第49話 トロッコ・ステージ!
呆然とチビ鬼の行方を見送っていた青鬼に、僕は少々とぼけて言った。
「なんと、あの樽が、セイラを宙に飛ばした装置だったらしい。さあ、僕たちも続こう」
「続こうったって」
珍しく、鬼が弱気な表情を見せた。
「あんな勢いで飛んでったら、死ぬだろ?」
「いや、大丈夫。当たりどころが悪くたって、半サイズに縮むだけだから」
「そうかなあ。俺の脳裏には、自分が砕ける姿しか浮かばないけど」
「じゃあ何か? チビ鬼をほっとくのか?」
「ウォー、目が覚めたあー!!」
鬼はイッてしまった目つきになった。
「チビを助けずに生きていても意味がない。俺はゆく! さらば、者ども!」
と、頭から樽に入り、ズガーンと発射された。
「面白そう!」
好奇心旺盛なチンパンがそれに続いた。その次に、ラブちゃんを抱いたジャック、最後にピヨちゃんを懐に入れた僕。
ズガーン、ズガーン、ズガーン!!!
発射されると、見る見る地面が遠くなった。
気持ちいい。
空を飛ぶのは最高だった。
「ピヨちゃんは、いつもこういう景色を見ていたんだね」
空から見降ろすジャングルは、果てしなく広がる豊かな緑だった。
「ピヨちゃん、お腹すいた! 何か食べたい!」
「おお、そうか。待ってろ。セイラを助けたら果物でもやるからな」
と言ったとたん、空中にバナナが浮いてるのを発見し、右手を伸ばしてキャッチした。
「バナナって、食べる?」
「皮の噛み心地、好き!」
と、ピヨちゃんが喜んでバナナをついばんでいると、スピードが落ちて、トロッコの中に落下した。
「ゲ! こんな火山に、何でトロッコとレールが? 太古の世界じゃなかったのか?」
と疑問が溢れ返りそうだったが、そこはそれ、チンパンがキャップとTシャツを着けている時点で、時代設定などはどうでもよくなっていた。
「トロッコ・ステージが始まったあ!」
ガタガタと揺れながら走り出したトロッコにしがみついた。レールの先を見ると、ジャックと鬼もそれぞれトロッコに乗って疾走していた。
「あっ、レールが切れてる!」
先頭を行く鬼が、トロッコのレバーを操作し、タイミングよくジャンプした。するとその勢いでチビ鬼が飛び出し、くるくると回転して、宙に浮いた樽に入った。
ズガーン!
樽から発射されたチビ鬼は、切れたレールの先に着地した鬼のトロッコに、再び上手に収まった。
「鬼チームもなかなかやるなあ。よーし、僕も!」
目の前でジャックのトロッコがジャンプするタイミングを見て、僕もクイッとレバーを引いた。
とーー
ジャックのトロッコから、チンパンがポーンと飛び出し、僕のトロッコにドサッと落ちてきた。
「危ない!」
トロッコに重みがかかって、着地がレールのギリギリ端になり、車輪が擦れて火花が散った。
「わー、びっくりした。チンパンくん、気をつけてよ」
「ごめん、ごめん。つい楽しくなって」
クリクリした愛嬌たっぶりの目で言われると、それ以上怒る気になれなかった。
「さてと、このトロッコステージって、どうなってるのかな?」
トロッコは、火山のまわりを大きく回りながら下っていた。僕はふと、例の遊園地の、ビッグ◯ンダー・マウンテンを思い出した。
「おや、あれは何だ?」
正面から、鳥が迫ってきた。それはハゲタカのように見えたが、目がつり上がっていて、ひどく悪そうな顔をしていた。
「きっとモンスターだな。ピコピコ銃で攻撃するか」
揺れるトロッコの中で銃を構えると、
「警告! 警告!」
ハゲタカっぽいモンスターが騒いだ。
「この次にレールが切れた先は、上段と下段の2つに分かれてる。生き延びたかったら、上段を選べ!」
そしてバサバサと飛び去っていった。
「親切な鳥だな。危険を前もって教えてくれた」
僕はこの情報を、青鬼とジャックにも伝えなければと思った。
「ピヨちゃん、飛んでいって、2人に今のことを伝えてきてくれる?」
「レール、切れたら、上の、段の、レールに、乗れ!」
「上手いぞ! さあ、急げ!」
オオハシもどきのピヨちゃんが、矢のように鬼のトロッコまで飛んでいき、クチバシをパクパクさせるのが見えた。
するとまた、矢のように戻ってきて、
「鬼さん、そいつ、正直村の出身か、だって」
「あ、そうか」
うっかりしていた。あの鳥は、情報屋でも何でもない。僕たちに本当のことを教える義理はなく、むしろ騙して餌食にするほうがありそうだった。
「チンパンくん、さっきの鳥、どこの村の出身か知ってる?」
「知らない。質問しないとわからないよ」
チンパンが答えたときだった。
さっきの目つきの悪い鳥が、また正面から飛んできた。
「おや、山をぐるっと1周してきたのかな。おーい、鳥さん、きみは正直村のーー」
と言いかけて、いやいや、この質問じゃ何もわからないぞと思い直し、
「あの青鬼の色は、青いと思うか?」
と訊いた。するとそいつは、
「思わないね。それより上の段だぞ、忘れるな」
と言って飛び去った。
「よし、わかった。あいつは嘘つき村の出身だ。ピヨちゃん、鬼さんとジャックに、下の段のレールに着地するように言うんだ」
ピヨちゃんが行ったあと、チンパンが少し心配そうに、
「でも、嘘つき村と決まった訳じゃないよ。気まぐれ村の出身かもしれない」
言われてみればそうだったが、そこまで確かめる時間はもうなかった。
「確率に賭けよう。青鬼を青いと思わないと答えた時点で、正直ではないことが確定したんだ。だったら上の段は捨てたほうがいい」
そのときピヨちゃんが戻ってきた。
「ありがとう。間に合ったようだね。あっ、あそこでレールが切れてる!」
僕は鬼のトロッコを注視した。それはジャンプし、下の段のレールに上手に着地……
「ん?」
僕は啞然とした。
青鬼の顔は、トロッコを必死に操縦しているせいか、真っ赤に上気していたのだ。
「あいつ全然青くない! ということは……しまったあ!」
ジャックのトロッコも下の段に着地するのを見て、僕は観念し、仲間を救うために自分も下の段に落下した。




