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辺境の地に追放された元隠キャ〜ハズレスキル【眼福】で覚醒したら精霊にも吸血鬼にも魔王にも狙われたけど美少女戦士たちとSSSSSSSSランクの幸福を極めました!!!!〜  作者: 夢間欧
第5章 SSSSS〜転生してゲームの世界に来たのは嬉しいけど冒険が忙しくてゲームをする時間がなくなったのは何かちょっと寂しいのです〜
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第62話 真・幅跳び伝説

「ところでどれが、カール選手かな」


 僕はいちばん近いところにいた観客に訊いてみた。


「知らないの?」


 アンビリーバブル、オーマイゴッドと客は手を広げた。


「国王の次に有名なのが、カール君なのに。ほら、あの第4コースの選手さ。ヘイ、カール!」


 客がそう言って手を振った。もちろんカールはそれに応えず、真剣な表情でクラウチング・スタートの体勢をとった。


 なかなか気品のある顔をしている。スポーツ選手でありながら、学者か実業家のような雰囲気がある。


「そして隣の第5コースのベン君が、カール君の最大のライバルさ。ベン君も頑張れ!」


 ベンの筋肉は、恐ろしいほど盛り上がっていた。肩の三角筋の膨らみが、顔よりも大きいほどである。


 一方。


 第8コースの我らがボルト(チビ鬼を背負った青鬼)は、筋肉こそベン以上のものがあったが、まったくやる気を見せず、スタートラインでヤンキー坐りをしていた。


「あー、100メートル走なんてマジだりぃ」


「こらあ、鬼、いや、サンダーボルト!!」


 僕はゲーム台からフィールドに向かって怒鳴った。


「お前もクラウチング・スタートをするんだ! みんなと同じ格好をしろ!」 


「マジでえ? チビちゃんが落っこっちゃうよ」


「チビはしがみついてろ! 今からボルト君は、世界新記録を出すからな!」


 僕のセリフは、近くの観客から嘲笑を引き出した。


(笑いたければ笑うがいい。ステンレス定規の威力を、とくと見せてやる!)


「オン・ユア・マーク」


 青鬼がしぶしぶといった様子で、クラウチング・スタートのポーズをした。


 僕もまた、RUNボタンに定規をあてがってスタートの合図を待った。


「ジャック、この種目では、JUMPボタンは使わない。僕の連打だけが勝負を決める。ニュー・ワールド・レコード達成の歴史的瞬間を、その目に焼き付けてくれ」


「セット……ゴー!!」


 ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン!!!


 僕は全力で定規を弾きまくった。毎秒20回の連打を目指して。


 がーー


「あーっ!」


 全員がスタートを切ったのに、ボルトだけが、クラウチングポーズのまま止まっていたのだ。


「しまった! ハイ◯ーオリンピックでよくあるバグが出ちまったあ!」


 もはやこれまで。この種目は諦めるしかなかった。


 レースは、ロケットスタートをしたベンがリードしていた。そのあとをカールが追う。


 なかなか差は縮まらない。このままベンの勝利か、と思われたとき、カールが加速してきた。


 逃げるベン。追うカール。残りは15メートル。会場のボルテージは最高潮に達した。


 と、そのとき。


「なんだあ!?」


 クラウチングポーズのまま、地を滑るようにして、ボルトがグングン他の選手を抜いてきたのだ。


「わあ、バグってる、バグってる。もはや制御不能だあ!」


 残り10メートルでカールとベンをとらえたボルトは、そのまま疾風のごとく抜き去ってゴールした。


「ニュー・ワールド・レコード! 8秒03!」


 観客の誰もが呆気にとられていた。それはそうだろう。まさか雑巾がけのスタイルで走る選手が現れ、しかもそれが優勝をかっさらうとは夢にも思わなかったはずだ。


 だが、


「ボルトー! ボルトー!」


 我に返ったあとは、観客たちは勝者を称えた。ニューヒーローの誕生である。やはりスポーツは結果がすべて。客の注目は、カールからボルトへと一瞬にして移った。


「見ろよ青鬼のやつ。客に手を振ったりして、満更でもなさそうだぞ」


 そう言うジャックも、どこか誇らしげであった。ジャックだけではない。ラブちゃんもピヨちゃんも、歓声を浴びる鬼の姿を嬉しそうに見つめていた。


(今回は、偶然バグがいい方向に転んだ。しかしまだ種目は9つもある。気を緩めずにいかないと)


 青鬼を見ると、すっかり調子に乗り、最前列の客とハイタッチをしたり、金棒を矢に見立てて弓を引くポーズをしたりしていた。


「おい、ボルト。狙うは総合優勝だ。ファンサービスもほどほどにしとけよ」


「なあに、楽勝よ。寝てても俺が勝つ!」


 観客の手拍子に合わせて鬼ダンスを披露する始末。それを尻目にカールやベンは、次の種目のために黙々とストレッチをしていた。


「どうやら次は走り幅跳びだな。ジャック、今度はジャンプのタイミングが物を言う。踏み切りラインに来たらボタンを押して、角度が45度のところでボタンを離してくれ」


「上手くできるかなあ?」


「大丈夫。僕が今だって言うから、その瞬間に押したり離したりしたらいい。簡単だろ?」


 やがて走り幅跳びが始まり、選手たちが次々に跳んだ。みなジャンプは上手である。しかし助走のスピードは、ボルトの敵ではなかった。


「これならいけるぞ。お、ベン君が跳んだ。8メートル10センチか。助走は良かったけど、筋肉がありすぎて身体が重いな。そしていよいよカール君……うわあ、素晴らしい。跳躍フォームの美しいこと。記録も9メートル30センチで断トツトップだ。さすが本命。しかし勝つのはボルト君だ!」


 青鬼がスタートラインにボサッと立った。僕は定規を弾くことに集中した。


 ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン!!!


 ついさっき出した世界記録を上回るスピードで助走するボルト。その右足がラインを踏んだ瞬間、


「今だ!」


「い、今ね?」


 ジャックがボタンを押す。すると大理石のゲーム台に、角度が表示された。


 38度……42度……


「今だ!」


「今?」


「そう! 聞き直すな! 離せ!」


「……ごめん。45度過ぎちゃったけど?」


「いいから早く離せ!」


 ジャックがもたもたしたせいで、我らがボルトは、驚異の87度でダーンと跳躍した。


「あー、バカバカ。ほとんど垂直跳びじゃないか!」


 ボルトは空高く舞うと、尻を下にして、ジャンプしたのとほぼ同じ位置に落下した。


「記録、50センチ!」


 観客はしらけきった。


 優勝したカールは歓声を浴び、尻を押さえて転げ回るボルトは、もはや誰からも相手にされなかった。

 

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