第76話 最後の時の門
ウイン。
と操縦席の後ろの自動ドアが開いて、セイラ姫とドングリおじさんが入ってきた。
「助けてくれてありがとう、アリスター!」
「無事で良かった。侵略者たちに、何かされなかった?」
「何かって?」
「なんか、嫌なこととか」
「別に……あんまり知能はない感じだったよ。カニみたいに横にしか歩かなかったし」
「ところでその帽子は何?」
セイラ姫は、被っていた帽子を脱いだ。
「侵略者の1人がくれたの。我々ハ宇宙人ダ。コレ、アゲルって」
手にとってみた。イン◯ーダーのロゴマークが目立ちすぎ、被るのには勇気が要る代物だった。
「セイラが要らなければ、このロゴマークを切りたいんだけど」
「どうして?」
「たぶん、6つ目の紋章だから」
ということで、ロゴマークを切って服のお腹につけてみると、金色にまばゆく光った。
「やっぱり。さあ、いよいよ紋章はあと1つだ!」
「見事な名◯屋撃ちでしたねー。惚れ惚れしました」
と、情報屋のボッタクリ妖精が、見え透いたお世辞を言った。
「今度お売りする情報が最後でゲスね。あっしは寂しゅうござんすよ」
「いや、あんたには何の感傷もないから」
「ヘ、へ、へ。そりゃまたつれないお言葉。キビシーッ!」
「ギャグはいいから、情報を売ってよ」
「最後のレトロゲーム、何でしょうね?」
「情報屋さん、知らないの?」
「逆に、アリスターだったら何がいい?」
「僕だったら……イン◯ーダーより前っていったら、ブロッ◯崩しとかかなあ?」
「アリスター、ブロッ◯崩し知ってるんだ?」
「それくらいはね」
「じゃあさ、ホーム・ポ◯は?」
「ホーム・ポ◯?」
「ファ◯コンより前に出た、家庭用ゲーム機でさ、卓球ゲームができるの」
「あー、知ってる!」
古い記憶が、にわかに甦った。
「ゲーム画面でやる、エアホッケーみたいなのでしょ? あー、なんか懐かしい。確かにそういうのあったなー」
「アリスター、めちゃテンション上がってんじゃん」
僕はいささか困惑を覚えた。
「なんだか情報屋さん、ゲームの話になったら、急に馴れ馴れしくなったね」
「あっしがですか?」
情報屋は、さも意外そうに目を丸くした。
「旦那にはお世話になってますんで、もし失礼があったら申し訳ないでゲス」
「いや、全然いいんだけどね。たぶん僕のほうが年下だから」
「恐縮ゲス」
「じゃあ最後のゲームは、ホームポ◯なの?」
「いやー、わかんないっスねー。ほかにレトロなのってなんだろ?」
「ゲーム◯ォッチは?」
「わー、イイネ〜。マン◯ールとか超やりてー。アリスターは?」
「あのさ」
「何?」
「やっぱり馴れ馴れしいわ。呼び捨てになってるもん」
「……マン◯ール、さん?」
「いや、マン◯ールを呼び捨てにされて、不機嫌になるやついないでしょ。ずっと旦那って呼んでたのに、どうして呼び捨て?」
「旦那さん、でゲスか?」
「あれ? 気づいてない、自分で?」
「すみません。気をつけるでゲス」
「まあいいよ。そっちが年上だし」
「恐縮ゲス」
「情報屋さん、よっぽどレトロゲームが好きなんだね」
「好き好き! アリスターもだろ?」
「ほらあ!!」
僕はついに大声を出した。
「今のがそう! わかった、呼び捨てにしてたの?」
「どうもツイマチェン」
「ツイマチェンじゃねーわ! わざとだ、絶対。何でわざとそんなことするの?」
「そのー、年上のワタクシが、年下のあなたを呼び捨てにしたことが、非常に無礼だということですか?」
「いや、いいんだよ、それは」
「じゃあアリスターは、何を怒ってんの?」
「そういうふうに、態度をコロコロ変えるとこだよ。普通に考えておかしいでしょ?」
「変えなければいいでゲスか?」
「そう」
「じゃあどっちにします? 旦那さんが選んで下さい」
「じゃあ、旦那で」
「呼び捨ては禁止でゲスか?」
「一応そうしよう」
「心の中じゃ、何でこんなクソガキを旦那って呼ばなくちゃならねーんだ、って思いますけど、それでもいいでゲスか?」
「いい訳ないだろ。びっくりするくらい性格悪いな」
「年下に威張られると、正直キツいス」
「わかったよ。これからは呼び捨てにして、それで統一してくれ。頭がおかしくなりそうだ」
「そうこなくっちゃ。あとレトロゲームっていったら何?」
「うーん、古いゲームセンターにあったやつかなあ。パン◯ングマシーンとか、腕◯撲マシーンとか」
「パン◯ングマシーンって、あれでしょ? 殴るところを、上からギッて引っ張って下ろすの」
「そうそう。レトロなのってそうだよねー」
「よく知ってんなー、オタクは。で、腕◯撲マシーンは、上半身裸の力士が腕を差し出してるやつでしょ?」
「情報屋さんもよく知ってるねー」
「もっとない、レトロ?」
「今思い出したけど、ゲー◯電卓ってなかった?」
「ゲー◯電卓!!」
情報屋はそう叫ぶと、パッと鼻を押さえた。どうやら興奮しすぎて、鼻血が出たらしい。
「いいとこ突くなー、このオタクキング! デジタルイン◯ーダーとか、ボクシングができたやつだろ、なあ、オタキン?」
「呼び捨ては認めたけど、勝手に仇名をつけることは認めてない!」
「固いことは言いっこなし。まだある、レトロ?」
「もういいよ、懐かしトークは。それより早く時の門をくぐらせてくれ」
「じゃあラストは、ノー情報でいこう。あっしも一緒に行きやすぜ!」
情報屋はそう言うと、宇宙船の操縦席の床にあいた時の門に飛び込んだ。
「なんかあいつのテンションがよくわからんなー。ま、とにかく僕らも行こう」
みんな揃って、ラストの7つ目の時の門へ。
ギュイーン!
白い光が薄れると、そこは情報屋と初めて会った、うろのある大木が生えた森の中だった。




