脂の汗を掻いていて、それが水を弾くのよ」


「水以外の技だ!」


「ホーリーストライク!」


 聖なる衝撃波が襲いかかる。するとそれを、ジャンプで飛び越えた。


「ホーリーアロー!」


 聖なる矢も、次々と躱して走ってくる。


「チビ鬼、じゃなかった、オーク! コンフュージョンを出してくれ」


「オイラはまだ、自在に技を出せない。悪いな」


 クレイジーホース改は、その理性を失った顔が見えるほど近づいてきた。何かしら、手を打たなくてはならない。


「みんな、どけ」


 かつての青鬼、今や覚醒して赤黒い身体になったオーガが、仁王立ちになった。


「闇属性の技を出す。危険だから、できるだけ遠くに離れていろ」


「わかった」


 僕らは走った。セイラも、ジャックも、オークもラブちゃんもルイベも。ピヨちゃんは空高く飛んだ。


「?」


 気がつくと、ザンギが来ていなかった。


「ザンギ、早くこっちへ! できるだけ離れるんだ!」


 しかしザンギは動かない。


「ルイベ、ザンギはどうしたんだ?」


 ザンギはクレイジーホース改に向かって、何かを叫んでいた。


「お父さんは、馬と話せるの。だからあの馬の目を見て、誠心誠意話してるのよ」


「バカな。あれは理性のない邪悪なモンスターだ。馬とは全然違う」


 クレイジーホース改が飛んだ。


 ザンギがそれに向かって懸命に手を振る。


「どけえ、男! 技を出すぞお!」


 オーガが怒鳴る。しかしもう、手遅れだった。


 クレイジーホース改が頭を下げ、ザンギの心臓をツノで突き刺した。


 血を吐いて、大地に倒れるザンギ。


「ヒーリング!」


 セイラの叫びは虚しく響いた。ザンギが即死したことは、誰の目にも明らかだった。


「キスして!」


 ルイベが抱きついてきた。僕はその紅い唇を避け、セイラにルイベを預けた。


「オーガ、危ない! 早く技を!」


 オーガはギリギリまで、3体のクレイジーホース改を引きつけた。


 オーガの口がくわっと開く。


「ダークグレイブ!」


 その瞬間、オーガとクレイジーホース改とのあいだに、真っ黒な深淵が出現した。


 3体のクレイジーホース改は、その黒い穴を覗いた。


 するとーー


 HIEEEEEEE!


 弱々しく嘶いて、深淵の中に呑み込まれていった。


 クレイジーホース改が消える瞬間の目が見えた。


 それは、今から永遠の墓場へ行くことを悟って、限りない哀しみを浮かべた目だった。


 深淵は閉じた。


 僕らは立ち上がった。


 仁王立ちのままでいるオーガと、殺されたザンギの元へ行く。


 先に着いたピヨちゃんが、ザンギの死体をついばんでいた。


 そこへ寄っていったラブちゃんが、地面の血を舐めた。


「おい、何をしてる。やめろ」


 そう言った僕は、ハッとたじろいだ。


 驚くべき変化が起こっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=35567082&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ